その昔。

強大な力を持った召喚術師がいた。

彼は魔族の王の力をこの世に具現化しようと試み…、‘かの者’に呑み込まれた。

魔王の力をその身に宿し暴走した召喚術師はとめどない力の奔流となり全ての生き物の脅威となった。

脅威に立ち向かう為あらゆる種族が手を結んだ。

人間族とエルフ族。

本来なら全く違う世界に住うはずの二つの種族も互いに協力し、最後に‘かの者’を封じ込んだ。


森は‘始まりの森’であった。

森の最奥の祭壇で、召喚術師は‘かの者’を喚び出した。


森は‘終わりの森’であった。

森の最奥の祭壇に、召喚術師と‘かの者’は封じられた。


最後の時、‘かの者’は言った。


『やがてこの地に‘運命の子’が訪れる。その時、我は再びこの地に現れるであろう。』と。


‘運命の子’は人間族から産まれ出ずる、とエルフ族の伝承に残っていた。

エルフ族は封印を引き受け、人間族はこの森に入らない事を約束した。

それがすなわち、盟約である。


『待っていたぞ。‘運命の子’よ。その力が我を封印から解き放つのだ。』


おぞましい声が聞こえた。

石柱が端から順に崩れ落ちていく。

石柱の前に座るエルフたちは祈りを捧げ続けている。

それでも。

崩壊は止まらない。

中央の一際大きな石柱が崩れ落ちた時、祭壇の下からこの世のものとは思えない咆哮が響いた。

祭壇が崩れ、地面が割れる。

辺り一面が土煙に覆われる。


しばしの沈黙。

土煙が晴れた時、そこには深い深い穴があった。

祭壇も、石柱も、地の底に呑み込まれたようであった。

長老たちの姿も見えない。


『礼を言おう、‘運命の子’よ。よくぞこの地に来てくれた。そなたらの前には数多の災厄が待ち受けよう。だが、また逢う日まで、せいぜい小さな災厄に屈してくれるなよ。』


おぞましい声は随分と遠いところから聞こえたようだった。


「いったい、何が起こったの?」


いち早く我に返ったリノが辺りを見回し、呟いた。

冒険者たちは呆然と立ち尽くしている。

ハッシュが傍に倒れていた。


「今の声はなんだったんだ?」


二番目に口を開いたのは、アル。


「何か恐ろしい、邪悪な気配を感じました。」


サラが答える。


「モシカスルトえるふノ伝承ニアル魔王ガ復活シタノカモシレナイ。」


と、これはオーレック。


「魔王!?」


レクトの声は悲鳴に近い。


「だから嫌だったんだ。来たくないって言ったのに。」


「今更そんなこと言ってても始まらないでしょ?」


リノが諭すように声をかける。


「それに、魔王だって決まったわけじゃないんだし。」


「いや。あれは魔王さ。」


そう答えたのは、いつの間にやら目を覚ましていたらしいハッシュだ。

その答えに冒険者一同は声を詰まらせるのだった。

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