春を待ちわびる東北地方に、桜の花が咲き誇る季節が到来すると、桜めぐりの観光客で賑やかになる。青森県の弘前.秋田県の角館、岩手県の北上などの桜見物ツアーが有名であるが、山形県でも「置賜さくら回廊」が名乗りを上げている。名木や古木の多い白鷹町・長井市・南陽市を繋ぐ全長43kmにわたる長井白鷹線の道路沿いで、桜を楽しめるコースが「置賜さくら回廊」である。私は米沢市を含めた置賜地方の桜の名木を訪ねてみることにした。 


 気象庁の開花予想は、全国的に分布するソメイヨシノを基準にしている。ソメイヨシノは、エドヒガンザクラとオオシマザクラを交配して生まれた桜であって、美しい花を咲かせるが、寿命60年説があるように、古木になるまで育たない欠点がある。置賜地方で沢山の花を咲かせる巨大な桜の種類はエドヒガンザクラであって、1000年前後の樹齢を誇る名木・古木が、点在して見られるのは嬉しいことである。


 米沢市のシンボルに上杉謙信と上杉鷹山を祀る上杉神社がある。米沢城跡は松が岬公園として公開され、中央に上杉神社がある。お堀端を囲むようにしてソメイヨシノが並び、城跡の石垣とお堀の水面が良く調和して素晴らしい景観を見せている。満開の桜がお堀の水面に映り、より一層美しさ演出しているが、やがて桜の花が散り、絨毯を敷き詰めたように花びらが水面を埋め尽くす頃になると、山々は新緑の春になる。米沢の春は桜の開花から始まる。最上川の堤

に映えるソメイヨシノの桜並木や学校などに植えられている古木の桜が一斉に咲き誇り、豪雪の町米沢の春を謳歌するのである。



米沢城跡のお堀端に咲く満開の桜

米沢城跡のお堀端に咲く満開の桜

 長井市にある「久保桜」は、推定樹齢1200年の古木エドヒガンザクラで、国の天然記念物に指定されている。高さ16m、太さ9mの巨木で、東西22m、南北19mに枝を張っている見事な桜である。征夷大将軍坂上田村麻呂がこの地で愛した娘の死を悼み、墓前に植えた一本の桜が育ったという伝説がある。 緑と水と花を町のシンボルに掲げる長井市は、白つつじやあやめ、はぎなどが有名であるが、桜の名木も多い町である。久保桜のほかに、長井白鷹線の道路沿いにある樹齢140年の「白兎のしだれ桜」は、日本三十三枝垂桜の一つである。「草岡の大明神桜」は、日本で2番目に大きな桜で、国の天然記念物に指定されている。最近はてっぺん付近は鷽(うそ)が啄ばんで、坊主にされる被害が出て豪快さが失われているのが残念である。「あやめ公園の桜」「白つつじ公園の桜」「桜づつみ」約300本のソメイヨシノが並ぶ「最上川堤防千本桜」も「置賜さくら回廊」の一翼を担っている。



国指定の天然記念物 伊佐沢の久保桜

国指定の天然記念物 伊佐沢の久保桜


 桜の町白鷹町は、長井白鷹線の道路沿いに桜の名木・古木を見ることができる。推定樹齢800年のエドヒガンザクラ「釜の越桜」は、高さ20m、太さ6m、枝張りが27m×22mもあり、山形県で一番大きな桜である。樹齢推定1200年の最古木のエドヒガンザクラ「薬師桜」は素朴な味わいで佇んでいた。樹齢1000年を越す「子守堂の桜」と「赤坂の桜」は、ポツリと離れたところに立っていて、地味な印象を受けたが、「十二の桜」や「山口奨学桜」は颯爽と満開の花を咲かせていた。

 「スポーツ公園の桜」は、小高い丘の上から町内を見渡せる立地にあって、お花見には条件が整っているようである。



推定樹齢800年 山形一の巨木 釜の越桜

樹齢800年山形一の巨木 釜の越桜


 南陽市の赤湯温泉街の近くに、桜の名所が2カ所ある。バラ公園として知られている双松公園と日本の「さくらの名所100選」に選ばれた烏帽子山公園である。

 双松公園は春の桜・初夏のバラ・秋の菊人形などが楽しめる市民憩いの花の公園である。春は枝振りの良い枝垂桜「眺陽桜」を見物する人で賑わう。南陽市が一望できる小高い山が公園になっていて、山の斜面はお花畑になっているが、「眺陽桜」は、双松公園のボス的存在として威厳を示している。



双松公園に咲くシダレザクラの眺陽桜

双松公園に咲くシダレザクラ眺陽桜

 赤湯温泉街を望む烏帽子山公園は、ソメイヨシノやシダレザクラ、カスミザクラなど約1000本の桜が植えられている。日本の「さくらの名所100選」に選ばれた烏帽子山公園は、桜の木の多いことに圧倒される。山頂には烏帽子山八幡宮が祀られ、大鳥居に桜の枝が被さるように垂れ下がって、満開の花で飾られている。この鳥居は石で造られているが、継ぎ目がない。継ぎ目ない石の鳥居の大きさでは、日本一の大鳥居である。大鳥居と満開の桜、大きなシダレザクラ、ソメイヨシノの並木など、十分にお花見を楽しむことができた。



日本一の継ぎ目のない石の大鳥居と桜

日本一の継ぎ目なしの石の大鳥居と桜

 置賜さくら回廊めぐりは、雨天が多かったこともあって、写真への明るさが少し足りなかったのが残念である。また、満開の桜の背景に聳える高山の姿を捉えられなかったことは悔いが残る。

 しかしながら、毎年春になると蘇る古木の生命力に教えられるものがあり、感動の連続であった。平和で四季折々の美しさが見られる日本に住む喜びを感じた、小さな旅行であった。