神様のカルテ

長野県松本市の病院を舞台に繰り広げられる人間ドラマ。話題作『神様のカルテ』を一言でまとめてしまうとそんな簡潔な文章になってしまう。


内科医“一止”によって、彼が勤務する病院、居住する元旅館のアパートの人間模様が古めかしい言葉で語られていく。夏目漱石の『草枕』をバイブルとする主人公の語り口調は、彼の周囲の人物のあだ名すら『坊ちゃん』を彷彿させるもので、小気味が利いている。


ただ、この語り口を面白いと好意的に取る人とそうでは無い人で好みが分かれる部分だとは思うけれど、ひねくれ者の自分としての受け取り方は後者。漱石のような古典(夏目漱石は古典扱いでも問題無い気が)を連想させる文体の物語は本作に限らず実在するのは確かだけれども、この作品に関しては文体が上滑りしている感が否めなかった。


あとがきで『守り人』シリーズの上橋菜穂子さんが言っているように、読後「ほっこり心が温まる」作品であることは確かだ。患者を巡るエピソードは涙を誘うストーリーも多々あり、良い話に出会えたな、と思えることは必至。


ただ、この作品が“心温まる”ものであることは、読者自身が医者や看護師は患者のためを第一に思ってひたすら医療に従事する者だけでは無いことを、患者は看病してくれる医者や看護師に感謝できる者だけでは無いことを、むしろ真逆の自分本位な人間が多いことを知っているということが前提になっているように思われた。


一人の人間でも良い面、悪い面を併せ持ち、物語の中では登場人物達が不条理さを感じつつ清濁併せ呑むような展開があってこそ大きな感動を生むのでは無いかというのが持論。『神様のカルテ』は“清”の部分のみを拾っているので心地良さはあるけれど、良いところしか拾っていない、よくも悪くもぬるい温かさになっている。


作品としては感動的なストーリーであると思う。それは日常生活の中で、通りすがりに見知らぬ人達の人間味溢れる行動に偶然出会って小さく感動する、決して大きくは無い、静かなものなのだと思った。


神様のカルテ (小学館文庫)/夏川 草介
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