第4話番外編(8) | 若の好きずき

第4話番外編(8)


 部屋に戻って腰をおろしたホットカーペットの冷たさに少し冷静になると、さっきの自分の行動を思い返していたたまれなくなってきた。
(あ~もう!何やってんだよ俺は!)
 頭をわしわしっとかきまわしながら一人、悶々としてしまう。

 いやあれは、こっぱずかしいことも当たり前の能天気な亮のせいだ。たかがお茶の準備にあんなに喜ぶから、だからちょっと動揺しただけだ。そうだそれにケーキが美味かったからだ!

 ……我ながら言い訳にもならないあれこれを並べたてて、それでも自分に言い訳しきれずにパソコンに突っ伏してしまう。
 いくらなんでもあんな!!あんなベタな!!
(あ~んって……っ)
 そんな自分にのたうちまわりたくなる。


 あぁ、でもこんなことしてる場合じゃなかった。早くパソコンとホットカーペットの電源をいれておかねば。亮が部屋にくるってんだからこのまま突っ伏しておくわけにはいかない。



* * *


 ようやく気を取り直したところに、ノックの音がした。ああ、と少々投げやりにも聞こえる答えを返したら、本を持った亮が部屋に入ってきて、座った途端に冷たいと騒ぎだした。

 うるさいやつめと思う反面、確かに、亮のこの裏表のない直接的な感情表現に救われている面はあるとも思う。
 亮二には言えない、亮二にはできないことを、亮はあっさりとやってのける。
 いまもそうだ。

 一緒にいたい。
 一緒にいてほしい。
 一緒にいたいと、そう思っていてほしい。
 …そう思っても、もしかしたらそう思っているのは自分だけかもしれないだなんて考えて、考えすぎて、怖じ気づいて、亮二からは言えなかった。


 思えば、一緒にいたいからこそ職に就こうとして、職に就くからこそ一緒にいられないだろうと思うのだ。
 矛盾して、混乱して、何が何だかわからなくなったりしたけど、いろいろ考えたところで結局すべては一緒にいたいからこそで、だからこんなに苦しいんだろう。
 本当に、簡単なことだ。
 それだけなんだ。

 ご飯を食べて満たされて、落ち着いてきたら素直にそう思えた、そんな自分の現金さには苦笑いが浮かんだ。
 でも明日にはまた、一人で不安の泥沼にかもしれないとも思った。
 だって、もう少し一緒にいたい、それだけのこともいえないんだから。



 でも、それを、亮はあっさり言ってのけるのだ。
 だから、一緒にいられないってことは、この泥沼のなかから抜け出せないってことなのかもしれないと思った。

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番外編(9)へつづく。