石巻のシンボル、日和山に登ってみる。

山から南側を見ると住宅地が丸ごと消えていた。

市立病院など、コンクリートの建物だけが疎らに残る。

日和大橋は津波をかぶったがなんとか耐えたようだ。

 

津波とは単なる大波でなく、海底から海上までのすべての水の移動だと初めて知った。

今回の地震が放出したエネルギーは阪神大震災(M7.3)の1,450倍で、津波の遡上高は観測史上最大の40.4mに達した(宮古市重茂姉吉地区)。

それにしてもなんという広さに波が来たことだろう。

 

 

山を降り、旧北上川の中洲まで行く。

 

ここには岡田劇場、ハリストス正教会、石ノ森萬画館、料亭、マリーナなどがあり、石巻観光の中心だった。地盤沈下で中洲の大きさは一回り小さくなった。

160年の歴史があった岡田劇場は、基礎を残して跡形もなかった。

 石ノ森章太郎が映画を観に中田町から自転車で通った劇場だった。


ハリストス正教会は明治13年に建てられた白亜の建物である。

木造の建物が川の真中で倒壊しなかったのは奇跡といってよい。 

 

萬画館は浸水したものの建物は無事だった。

現在は休館していて、中を見ることはできない。

全国から来た人たちの応援の書き込みがある。

川の東西をつなぐ内海橋は、押波と引波で上流下流から瓦礫がぶつかり、満身創痍となった。

震災直後は大量の漂流物と遺体が橋に引っ掛かっていて、人々はそれらを乗り越えて橋を渡った。

 

河畔のプロムナードは柵が壊れ、川の水がベンチの下まで来ている。

とてもくつろいで座ってはいられない。

 

南浜町は海も川も近い日当たりの良い住宅街だったが、1年経たずに草原に変わった。

240号線沿いには手作りの慰霊所があり、手を合わせる人が後を絶たない。

海から強い風が吹いて来る。

風が吹くと悲しくなくても涙が出る。

 

門脇(かどのわき)小学校は由緒ある学校だ。

海岸から700mの距離にある。

 

 

 

建物は残っているが窓は破れ、壁には焼けた跡がある。

地震後、近隣住民が車で避難してきた。

7mの津波が車を押し流し、校舎に衝突させた。

 

衝撃でガソリンが発火。100台余りが次々に燃え上がり、校舎に引火、全焼した。

学校には児童もいたが、教員が教壇で橋を作って3階から裏山へ避難させた。

プールには今でも大量の海水が貯まっている。

 

小学校の隣りの墓地では墓が遺骨ごと押し流された。

葬られても死者は安眠を許されなかった。

永遠のことなどないと知れば無常感はつのる。 

 

市立病院は旧北上川、太平洋の両方に面して建ち、思えば危険な立地であった。

ここが機能していれば、石巻赤十字病院の負担は半分になった。

新しい市立病院は海から2km離れた石巻駅前駐車場に再建されることが決まった。

 

日和大橋を越え、女川方面に向かう。

240号線の中央分離帯に巨大な鯨大和煮の缶詰が転がっていた。

 

 

この巨大缶詰は、「鯨の大和煮」からスタートした木の屋石巻水産のシンボルマークだった。

巨大缶詰には20t以上の魚油が入っていたが、元の場所から300mも北に流された。

缶詰はちょうど中央分離帯の真中で止まったため、交通の邪魔にならず撤去を免れた。

 

岸壁にあった同社は跡形もなくなったが、金華鯖の缶詰が工場跡の泥の中で見つかった。

その缶詰は掘り出されて、避難所の人たちの貴重な食料になったという。

 

女川街道を万石浦まで来た。

 

地盤が沈下したせいか、海面が上昇し、道路と同じくらいの高さに見える。

万石浦の緩衝作用で津波被害は小さかったが、地盤が80cm沈下した。

場所によっては海岸線が数10m後退した。

海岸では浸水防止用の土嚢積みが行なわれている。

 

かつては防波堤の下に砂浜があり、潮干狩りもできた。

震災後はアサリ採取用の造成干潟も砂州も干出しなくなり、岩礁から貝類が消えた。

満潮になるとマンホールや側溝などから海水が逆流し、地区のほとんどが膝下まで浸水する。

台風と大潮が重なった場合、大洪水が懸念される。

 

万石浦沿岸を走るJR石巻線は小牛田~石巻~女川を結んでいたが、現在石巻~女川間は運行されていない。

線路にはロープが張られて立ち入れない。

 

浦宿駅のホームは基礎の鉄筋がむき出しになった。

その下を潮が刻々満ちて行く。

潮は次第に急流となり、見ている間に線路が水没した。

未明、住民は潮が満ちる音で目を覚ますという。

 

昔、浦宿浜の知人を訪ね、この駅で降りたことがある。

知人の消息はここには書かない。

 

JRは石巻線の浦宿駅~女川駅間2.5kmのルートを山側に移転する予定だ。

この駅は廃止になる。鉄筋が錆びても、レールが水没しても、そのまま朽ちて行くしかないのだ。

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