久しぶりに図書館の児童書コーナーへ立ち寄った歳に、
ある懐かしい小説を手にしました。

1941年にスイスで出版されたリザ・テツナー作の『黒い兄弟』です。

この作品は私が中学生の頃に読んだ作品で、とても記憶に残っています。

その本を読む数年前の1995年に世界名作劇場
『ロミオの青い空』というタイトルでアニメ放送されていました。

世界名作劇場といいますと、『フランダースの犬』『母をたずねて三千里』など
有名な作品がたくさんありますね。

それは原作の『黒い兄弟』をファミリー向けに脚色をしたものですが、
なかなかの出来栄えでり、とても面白かったために、
原作である小説を読んでみようという気になったのです。

主人公の少年ジョルジョ(アニメ版ではロミオ)は、
スイスの農村出身であり、貧困のためにイタリアのミラノへ
煙突掃除夫として売られていきます。

煙突掃除夫に駆り出される子供たちは10~15歳ほどで、
皆、家庭の不幸な境遇のために働かざるを得ない状況がその背景にあります。

家事や煙突掃除の毎日10時間以上にわたる労働、満足に与えられない食事、
劣悪な職場環境や住環境により、事故や病気により命を落とす子供もいます。

また、あれだけの煤を吸い込むことで病に侵され、
医学が発達していない1830年代当時ですから、後に大人になれずに
死を迎える子供たちもたくさんいたことだと思います。

原作もアニメも、苦しい労働にも負けずに日々前向きに生き、
勇気と友情を大切にどんな苦難も乗り越える姿が描かれています。

しかしながら、その模範少年のような善良な主人公の様子にどれだけの
苦労が込められているのかは簡単に想像できます。

子供たちの命は尊いものであり、決してこのようなことが起こることのない、
平和な世の中になってほしいという作者の願いはあると思いますが、
今もなお、人身売買は途上国では行われています。

危険で過酷な強制労働、売春目的、臓器提供者、戦闘員等として子供を
駆り出すことは悲しいながらも、それは過去に限った話ではありません。

過去の反省を生かし、よりよ良い社会を作ろうとした日本では、
現在は人身売買は行われていません。

日本の子供たちは恵まれていると思いますが、
それが行き過ぎると、ぬるま湯につかっているような安穏とした社会に
なってしまうのかもしれません。

学校や親による体罰は虐待と非難されることも多くなりました。

それはものに恵まれた豊かな生活が象徴しているのかもしれません。

苦しい時代に生きてきた人はこのように話し、
私の心にくぎを刺してくれたことをはっきりと覚えています。

「メンタル的に弱いから優しくケアをする?
それは甘えであり、生きていくことに対しての
必死さを失わせてしまうことになる。」

私はメンタル面で弱い方々への支援にかかる仕事もしてきましたが、
しかしながら、このような厳しい意見も理解できます。

自らの力で生きるという活力が弱まっている子供や大人が増えてはいないでしょうか。

強い勇気と友情、逆境に耐え抜く力を失ってはいないでしょうか。

煙突の煤でまみれた黒い兄弟たちは、
このように我々にメッセージを発してくれているのかもしれません。


久々に原作を読み、アニメをインターネット上で視聴しましたが、
今見ると辛いですね…。

このようなアニメが20年以上前に放送されており、
当時、それを見た子供は何かを感じ取れたのでしょうか。