「金閣寺」 三島由紀夫 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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1950年に金閣寺へ放火し、全焼させてしまった青年僧侶を題材とした小説。

実は、三島の小説は今まで一度も読んだことがなかった。
クーデターを企て、その後割腹自殺した壮絶さのイメージが強かったせいかも知れない。
当時から「小説家」というイメージは持っていなかった。


読むきっかけとなったのは「百年読書会 」。
ただ、最後のこのお題だけは読みきれずに放置。
結局、会が終了して4ケ月経って、やっと完読。


主人公の溝口は、東北の寺の僧侶の息子。父は若い頃修行で通った金閣寺の美しさを息子に刷り込む。
重度の吃音だった彼は中学に通うため、叔父の家に預けられていたが、ある時病気で余命いくばくもない父が彼を連れて金閣寺を訪れる。
金閣寺の住職は、父とは若い頃の修行仲間であり、彼の行く末を託す。


父の死後、遺言通り金閣寺の徒弟となる。

父からの刷り込みを受けて恋い続けた金閣寺は、連れられて初めて見た時にはさほどの感動は生まなかったが、その後機会ある毎に彼の中で大きくなって行く。


同時期に金閣寺に預けられた鶴川。実家は裕福な寺で、何不自由ない暮らしが身についていた。
彼の吃音に対して何もからかおうとしない鶴川。裕福なるがゆえのやさしさ。初めて味わう快さ。


第2次大戦のさなか、彼は爆撃で金閣寺が炎上するのを予感した。その不安からますます金閣に対する愛情を深めていくが、勝利を確信したアメリカは歴史的なものを爆撃することはなかった。


住職の好意で仏教系の大学に進学した彼。そこで知り合った柏木。生まれつきの内反足。機会を捉えて話しかけるが「片輪同士で友達になろうというのか」と厳しく打ちのめされる。柏木の影響を受けて次第に堕落して行く。


実際にあった事件がベースになっているが、その細部構築の多くはフィクションだろう。
吃音で内向的な少年が、金閣寺というものに関わるうちに次第に変容して行き、ついには決定的な結論を迎える。
友人に影響されて次第に変化して行く様子は「車輪の下」を思い出させる。


柏木という男の描き方が秀逸。自分の不具を呪いながらも、それを女との交接に利用する下劣さ。ただそこには偽悪を装っている様子も窺える。


実際の放火犯人は、事件の後睡眠薬を飲み、切腹して自殺を図ったが、小説の彼は睡眠薬と小刀を捨て「生きよう」と思った。
金閣寺に対する過剰な思い込みと共に強調されているのは、女性との関係。何度も女性とSEXするチャンスがありながら、ことごとく不能だった彼。



三島の文体は難解、華麗とも言われている様だが何の違和感もなく読み進めた。度々引き合いに出してしまうが、太宰の文は自己顕示欲があからさまに透けて見えて、時間を忘れて没入するという事がなかった。
ただ、やっぱ三島もちょっと違う、かなー?