浮世でランチ

25歳OLである主人公がお昼を食べる場所、それは公園。会社で幾つかのグループに分かれ昼食を取りながら交わす会話がくらだらく思えて、それから一人公園でお昼を食べる毎日。そんな毎日もあと1ヶ月で終わりを告げる。なぜなら、彼女はあと1ヶ月で会社を辞め、アジアを旅する予定だから…。


主人公の現在と中学時代の物語が交互に紡ぎだされる『浮世でランチ』は前作『人のセックスを笑うな』に比べ、主人公がOLということもあり、物語の中にすんなり入っていくことができました。主人公が会社を辞める前に自分の立ち居地を振り返った下記文章は、多くの人が感じた事のある事なのでは無いでしょうか。


仕事が、やってもやっても、終わらないのだ。ルーティンワークだけで、深夜になっていく。時間が、指の間からダラダラとこぼれていく。私の時間は、ゴミのようだ。(中略)

長時間労働が自分の成長に繋がるということはなかった。雑務をこなすのが大事だってことは、わかっていたし、周りの人たちはいい人ばかりだったし、嫌なことがあったわけではない。ただ、この先何年もこれでいいのか、ずっと不安だった。(p43~44抜粋)


人と上手く付き合えなかった中学時代、そんな中で卒業後10年以上経っても色鮮やかに蘇る友人たちと過ごした一時。成長しているようで、基本的な性格は変わっていない主人公が微笑ましく、そんな彼女に痛みも感じる。


会社を辞めたことで手に入れたもの、手放したもの。旅を通じて手に入れたもの。手に入れることができなかったもの。転職や旅を通じて何がどう変わったと大きな変化は無いけれど、こんな時間を私も持ちたい。読後そんな気分にさせられました。




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子供の頃、熱を出すと必ずビルの5階くらいの背の高さの巨人においかけられる夢を見た。決して後ろを振り返ることなく、必死で走っていたのに、なぜ追いかけてくる相手の背の高さが分かったかは不明だけれど。必死で逃げて、高い所に逃れようとするけれど身体が重くて上れなくて恐ろしくて目が覚める。目を覚ますと、必ず枕元に心配そうにしている母親の姿があって、自分の額に置かれたその手の冷たさに底知れぬ安堵を覚えたのを鮮明に記憶している。

熱に浮かされて見る夢の中の世界のような、そんな物語という印象を受けたのが梨木香歩著『この庭に-黒いミンクの物語』。主人公はアル中なのか?と疑われるような酒浸りの人物で、男性なのか女性なのかはっきりと明記されていないように思われる(私は最後まで女性だと思っていたけれど)。半アル中の主人公の家を覗きにくる少女。彼女がその家に訪れる理由は『黒いミンクを探しているから』。


黒いミンク、頭の無いサーディン、積雪に閉ざされ隔離された家。全てが何かを象徴しているようで、物語中で明確な答えが出ていない。その曖昧さが心地良く、一方で読後奇妙な疑問も残る。庭にミンクを探しに来る少女は梨木さんの『裏庭』に登場する“おかっぱ頭の女の子”にも通じるものがあるような印象も受けましたが、最後にちらりと顔を出す登場人物から考えると、この本は『りかさん』『からくり からくさ』『ミケルの庭』に通じる一連の物語。


梨木香歩さんは「好きな作家」を聞かれて必ず挙げる作家さんで、その著書の中でも『からくり からくさ』は一番好きな作品なので、続編と聞いて期待していた分、ちょっと肩透かしをくらった気も。でも、本の中に散りばめられているイラストはとても素敵だし、上記黒いミンク等が何を象徴するか思いを巡らせるのも楽しいです。


『この庭に』はまだ検索表示されないので、前作『ミケルの庭』を収録している『りかさん』の文庫をご紹介。

りかさん/梨木 香歩
¥500
Amazon.co.jp

2/21追記:『この庭に』も検索できるようになっていたので追加します。



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上司に『ロジカル・シンキング』の本を読むように言われて今読んでいます。
一方で小説も読んでいる状態。ビジネス書読むの疲れるんだもん…。

電車の中吊広告で書評を見掛け、読んだのがこの本『SevenPowers』。『GoodLuck』にも通じる、“目標を達成するのに必要なこと”を中世の騎士の旅を通じて描いています。


『GoodLuck』が“魔法のクローバー”を手に入れるという、分かりやすい目標だったのに対し、今度の目標は“生死も分からない、かつて攫われた王子を探し、同じ日に奪われた剣を取り戻す”というものなので、主人公が迷ったり葛藤したりする。目の前に障害が立ちはだかると言うよりむしろ、自分自身との戦いに苦労する。迷い、疑い、葛藤する様子が、実生活での経験と『GoodLusk』以上に密接にリンクしているな、という印象を受けました。


今、大きなプロジェクトに挑戦しようとしている中で、本来読まなければいけない本を読むのを少し休んででも、寄り道して読んでみて良かったな、と思える一冊です。1時間もあれば読める長さの作品なので、仕事とかが暗礁に乗り上げて疲れている方にオススメ。


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