memory~2~

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若い男は後日連絡を、と名刺を渡して帰った。

初老の男は自宅でその名刺を手に電話の前に立っている。

『それにしても簡素な名刺だな』

名刺には電話番号のみ記している。

住所も名前も肩書きも一切ない。

若い男はタカダと名乗った。

それもしばらく考えてからだ。

たぶん電話でその名前を告げるとあの若い男と代わるのだろう。

その約束のキーワードのようなものだ。

だからあのことは暗号のようにタカダと名付けられたのだ。

盗聴されてもいいように。

盗聴?

初老の男はその言葉に反応した。

聞かれるとまずいことでもあるのだろうか。

まさかそんなはずはない。

あれでそんな危険を冒すヤツはいない。

しかし・・・

身の危険を感じずにいられなかった。

それでも初老の男は電話をかけるしかなかった。

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まったく関係ないけど、

最近携帯のメールの返信が遅い。

なぜだかわかんないけど。


関わりのない人達に送っても、誰もが遅い。

ビックリするほど。

もしかしたらとてつもなく嫌われているのかもしれない。

しばらくメールするの止めようか……


*****


カラスが鳴いている、今。

たぶん雨が降るのだろう。

なかなか鳴き止まない。

そしてどこにも行かない。

ちょっと怖い。

地震でも来るんじゃないか、と思うくらいに。

可能性がないわけでもない。

ちょっと用心しよう。

しようがないけど。

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memory~1~

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1、交換条件


『君の持ってるそれと僕の持ってるこれを交換してくれないか?』

初老の男は唐突に訪ねた。

『これですか?』

戸惑ったように話す若い男はその手に持ったモノを眺めてから初老の男へと視線を移した。

奇妙な沈黙が水牛車のように流れる。

『交換して欲しいんだ。よかったら・・・、だけど』

若い男は初老の男の手にしているそのモノと自分のモノを確認するように交互に眺めた。

もう一度水牛車のあと、若い男は納得がいかないと言う表情で口を開いた。

『それでは僕が困る。困ると言うか、不公平すぎる』

初老の男は黙って話を聞いている。自分の手にしているモノを見つめながら。

『あなたのモノと僕のモノとでは価値が違いすぎる』

若い男は一旦話を切って初老の男を見つめ軽く微笑んだ。

『そうでしょ?ここまでは間違っていないと思う』

若い男は同意を求めるように、そして自分の中で確認するように初老の男に言葉を投げかけた。

『ああ、そうだ』

初老の男は短い簡潔な言葉で返した。

『あなたは僕のモノを欲している、だけど僕はあなたのモノを欲していない。これでは交換が成り立たない』

若い男は短く息を吐いた。そして大きく鼻から息を吸った。

『だからこうしましょう。僕のモノはあなたにあげる。あなたのモノは僕は要らない。その代わり・・・』

若い男はまた言葉を切った。

初老の男は少しだけ体をこわばらせた。

『その代わりあなたの思い出をください。一番大切な思い出を』

若い男は背筋を伸ばし『どうですか?』と言うふうに両手を広げた。

初老の男は手の中でモノを転がしながら見つめ考えた。

『君に思い出をあげたらその思い出はどうなる?』

前かがみになっている初老の男は見上げるようにして若い男に尋ねた。

『それは簡単な話です。あなたはその思い出を忘れる。その思い出は僕のものになる。ただそれだけのことです』

二人の間には水牛車のような沈黙が再び流れた。



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