短編集「花も刀も」 山本周五郎 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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短編の周五郎もイイ。無駄をそぎ落とした中にしっかり残る何かがある。
確かに甘い部分もあるけど、人に対する優しさが、じんわりと心に沁み込んで来る。基本的に、何を読んでも外れはない。一冊は読んでほしい作家です。

 

「落武者日記」
関が原の合戦に敗れ、敵方に捕らえられた男。瀕死のところを娘に助けられるが、結局捕まる。主君の行方を追及された事で主君が逃げ延びている事を知り「主君の居場所を知っている」と家康の前で昂然と言い放つ。その覚悟に男を解放する家康。後に寄り添う娘。

 

「若殿女難記」
すり替えもの。若殿の替え玉を利用して政権奪取を目論む奸臣。すり替えた筈の男が実は若殿。

 

「古い樫木」
若者の密会を見つけ、罰を下す太守福島正則。若者の一途な気持ちに神経を逆立てる。樫の老木に清廉さを感じるが、領地没収の仕打ちに逆上。妻に諭されて自分を取り戻し、若者を解き放つ。

 

「花も刀も」
郷里から江戸の道場に入門している平手幹太郎。自己で編み出した技で上位者を打ち負かすが、却ってうとまれ破門される。千葉周作門下である四天王の一角をなした平手深喜の半生を描いたもの。

 

「枕を三度たたいた」
家老から金三千両の運搬を頼まれる塚本林之介。陰謀渦巻く中、淡々と荷を運ぶ林之介。途中の事故で頭を打ち、金を隠したまま記憶を失う。結果的に家老の陰謀を失敗させる。

 

「源蔵ケ原」
茶屋の娘「お光」が川へ身投げをする。若者6人組の人気者だったが、皆で協定を結び抜け駆けを禁止していた。呼び出しを受けて集まる者達の中で次第に真相が明らかになって行く。

 

「溜息の部屋」
場末の無声映画館の伴奏楽団。女歌手「根来八千代」のために見違える様に明るくなる。

 

「正体」
人妻に心を寄せていた男。画家だった彼女の夫の死去を受けて彼女の元へ。多数描かれた彼女の絵の中に淫らなものを見つける。彼女から誘いを受ける男。亡き夫が描きたくてなし得なかった彼女の正体がそこにあった。