2010-03-04 17:16:01

伊吹有喜『四十九日のレシピ』の文学的な冒険

テーマ:イージー・ゴーイング
 今週は、小説家や文芸評論家、歌人やコラムニストの方々と会う機会が多かった。文学の話をしながら、コーヒーを飲んだりビールを飲んだり、その後ロックバーへ行ったり。

 ふと気がつくと、それらの多くの表現者の人達が年下だ。
「時が流れるお城が見える」(ランボー)だよなぁ。
 30代、40代、がんばってるよね。
 負けられないなと思います。

 さて、今日は伊吹有喜さんの新刊小説を紹介します。
 伊吹さんは昭和44年、三重県生まれです。今年、ちょうど40歳だね。

 ポプラ社小説大賞特別賞受賞作『風待ちのひと』(ポプラ社)につづく、第二作目『四十九日のレシピ』が刊行されたのだ。半年後に受賞第一作だから、いいペースだよね。しかも、非常にクオリティの高い力作で、ぼくはこちらのほうが好きだ。


四十九日のレシピ/伊吹有喜
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 少し前に一気に読み、泣きはしなかったが(がまんした)、感動した。
 登場人物が、みんな温かい。
 とりわけ、エンディングが素晴らしい!

 この原稿を書こうと思い、また読んだ。一回目より、ずっと味わい深かった。

 不思議な出会いからスタートするのは、「“心の風邪”で休職中の男と、家族を亡くした傷を抱える女が海辺の町で出会う」という、『風待ちのひと』と同じである。
 だが、『四十九日のレシピ』のほうがずっとポップだ。そういうトーンが、ぼくは好きなんだろうと思う。

 熱田家の母、乙美が亡くなった。
 気力を失った父、良平のもとを──どういう人物が訪れるかで小説は決まる。作品全体のトーンを決定する、大切な出会いだよね。
 良平を訪れるのは、真っ黒に日焼けした金髪の女の子、井本なのである。
 やられたよ!
 この井本のおかげで、四十九日という重くなりがちな素材が、ポップに生き生きと展開していく。

 この子↓


イージー・ゴーイング 山川健一-井本


 乙美は生前「教え子」だったという井本に、「四十九日までのあいだ家事などをやってほしい」と頼み、既に料金も支払っているのだという。
 そして井本は、乙美が作っていた、ある「レシピ」の存在を伝えるのだ。

 あんまり書くとネタバレになってしまうので自重するけど、ぼくがいちばん感動したのは、たいして美人でもない乙美と、前妻と死別し再婚をすすめられている良平との出会いのシーンだ。回想シーンなのだが、乙美がバスで去っていくこの場面は胸にささる。

「おまえ、さっさと結婚してやれよ!」とぼくは思い、ああ、妻との回想シーンなんだから結婚はするんだよな、よかった──などと間抜けなことを考えるのだった。

 乙美は、ものすごく魅力的な女だ。井本も、真っ黒で金髪だけど、魅力的な女の子だ。だってそれは──というところで、やめておく。

 とりわけ、エンディングが素晴らしい、とぼくは先に書いた。
 四十九日とは仏教の世界観であり、こうした世界観を前提にしたいわばファンタジーの世界に作者は一歩踏み出している。
 そこが、いい。

 伊吹有喜さんの文学的な冒険に、惜しみない拍手を送りたいと思います。
 しかしさ、またすぐに次の作品を読みたくなるよね。書くほうはたいへんだけど、読むほうは「早く!」とつい思ってしまう。

 多くの読者が次の作品を心待ちにする小説家。
 伊吹有喜さんは二作目にして、そういう作家になったのだと思う。
 


PS まだ1作目を読んでない人は、こちらから読んだほうがいいと思います。

 ↓

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