ベニバナは山形県の県花である。飛鳥時代に渡来したといわれる菊

科のベニバナは、江戸時代に肥沃な土地で水はけのよい最上川流域

が生育に適し、ベニバナを摘むのに適した朝霧が立ち易い地形であっ

たことから、山形県はベニバナの一大産地として成長した歴史がある。


 奥の細道の中で、松尾芭蕉が詠んだ「まゆはきを 俤(おもかげ)にし

て 紅粉(べに)の花」という名句がある。最上川の舟運によってベニバ

ナは酒田に運ばれ、北前船で京都・大阪方面に輸送されていた。


 ベニバナは7月の上旬に真黄色の花を咲かせる。現在は山形市や

天童市、寒河江市、河北町、白鷹町などで栽培され、河北町にはベニ

バナの歴史を展示した紅花資料館がある。ベニバナは黄色い花である

が、花を摘んですぐに水にさらし、乾燥させること、を何度も繰り返すと

紅色になる。ベニバナは生薬として日本薬局方に収録され、口紅や染料、

食料油、マーガリンの原料など数多くの用途に使われている。


        真黄色の花を咲かせたベニバナ

           真黄色に咲いた気品あるベニバナ


 山形市高瀬地区はベニバナの一大産地である。7月の上旬には

「紅花まつり」が盛大に開催される。真黄色に咲き誇るベニバナが畑

一面に広がり.山形県初夏の風物詩として、日本に生まれた私たち

の心を癒しくれるような、故郷の素晴らしい風景が展開されている。


         畑一面に真黄色の花をなびかせるベニバナ

         畑一面に黄色の花をなびかせるベニバナ


 「紅花まつり」は、獅子舞が行われるなど賑やかに開催される。

お祭りの人気は、紅花娘たちのベニバナ摘みの実演である。多くの

にわかカメラマンの要望によってポーズを作って笑顔を見せている

が、明るくて可愛い娘さんと作業着とベニバナが良く似合う。

 晴天の下で、若さみなぎる娘さんの働く姿は、日本特有の光景と

して、私の心を和ませてくれた。


         紅花娘とベニバナ畑
             良く似合う紅花娘とベニバナ畑


 山形県河北町にある紅花資料館は、元禄の頃から農地の集積を行

い、明治まで名主を務めた家柄であった、富豪の堀米四郎兵衛の屋

敷跡をベニバナの資料館にしたものである。ベニバナの歴史や当時の

生活用品、古文書などが展示されている。付属する売店の一角で紅花

染の実演が行われているが、日本古来の伝統技術の一端を垣間見る

ことができる。


         河北町紅花資料館入口
             河北町にある紅花資料館入口


 紅花資料館売店には、ベニバナを使った色々な土産品が並んでいる。

手染めのハンカチは紅花資料館売店で染めたものであるが、貴重なベ

ニバナの原料の確保が難しく、市販のベニバナ染めのハンカチなどの

殆どは、化学染料によるものだそうだ。本物はここで求めるのが肝要で

ある。売店でベニバナの切花を売っていた。初夏の香りを乗せた気品あ

るベニバナを買い求め、山形県の素晴らしさに、しばし浸ってみた。


   
         ベニバナの切花

         気品ある初夏の香りが漂うベニバナの切花