エリックボンパール あとがき ソニア・ビアンケッティ | WFS JAPAN

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Trophée Eric Bompard 2013: Afterword
By Sonia Bianchetti Garbato


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11月15日~16日の日程でパリで開催された2013エリックボンパール。それは2014年ソチオリンピックへと繋がるGPS全6戦の内の5番目の大会でした。

オリンピックシーズンとは常に特別なものです。11月という時期はまだシーズン序盤で、表彰台を目指すスケーター達のコンディションがまだ最高の状態には達していないのも無理はない状況にあっても、この大会のエントリーリストはとても刺激的なものでした。

この大会には多くの、少なくとも名目上は、ソチオリンピックメダル候補者に加え、若く将来有望なスケーター達、中国杯で優勝した中国のハン・ヤンとロシアのアンナ・ポゴリラヤ、そして私達のスポーツの未来を照らすアメリカのジェイソン・ブラウンやロシアのアデリナ・ソトニコワらが出場しました。

ええ、期待は繋がっていますね。このイベントは大きな成功であり、そしてとても美しかった。ベルシースポーツアリーナはSPでもFSでも、熱狂的かつ協力的な人々で満たされていました。

最もエキサイティングだったのは男子シングルです。

3度の世界王者であるカナダのパトリック・チャンがSP、FS共に第1位。ビバルディの“四季”とアルカンジェロ・コレッリの“Concerto Grosso”を使用したFSで、彼は完璧で素晴らしいパフォーマンスを披露しました。近年私が見た中では最も素晴らしいパフォーマンスです。技術的に、彼は抜群です。プログラムを最高のクアドトゥ-トリプルトゥのコンビネーションから始め、続いてもう1つのクアドトゥ、そして他6つのトリプルジャンプやジャンプコンビネーションを決めました。そして上出来かつ魅力的なスピン。しかしそれよりも更に幻想的で息をのむ瞬間はステップシーケンスでした。そこでパトリックは観衆の心に触れ、最高の方法で音楽を表現し、彼の息遣いですら魅惑的だったのです。

パトリックは深いエッジと共に氷上を流れ、滑る喜びを私達に伝えました。彼の体、腕、頭、それら全ての動きが、まるでバレエの様にこの曲に感じるリズムと一致していたのです。情熱的で、そして最高の伝達者。それは彼が見せた魔法でした。

彼が受け取ったプログラムコンポーネンツは全て9.50から10の間。今回はその評価に完全に相応しいパフォーマンスでした!これこそが私が信じるトップレベルのフィギュアスケートの滑りなのです:芸術的な感動を生みだす、ということ。アリーナにいた全員がスタンディングオベーションの為に立ちあがったわ。ありがとう、パトリック。

日本の羽生結弦がSP、FS共に第2位で銀メダルを獲得しました。FSでは、プログラム冒頭のクアドサルコウをシングルとし、続くクアドトゥでは転倒してしまうというナーバスな始まりだったにもかかわらず、その後素晴らしい立ち直りを見せてくれました。私が受けた印象は、彼がまるでそれらを追い払うかのごとくに2つのクアドの実行を急いでいたということです。でも気にしないで、結弦。私達はあなたが事もなげにさらっとクアドを成功させることだってできることを良く解っているから。そしてその他の素晴らしいトリプルアクセル-トリプルトゥコンビネーションを含む6つのトリプルジャンプは完璧でした。

目に見える解りやすい奮闘がなくても、彼のジャンプは最高級のクオリティで、しっかりと始まりしっかりと着氷しています。そして彼のステップシーケンス、特に私の考えでは彼のコレオシーケンスは独創的かつ美しい動きで満たされおり、とても印象的でした。ニノ・ロータの気高き音楽“Romeo and Juliet”に乗せた滑りで、彼はスピードと技量、そして優雅さの比類なき組み合わせを見せてくれました。彼の滑りはとてもソフトで優雅、そして情熱で満ち溢れています。天賦の才とはこのことでしょう。

銅メダルはアメリカのジェイソン・ブラウンの元へ。彼は2013年世界ジュニア選手権大会の銀メダリストです。彼もまたSP、FS共に変動なく第3位。ブラウンのアイリッシュテーマのFS、ビル・ウィーランの“Reel Around the Sun”では、5つのトリプルジャンプと美しいスピン、そしてとても魅力的かつ独創的なコレオシーケンスがありました。トリプルアクセルをシングルとしてしまったミスにも関わらず、彼はジャンプ前の革新的な動きを含む、とても美しく魅力的なプログラムを見せてくれました。ジェイソンは輝かしい未来を持つ素晴らしい若き才能でしょう。

第4位には中国の17歳、ハン・ヤンが入りました。ヤンは先に行われた中国杯で優勝していますが、残念ながらパリでは最高の一日とは行かなかったようです。FSで彼は多くのミスから第6位でした。しかし彼のスケーティングはとても良いものです。彼にはとても柔らかな膝があり、彼がSPのトリプルアクセルで見せた高さと幅はただただ素晴らしいの一言です。疑いの余地なく、彼はもう一人の有望な若き才能であり、彼の未来には輝きが待っているでしょう。

アイスダンスもまたとても魅力的でした。

カナダのテッサ・バーチュー&スコット・モイアーが優勝。彼らのパフォーマンスは素晴らしいの一言に尽きます。グラズノーフの“Petit Adagio”と“Waltz in Concerto No.2”によるFDで、彼らは観衆の心を捕えました。そしてロシアの作曲家の曲を選択したことが、ソチでの観衆をも確かに暖めることでしょう。振付には複雑なステップと驚くべき革新的なリフト。とても優艶。

チャイコフスキーの“Swan Lake”による非常に情熱的で魅力的なFDによって、ロシアのエレーナ・イリニフ&ニキータ・カツァラポフが銀メダルを獲得。彼らもまた情熱的で、そして伝達者でした。

第3位にはフランスのナタリー・ペシャラ&ファビアン・ブルザ。彼らはとても煌くFD“Le Petit prince et sa rose”を披露しました。彼らはリフトでタイムオーバーをしてしまい、1ポイントのディダクションを受けてしまいました。ペシャラ&ブルザのプログラムは長年革新的なものとして知られてきていますが、今シーズンのFDもまた例外ではありません。本当に楽しくて魅力的でした。

ペアでは、中国のクィン・パン&ジャン・トンが金メダル。レ・ミゼラブルからの“I Dreamed a Dream”によるFSでは、彼らのベストの滑りとは言えなかったでしょう。プログラム冒頭では非常に重大なミスをしてしまいました。オープニングのジャンプシーケンスでジャンがアクセルジャンプをシングルとし、その後のトリプルトゥの着氷でもミス、そしてクィンはスロウトリプルサルコウのランディングでミスをしてしまった(※訳者追記:本文では名前が逆になっていた為修正しました)しかし彼らは素晴らしいトリプルツイストと息をのむスロウトリプルループ、そして独創的なリフトとステップを披露しました。それでもオリンピックまでにもう少しプログラムの磨き上げが必要でしょう。

カナダのミーガン・デュハメル&エリック・ラドフォードが第2位。“Alice in Wonderland”によるパフォーマンスで、彼らは良いトリプルツイスト、リフト、スロウトリプルジャンプ、そしてサイドバイサイドトリプルルッツを含む面白いプログラムを見せてくれました。彼らのプログラムは見ていて楽しくて、そして快適ね。

アメリカのケイディ・デニー&ジョン・コウフリンが第3位。アンドリュー・ロイド・ウエバーの“Phantom of the Opera”にのせて、彼らは美しいスロウトリプルジャンプ、高さのあるトリプルツイスト、サイドバイサイド ダブルアクセル-ダブルトゥ-ダブルトゥシーケンス、素晴らしいデススパイラル、美しく難度の高いリフトとスピンなどが含まれた、熱のこもった完璧なパフォーマンスを披露しました。このペアは本当に良かったわ。

女子シングルでは、アメリカのアシュリー・ワグナーがFSでは第2位だったものの、トータルは優勝。セルゲイ・プロコフィエフの“Romeo and Juliet”によるパフォーマンスで、彼女はスピンやステップでは上出来だったもののジャンプコンボで若干のミスをしてしまった。個人的には、彼女の振付と解釈にはそれほど感動はしませんでした。多分、オリンピックまでの数カ月で改善の必要があるでしょう。

ヨーロッパ選手権銀メダリストのロシアのアデリナ・ソトニコワが第2位。SP終了時点で彼女は第3位だったのですが、FSでは第1位となりました。カミーユ・サン=サーンスの“Introduction and Rondo Capriccioso”で、アデリナはダブルアクセル-トリプルトゥコンボを含む7つのトリプルジャンプと素晴らしいスピンを含むクリーンなプログラムを披露しました。彼女は氷上で素晴らしい滑りと動きを見せ、彼女もまた確かに有望な若い才能でしょう。

第3位に入ったのは、先の中国杯優勝者であるロシアのもう一人の若きスケーター、アンナ・ポゴリラヤ、15歳。パイレーツ オブ カリビアンからの“Mermaids”を、彼女は最高のトリプルルッツ-トリプルトゥから始め、続いてトリプルループ-ハーフループ-トリプルサルコウのコンビネーション、そして他3つのトリプルジャンプを決め、3つのスピンではレベル4を得ました。

ポゴリラヤは、高さ、幅とも申し分ないジャンプを軽々と跳びます。彼女のSP、FSとも非常に良い振付で、その年齢の若さにも関わらず、私は特に彼女のエレガンス、氷上での彼女の動き、曲の感じ方と表現の仕方に感銘を受けました。見ていてとても嬉しいスケーターね。

アメリカのサマンサ・セザリオが第4位。ビゼーとシチェドリーンの“Carmen”で、彼女はクリーンでエレガントなプログラムを見せてくれた。嬉しかったわ。全てのジャンプがとても良く成され、スピンやステップシーケンスもまたとても美しく独創的だった。彼女の柔らかで上手い腕の使い方は素晴らしいわね。

感動的だったのはメダルセレモニーです。フランス連盟はJacqueline Vaudcrane、多くの世界チャンピオンとヨーロッパチャンピオンを育て上げた伝説的なフランスのコーチの生誕100年に敬意を表したのです。その場に彼女はいませんでしたが、彼女が指導した何人かの有名スケーターたち、ジャクリーヌ・デュ・ビエフ、アラン・カルマ、そしてパトリック・ペラなどが出席し、メダルプレゼンターを務めました。

彼らチャンピオンを見るのは私にとって感慨深いものなのです。私の長年のスケート人生において、彼らのジャッジを務めたこと、レフリーとして関われたことは喜びとともに名誉なことでしたから。