2016年06月01日

笑う月  安倍公房(新潮文庫)

テーマ:安部公房



かなり以前に読んで放置していた。今回義父の検査に付き合って、数時間の待ち時間があるというので持参したもの。全17編のエッセイ、短編、アイデアノートなどをごった煮状態にしたもの。


睡眠誘導術
羊が一匹、羊が二匹・・・というノリでインディアンを一人づつ弓矢で殺して行く。だが先端恐怖症で矢が自分を向く。そして人との待ち合わせまでの時間潰しに誘導術で見た夢の話。


笑う月
幼い頃から良くみた夢。直径1メートル半ほどのオレンジ色の満月。「花王石鹸」のような笑い顔。精神が活性化しているほど夢を見る。夢の有効利用(創作活動への)。


たとえば、タブの研究
A氏にとって重要な「タブ」なるものをB氏が製造して供給している。それをめぐる定義付けと行く末。


発想の種子
「燃えつきた地図」を書くためのプロットを記したメモ。ずっと探していて見つからず、脱稿から数年経って出て来た。「箱男」の着想にたどり着くための重要なメモでもあった。「箱男」も完成させてから出て来たそのメモの中に、種子は残っていた。


藤野君のこと
「ウエー(新どれい狩り)」に登場してくる飼育係。この人物のモデルになった男。その前に「ウエー」の発想の元となった話。北海道のいたるところで行われているアムダ狩り。アムダは人間そっくりの動物で皮はなめして靴、鞄、肉は食糧と期待をかけられていた。終戦を迎え、野生化したアムダが繁殖を始めた。その話に興奮する筆者。だがそれは「ハムスター」の聞き違いで、人間そっくりというのもネズミそっくり、だった。
その誤解の種子が二十年を経て小説となった。
藤野君の話はそれから更に遡り、満州からの引き揚げ船での事。引き揚げ者はすし詰め状態で、空間の争奪戦。そんな中で藤野君はいつも空間を確保していた。種明かしは「サッカリン」。この合成甘味料を日に三度、耳掻き一杯与えることで空間を買い取っていた。


蓄音機
一時期祖父の家で暮らした記憶。中風で寝たきりの祖父に、従兄弟がやるいたずらは、祖父が嫌う音楽を蓄音機で鳴らす事。叫び声を上げ、身をよじりながら蓄音機に向かう祖父。後年蓄音機になった夢を見た。その時、夢の中で唄った歌を覚えている。


ワラゲン考
終戦間もない頃、瀋陽での医学生時代、ワラジ虫の煎じ薬が発疹チフスに聞くという噂話をしたら、患者がいきなりワラジ虫を数匹飲み込んだ。その患者は快方に向かった。
病院経営をしていた叔父が肺炎に罹り、多少復讐の意味でワラジ虫の粉末を処方した。1時間毎に小便し汗もひどく、典型的な強心利尿剤の作用。
筆者はこれを「ワラゲン」と命名。ワラゲン的青春。


アリスのカメラ
筆者のカメラ好き。日本におけるカメラの物神崇拝。それに引き換え日本人のフィルム使用量の低さ。「不思議の国のアリス」の作者、ルイス・キャロルが晩年カメラに凝ったという話(少女の写真に熱中)。アリスは一種の恋愛小説だったという評価。


シャボン玉の皮
ゴミに惹きつけられる筆者。シャッターを押したくなる。「箱男」の中の8枚の写真の種明かし。自分がゴミそのものではないという自覚がかろうじて自分を支える「シャボン玉の皮」。


ある芸術家の肖像
劇作家のAとB。BがAの家へ強盗に入った。だが入っただけでそのまま逃げて行った。逃げられた後で、声もかけずに逃がした事を後悔する。Aは登山ナイフを持ち、革手袋をはめて外に出た(Bの家へ強盗に行くために)。この一件を芝居として夢想するA。だがその堂々巡りの中で立ちすくんでしまう。


阿波環状線の夢
前述の鉄道の沿線に伝わる風習。男性が女性の後方から性行為を行う限り、罪に問われないという。この夢をテープに吹き込んでから、長い間書けなかった。主体性の欠如。見なかったものを捨て去る勇気。


案内人
記述困難。石段を下りて案内人に続く。工場で蒲の穂のようなものを作る者たち。工場の片隅に導かれ、粉末の鳥料理を出される。案内人が突然四つん這いになりズボンを降ろすと、作業員が蒲の穂を案内人の尻の穴に挿入した。肛門の清掃だという。結局、これが現代のレストランだと語る。


自己犠牲
船が難破して、救命ボートに乗り移った三名。最新式のボートで、水とその他生活環境の設備は充実しているが、唯一食料品だけがなかった。医者と、コックと二等航海士。それぞれが、自らを食料として提供すると申し出る。
二等航海士が自分の首を掻き切って死んだ。解体して食料にする。それから二十日間後、再び食料が底をつく。自分が死ぬとお互い言い張って争いになる。医者はこれで殺される事を期待したが、コックは自らの心臓にナイフを刺した。それから四十日後、医者は救出された。
その講義が終わった後、医者はメスを取り上げ、僕の解体作業に取り掛かった。


空飛ぶ男
夜明けの空を飛ぶ男を見た。夢の続きと間違えて不用意に見続けていたので、相手に知られてしまう。来訪した空飛ぶ男との会話。この浮遊現象は伝染するという。強がりを言う自分を見透かしている男。



半年以上前に出した新聞の求人広告を見てやって来た男。大きな鞄を持っている。なぜ来たのかを聞くと、鞄に導かれて来たような事を言う。鞄に興味を持ちつつ、採用を決め、男が周旋された下宿に向かった後、ふとその鞄を持った。ずっしりと重いが、持てないほどではない。
いつの間にか事務所を出ていた。戻ろうとするも、どうしてもうまく行かない。鞄が行けそうかどうか、という基準で行先が決まった。私は嫌になるほど自由だった。


公然の秘密
半ば埋め立てられた掘割。泥と汚水がねっとりとよどんでいる。そこにうごめくもの。次第に姿を現すと、それは飢えた小象だった。鼻は腐って落ち、体も腐って痩せ細っていた。掘割から上がり、歩き出す小象。商店に向かうも店主は黙殺。小象が見物者の方に歩き出す。誰かがマッチを放った。嬉しそうにそれを食べる小象。次々にマッチが投げつけられ、中にはガスライターもあった。無邪気にそれらを食べ続ける小象。
やがて小象は古新聞のように燃え上がり、燃えつきた。


密会
ついさっき夢を見始めた男。医局長で、昼休みを使って同僚の女医と密会に行く途中、退院予定の女性患者と出会う(軟骨の1/3を樹脂と合金で補填)。患者は彼の話を聞こうと附いて来る。途中、米軍と自衛隊の交戦。たまたま入ったレストランには医局の全員が居た(密会相手も)。
レストランを出て、娘の家に行くが、家の中には異様な小動物(軟骨の異常)。逃げ出す医者。医局員とのゴタゴタ。戦争だとわめく医者に自衛隊員が、発狂した米兵の事件に過ぎないと言う。
娘から逃げる医者。戦車に向かって「志願する」と叫ぶ。


感想
安倍公房の「発想ノート」を覗き見した様な仕立てになっている。自分にも子供の頃、熱を出すと必ず見る夢があり、それが現れると極めて心細い思いをした。
夢のしっぽを掴むために、公房は枕元のノート、テープレコーダー等を駆使していた。
しかし時々「あらすじ」が書けない、本当に支離滅裂な内容を堂々と活字にしてしまう潔さ。
久しぶりに読み返してつくづく思う。すごい作家だったなぁ。

AD
いいね!した人  |  コメント(0)  |  リブログ(0)
2009年12月22日

「壁」 安部公房

テーマ:安部公房


You Can Fly-kabe


S・カルマ氏の犯罪
ある朝、目覚めた時に自分の名前を忘れてしまった男。
自分の名刺に存在を奪われ、自分の胸が異様に空虚である事に違和感を感じ病院に行くが、そこの待合室でふと見た砂漠の風景を胸の中に取り込んでしまう。


赤い繭
帰る家のない男。ふと思いついて通りかかった家の戸を開け、自分の家ではないかと問いかける。もちろん相手にされない。
歩く先から自分の足がほどけ、自分に巻き付いて行く。


洪水
世界の至るところで始まった人体の液化。そのために発生する洪水。

液化した人体による水が持つ驚くべき特性。


魔法のチョーク
食い詰めた画家のアルゴン。たまたま見つけた赤いチョークで戯れに食べ物の絵を描くと、それは実体化して実際に食べられるものとなった。


事業

食肉加工の事業者である司祭。巨大ネズミを使って加工食品を供給。消費者は何も知らない。
凶暴化したネズミに使用人が殺される事件が起きるが、その死体を始末するとんでもない方法。


バベルの塔の狸
ある日、狸の様な動物に自分の影を食べられて透明人間になってしまった男。
騒ぎが広がり逃げ回る。そこへ再び現れる狸。
人は誰でも「とらぬ狸」を持っているという。その大きさはその人間の空想の量と質によって決まる。



壁をモチーフとした一連の短編集。「壁」という題の話はない。
「S・カルマ氏の犯罪」は、最初名前を奪った名刺をめぐるドタバタだったのが、いつのまにか自分が砂漠を吸い込んでしまった行為が犯罪とされて延々裁かれる話にすり替わる。

自分の体の中と外が入り乱れ、最後は自分自身が壁になってしまう。
「バベルの塔の狸」にもその匂いがある。


不条理小説の不条理さ加減が「ハンパねぇ」って感じで、まあ安部公房的と言えばそうなのかも?






AD
いいね!した人  |  コメント(0)  |  リブログ(0)
2009年07月19日

「方舟さくら丸」 安部公房

テーマ:安部公房


You Can Fly-hako


モグラと自称する男が終末を予見し、砕石場跡の巨大な地下空間にシェルターを作って暮らしている。大量の食料や武器、生活用品、発電機まで用意していた。
そして、共に生き残る者を選ぶため、たまに街へ出て方舟への「乗車券」を渡す相手を探している。


ユープケッチャを売る昆虫屋。ユープケッチャとは、半円状になって同心円上に周り続け、自分の排泄物を食べながら行き続ける生き物。ただしこれにはからくりがある。
ユープケッチャを買うふりをするサクラである男女。


ひょんなことから、男はこの3人に乗船券を渡す。そしてシェルターで始まる共同生活。しかし、そのシェルターに様々な侵入者が入って来る。
そんな問題にかかずらっているうちに、男は強力な吸引力を持つ便器に片足を吸い込まれ身動きが出来なくなってしまう。
船長として君臨していた力関係が微妙に変化して行き、昆虫屋が次第に権力を発揮。


様々なドタバタを繰り返した後、主人公の「モグラ」は、便器から何とか脱出。そして今度は自らの家であった「船」からの脱出を試みる。

最後に廃坑から脱出した男が見たのは、日差しだけでなく、人間までが透けて見える透明な街。


カンガルー・ノートのカイワレ大根といい、今回の便器といい、彼のシチュエーションの与え方が絶妙。

シェルターに入るのに、やたら複雑な仕掛けを作っていた割りに、あっさりと部外者の侵入を許してしまったり、突然「モグラ」の父親が手下を引き連れて出て来たり、妙なテンションに支配されていた。


それに男が片足を吸い込まれる便器も、高い所にむき出しにセットされているという極めておかしなシロモノ。
ただ、それを違和感なく読ませてしまう、手馴れた「うさんくささ」。嫌いな人にとっては非常に腹が立つ事だろう。


今でこそ「ヲタク」と言われ、この種の者はある程度市民権を得ているが、この当時はかなり異端扱いをされていただろう。
シェルターを作っても、別に一人で住んでいて特に不都合はなかった筈。それがどうしてわざわざ乗車券を準備し、終末を生き残るために厳選しようとしたのか。終末という定義に対してメンバーを選任するという義務感だったのだろうか。


ただ、その割りに選んだ者たちがそれほど熟考して選ばれたとはおせじにも思えない。

彼らを取り込む事によって次第に変化する周囲の状況。彼にとって好ましい事ばかりではないが、最後にシェルターから脱出出来たのは彼らとのコミュニケーションがあったから。
それが「良かった」という結論でないのが自分的には好みなのだが。

公房の中では、まあ読後感が明るい方であり、読者の中でも比較的好まれている様だ。

そういえば、この本の中盤に立体写真が挟まれており、けっこうハマった。


見えた瞬間のイメージ。これを小説としても現したかったのか。



そのものズバリは著作権の関係でマズいので、参考サイト紹介(「立体写真」でワンサカ出て来る)。
「交差法」が比較的楽。寄り目気味にすると2枚ある絵が3枚に見え、その中央の絵を見ているうちに、突然立体画が現れる。


http://shige37.web.fc2.com/Q_3d_sl_xx1.htm




AD
いいね!した人  |  コメント(0)  |  リブログ(0)
2007年04月21日

「箱男」 安部公房

テーマ:安部公房


boxman


「箱男」は若い時分に1度読んだが、ほとんど忘れていた。

ただ、極めて限定された箱の中の「自分の世界」、閉所にこもる安心感という思考に改めて接し、ハマったらちょっとアブないなーという印象が・・・・・

ダンボール箱を頭からすっぽりとかぶり、都市を彷徨する箱男。例によって詳細に説明される箱の構造・仕様。男自身、自宅そばに居付いた「箱男」に嫌悪を感じ、空気銃で追い払ったにも関わらず、その後自分自身が箱男となって徘徊を始めてしまったのだった。

箱男はある時、偶然出会った看護婦に5万円でその箱を買いたい、と言われる。彼女に対する欲望を感じ、病院に侵入したうえ彼女の裸を覗く。彼女を思いのままに出来、箱男から箱を買い取った偽箱男。いつのまにか語り手は偽箱男となり、さらに少年D、露出狂の画家へと次々に変化して行く。このノートを書いているのが一体誰であるのか、もう誰にも判らない。

この小説にどういう計算があるのか、あまり深刻に考えてもキリがない。とにかく理屈付けにこだわらず、淡々と読み進む。

彼の作品のワイセツ感というのは「燃えつきた地図」でも余すところなく表現されているが、この看護婦に対する思い入れもかなりのもの。

秀逸なのは脚の定義・・・女性の脚は性器の蓋だという。

箱の中にこもる自分と看護婦に惹かれ、外に出たいと思う自分。どちらを望んでいるのか。

見る者と見られる者との関係性を極限までつきつめた小説。

YouTube で映画の予告編がありました。本編も観たいナー(看護婦は緒川たまき)

しかし、中には実際「箱男」をやってみようというチャレンジャーな人も世の中には居る様であり、まんざら捨てたもんじゃないです(笑)

その1その2

いいね!した人  |  コメント(0)  |  リブログ(0)
2007年03月04日

「人間そっくり」 安部公房

テーマ:安部公房


sokkuri


「こんにちは火星人」というラジオ番組を受け持っている売れない脚本家の家へ、彼のファンだという男が訪ねて来る。
男の応対をする脚本家だが、話すうちに男が、自分は火星人だと言い出し、それについて延々と議論が展開される。
度々、脚本家を迷わせる様な提案を持ちかけ、それに乗ると男は見事に裏をかき、また全く別の話に飛躍する。


SFというより、会話を積み上げて行きながら腹を探り合う「心理ドラマ」。
もともとこの脚本家、軽いノリで始めた番組が、実際に火星への探査船が火星に到達する様な事態が近づくにつれ、かなり微妙な立場に立たされていた。
そういう中で今回の訪問を受け、殊更に相手の会話に対して様々な伏線を感じ、自ら深みに落ち込んで行く。
妻の助けを借りて、時々現実に引き戻す作業をするが、結局男の話術から逃れられない。


話の流れで男の家に乗り込む。そこには電話で話した男の妻が。
女は、男が精神的にオカシイという前提で脚本家と話を合わせる。ついその罠に落ちる脚本家。


これを読んだのは、もう20年以上前のこと。実際ほとんど内容は忘れており、つい先日「BOOK OFF」へ娘のアッシーをした際、ついフラフラと買ってしまったもの。


読み易いといえば、確かにそう。それは「カンガルー・ノート」と同じ。
だが、最後の結末を読むと、現在我々が生活しているこの世界がちょっと歪んで見える様な気もする。果たして自分は「地球人」なのか「火星人」なのか。これは別に「家族」か「他人」か、「社員」か「それ以外」か、でもいい。


「本物」か「そっくりなもの」か。自分の属するものに対する定義が崩れた時、自分自身が一体何者かという確信も同時に崩れる。

多分精神疾患を経験した人は、この感覚が理解出来るのかも知れない。






いいね!した人  |  コメント(1)  |  リブログ(0)

AD

ブログをはじめる

たくさんの芸能人・有名人が
書いているAmebaブログを
無料で簡単にはじめることができます。

公式トップブロガーへ応募

多くの方にご紹介したいブログを
執筆する方を「公式トップブロガー」
として認定しております。

芸能人・有名人ブログを開設

Amebaブログでは、芸能人・有名人ブログを
ご希望される著名人の方/事務所様を
随時募集しております。