男と女 その十二 | ライター海江田の 『 シラフでは書けません。 』

男と女 その十二

予兆らしきものはなかった。

女が唐突に言い出したのだ。


「文鳥が好きなんです」


けっこう長い付き合いだが、まったく知らなかった。

これまで、ペットについて話したことはほとんどない。

そういうものに興味を持ったのが驚きだ。

大丈夫だろうか。

かなりの耐久性を誇るサボテンを枯らしたのはどこのどなたか。


後日、二羽の文鳥がやってきた。

名前はブンちゃんと、しーちゃんに決まった。

女はその愛らしさに夢中になった。

インターネットで知識を仕入れ、飼育本を積み上げた。

あっという間に、文鳥バカのいっちょ上がりだ。


先に文鳥にごはんを食べさせ、そのあと食卓を囲む。

「こないだJリーグのキックオフカンファレンスっちゅうのがあってな」

「そう。あらブンちゃん、寒いの?」

「久しぶりに坂田さんに会った。前のヴェルディ社長。ずっと前だけど」

「ホットカーペットつけなきゃ」

「平気やろ。今日あったかいし」

「で、キックオフなんちゃらがどうしたの?」

「だから、坂田さんがおってさ」


会話がかみ合わないにもほどがある。

通常ワンラリーで済む話が、大変まどろっこしい。


先週のサッカーダイジェストの記事を読んだ坂田さんが、崔会長に伝えてくれたそうだ。

「これはエールだよ。きれいさっぱり話したほうがいい」

伝わる人には伝わるのである。

そして、人は知らないうちに、誰かに助けられている。

そのことについて男は語りたかった。


しばらくは女に何を言っても右から左だ。

もうすぐ、Jリーグ開幕ですよ。






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