マイ・ブラザー

テーマ:

三つ子の魂百まで、と言う。


3歳で決められるとまで言われる人間性が全く変わってしまうほどの体験とはどのようなものなのだろうか。
マイ・ブラザーは、そんな人の人格を揺るがすような経験をした、当人と家族を巡る物語である。


ストーリーは海兵隊としてアフガニスタンへの着任を1週間以内に控えたサムが刑期を終えた弟を迎えに行くシーンから展開。銀行強盗を犯し服役していた弟・トミーと父親と同じ軍隊の道を選んだ兄・サムは一見性格が全く異なると思われがちだが仲の良い兄弟。やがて、弟の出所と同じタイミングで出兵して行った兄の訃報が家族の元に届く。


演技派として名を馳せるトビー・マグワイア、ジェイク・ギレンホール、ナタリー・ポートマンそれぞれが静かに演じる葛藤や狂気、苦しみは見事。けれどそんな三人が霞む程の熱演を見せてくれるのがサムの長女イザベルを演じるベイリー・マディソン。父親の出兵を前に拗ねて見せる様子も、妹の誕生日の時に「私の誕生日にはパパはいなかった」と言い切るシーンも大人顔負けの演技力。


今年は『ハート・ロッカー』に続き2本目の戦争ネタ映画だけれど「戦争は麻薬だ」で始まる『ハート・ロッカー』に比べてこちらの方が女性向き。戦地からの帰還後、家庭に馴染めず葛藤する様子は『マイ・ブラザー』『ハート・ロッカー』共通のテーマだけれど、サムの苦しむ背景や、それを理解しようと必死になって手を延ばすグレースの様子はすれ違ってしまうだけ切なくて。


パンフレットの中で書かれている監督の言葉「時として生は死よりも辛い」という言葉が映画の全編を通して苦しい程切実に描かれている。実の娘からあのような言葉を投げつけられたら父親はどのように感じるだろうか。夫の死の悲しみからようやく抜け出そうとしていた最中に、その死んだと思っていた夫が帰還した時、妻の気持ちにどのような思いが去来するのか。そして、兄の帰還を喜びつつ、ようやく見つけたと思った自分の居場所を失ってしまう寂しさを感じる事に罪悪感を感じるのはどのような気持ちなのか。


誰一人、法律に触れるような悪事を働いている訳では無い。なのに、全ての登場人物が自らの中に罪の意識を感じている。セリフは無く表情で語る登場人物一人一人の言葉がスクリーンを通してひしひしと伝わってくる、重いけれど見応えのある一作だと思った。

公式サイトはこちら

AD