2010-03-03 20:56:04

あるブログに触発されて

テーマ:ブログ

高等中学校の哲学教師、シモーヌ・ヴェーユ。彼女は1934年一年間の休暇を取り、パリのある電機会社で未熟練の工場労働者として働きはじめる。
 「他の多くの人がなんの権利も持っていないのだから、自分にもまたなんの権利もないのだと感じる感覚」を持って。
 彼女は失業者たちの受ける5フランの手当てと同額の生活をし、自分の給料の大半は職を持たぬ貧しい人々にあたえてしまった。
 彼女はその現場で、あることに気づく。労働者の悲惨は肉体的な苦痛や拘束ではなく、魂の蒙る屈辱に由来する、と。
「わたしは個人的には、工場で働いたことには、次のような意味があったと思っているの。それはこういう意味よ。つまり、わたしの自尊心とか、自重の思いとかの拠り所になっていたあらゆる外的な理由(以前、わたしはそれらを内的だと思っていた)が、二、三週間で、毎日の残忍な圧迫のもとでたちまち徹底的にくずされてしまったということなの。でもそのために、わたしの心の中に、反抗的な衝動が生じてきたと思わないでね。いいえ、それどころか、わたしは世の中で一番自分に何一つ期待していなかったのよー温順でありたかった。あきらめきった駄獣のように温順でありたかった。わたしは、待ち、ほどこしを受け、命令を実行するために生まれてきたような気がしていたのよ。ーわたしはこれまでただそれだけしかしてこなかったと思うし、これからもただそれだけしかしないと思うわ。こんなこと言っても、自慢しているのじゃないのよ。こういう種類の苦しみは、どんな労働者も話はしないわ。そのことを考えるだけでも、大変につらいことだものね。」
そして、
「苦役のなかでは思考は小さくかじかんでしまうわ。ちょうど、メスをあてられる間に肉体がちぢむように、思考もちぢんでしまうわ。人は〈意識を持つ〉ことができなくなるのよ。」「こういう生活の中で一番しりぞけにくい誘惑は、完全に思考を断念したくなる誘惑です。それが、苦しまないための唯一の手段であることを痛感するのです。」
 〈思考することができること〉、ことばを持つことは、確かに一つの救いであるにはちがいないが、一方でそれは〈恵まれた特権にある〉ということでもある。
 不条理な状況にある自分を痛感し、傷ついてしまうことから逃れるためには、思考することから逃亡すること、まずその苦しみをまるのみにしてしまうことが不可避に必要となってしまう。
 それが「温順であろうとすること」なのだろう。それは文字通り「おだやかで、すなおなこと」である。人間関係をよりスムーズにするためにも必要な徳であるのかもしれない。
 しかし、沈黙を課してしまう、この「温順であること」は、世界や自分を良い方向に変えはしない。だから、それは決して「幸せであること」を意味しない。その逆である。
 私たちは(少なくともこうしてパソコンを開くことができているかぎり)、たとえどんなに貧弱であろうとも〈思考すること〉、〈ことばを持つこと〉、が現にできている。〈恵まれた特権〉を少しは持っている。それを使わない手はない・・・・はずだが・・・。

いや、少し楽観的に言うと、特権を望まずに奪われた人間と特権を知らず知らず持ってしまった人間(詩人?)の間を迷いながら行ったり来たり往還することこそが求められているのかもしれない。詩人とはならない詩人!

 

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コメント

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4 ■Re:感謝

>金里博(キム リバク)さん
こちらこそ、パワーを与えられ、いつも「しっかりしろよ!」と言われている気持ちがします。
 「希な望み」だから、希望なのであり、だからこそ育てようとする継続的行動が大切だと、金里博さんから教えられます。また、河津さんや、河津さんを介して、こうして交換ができること、本当に嬉しい限りです。

3 ■感謝

  ヤドリギ金子さん、いつも激励と叱咤有難う御座います。勇気と希望と前進力と反省力を頂いています。
  今後とも宜しくお願いします。全16回の全ては猛暑でしたが「事故」も無く、軽い捻挫で終えました。私より伴走者の河津聖恵詩人が大変だったと思います。本当によくして頂きました。友人として出会った事の喜びを噛みしめています。ヤドリギ金子さんにも同じ喜びを感じています。

2 ■Re:こんにちは。

>norikoさん
 コメントありがとうございます。お久しぶりです。
今回の文は「詩空間」というブログ(訪ねて見て下さい。)の河津聖恵さんの言葉に触発され、9年前のノートを読み返しつつ書きました。
 それでは再会を期して。

1 ■こんにちは。

私はこの前、派遣先のおばさんのうわさ話や陰口がどうしても許せなくて、また仕事を辞めてしまいました。

シモーヌヴェーユさん?の言っていることがわかる気がします。
派遣営業の方は私に「話を聞くよ。愚痴ればいいよ。」と言ってくれたのに、最終的に行き着くのは「理不尽なことなんてたくさんあるから、考えるな。あなたは考えすぎだからDVDを見たりして思考を休ませるべき。」と言われました。

組織に入るってそういう事なのかと、私なんかは温順を目指しているのに、うまく適応できないクチです。

でもこれからそうなると思います。
私は、仕事をしながら思考を続けられる金子先生が本当にすごいと思います。

身を削りながらかもしれませんが。

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