新聞小説「春に散る」(14)沢木 耕太郎 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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作:沢木 耕太郎 挿絵:中田春彌   7/6(450)~7/27(470)

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感想
大塚との対戦の章。アメリカで見たボクサー、中西をスパーリングの相手として再び出すのはけっこうニクい演出。
実力では大塚に敵わない。

判定では必ず負ける翔吾が勝つためには、ノックアウトしかない。
ガードが下がって来てメッタ打ちにされるとなったら、そらー「クロス・カウンター」に決まっとるじゃろう。

でもこれ「あしたのジョー」じゃないんよね。

 

星に伝授された「キッドのキドニー」。だが自分に対するダメージもハンパない。これが今後も通用するものかどうか・・・・・

 

あらすじ

階段1~21
11月の末に令子からの電話。

翔吾と大塚の試合をやらせてみるとの事。

スーパーライト級の世界タイトルマッチのセミ・ファイナルとして設定する事で話題性もあり、興業的には申し分ない。

そしてその試合の勝者が世界タイトルマッチに挑戦するというレールが敷かれた。
その夜、広岡は令子からの話を皆に伝えた。

大塚戦まではあと2ケ月。

 

星は、荷役の仕事をする翔吾の体幹が鍛えられた頃合いを見つつ、12月に入ってからようやく「ボディー・フック」の練習を付ける事を宣言した。
「キッドのキドニー」と言われた星の独特なパンチ。相手のパンチをよける時に体を沈め、一歩踏み込んで脇腹に強烈なフックを叩き込む。
三つのステップを流れる様な動きで行わなくてはならない。

星は基本を教えるが、当然実用には程遠い。
星は翔吾にサーフィンをさせると言って海に連れて行った。

 

土、日で海に出掛けた二人は、程良く日焼けして帰って来た。
翌日のトレーニングで翔吾は難しい体を沈める動作を体得していた。星の言うには、あのパンチが打てたのは、自分がサーフィンをしていたから。腰から下の使い方が重要。

翔吾は嘘みたいに、すぐ波に乗れるようになったという。

階段をまた一段昇った翔吾。

 

ある日猫のチャンプが居ない、と翔吾が心配して広岡に告げた。

二人でしばらく周囲を探したが見つからない。
その折り、翔吾が広岡に、素晴らしいトレーナーと出会ったのに、なぜボクシングを辞めたのかと尋ねた。
トレーナーのペドロは、広岡の才能を認めつつも、チャンピオン中のチャンピオンにはなれない、と言ってトレーナーを続ける事を断った。
新たなトレーナーについて勝利し、次の試合でペドロが次に育てている白人ボクサーと対戦した。全く歯が立たず、6ラウンドでレフェリーストップ。自分が遠く及ばない人物が居る同じ世界には留まれないと考えた広岡。

 

年の瀬が迫り、広岡は翔吾に正月は家に帰れと指示。

不満そうな翔吾。佳菜子も帰らないという話の中で、彼女が自分の全てを翔吾に話している事を悟る。

翔吾は、二日の夕方には戻って来た。
スパーリングの相手が問題だった。大塚とはさすがに出来ない。

令子から紹介された選手は、1年ほど前に広岡がフロリダのバーで試合を見た時、逆転で相手を倒した中西利男だった。

所属ジムは城南玉川。
中西はその後世界タイトルに挑むも破れ、失意のうちに帰国したのだという。

 

翔吾と共に城南玉川ジムに入った広岡たち。

スパーリングが開始されると中西は荒っぽいパンチを繰り出し、最初から激しい打ち合いになった。

予定の4ラウンドが終わって「ボクシングが少し変わった」と声をかける広岡。アメリカではフットワークを使って打たれない様にしているとブーイングを浴びる。だから倒されるのを覚悟して倒しに行かなくてはならない、と返す中西。

接近戦を主体に、中西とのスパーリングは4日ほど行われた。

 

大塚との試合の前日。公開計量から戻った翔吾。軽くサンドバックを叩くために庭へ出ると、チャンプが帰って来たと叫んだ。
休みで家に居た佳菜子が呼びかけると、チャンプは佳菜子の膝に乗った。目の周囲にケガをしている。手当てをする佳菜子。
佳菜子が、顔には十分気をつける様にと翔吾に頼んだ。チャンプが身代わりになってくれたのかも、とも。それを不安なものとして聞く広岡。

 

満員の後楽園ホール。観客の目当ては翔吾と大塚のセミ・ファイナルだった。以前より更にシャープな印象の大塚。

信じられない様なスピードのジャブを繰り出す大塚。

2ラウンド、3ラウンドとも、その優れたジャブでポイントを稼ぐ大塚。死んだ真田会長が理想としていたアウト・ボクシング。

4ラウンドの中盤、大塚のジャブでロープ際まで後退した翔吾。

だが大塚は決して接近戦には持ち込まない。
7ラウンドの終盤で、インサイド・アッパーを狙った翔吾は、逆にカウンターを食らってダウン。立ち上がり危うくKOは回避。
8ラウンドでも大塚は安易に飛び込まず、ポイントを重ねる。

 

ゴングが鳴ってコーナーに戻った翔吾が不意に広岡を見た。山越戦の時と同じ目。あの時はインサイド・アッパーを打つための許可だったが、それを経験している大塚には通用しない。

翔吾の意図が判らなかったが、今の絶望的な状況で、何かをやろうとしている。広岡は大きく頷いた。
9ラウンドの開始。ガードの腕が少しづつ下がって来た翔吾。

そこを大塚に狙われてパンチを食らう。更にガードが下がって顔面がガラ開きになり、連打を浴びる。観客は熱狂し、ラッシュする大塚はついにとどめの一発を打ち込もうとしていた。
その時、翔吾はスッと体を沈め、伸び切った大塚の脇腹にひねりの利いた左のフックを打ち込んだ。
一瞬動きを止めた大塚は、膝から崩れ落ちた。起き上がろうともがく大塚。だが上半身を起こすのがやっと。

敗北寸前だった翔吾が大逆転で勝利した。

また階段を一つ昇った翔吾。