2012年12月25日

「冷たい方程式」SFマガジンベスト①(ハヤカワ文庫)

テーマ:本・海外


You Can Fly

1970年代辺りから10年ぐらいがSFの全盛期だっただろうか。
ハヤカワ文庫から数多くの作家の作品が出されていた。
大御所はアシモフ、アーサー・C・クラーク、、、
そんな中で様々な作家のオムニバス的な短編集として出されたのがコレ。
30年近く前に読んでそのまま本棚にあったのが、例によって出張のお供で再読。


「接触汚染」キャサリン・マクレイン
植民星を求めて宇宙の旅を続けるエクスプローラー号のクルー男女数十名。その多くはカップル。
ある星に着き、調査に出た先遣隊の前に現れた筋骨たくましいハンサムな男パトリック・ミード。驚いたことに英語を話す。パトリックは彼らより3世代前の地球からの植民者だった。パトリックはクルーたちの顔がそれぞれみな異なっている事に驚く。
植民星の菌により、ある家族だけが生き残り、その免疫機構を獲得した者のみがこの星で生存出来る。クルーの男たちは全てその菌に侵され、瀕死の状態となるがパトリックの免疫により救命される。だがその代償として全ての男の顔、体格がパトリックと同じになる。
この星で生き残るためにはミード家の免疫を獲得するしか方法がない。パトリックの妹、パトリシア。選択を迫られる女たち。


「大いなる祖先」F・Lウォーレス
ちょっと難解。人類の進化の過程、先祖について究明しようと旅を続けるうちに、我々人類が宇宙の中で下等な存在だと気付かされ、落胆する。


「過去へ来た男」ポール・アンダースン
西暦950年頃の話。その当時の男がする思い出話。雷に打たれたという男。実は1000年の未来から電気ショックで過去に飛ばされて来た。様々なトラブルを引き起こした末に殺される。


「祈り」アルフレッド・ベスター
ビュキャナンという名前の人間に対して様々に身分を偽装して「ある」事を聞きまわるウォーベック。行動を不審に思うヘドロとジョウに捕まり、事の顛末を話す。ウォーベックは学校の校長だった。学校で少年の出した作文の記述に極めて高度な技術が表現されている事に気付き、その少年(スチュワート・ビュキャナン)を探そうとしたが、その時には家族もろとも消えてしまっていた。その家族の記録も周到に消されており、それからウォーベックの追跡が始まった。
金になるとの想像から捜索に手を貸す2人。
手がかりを見つけてスチュワートを追い詰める男たち。だが彼らは突然異次元の空間に放り出された。物陰に隠れているスチュワート。彼は自分の能力で男たちを葬った事さえ知らなかった。彼は祈りの天才だった。


「操作規則」ロバート・シェクリイ
火星へ向かおうとしている宇宙船。艇長のパウエルは燃料費節約のためにプサイ族の青年ウォーカーを追加する事を宣言した。プサイは念動能力を持ち、宇宙船の燃料節約に大いに寄与する事が知られていた。だが彼らの取扱いには種々の「操作規則」があった。メンタル面でのケアが非常に重要。取扱いの「不適切」で想定より大幅に遠い跳躍をしてしまう。自信をなくすウォーカー。クルーたちの不信を受けてウォーカーはさらに心を閉ざす。
パウエルは新たな規則を見出してウォーカーの運用に成功する。彼を「人間」として取り扱うことで。


「冷たい方程式」トム・ゴドウィン
宇宙船「スターダスト」から発進した緊急発進機(EDS)。惑星ウォードンで発生した熱病の血清を送るために向かっている。目的地までの燃料はギリギリにしか設定されていない。
そんな艇の中に密航者の反応があり、発見のためにその場へ向かう「彼」。密航者はマリリン・リー・クロス、若い娘だった。宇宙で働く兄の元で一緒に働くために潜り込んだ。規則を破ったのだから罰金ぐらいは払うという。
だがこの艇における密航者をそのままにしたのでは、減速時の質量過多で余分な燃料消費を余儀なくされるため、到着は出来ず、血清を待つクルー全員も死ぬ事になる。
慣性航行しているうちはいいが、減速に入る前には排除しなくてはならない。コンピューターが割り出した残り時間は約1時間。様々な葛藤の末、彼女は身内に手紙を書き、最後に「彼」のはからいで兄との交信をした後、エアロックに向かった。


「信念」アイザック・アシモフ
突然体が浮揚する様になってしまったロジャー・トゥーミイ博士。妻に相談するがうろたえるばかり。その挙動から次第に大学関係者に知られる事になるが、正攻法で説明してもウソを言っているとしか思われず、とうとう大学からも休職を迫られる。
友人の精神分析医ジェイムスのアドバイスで事態は好転した。


感想
けっこういろんな切り口でSFを楽しむことが出来た。


接触汚染
女性作家らしく、愛し合う者同士の容姿が他の者たちと同じになってしまった時、それでもお互いに愛する事が出来るかというデリケートなテーマ。ここでは表情の微妙なクセ、動作の特徴等で十分見分けがつくから問題ないというポジティブな結末。ある意味安部公房の「他人の顔」と対極をなす。


大いなる祖先
リボン星人タフェッタなどというトリッキーな登場人物に目を取られて、ちょっとストーリーを追うのに手間取った。もう1回読む必要があるな。


過去へ来た男
雷の衝撃で過去へ飛ばされたジェラルド。すぐに自分が過去に飛ばされた事を悟るが、彼の時代にあった品物のほとんどは完成されたものばかりであり、知ってはいてもそれらを作り出す事は出来ない。結局何も出来ないままケンカに巻き込まれた揚句、銃で相手を殺してしまった末に命を落とす。「知識だけがあっても生き残れない」という教訓か。


祈り
最初の導入からどんどん話の流れが変化して行くのが面白かった。ただ、終わらせ方が「途中放棄」みたいな感じでSF好きにとってはイマイチの終わり方、かなー。


操作規則

超能力利用という高い概念と、人間的扱いのGAPがなんとも・・・・
大事なのはマニュアルではなく「思想」。まあ教育的視点ではある。


冷たい方程式
「立入禁止」という言葉の恐ろしい意味。でもさー、そんなにギリギリの設定だったら発進時のロスで当然取り返しのつかない事態になった筈。
それが許容されたのなら、後は艇内のあまり重要じゃないもの(例えばイスや備品なんか)を排出すれば女の子1人分ぐらい捻出出来るはず。
すごいヒューマン・ドラマなんだけど、イマイチ共感し兼ねるのはヘソ曲がり?


信念
アシモフだから、かなり期待したのだけど、意外に地味。
空を飛べるという主張をしたのでは信じてもらえない事の逆に、現実を見せておいて「空など飛んでいない」と言い張る事で、相手自身が狂っていない事を証明するために自ら動き出す。
まあこれも「教訓話」ですかね。


一時日本のSF界でも雨後のタケノコの如く作家が出て、却ってブームを自滅させた様な感があるが、現在の映画界を見てもSFのジャンルから逃れる事は不可能。
良質なSFを読むのは映画センスを磨くのにも役に立つ。



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2009年03月27日

「人間の絆」サマセット・モーム

テーマ:本・海外


You Can Fly-kizuna


人間の絆( Of Human Bondage ) 

著者:サマセット・モーム 新潮文庫(全4巻)


幼くして両親に死に別れ、子供のいない叔父夫婦に引き取られた少年フィリップの、9歳から30歳あまりに至るまでの前半生を描いたもの。彼の自伝的小説と言われている。


20代前半に読んで、自分にシンクロする部分に惹かれた。その後ずっと気になっており、数年前に読み返して、若い時分とはずいぶん読後感が異なっていたのに驚いた(前半2巻を読むのに1ケ月、残りの2冊は1日で読んだ)。


ここで言う「絆」は、人間どうしを支えあう善の意味ではなく、情念に支配され制御し得ない無力な「縛られた(Bondage)」状態のことであり、絆に縛られた一人の人間が、その絆を断ち切って自由な人間になるまでの話。


不幸な境遇と共にフィリップのハンデとなっていた内反足。幼い頃は同情の対象とも扱われていたのが、パブリック・スクールに進学した寄宿舎で同室の少年たちから辛らつな洗礼を受ける。
ただ、厳しい現実を受け入れる事で自我意識を高めるフィリップ。


そして彼はドイツのハイデルベルグ留学を始める。
ハイデルベルグでフィリップに大きな影響を与えたヘイウォード。知性に溢れ、絵画、文学を軽々と論じた。彼はケンブリッジに進学し、フィリップもその道を歩むかに見えたが、ふとした事で画家を目指そうと思い立つ。


叔父夫婦の期待を裏切り、学業を中途で止めてまで行ったパリでの絵の修行も、結局2年で諦める。
パリ時代に出会った酔いどれ詩人のクロンショー。
郷里に戻って伯父との話の中で、医者になると宣言するフィリップ。


医学を学び、患者と接する事で人間性の多様さを知っていくフィリップ。

医学校時代に知り合ったミルドレッドに対する献身と挫折。フィリップをいとも簡単に裏切り、また何度でも利用する悪婦。
だが、そのミルドレッドの最期は悲惨だった。医者の目で冷静に彼女を見るフィリップ。


様々な曲折の末に、結局途中で止めていた医学の勉強に戻る。

その後知り合ったアセルニー家との出会い。ホップ畑での共同作業。彼らの持つ家庭的な価値観や暖かい雰囲気に救われていく。


若さという未熟さの中で様々な回り道を繰り返し、その後見出した安息の地で、他者との関係の中に自分を拘束しても良いと思える様になったフィリップ。


人間の生を、幸福という尺度でとらえる必要はない。人の一生はもっと他のもので計られてもいい。
人生の終わりが近づいた時、一つの芸術品が完成した事を喜ぶ気持ち。そしてそれを知っているのは自分ひとり。死とともに一瞬にして失われてしまおうとも、その美しさには変わりない。


人生を大過なく順調に歩む事が出来れば、それに越したことはない。
ただし、その過程がたとえ厳しいものであったとしても、それは大して悲しむべき事でもないのかも知れない。


クロンショーの言っていた「ペルシャ絨毯」の謎。
運命という縦糸は変えられないが、人は横糸を選択することは出来る。


最期に自分の人生を絵画に例えて微笑むことが出来れば、それもいいだろう。






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2008年09月16日

ソラリスの陽のもとに

テーマ:本・海外

題名 ソラリスの陽のもとに 出版 ハヤカワ文庫 1977
著者 スタニスワフ・レム

   

意思ある海を持つ惑星「ソラリス」。さまざまな調査が繰り返されたが、その本質は明かされる事なく、ソラリス研究は縮小され、3名の研究員が派遣されるに留まっていた。


その研究員らに異変があり、調査に向った科学者クリス・ケルビン。
3名のうち1人は死亡。残りの2名もかたくなにクリスを避ける。彼ら2名以外に何者かが存在している!。


普遍的な計算を繰り返して、自身が正常である事を確認しているクリスのそばに、10年前に自殺したはずの妻「ハリー」がいつのまにか座っていた。
人の心を投影したものが形となって現れる。クリスの場合はたまたま自殺した妻であり、まだしも救いがあるが、他の者に現れた者は、必ずしも好ましい相手ではなかった。ただ思慕の気持ちだけでクリスを追うハリー。ロケットで宇宙空間に放り出しても、また現れる。


胸を締め付けられる様な恐怖感。
だが、状況が判ってくるにつれ、次第に自分の存在に疑問を持ち始めるハリー。ついに自ら液体酸素を飲んで自殺を図る。

肺が焼かれ、喉もただれ、すさまじい苦悶の中、死んだと思われたハリーは、また蘇る。
一体、この海は何のためにこの様な事をするのか。
ハリーはもう一人の科学者スナウトに頼んで、自らを消滅させる。


さまざまな感情の繰り返しの中で、次第にハリー(死んだ妻ではない)を愛し始めていたクリスは、ハリーが本当に居なくなったことで、一つの決心をする。


コメント
映画を観てから本を読むというパターンで読んだもの。
SFとして、非常に良く出来ている。大きな意味で、テーマは「愛」
死んだ筈の妻。常に一緒の行動を取ろうとし、閉じ込めると信じられない破壊力でドアを壊してまでクリスを追う。怪物としての彼女が次第に自分の個性を持つに従って、クリスの側にも変化が現れる。海は、それらの精神活動に興味を持っているのか。海としての主張は少ないが、登場人物を通して海の存在感がひしひしと伝わってくる。



最初に公開された映画は「惑星ソラリス」1972年


solaris




監督:アンドレイ・タルコフスキー 

クリス:ドナタス・バニオニス ハリー:ナタリア・ボンダルチュク


液体酸素を飲んで自殺を図るハリーの壮絶さ。これはやっぱり映画観ないと判らない。ロシア映画の低予算から、近未来の交通システムは日本の首都高速。道路に漢字!は相当興ざめだけど、まあそこは片目つぶって観るべし。
最後の方は、原作も映画もちょっと把握しきれない精神世界に入り込んで来るが、やっぱあの「海」のイメージは庵野秀明にも影響を与えてるんだろう。
タルコフスキー関連の記事は、
こんなの  や こんなの  
ただ、映像に集中すればそんな話はさほど気にする必要もないでしょう。


「SOLARIS」2002年
内容は
こちら
監督:スティーブン・ソダーバーグ(スピルバーグではない)。
クリスをジョージ・クルーニーが演じており、かつての「肉はみ出し」のバットマンよりはましだったが、どうもイメージ的には合わなかった。それに妻役の人があまり美人じゃなかったのが感情移入し難かった理由かなぁ。

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2007年11月18日

「車輪の下」ヘルマン・ヘッセ

テーマ:本・海外


sharin


ヘッセは「知と愛(ナルチスとゴルトムント)」の記憶はあったけど、これは全く記憶がなく、1年ほど前に古本屋で見かけて「確か昔読んだよな」と、とりあえず買っておいたもの。


ドイツの片田舎。ごく平凡な家に生まれた少年「ハンス」。素晴らしい頭脳の持ち主で、村の期待を一身に背負って都会の神学校を受験し、合格する。
確かに頭はいいが、何といっても十代半ばの子供。寄宿舎の集団生活の中で親しくなったハイルナーに、次第に影響されていく。ハイルナーは早熟故に学校内で問題を起こし、謹慎処分を繰り返すうちに退学となり、ハンスもまたその影響から回復出来ず、神学校を中退する。

失意のうちに村に戻ったハンス。しばらくは父親や村人の視線に苦しむが、次第に回復。
村の行事に参加したり、幼なじみのエンマとのやりとりの中で青年らしい感覚を取り戻し、工員として働くことを決意する。
だがその矢先、工場の仲間と飲み歩いた帰り道で川に落ち、ハンスはあっけなく命を落とす。


読み物として最後までストレスなく読める。いわゆる「名作」というものは結構読み易いもの(だから名作と言われるのだろう)。成績はいいが、勉強ばかり詰め込まれて普通の若者としての楽しみ、常識を教えられずに神学校に入ったハンス。
中退して村に戻ってから、初めて実体のある「生活」に目覚めるが、エンマに強烈なキスをされてヘロヘロになってしまったり、その行動は頼りないことこの上ない。
不本意ながらも、一般人としての感覚を取り戻し、ささやかに工員としての再出発をしようとする若者を、結局この作者は溺死(多分自殺)させてしまった。


「人間の絆(サマセット・モーム)」とはえらい違い。この作品を書いた時のヘッセは29歳。この主人公とほとんど同じ経験をした彼としては、まだ自分の経験を肯定するところまで持ち込めていなかったという事なのかも知れない。

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2006年10月07日

「時間と空間のかなた」A・E・ヴァン・ヴォークト

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jikan


この人の作品は、前にも紹介している「スラン」がめっぽう面白くて、これも古本屋をかなり歩き廻って手に入れたもの。
日本でも20~30年前にSF小説ブームだった頃、そこそこ人気だった様だ。
7編の短編集だが、本の題となっている作品名はない。


・ 偉大なエンジン
・ 偉大な裁判官
・ 永遠の秘密
・ 平和樹
・ 第二の解決法
・ フィルム・ライブラリー
・ 避難所


難解というほどではないが説明不足の部分もあり、付いて行けないムードもある。だがそこが逆に魅力となって数回の再読に耐える。
特に好きなのは「偉大なエンジン」。
隻腕のエンジニアが奇妙なエンジンを発見するところから始まり、それを巡って少しづつ話の輪郭が見えて来る。SFと言いながら、けっこう上質な夫婦物語になっているのが、イイ。この、少しづつ話が見えて来るというのも、かなりの手腕が必要なのだろう。
これらを通して読むと題名の「時間と空間のかなた」という言葉が何となく腑に落ちる。


しかし、AMAZONで見たらエントリーが6冊。最安値が\1000だが残りは\7200!
1970年初版で大体6版とか7版。ワタシの本は1980年発行の12版。少々ヤケどころか「真っ黒」。とてもそんな値段で売れるシロモノじゃないけど、希少価値があるのだろうか?

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