写経屋の覚書-はやて「前回の最後で、4月中旬に救世軍の活動に転機が訪れるって言うたやん。どんな転機なん?」

写経屋の覚書-なのは「そうなんだよ。まずは4月22日付『憲機第832号』と21日付『憲機第835号』を見てね」

憲機第832号 救世軍の将来活動に関する件

               救世軍大佐「ホツカード」
 右は教徒に対し近頃其布教上に関し大要左の如き談話をなせり
一.韓人は勢力を持し利欲主義なるを以て我教徒たる者に対しては濫りに官憲の拘束を受けさる如く保護を与へ且つ熱心信教する者には相当の地位に進め報酬を与ふ奨励する事
二.婦女の教徒を募集し多数の幹部を養生して募集に力めしむる事
三.妓生淫売婦に関する法規を閲し之れか廃業をなさしめ救世軍に収容して之れを救ふ事
四.軍営の代償は大に布教に影響す依て宏(ママ)なる軍営を建築する事之れか為め目下其敷地撰定中なり
五.軍司令官「アース」大将に韓国の状況を解き四ケ年間は布教に要する一切の費用は同教本部より補助を受くる可
以上                 明治四十二年四月二十二日


憲機第835号 救世軍の近状

 救世軍は一時教勢不振の状態に陥り其軍営に参集する教徒の数僅か二十数名に過きさりしこと間々ありし由なるか大佐「ホツカード」以下の幹部等之れか復活策に関し熱誠を以て其趣旨を説明し且つ韓国現時局を論し同教軍の力に依るにあらされは国権を恢復し他国の侮を免る事能さるか如く説き又た熱心を以て信教する者に対しては相当の報酬を与ふ可しなりと吹聴し以て其教徒の収容に力めたる結果近来大に活気を呈し其各所の軍営に集会する教徒も百余名を下らさるものゝ如しと
以上                 明治四十二年四月二十一日

写経屋の覚書-フェイト「え?『熱心信教する者には相当の地位に進め報酬を与ふ』『熱心を以て信教する者に対しては相当の報酬を与ふ可しなりと吹聴』って…給料とか報酬が出るって韓国人のデマじゃなかったの?ほんとに出すの?」

写経屋の覚書-はやて「方針を180度転換したんかな?『我教徒たる者に対しては濫りに官憲の拘束を受けさる如く保護を与へ』っちゅうんも重要やな」

写経屋の覚書-なのは「うん。韓国人の願望に寄り添って迎合するように方針を変えたんだよ。『韓人は勢力を持し利欲主義なるを以て』がポイントだね」

写経屋の覚書-フェイト「いつこんな重大な転換を決定したのかな?」

写経屋の覚書-なのは「獄長日記の『大韓帝国期のキリスト教(二)』で見た4月15日付『憲機第785号』から、4月13日の時点ではまだ方針転換してないことが分かるから、4月13日から21日の間に活動方針転換の協議と決定がされたんじゃないかな」

写経屋の覚書-はやて「韓国面に堕ちた、いうわけなんかな…」

写経屋の覚書-なのは「そういうわけで、これ以降は韓国人の期待に沿うような餌を提示していくようになるんだよ」

憲機第873号 救世軍に関する件

 昨二十五日午後七時三十分京城西部夜珠峴救世軍々営に於て布教演説会を開きたり先つ大佐「ホツカード」は韓人李南柱を見習参尉に任する事を宣して後副官「ミルトン」は立ちて過般余は韓人参尉林文相と共に恩津及石城、大邱、馬山等に行き軍営を設立伝道に努めたるか入営者多数なりし又近来右大邱恩津等は地方民入営志願者多数なる通知頻々たるを以て来る日曜日参尉五名位の任命をなし大邱、恩津、馬山等に派遣する予定なり云々と述へたり
 次に閔雨植は目下吾韓国の情勢を見るに我国の権利及財権は皆日本人の手中に入れり現情の儘とせは我国権は其恢復を見る至難の事たるを以て将た来集せられたる同胞は互に誘導して本営に多数の入教者を勧告し一心団結して塗炭に苦しみつゝある人民を救援し因つて以て国権の恢復を期せられん事を希望す云々と演したり同夜該営に加入したる者十四人にして参会者男百九十七人女三十四人なりしと
以上                 明治四十二年四月二十六日


憲機第879号 救世軍に関する件(全羅北道泰仁分遣所長内報)

一.近来群山より来泰の韓人の風説に依れは目下同地方に於ては救世軍募集員来り救世軍応募加入者には月給二十八円を給し最初は帽子のみを給するも漸次に銃器幷に被服等をも支給し然して救世軍の任務としては日本軍隊憲兵警察間の暴徒と衝突の場合には現場に至り之れか仲裁をなすなりと云ひ頻りに加入者の募集に努めつゝありと
二.一般世事に通せさる韓人の中には諸種の風説をなし募集員の言を信し居る者もありと之か為め憲兵補助員には誤解なき様特に注意を与ひ置たり
以上                 明治四十二年四月二十七日


高秘発第101号 救世軍信徒募集状況追報

一.近来忠清南道論山地方には救世軍教徒等出入して巷説を流布せり
 日本は従来欧米各国の圧迫を受けたる反動として今や韓国を圧迫せんとす此圧迫を免かれんと欲する者は宜しく救世軍に加入すへし救世軍に加入せは日本(ママ)圧迫を免るゝのみならす多額の俸給を受くるに至るへし云々
 矇昧なる韓人は此謬説を妄信し漸次加入者増加の傾向ありしか本月十五日救世軍江景出張所少尉林文相及李奉圭同地に出張し各所に於て大要左の演説をなしたるより下流社会よりの応募者更に増加し既に百名の多きに達し尚続々増加の傾向あり
  吾救世軍の主たる目的は韓国に於ける外国人の圧迫を排除するに在り見よ方今韓国に於ける官吏の権利は事実に於て全く日人官吏の掌握する処となり韓人官吏は単に其名を存する而已にして何事にも干与し能はさる状態なり而も吾救世軍たる韓国人民は日人官吏の為めに審問監禁せらるゝ等のことなく吾軍中に於て相当処分を為すものなり
  救世軍に加入したる者には救世軍の機関銀行に於て資金を貸与し各自の希望する業務に就かしめ出張所には二十名の書記と五十名の兵士を置き何れも一ケ月十五円の俸給を給し人民保護の任に当らしむるを以て日人官吏の保護を受けさるは勿論絶対に其干渉を受けさるものなり云々
一.平安南道江東郡に於ては
 「救世軍司令官「ミルトン」は平壌西門内に支部を設置し李応善なる者をして其事務を執らしめ年齢十四歳より四十歳以下の男子を募集し応募者には辞令を交付し銃剣靴等を給与し又英米両国の寄附金を以て相当の俸給をも支給し以て信徒の勧誘をなさしめんとするの計画あり」との風説を流布する者あり為めに江東郡内に於て此謬説に迷はされ志願書を提出せんとする者少なからさる状況あり
右及報告候也
                   隆煕三年四月二十九日
                       内部警務局長 松井 茂
               副統監 子爵 曾禰 荒助 殿

写経屋の覚書-はやて「『高秘発第101号』やと『救世軍に加入したる者には救世軍の機関銀行に於て資金を貸与し各自の希望する業務に就かしめ出張所には二十名の書記と五十名の兵士を置き何れも一ケ月十五円の俸給を給し人民保護の任に当らしむるを以て日人官吏の保護を受けさるは勿論絶対に其干渉を受けさるものなり』ってはっきり言うとるなぁ」

写経屋の覚書-フェイト「でも『高秘発第101号』のミルトンの行動や『憲機第879号』だと風説って書いてるよね?」

写経屋の覚書-なのは「そうだね…でも、風説を否定するより、風説に乗っかるかたちで餌を提示するやり方に転換したのは事実だしね。今回はここまでにするね」

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