山形新幹線の終着駅新庄駅に着くと、酒田行き陸羽西線が待っていた。田畑の中を走る2両編成のローカル線に乗り、20分で古口駅に着く。駅から最上川舟下りの乗船所までは歩いて5分である。

 乗船所は江戸時代の姿に復元した戸沢藩船番所の川辺にある。昨夜宿泊したであろう天童温泉や蔵王温泉・銀山温泉などから、続々と観光バスが到着する。最上川舟下りに魅せられた私は、四季折々の情緒を楽しむために、既に数十回もこの地を訪ねている。季節の移り変わりの素晴らしさを思い起こしながら、舟下りの魅力を綴ってみることにした。


戸沢藩船番所の乗船所 
戸沢藩船番所の乗船所

 

 最上川舟下りは、最上峡の大自然を眺めながら川を下る約1時間のコースである。奥の細道の厳しい旅の中で、松尾芭蕉と曽良主従が川の流れに身を任せ、心を癒したという行程である。街角は既に春景色になっているが、4月に入った最上峡の森林は、まだ若い芽をつけたままで、殺風景な感じがする。が、雪解けで水量を増した白糸の滝は、豪快さを加えて落下し、壮観である。      

  


春まだ浅い白糸の滝 
春まだ浅い白糸の滝


 やがて新緑がまぶしい季節が到来する。最上峡は自然に育った天然杉の山並みが映え、雪解け水や五月雨を集めた最上川が、急流となって下るようになる。最上川は日本三大急流の一つである。緑の風に身を任せながら、船頭さんのユーモアあふれる方言の説明を聞く。

 奇岩や落差のある滝を眺めていると、船頭さんの美しい唄声が聞こえてきた。

「ヨーイサノマカショ エンヤーコラマーカセー ・・・・・・・」

最上川舟唄である。しばらく耳を傾けて聞き入っていたが、やがて手拍子が起こり、のどかでなごやかな雰囲気が船内を包む。日本人が好む独特の情緒であり、日本に生まれて良かったと感じるひとときである。


新緑の最上川と白糸の滝 
新緑の最上川を下る遊覧船と白糸の滝


 夏の風物詩は納涼船である。ライトアップした最上峡の幻想的な夜景を眺めながら、冷たいビールを傾ける。光が舟を照らしてシルエットをつくり川面を写す。やがてカラオケが始まり、賑やかな楽しい夕べが始まる。

 

 最上峡の秋は、11月初旬が美しい紅葉の季節である。山全体に紅葉が広がり、思わず歓声を上げる。船頭さんは最上川舟唄のほかに、お馴染の真室川音頭も唄ってくれるが、最上川舟唄の英語バージョンや韓国バージョンに人気があるようだ。船内は笑い声が絶えないまま、ゆっくりと舟は下って行く。



最上峡の紅葉
山全体が染まる最上峡の紅葉

 

 木枯らしが吹き、最上峡も厳しい冬を迎える。冬の風物詩は雪見船に乗り、雪景色を楽しむことである。舟の中には、熱い鍋とドブロクが用意される。ゆっくりと舟を進めながら、鍋とドブロクと雪景色で楽しむ舟遊びは風流である。



冬の最上川白糸の滝付近
冬の最上川舟下り白糸の滝付近


 最上川舟下りは、山寺と出羽三山神社と共に、山形観光の三大拠点の一つである。最上峡の四季折々の景観は素晴らしい。旅往く人や山国で生活する人との、素朴で人情味のある心根に出会い、人としての感性が磨かれていくようである。