先日、何気なくテレビのチャンネルをいじっていた時のことだ。
仕事仲間を連れてよく食べ歩くという、食い道楽で評判のタレントが
「だっておいしいもの食べてる時に他人の悪口言う人いないからね」と
あるバラエティ番組のなかでそのわけを明かしていた。
おいしいものは人の気持ちをまぁるくする、
人間関係の潤滑油でもあるというわけか。
なるほど、言われてみればたしかにそうだと思わず納得してしまった。
そういえばおいしいものの話もそうである。
「会社の近くにおいしいカフェできたよ」だとか、
「お友だちからめずらしい果物を戴いたんだけれどね…」だとか。
おいしい話題に花を咲かせている時は、
気がつけばいつも自分も相手も笑顔になっている。
なんとなく優しくてしあわせな気持ち。
これはきっとおいしいものの魔法に違いない。


この本、大橋歩さんの「おいしいパンノート」もそんな本だと思う。
大橋さんが企画編集を手がけられている雑誌「Arne」の別冊として出された
この本は、パンが大好きだという大橋さんが普段着のおいしいパン生活を
たくさんのおいしそうな写真とともに紹介なさっている。
もちろん料理研究家でいらっしゃるわけでもなく
(著名なイラストレーター、エッセイストでいらっしゃるので)、
また何時間もかけておいしいパンを求めに行かれるような愛好家でもない。
あくまで日常生活の目線から始まって、
ご自分のお気に入りのパンや食べ方、また気になるパン屋さんと
その厨房の様子などを好奇心たっぷりに取材していらっしゃるのだ。
おいしいものを教えたい。共感したい。
そんな気持ちがページに溢れていて、これは読んでいて楽しい。
私のように(そして大橋さんもまた書いていらっしゃるように)、
毎日のことだから、身近なところで納得できるおいしいものを
なるべく無理なく取り入れたいと思うのにはちょうどよい加減の本だ。

ところで、おいしそうなパンの写真とあたたかみのある大橋さんの文章を
拝見するうち、私も近くへ行ったらぜひ寄ってみたいお店を何軒かと、
家でもまねてみたい食べ方をいくつか見つけたのだが…
う~ん、明日のパンはどうしようかなぁ…なんて、
おいしいものを想像すると、やっぱりちょっとにんまりしてしまうのである。


おいしいパンノート

「おいしいパンノート」(イオグラフィック)

 ↑イオグラフィックHPの紹介から


イオグラフィックHP
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離婚を経験されて、
13歳を筆頭に3人の男の子の保護者になられたまついさん。
この最新刊は、子どもたちとの生活を
毎日のごはんのことを中心に書かれたものだ。

「子どもと暮らすことは、子どもに食べさせること」
育てることの基本は食べさせることと、まついさんは言う。
しかしながら、女手ひとつで働きながら
子どもたちの食事の世話をすることは決してきれいごとじゃ乗り切れない。
あれこれと工夫を凝らして楽しんで、ときにはほどほどの手抜きもし、
ダウンしては日々成長する子どもたちの存在に助けられ…
失敗もあり、葛藤もあり、の飾らない日常生活の様子は、
まるで近所のお台所をのぞかせてもらうような感じで親しみやすい。
なるほどなるほどと頷いてみたり、それでいいのかぁってホッとしてみたり。
そしてなにより、どんな時も逃げないし諦めない、
まついさんのバイタリティに元気をいっぱいもらえる本だ。


何もかも完璧じゃなくってもいい。
子どもを食べさせることで自分も成長して、
そんな頑張っているお母さんの姿からもやっぱり子どもは学んでゆくんだなぁ…
ということをじんわり感じながら、あったかくって最後はちょっと泣いてしまった。

私には子どもがいないけれど、いつか持つことがあれば
まついさんの本をもう一度読み返してみたいと思う。
何度行き詰まってもまた、
「よし!まだまだ頑張れるぞ!」って希望を持てるような気がする。

まつい なつき
まついさんちの子どもめし

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先日「オリーブオイルと玄米のおいしい暮らし」を拝見し、
ひとり暮らし10年にして初めて蒸し器なるものを購入してしまった。
文中で紹介されるスチームフードがあまりに魅力的だったためで
われながら単純で恥ずかしいようだが、彼女のライフスタイルに
多くの女性が憧れ、少しでも近づきたいと思うのが頷ける気がする。

今回拝見した本は「イタリア田舎生活の愉しみ」
これはもう7年も前に出版されたものだが、
有元さんの生活の大きな部分を占めているイタリア、ウンブリア州との
出会いと、そこでの生活が愛着をもって綴られている。
自分たちの暮らす風土と大地の恵みに誇りを持ち、
共に暮らす人々とその生活を何よりも重んじて生きる。
そんなウンブリアの人々の姿が、なんとも言えず魅力的だ。
一過性の流行や時代に流されないそのライフスタイルが
彼らのしなやかな精神をかたちづくり、また豊かな文化を守り育てている。
彼らの徹底したこだわりぶり、マイペースぶりに
時に戸惑いつつものびやかに順応し、たのしんでいらっしゃる
有元さんの様子が素敵で、なんだかいいなぁと思いながら拝見した。

どんな時でも目の前のことにめいっぱい集中して、たのしんで。
これもまた充実した毎日と、自分の人生を愛する極意かもしれない。

読み終わった後、すぐにでもイタリアを訪れてみたいと
思ったことは言うまでもない。

有元 葉子
イタリア田舎生活の愉しみ―見えてきた私らしい生き方

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有元葉子さんのエッセイはこれまでに数冊拝見したけれど、
そのなかでいちばん好きな本だ。
読後感がいい。
シンプルな文体は彼女の生き方そのもののように軽やか。
まるで風が通ってくみたいにすーっと入ってきて、
心のなかの居心地のよい場所にすとん、と収まるみたいだ。

毎日口にする食事だとか身の回りのもの、
そのひとつひとつを大切に選んでシンプルにしてゆくことで
軽やかな心と身体、心地よい暮らしを得るヒントがつまっている。
手をかけて丁寧に暮らすということは、
必ずしもあれこれと詰め込むことではないのだと教えられる。
タイトルの"オリーブオイルと玄米"は、
そんな彼女の生き方の象徴でもあるのかもしれない。

何気ない日々の繰り返しが今いる自分を支えていること。
だからこそ足もとの暮らしを見直し愛おしんであげること。
ライフスタイルそのままを真似ることはできなくとも、
その精神を心に持とうとすることで、
今の暮らしをほんの少し変えることはできるかもしれない。

グラビアで拝見する、いつもチャーミングな彼女の
笑顔のもとを垣間見たような気がした。


有元 葉子
オリーブオイルと玄米のおいしい暮らし

先日ご紹介した荒井良二さんの絵本、「ルフラン ルフラン」の続編。

ルフランがまたもや大好きなお引っ越しの途中、
突然の強風とともに地面の上に現れた本のあいだに吸い込まれてしまう。
そこで双子の姉妹ナンニモとナンデモとお友だちになったルフラン。
これは本のあいだの国で繰り広げられる3人の冒険のお話だ。


本のなかを冒険してみたい…。
これは幼い頃に多くのひとが夢見るおとぎ話のひとつだろう。
エンデの「はてしない物語」しかり、
その願いを具現化するように多くのファンタジーが紡がれてきた。
しかしながら、地面がバラバラとめくれて本の国が現われる
なんていう展開にはあまりお目にかかったことがない。
出だしからしてなかなか大胆だ。
お?と思うまもなく、今度はジェットコースターのように
勢いよくすべり出す物語にひょいと乗せられ、
またもや荒唐無稽の荒井ワールドに連れて行かれてしまう。


何もかもが小さな町から何もかもが大きな町へ、
はたまた高い山のてっぺんから真っ青な海のなかへと、
本の車に乗ったルフランたちは、風に飛ばされ
犬に吠えられ、次から次へと思いもかけない場所へと飛ばされてゆく。
まるでスライド写真を切り替えるように
テンポよく展開される画面に思わず身を乗り出しながら、
降りかかるどんなトラブルも楽しんで切り抜けてゆく彼女たちに、
読んでいるこちらもすっかり元気づけられ、ウキウキしてしまう。

そうだ。
この本には生きるたのしさ、希望がたくさんつまっているのだ。
荒井さんは描かれる絵そのままの健やかな明るさでもって、
子どもにも大人にもわかりやすくそのメッセージを伝えている。
なにしろナンニモとナンデモが言うように、ルフランの真っ白い本には
「なんにもかいてないけれどなんでもつまって」いる。
それはきっと私たちだって同じこと。
いつだってこれからの物語をつづるのは自分自身。
真っ白なページはまだ見ぬ可能性に満ち満ちているのだから。

この本を眺めていると、大人でさえそのことを信じていいのだと思える。
これもまた、荒井さんが絵本に仕掛けた魔法かもしれない。


さて、第1弾では森を、第2弾では本の国を冒険したルフラン。
今度はどこへ…と早くも第3段への期待を抱かずにはいられない。
いやはや、すっかりルフランのファンになってしまった私である…。

荒井 良二
ルフラン ルフラン


荒井良二オフィシャルWEB SITE


ルフランオフィシャルWEB SITE