“鉄の女”の異名を持ち、イギリス初の女性首相としてその名を轟かせていると言って過言ではないサッチャー元首相の半生を描いた映画。メリル・ストリープがアカデミー主演女優賞を獲った事でも話題になった作品である。

ストーリーは一見普通のお年寄りがスーパーで買い物をしているシーンから始まる。その女性がサッチャー元首相で、彼女が既に亡くなった夫が側にいるかのように振舞う事が明かされ、現在と過去の様子が交互に展開していく。

過去と現在を交互に見せる展開と言い、歴史上、名の知られた偉人伝風なストーリー性と言い、少し前に観た『J.エドガー』と被るな~という印象を受けた。それでも、まだ女性の社会進出が受け入れられる前の時代に、国家元首にまで上り詰めたバイタリティと信念の強さはフーバー長官の姿も霞むような輝かしさに満ちている。

ただ、不満点をあげるとしたら、現在のアルツハイマーと闘う姿の比重を減らして、女性議員として性差別に苦しむシーンや党首になるための政治的駆け引きをもう少し時間をかけて描いて欲しかったなという点。リアルでニュース等に接した事のある世代だからこそ、実際にニュースで目にしていた世界情勢の舞台裏で起きていた事柄に言及して欲しかったなと思ったり。

サッチャー当人にアルツハイマーの治療である事を隠して受けさせた医師の診察シーンの会話は秀逸。今どのように感じているか、との医師の問いに感じる事を重視する現代の風潮に強烈に批判する時の言葉。

人は考えることこそが重要である。考えることがその人の行動に現れ、行動が習慣を作り、習慣が人格をつくる。そして人格が運命をつくる。

セリフは正確では無い可能性大だけれども、妥協点を模索する政治家を批判し、自ら“痛みを伴う改革”の矢面に立つ事を辞さなかった人物の言葉は重い。「運命は自分で切り開く」的なセリフは様々な物語で語られて来たものではあるけれど、自らの運命を決める上で国家レベルの問題まで考える事ができるのは稀有な存在と言っても間違いでは無いと思う。

誇りを持つ大英帝国の復活の象徴であるかのような力強さを持った元首相の弱弱しい年を取った姿に哀れみを感じるか、それとも年老いてなお元首相としての片鱗を見せる彼女の姿に力をもらうか。人によって受け取るものは様々だと思われるが、じっくり考えさせられるという意味での見応えは本当に十分。

この映画の公開に合わせてニューズウィーク誌に掲載されたサッチャー元首相の特集記事では、ユーロ導入に強固に反対したサッチャーの予見通りの危機にギリシャ始めユーロ圏が陥っている時期に公開が重なった事を皮肉めいて書いている。日本も直面している経済危機の時期に、一人一人がどうあるべきか、何を考えるべきか。今まさに観て考えるべき作品になっていると思う。

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人種差別が色濃く残るアメリカ南部ミシシッピのとある町。大学を卒業し故郷に戻って来たスキーターは地元の新聞社で家事のコラムを担当するライターの仕事を手にする。具体的な家事のコツをリサーチするために友人宅のメイドをしているエイビリーンにアドバイスを求めるうちに、自分の周囲の人々の黒人メイドの扱いに疑問を抱くようになり…。

ストーリーは人種差別を“人種分離”と言い方を変えただけの南部社会の矛盾を突く内容となっている。ミニーの雇い主であるヒリーは黒人だけでなく白人だけれども下層階級出身で、ヒリーの元彼と結婚したシーリアも仲間うちに入れないよう画策。自分ルールがまかり通る小さな地域社会で傍若無人に振舞っている。

やがてヒリーを筆頭に、家事や育児は任せきりなのにトイレの共有も許さない彼女達の“当たり前”に業を煮やしたメイド達は、仕事を失う事への恐怖心から閉ざしていた口を開き、スキーターの『メイド達の現状を世に知らしめる』取材に応じ始める。

ストーリーが良くできているのは、スキーターを始め、白人の中にもメイド達を自分達の仲間として大切にする人物もいれば、メイド達も『白人とはこういうものだ』という固定概念に囚われて疑心暗鬼になっている部分があることを丁寧に描いていること。そして、黒人メイド達が過剰なまでに自分を守る事に徹している理由の描き方も分かりやすい。

黒人への差別が残る時代の出来事だと他人事のようにこの映画を見る事は可能だけれど、この映画に登場する人々の、差別を差別と思わない行為は、狭い世界の中の価値観だけしか見ていない事が起因していて、言わば現代の小学校で起きているイジメに似た印象を受ける。差別している人々も、それぞれの世界での立場を守る事に必死で、生まれ育った環境や風習を疑問に思う思考的な余裕が無い。

メイド達の抵抗もシュールである。ミニーのパイのエピソードを始め、スキーターの取材に対する受け答え、キッチンでの仲間内でのやりとり、笑っていられない棘が潜んでいる。

厳しい言い方をすれば、ヒロインのスキーターもライターとしての地位を確立するために社会的弱者であるメイド達を利用したと言えなくもない。ただ、エイビリーンをママと呼ぶ、エイビリーンが子守をしているお嬢様と、大学から戻った実家に居なくなっていた乳母のコンスタンティンがどうなったか家族に問い質すスキーターの姿が重なる。現在進行形でメイド達を取り巻く環境と、過去または未来にこうなのではないかと連想させる人間関係がまた良い味を出している。

笑って泣けるエピソードが本当にこれでもかとばかりに散りばめられていて、アカデミー賞を受賞した女優さんだけでなく、監督やスタッフ、作品に関わった全ての人々を心から賞賛したい。

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