THE VOW

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最愛の恋人と死に別れるに並んで恋愛物の王道設定は恋人の記憶喪失だろう。パッと思い当たるのは「冬のソナタ」ぐらいだけれど、その手の設定を見る度にまたか、と思ってしまう。

そもそもサスペンスやミステリー好きが恋愛物を観てもあまり当たりだと思う事は無いのだけれど、一年半ぶりに当たった試写会は『THE VOW』という恋愛映画。これを逃したら今年も試写会と縁が無いかもと観に行って来た。

物語冒頭で仲の良いレオ、ペイジの主人公夫婦の車にトラックが激突。フロントガラスを突き破り、頭部に重症を負った妻は、意識を取り戻した際に過去4年の記憶を失っていて…。

どこかで聞いたような設定、予想を裏切らない展開。何度観ても運命の恋人達の物語が好き!という人には良くても、そうでない人にはありきたりの一言に尽きる。

『恋とニュースの作り方』では仕事命で何事にも熱心な好印象な女性を演じていたレイチェル・マクアダムスが演じる役ペイジは、記憶を無くすと途端に甘やかされた鼻持ちならない金持ち令嬢に成り下がり、いくら「記憶が無くて不安」と本人が主張しても1ミリも同情できない女の子になってしまっており、これが個人的には映画の出来として致命的。それに、記憶を無くす前にペイジと絶縁状態だった家族が、家を出た理由を記憶と共に忘れた娘をこれ幸いとばかりに囲い込むのも鼻白む。

『親愛なる君へ』に引き続き恋愛映画で観ることになった、レオを演じるチャニング・テイタムは一途な感じが良いけれど、肝心な思われる女性側が魅力的に思えないのでせっかくの一途な行動も感動が半減どころか八割減。もう少し、夫婦の記憶を取り戻したいけれど再会した家族との絆も壊したく無い葛藤が観られればまだマシだったけれど、ラストに近づくに連れて「旦那にもっと良い出会いの機会を与えて終わらせて」と思う始末。主役の2人を演じる俳優達は好きなだけにガッカリ倍増。

実話に基づくストーリーと冒頭・結末で2度もアピールしている割に感動度合いは少ないという感想一言に終わった。ただで観た映画を酷評して申し訳ないと思いつつ、少女漫画的な運命の恋人ストーリーならなんでも許せるという人以外にはオススメできない。

蛇足だけれど、試写会で携帯を封筒に封印して会場持ち込み、荷物チェックに金属探知までされたのにはビックリした。おかげで上映時間が遅れてそれもマイナスポイントだったのではあるが…。
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永遠の僕たち

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恋人が死を宣告された後のカップルを描く物語が感動的な物にならないはずがない。ただ、いかにも“ここが泣ける山場”という作り手の意気込みが伝わってくると逆に観る側としては冷めてしまう。そういう訳でここ数年に多かった恋人死ぬ系映画からは遠ざかっていたのだけれど、今回観たのはまさに余命数ヶ月の恋人達の姿を描く『永遠の僕たち』。

物語は主人公イーノックがある少年の葬儀で参列していた美少女アナベルに微笑みかけられるシーンから展開。赤の他人の葬儀に参列し続けるイーノックはあまりにも頻繁に顔を見かけると葬儀社の社員に見咎められたところをアナベルに助けられたのをきっかけに、急速に彼女と親しくなっていく。

物語の比較的早い段階でアナベルが余命短い事が明かされるのに関わらず、作品に湿っぽい雰囲気は無い。自ら臨死体験をした主人公は、思いもかけない別れとじわじわと近づいて来る別れ、大人でも耐えられないような経験を立て続けにすることになる。突然の思いがけない別れと三ヶ月の準備期間のある別れ。どちらがより辛いものか、決して結論の出ない問いだと思う。けれど「3ヶ月あれば何でもできる」という言葉の通り、初々しさの残る彼等は作中のほとんどの時間、輝いて見える。

イーノックが他人の葬儀に参列し続けるようになった過程はストーリーが進むに連れて徐々に明かされていくけれど、実際に何を求めて足を運んでいたのか明確な答えは明かされない。むしろ、彼は何を目的に葬儀に赴くのか自分でもはっきりと認識していないように思える。けれど、多感な時期に過酷な経験をした若干17,8の少年が何をしたいかしっかりと認識していなくて当然なのでは、そんな気にさせられる。

物語の中で重要な役どころである幽霊・ヒロシは太平洋戦争で特攻隊として戦死した日本兵で、この役も良い味を出している。過去に歴史の授業で教師が特攻隊員の多くは天皇陛下万歳ではなくお母さんと叫んで亡くなったと言っていた事があった。ヒロシの手紙は若干その説とは異なるけれど、戦死、病死共に、死を覚悟した時に人は何をできるか、考えさせられるシーンが多い。

余命を宣告され、限りある時を過ごすアナベルが、ボーイフレンドが大勢いた姉を羨ましかったと語るシーンがある。過去形で姉を羨む彼女が、今は姉を羨んでいるだけでは無いと思わせる見せ方が何とも言えない趣を醸し出す。余命3ヶ月の割にアナベルは元気すぎるのではなど、ツッコミたくなる設定もあることはあるけれど、若くして不治の病に冒され、可哀想な存在になりかねない彼女をむしろ観ている者に羨ましいとさえ思わせるストーリー展開はただただ素晴らしいの一言に尽きる。

ストーリーが似ている訳では無いけれど、この映画を観て無性に梨木香歩さんの『西の魔女が死んだ』を読みたくなった。

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善き人

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『アンネの日記』『シンドラーのリスト』『ライフ・イズ・ビューティフル』など、第二次世界大戦、ナチスドイツによるユダヤ人迫害について描かれた映画や物語は数多く存在する。それらのストーリーは過酷な環境を生き抜くユダヤ人の姿か、ナチスの手をかいくぐってユダヤ人を救おうとする人々を描いたものが多いと思う。


映画『善き人』はナチスによるユダヤ人迫害が徐々に強くなる時代に生きたドイツ人を主人公に描かれた物語である。大学教授ジョン・ハルダーは病気を抱える母親の介護と、介護による疲労から家事放棄に近い妻を支え孤軍奮闘する毎日を過ごしている。義父からナチス入党しなければ大学での昇進も見込めないと説得されても気が進まず、かわしていたにも関わらず、彼が書いた著書がナチス上層部に注目される事で人生が一変してしまう。


ナチスのやり方に不満があっても守らなくてはならない生活があるためあからさまに批判ができない。党員として時流の流れに乗り、実生活の中での受ける役得には変えられず、多少自分の主義主張と合わなくても目をつぶろうという気になってしまう。映画や小説だとどうしてもナチス政権下でユダヤ人のために奔走した人々の活躍に目が向きがちだけれども、実際にはこのような悩み苦しみながらも多勢に飲まれてしまう人々が多かったのでは無いか。現実と向き合う苦しさが所作のひとつひとつににじみ出るヴィゴ・モーテンセンの演技はさすがの一言に尽きて。


義母の介護に疲れ現実逃避しピアノに没頭するハルダーの妻はハルダーに浮気されても仕方ないと思えるし、かと言って浮気相手と再婚し、妻を裏切るハルダーの行為も正当化できない。再婚した妻アンがハルダーの為を考えた上で行っただろう行為も、今現在の世の中であれば人道的に問題があると容易に批判できるけれど、自分がいざ同じ状況下で選択する立場に立たされた場合に彼女とは違う行動をできるとは断言できない。


見所は観る人によって様々だろうし、考えさせられるシーンも多々あるけれど、一番印象に残ったのはハルダーの友人であるユダヤ人モーリスがハルダーに国外脱出を勧められた際に口にする台詞。「俺はドイツのために過去に戦った。どうして逃げなければならないのか。」第一次大戦下で母国の為に兵役に就いた人物が、次の大戦へ向かう時代の中で国民としての権利すら認められなくなる。彼らの無念さがこれ以上無い程伝わってきて、ユダヤ人が強制収容所に追いやられるシーン以上に個人的にはやりきれなさを感じさせられた一幕だった。


党員としての生き方を選ばざるを得なかったハルダーは、大戦終結後どのような運命を迎えたのか。物語中でハルダーが一所懸命になって探していたモーリスは実際には生きていたのか。物語は結末を語りはしない。ただ、苦悩しながら異常な状況下を生きる人々の姿がひたすら問いかけてくる。自分が同じ状況下に置かれた場合、何を選択するのかを。


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リアル・スティール

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格闘用ロボットを連れて巡業の旅?に出ているチャーリーの元に、10年以上前に付き合っていた恋人の死の知らせが届く。彼女との間に生まれた子供の養育権についての話し合いの場に出たチャーリーは義理の妹の夫が資産家であることに気付き、格闘用ロボット獲得資金を得るために一芝居打って出る。

去年の観客満足度No1という映画『リアル・スティール』はどこかで聞いたようなネタ満載である。十数年顔を合わせなかった父親と息子が絆を深めていく過程。周囲に借金を繰り返し、計画性も無く格闘用ロボットに際限なく金銭を継ぎ込む、かつての名ボクサーが過去の経験を元にリアル・スティールというロボットを使った格闘の世界でのし上がって行くサクセスストーリー。そして、この手の映画は子役が良ければ成功はほぼ9割決まったようなもので、この映画のマックス役の子役は文句なしにハマリ役。

マックスは十数年顔を合わせなかった父親と出会った瞬間に父親が自分の親権を叔母夫妻に取引で売ったことを見抜き「僕をいくらで売ったの?」と問い詰める一方、自分を取引に手に入れたお金で購入したロボットを見て目を輝かせる。父親が大人になりきれていないなら、子供は妙に大人びているのに子供らしいあどけなさも垣間見せる。父親が大人に成長し、息子が本来あるべき子供らしさを取り戻していく、と一言で片付けるには語弊があるけれど、「やっぱり親子だな~」と実感させられる、ひとつの対象に親子揃って熱中していく様はとても心温まるもので。

使い古されたネタかも知れないけれど、良いものは何度焼きなおしても良い作品になる。父親役のヒュー・ジャックマンも、天才子役と絶賛されているマックス役のダコタ・ゴヨも演技は揃って文句なしに素晴らしい。予定調和的なラストだろうと先の展開が読めようと、この映画は本当に配役が大成功な時点で絶賛されるべき作品に仕上がっていると思う。

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