3rd Story|VOL.06 沈む気持ち | wish横浜 Marriage Story

3rd Story|VOL.06 沈む気持ち

日曜日の有楽町は、思った以上に人で溢れている。

待ち合わせの15時より20分くらい早く着いたレミは、お茶をしようか迷ったが、ブラブラと歩いてみることにした。


この日のために、丸井で買った紺のワンピースにベージュのストールが、秋のこの街にピッタリ合うような気がして、ちょっと嬉しくなる。

そう、ブーツもそれに合わせて購入した。

焦げ茶の皮のロングブーツで、後ろのふくらはぎ部分に同じ革素材のリボンが女の子らしくて可愛い。

30過ぎて女の子らしい、というのもおかしいかもしれないが、それはレミにとって一番失いたくない感覚だ。


久々に、期待の高まるデートは気合いが入る。


ここを歩いているカップルたちも、私みたいにお見合いで出会った人がいるのだろうか。


そんなことを考えているうちに、待ち合わせ時間の3分前になった。


有楽町阪急前の時計台の下に行くと、すでに彼は待っていた。


前は、スーツだったけれど、今日は青いチェックのシャツにベージュのチノパンとカジュアルな格好をしている。


38歳という年齢よりも若く見えることに、何故か少し嬉しくなる。


いや、最初の印象が地味だったので、それよりも悪い方向に想像していたせいか、安心したのかもしれない。

「川村さん!」

呼びかけると、彼はハッとしたようにレミを見た。


「ああ! もう時間だったんですね」
「そうですよ、だってここで待ち合わせしてるんですよ」
「すいません、ボーッとしていて…」

(ああ、本当におっとりとした人なんだな)
と、レミは微笑ましく思った。

チケット売り場を見ると、長い行列ができている。


「チケットって…」


まさか、買っていないことはないだろう、と思い、レミは尋ねた。


「えっ、チケット? そうか。まだ買っていませんでした」


そのドンくささに、一瞬、不機嫌さが顔に出そうになる。

なんで、待っている間に並んでくれていないのかしら。

正直に言いたくなったが、今回はそれを抑えることにした。


「すみません、気付かなくて。一緒に並んでもらってもいいですか?」
「ハイ、もちろんです」

一生懸命に笑顔をつくる。

こういうことくらい許せなくちゃ、結婚なんて出来はしないのだ。

そう自分に言い聞かせ、列の最後尾に並んだ。

ギリギリで、前から3番目の右端に座ることができ、ホッとひと息つく。

しかし、彼は相変わらず話題をふろうとせずに、ロビーから持ってきた映画のチラシを見ている。


飲み物も買って来てくれないなんて、この人、本当に大丈夫だろうか…。


待ち合わせ前の高揚感がウソのように鎮まっていくのが、自分でもわかった。


それと同時に、場内の照明が落とされた。





~VOL.07 『Villonの妻』に続く~