漢方  日本人の誤解を解く | 山中伊知郎の書評ブログ

漢方  日本人の誤解を解く

漢方―日本人の誤解を解く/講談社
¥1,728
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 いつもお世話になっている長崎の東洋医学医師・田中保郎先生からお借りした本。

「もっと東洋医学を知ってほしい」

 といわれて、さっそく読む。


 著者は、どうしても難しいイメージのある漢方医学を、どうすればわかりやすく語れるか、相当、考えた

のだろうな、中心テーマを「寒熱」、つまり体質的に「寒」の人と「熱」の人、それに漢方薬や食べ物についても「寒」のものと「熱」のもの、その中間にあたる「平」のものに分類した。その上で、体調を整えるというのは、この「寒」「熱」のバランスをうまく保ち、中庸の状態にもっていくことだ、と明快に説いている。


 もちろん「単純化」といった安易なものではない。漢方医学が一人ひとりの異なった体質と相対するオーダーメイドの医学だといっていて、その個々人のバランスをとることの大変さは読んでいてある程度まで感じられてくる。


 漢方医学と西洋医学との比較の中で、現代人がどれほど科学崇拝の「科学教」にかかっているか、といった指摘も、大いに納得できる。

 たかが最近200年くらいで作り上げられた「科学」。それをもとに出来た西洋医学。確かに臓器移植を可能にするくらいにテクノロジーは進歩したかもしれないが、果たして「科学」がすべての価値基準になるほどの代物かという点について、著者は大いに疑問を投げかけている。

 がんはもちろん、アレルギー、アトピーだって、西洋医学ではちゃんと治せないし、人間の中にある腸内細菌の数だって、実はぜんぜんわかってないんだしね。


 「科学」って言ったって、人間の体のこと、地球や宇宙のことのたぶん1%もわかってないんじゃないかと思う。それを盲信するって方が、よっぽどおかしいんじゃないか。少なくとも医学について考えれば、西洋医学の200年に対して、漢方医学には数千年の歴史があり、それだけ多くの患者を診た結果、生まれている分、「人体実験」はたっぷりできてる。


 医師は治療家である前に思想家であれ、との著者の主張も説得力がある。

「治療マシン」として、患者の体内の、悪くなった部分を切って取り替える、といった機械の部品交換のようなやり方が、果たしてその患者を本当に幸せに出来るのか? それよりも人間の幸せな生き方をとことん追求し、患者個々人の「体質」に沿って手を差し伸べるべきではないか?


シンプルに、しかし深く「漢方医学」をわからせてくれる本だ。