「本当に大変な日々でした」。祭壇の前で一礼し、母は静かに語り始めた。親思いの息子は、5年前も誕生日を祝ってくれる約束だった。長男の孝広さん=当時(34)=を亡くした石橋位子(たかこ)さん(64)=大阪府阪南市。追悼慰霊式の「慰霊のことば」で、息子の面影を探し続けた歳月を、涙ながらに振り返った。

 陸上自衛官だった孝広さんは事故の約1年半前、父の新太郎さん(63)の看病のため千葉県から兵庫県伊丹市の駐屯地に移った。

 「じっとしてたらあかんで」。孝広さんは、子供のころ家族でよく行った近所の山に、位子さんを誘った。19歳で家を出た息子との十数年ぶりの山歩き。「おかんのペースでいいからな」。時々立ち止まる息子がいとおしかった。

 だが、幸せな時間は突然断ち切られた。事故から2日後の平成17年4月27日、一緒に祝おうと約束していた60歳の誕生日は、孝広さんの通夜になった。

 この年の秋、一緒に行く予定だった北アルプス・立山連峰を登った。息子の面影を探すためだった。その後も友人や孫らと各地の山を訪ね歩いた。山に行けばいつも、山頂を吹き抜ける風や木陰に孝広さんの息吹を感じ、「天国で元気にしてるんやな」と安心した。

 別々に暮らした期間が長かった孝広さんとの思い出は多くない。2人で収まった写真も1枚しかない。でも、孝広さんは心の中で生き続ける。「それでいい」と今は思う。

 遺品の免許証をバッグにしのばせて臨んだ慰霊式。祭壇の向こうにいる孝広さんを思い、ひと言ひと言かみしめるように話した。「生かされている限り、息子の写真をリュックに入れて旅をするのが夢です」。悲しみは消えない。それでも前を向いて歩いていく。気丈に語る母の目に、最後は涙はなかった。

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