新月/櫻井敦司



櫻井敦司×土屋昌巳

なんて耽美な、掛け合わせか…。

「今夜は 月になるよ 君の心を知れば」

2005年12月21日リリースされた、BUCK-TICKのトリビュート・アルバム
『PARADE~RESPECTIVE TRACKS OF BUCK-TICK~』。
ここで土屋昌巳は、BUCK-TICKの最も鋭角的な感性が剥き出しになっていた時代を、
象徴するかのような楽曲「見えない物を見ようとする誤解 全て誤解だ」でエントリーしている。

時は経ち、2007年のデビュー20周年アニヴァーサリー・イヤー。
対バン形式で、敢行されたライブツアー【PARADE】にも参加した土屋昌巳は、
「見えない物を見ようとする誤解 全て誤解だ」のパフォーマンスに、
櫻井敦司をゲスト出演させた。

そして、来たる2007年9月8日、BUCK-TICKのデビュー20周年記念イベントとして、
横浜みなとみらい 新港埠頭特設野外ステージにて盛大に開催された
【BUCK-TICK FEST 2007 ON PARADE】のステージ上にも、
華奢なロック紳士:土屋昌巳は姿を表し迫真のパフォーマンスを披露している。

前日に台風9号の直撃を受けたことも、
このイヴェントに神秘性を持たせ、当日の晴天に、感謝し、無事成功を収めることになる。



デレクター田中淳一の夢のプロジェクトでもあった櫻井敦司のソロ・プロジェクトは、
同じ想いを抱いていた日本を代表するニュー・ウェイヴの旗手:土屋昌巳にとってもまた、
“夢”の実現であった。
もしくは、自らの手で、完全プロデュースしたいという“願望”を抱いていた節すらある。
それだけ、彼にとって“櫻井敦司”というマテリアルは、魅力的であったと言える。



欧米のJROCKファンにも、根強い人気を持つBUCK-TICKであるが、
なかでも、エキゾチックな眼力で、相手を射抜き、
低音で、安定したヴィブラートの効いたヴォイスを放つ櫻井敦司は、
特別に音楽芸能関係者の目を引くらしく、人気がある。

やはり、彼の持つ、独特の唄声と美貌には、万国共通の魅力があるらしい。

そんな海外での高い評価に賛同するかのように、
海外での音楽活動にも造詣が深い土屋昌巳も、
櫻井敦司という素材に、“絶賛”とも言える高い評価を下している。


その土屋昌巳は提供した楽曲は「新月」。
ニュー・ウェイヴ/ニュー・ロマンティックの“切なさ”を露わにした土屋らしい楽曲で、
幻想的でもあり、神秘的でもある櫻井敦司のキャラクターを、
ベテラン・ミュージシャン土屋昌巳が表現すると、こうなった、という感じだろう。


また、題材となる「月(MOON:LUNA)」も櫻井敦司という素材にはピッタリで、
櫻井の専売特許とも言える詞が並び、完成度の高い歌詞をカタチ創っていて、
土屋昌巳としても、大変満足した様子で、

「本当に、僕の想っていた通り、ピッタリの歌詞が出てきました」

と「新月」レコーディングの感想を語っていた。


将に、理想と理想の受胎が、この「新月」で相成った。




土屋昌巳は、1982年の大ヒット曲「すみれSeptember Love」
で有名になった一風堂のリーダーで知られるが、そのキャリアは長く
1970年代から、スタジオ・ミュージシャンとして活動していて、
元々は、坂本龍一氏も在籍していた“りりぃ”のバックバンド、バイバイ・セッション・バンドに参加。

その後、土屋氏は、大橋純子と活動した美乃家セントラル・ステイションに参加した。
美乃家セントラル・ステイション解散後に、
時代の波ニュー・ウェイヴ、テクノポップ、モダンポップの影響のもと、
1979年に、見岳章(キーボード)、藤井章司(ドラムス)とともに一風堂を結成した。
土屋昌巳は、将に万能プレイヤーでヴォーカル・ギター・ベースを担当している。

当時、和製ミック・ジャガーと呼ばれたロックンロール・ボーカリストの山本翔と活動するかたわら、
ファーストアルバムを1980年にリリース。

レゲエ等の幅広いサウンドパターンも持ち、
前出のカネボウ化粧品のCMソングになった『すみれSeptember Love』でメージャーになった。

(※見岳章も作曲家として活動している。
とんねるずの「一気!」「青年の主張」「雨の西麻布」「歌謡曲」等初期のとんねるずの楽曲を手掛ける。
中でもアルバム『仏滅そだち』は完璧なテクノポップに仕上がった。
そして、美空ひばり「川の流れのように」も見岳の作曲。
この日本を代表する楽曲も作詞が秋元康氏なので、いわば初期とんねるずコンビによるもの)

土屋昌巳は、1984年、一風堂解散後、ソロおよびプロデューサーとして活動し、
デヴィッド・シルヴィアン率いるJAPANにも参加したことで海外進出し、
当時、YMO系の坂本龍一人脈とも絡み、日本人ミュージシャンの海外での地位向上に尽力している。

1990年代に入ると、やや前線を退いた感があるが、
いぶし銀のロック・トリオ・サウンドで席巻したBLANKEY JET CITYのプロデュースで
その健在振りをアピールした土屋昌巳は、
その後、LUNA SEAのギタリスト・SUGIZOの勧めで再びソロアーティストとしても復帰した。

土屋がプロデュース・楽曲を提供したアーティストも多彩で、
ある意味、日本音楽界を構成してきた重鎮とも言えるだろう。

THE BLANKEY JET CITY/ GLAY /藤井尚之 /小比類巻かほる /小泉今日子 /THE MODS /森山達也 /杏子 /ジャパハリネット /惑星 /三上博史 /SPARKS GO GO /THE BACK HORN /マルコシアス・バンプ /THE WILLARD /MAGIC /THE PRIVATES /中島美嘉 /岩崎宏美 /大橋純子 /藤井フミヤ /濱田マリ /根津甚八 /内海和子 /沢田研二 /陣内孝則 /YOU /SHAZNA
出典: フリー百科事典『Wikipedia』


そんなジャパン・ロックの本物の仕事人に対峙する櫻井敦司も、
一歩も引けを取らない歌詞を土屋昌巳に捧げ、絶賛を受けたということだ。



櫻井敦司ソロライヴ【愛の惑星 LIVE 2004】は、愛の受胎の刻を告げる。

「新月」を妖艶に唄う櫻井敦司は、美しい。

ここに、櫻井敦司×土屋昌巳の耽美な“新月”は見事に受胎し、
忘れられない夜を、展開している。

この楽曲でも、ステージバックに惑星が映し出される。

ああ、やはり、この惑星は“月”であったか…。

“月”が少しずつゆっくり満ちてくる。
球体に、端から少しずつ光があたって、月の満ち欠けをまるで物語のように表現し、
見惚れる観客を、“月世界”へと“WARP”させてしまう。
この月の満ち欠けが、この物語と“Loop”する。

櫻井敦司とステージ上のサポートメンバーにもあまり照明は当たらずに、
薄暗い月明かりの夜に月に向かって唄うイメージ。

「ああ 髪に触れ さあ 眠れ」

髪の毛を撫でるような仕草をする櫻井敦司。

「ああ 首筋に……」

自分の首に手をかけ、

「愛を込めて きつく込めて 深く沈めよ」

首にかけた手に力を込める。

「逃げちゃだめだよ 泣いちゃいけない
 どうして届かない どうして解らない」


と嘆き、マイクスタンドを振り回し、凪ぎ倒す。

いつしか月は満ちて、大きな月を、鳥がゆっくりと左から右へと羽ばたいて行く。

月が満つれば、“真っ赤な夜”がやって来る。
満月は、“狂った太陽”だ。
すべてを呑み込んでしまう…。
そして、俺は、夜そのものになる…。

「月が滲むよ 君が歪むよ
 どうして届かない どうして叶わない」


嘆く櫻井敦司は背後の満月を振り返り、手を差し伸べ唄う。

この情景こそ、ゴシック耽美の極みだ。


この“シーン”を魅せつけられた今井寿は、嫉妬に燃えたに違いない。
この“FLAME”を点けたのは、土屋昌巳だ。


そして『十三階は月光』が産まれる。
そう、この受胎が原因と言ってもいい。


楽曲が終わり、アウトロがリフレインする…

「どうもありがとう」

また、ゆっくりと月は欠けてゆくのだ。


そう、満つれば、欠ける……。




アルバム『愛の惑星』(※楽曲「惑星」を提供したバンド惑星も土屋プロデュース)は、
“単なるヴィジュアル系のミュージシャンのソロアルバム”ではない。
そしてソロ企画にありがちな、
“あくまでソロ・アーティスト本人の自己実現”そんな内容でもない。

櫻井敦司自身のルーツであるニューウェイブ/ニュー・ロマンティックやゴシックの可能性を
最大解釈で拡張し、冒険した作品といえるし、
ゲスト参加している面子(楽曲提供者や参加ミュージシャン)
それぞれの個性を存分に引き出して分解したアンソロジーであり、
もちろん、櫻井敦司名義の作品として、彼の唄うたいの世界観を十分表現するものであった。

そういった意味でコンピ企画モノのマンネリ感はなく、正に新境地とも言える内容だろう。

それに参画した重鎮:土屋昌巳も“してやったり”の充実感を持って、
櫻井敦司とのコラボレーションを楽しんだのではなかろうか?

櫻井敦司のキャリア的には、やや「遅すぎるソロデビュー」であったが、
音楽シーンという側面から見れば、このアルバムは時代にリンクして、
逆に遅すぎたからこそ産まれ出た傑作楽曲集と言えるのかも知れないのだ。


その刻、月が満つるように、機が熟した、のだ。




新月
(作詞:櫻井敦司 作曲:土屋昌巳)


今夜は 月になるよ 君の心を知れば
月明かりに照らされている醜い僕の想い

ああ 髪に触れ さあ 眠れ
ああ 首筋に愛を込めて きつく込めて 深く沈めよ

熱に浮かれて醒めてゆく 僕は君を突き上げる

逃げちゃだめだよ 泣いちゃいけない
どうして届かない どうして解らない
笑顔見せて こんな夜は

ごめんね もう行かなくちゃ 朝日が僕を殺す

ああ 幸せだ ああ とても
さあ 目を閉じて 愛を込めて もっと深くだからおやすみ

指の震え凍りつく君が僕を 突き刺した

逃げちゃだめだよ 泣いちゃいけない
どうして届かない どうして解らない
月が滲むよ 君が歪むよ
どうして届かない どうして叶わない
笑顔見せて 夜が終わる
月が滲むよ 君が歪むよ
どうして届かない どうして叶わない





【ROMANCE】
AD

コメント(1)