No.5-1~2 | アキヨシとカレン  ・・・少女漫画風恋愛小説・・・

No.5-1~2

 お風呂の温度はちょう度よかった。快適だった。

 わたしはシャワーでもいいって言ったんだけど。外、寒かったから、あったまったほうがいいだろうって。わたしひとりの為に佐藤君わざわざお湯を沸かしてくれたんだ。

 遠慮なく使っていいよと言われた脱衣所にあるタオル類。お言葉に甘えて使わせていただくことにする。

 身体を拭きながらかごのなかをちらりと見遣った。きちんとたたんだ衣類の一番上にある下着。

 全然勝負下着なんかじゃなくて。でも一応お気に入りのやつを着てきてた。佐藤君と会うから。どこかでこうなることを予感してたのかもしれない。

 ただ。こうやってお風呂まで借りたのに着替えがないのは正直残念。コンビニに行く? って佐藤君気を遣ってくれたんだけど。どこで誰と出会うかわからないので辞退した。

 ……嘘を吐いてる身としては、ちょっとね。

 佐藤君が用意してくれたパジャマ代わりの長Tとハーフパンツは全然サイズがあってない。だぼだぼ。ウエストをぎゅっと絞って、袖も捲くる。佐藤君あんなに痩せて見えるのに。すっごくおっきいの。男のコなんだなって。改めてそう思う。

 鏡のなかの自分を見遣った。

 お風呂上りでちょっと上気してる顔。

 大丈夫。

 普通の顔、してる。できてる。

「よしっ」

意味もなく拳を握り気合いなんぞを入れてみた。

 だって。そうしないと。逃げ出しそうに臆病な自分も隅っこのほうにはいたりするから。

 廊下をそっと歩きリビングの扉を開けた。

 静かな部屋。

 ソファの近くまで歩いたわたしは、

「え」

と。目の前の光景に立ち尽くした。

 佐藤君。

 眠ってた。

 すやすやと。

 健やかな寝息を立てて。

 ふわふわのラグの上でごろんと横になり。

 眠ってた。

「嘘……」

 呟いて、隣に膝をついた。そっと。こめかみと髪の毛に触れてみる。

 動かない。

 これはわたしがお風呂に入ってすぐに寝ちゃったんだな。わたしがのろのろと長風呂してる間に深い眠りにまで辿り着いちゃったんだなと推測した。うーん。どうしよう。

 腕組みをして束の間考え込んだ。

 それから笑った。声を出さずに、でもお腹を抱えて笑った。

 佐藤君ってば。さっきまであんなに真っ暗だったのに。すっごく悩んでる風だったのに。こんなにぐっすり眠れちゃうなんて。精神的にも肉体的にもめちゃくちゃ健康なんだなあって。感心しちゃったよ。だからあんなにハードなスケジュールでもへっちゃらでこなせるんだね。

 さてさて。どうしよう。

 と。もう一度考え込んだ。

 このままここを出て家へ帰ろうか。家族への罪悪感がそんなことを考えさせる。或いは本当にしおりちゃんのところに泊まっちゃおうか、とか。お風呂に入っちゃったから家に帰るのはさすがにまずいかなあ、とか。

 佐藤君が目覚めたとき。わたしが傍にいなかったら、やっぱり落ち込むだろうなあ。なんで俺寝ちゃったんだよーって。暴れるかもしれないよなあ。なんてことまで考えた。

 仕方ない。

 ひとつ大きな息を落とすと、そこを離れた。

 佐藤君の部屋のドアをそっと開ける。静かな部屋。嗅ぎ慣れない匂い。廊下の灯りだけでベッドまで近寄った。ベッドカバーなんかかかってなくて。黒っぽいシーツに包まれた掛け布団と毛布を両腕で抱え込んだ。

 よっこらよっこら歩きながらリビングに戻る。そのまま毛布、布団の順に佐藤君の身体に掛けた。

 うろうろと慣れない部屋を歩き回って暖房と電気を消した。薄い、眠りを妨げない程度の灯りだけは残しておく。

 そっと。佐藤君の横に身を滑り込ませた。

 息のかかる距離に佐藤君の顔があった。長い睫。通った鼻筋。大きな寝息が聞こえてくる。何だか可笑しくて、笑いを噛み殺すのに苦労した。

「おやすみ、佐藤君」

一応鼻の頭あたりにおやすみのキスをして。そして眠った。

 ぴったり密着した佐藤君の身体は硬くて。でもとても温かだった。