飛行機のファーストクラスで初めて空の旅をした時の事だ。
施設に預けられて一年もたたないうちに保護者が決まったのだ。
専門の施設でも、もてあました俺に付随する問題を許容、対処できる環境と能力を持ったところだと、迎えに来た男は手短に言った。
男は黒いシャツに黒いズボン、薄手のロングコートと目深にかぶられた帽子まで、全て黒ずくめで、まるで鴉のような男だった。墨のように黒くて無造作にのびた髪と無精ひげに、鋭すぎる切れ長の目も闇のように黒い。薄暗い路地裏で突然出くわしたならば、あの有名な『切り裂きジャック』を連想したかもしれない。
そんな男が小さな少年を連れている。俺はアメリカ人で彼は中国人だったから親子には見えないし、なによりも彼はとても子持ちのようには見えなかったから、VIPばかりが同席する客室内では異様に浮いた存在だった。
男は必要な事以外は全く口をきかず、俺に随行するだけで世話などする気は毛頭なかったらしく、機内で食事をする時も、眠る時も、通路向かいの見知らぬ老夫婦がいろいろと世話を焼いてくれた。
その度に男は彼らに意外なほど礼儀正しく礼を言った。
俺はきっと嫌われているのだろう。
彼は仕事でこうしているのであって、本当は俺の事を面倒だとでも思っているのだ。別にかまわないけど。
目的地に到着すれば、基準に見合ったような里親が待っている。わざわざ人を雇ってよこすような人ならば、きっと子供に恵まれない裕福な夫婦なのだろう。そいつらと親子ごっこをしてやればいいんだ。
しかし、本当にそうだろうか?
実の親ですら投げ出した俺の問題を許容する人々。
そして、この奇妙な男を使いに出した人々。
実に奇妙だ。早く気づくべきだったかもしれない。
現実離れした俺のまわりで、非現実的な世界が動き出そうとしていた。
To be continued…