どこまでも広がる深い緑が、身も心も落ち着かせる。松本清張の社会派ミステリー小説『砂の器』で〈東西は山地に挟まれ、わずかに宍道方面に平地が開いている狭隘(きょうあい)な地域〉と記された仁多郡奥出雲町亀嵩(かめだけ)は、出雲空港から車で南東へ約1時間。出雲神話に登場するヤマタノオロチが棲(す)んでいたとされる山里だ。

 「カメダは今も相変わらずでしょうね?」

 東京・蒲田駅の操車場で起こった殺人事件を追う捜査本部は、近くのバーで東北なまりの会話をしていた2人の男がカギを握ると踏む。そこで東北に縁のある「カメダ」なる人物を探すが、捜査は難航。その後、今西栄太郎刑事が「カメダ」ではなく「カメダケ」、東北弁ではなく同じ音韻の出雲弁が関係していることをつかみ、容疑者に迫っていく…。

 「セットを組んだり、実在の建物を生かしたりした映画の撮影は町内のあちこちであって、大勢が見学に来ていたよぉ。当時はわらぶき、かやぶき屋根の家ばかりで、道路は狭くて舗装もされてなかったなぁ」

 亀嵩に生まれ育った、奥出雲振興の三澤又三郎・常務執行役員(60)は丹波哲郎や緒形拳らがロケに来た40年近く前のことを懐かしそうに振り返る。

 小説でも映画でも、寂しい山村のイメージが濃く出ているが、発展から取り残されたわけではない。亀嵩がある仁多町と隣の横田町は平成17年3月に合併し奥出雲町となった。これを機に、全戸を対象に光ケーブルを利用した高速通信回線が整備された。第三セクターが運営する玉峰山荘は、日帰り入浴も含め年間約15万人が利用する。

 ロケ地巡りの観光客も途切れない。原作に出てくる木次(きすき)線の亀嵩駅は、JRから管理を委託された杠(ゆずりは)哲也さんが、駅舎で手打ちの出雲そばを提供する。

 「ロケ地目的のついでに食べられる方、そばを食べに来られて『砂の器』の舞台だと知られる方の両方おられます」と杠さん。そば職人としてはうれしいが、車で移動する客が大半で、運賃収入に結びつかないのが駅長としてはちょっと残念。

 映画の印象的なシーン、ハンセン病患者の本浦千代吉が岡山の療養所に向かうためわが子の秀夫(のちの和賀英良)と別れる亀嵩駅の場面は、2つ隣の出雲八代駅で撮影された。そんな撮影裏話を知るのも、楽しい。

                   ◇ 

 作中で殺害された元亀嵩駐在所の三木謙一巡査は、千代吉に療養所の世話をし、残された秀夫を引き取って育てた。親身になって世話をする非の打ち所がない警官として描かれている。

 「こっちの人間は“おんぼらと”ですから。そういうところがよくて、都会の方が癒やしを求めて来られるのではないでしょうか」と杠さん。

 ほのぼのと温かい人柄という意味の出雲弁。三木謙一巡査がいたときと同じように、亀嵩は今も相変わらず、親切な町のようだ。(伊藤洋一)

 【ドラマ化と主役】

 新聞小説をへて、昭和36年に光文社から刊行された「砂の器」は、48年に新潮文庫に収められた。49年に映画化(今西刑事役は丹波哲郎)されたように、映像での記憶も鮮明だろう。37年にはTBS系(高松英郎)で、52年にはフジテレビ系(仲代達矢)でドラマになっている。平成に入っても3年にはテレビ朝日系(田中邦衛)、16年にはTBS系(渡辺謙)でドラマ化された。同年の作品は中居正広が演じた音楽家・和賀英良の視点から描いたもので、英良の父を原作のハンセン病患者ではなく、大量殺人者と設定していた。

 歌舞伎や小説、音楽…。さまざまな作品に登場する舞台の“今”を訪ねます。

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