うつ病予防の為に~一銀クリニックブログ「心の処方箋」

平成25年、沖縄タイムスにて好評連載後、書籍化されたメディカルエッセー『心の処方箋』。
その著者、一銀クリニック院長の城間功旬が、うつ病予防の提案として“言葉の力”をお届けします。
皆様の心の悩みを軽くする読むクスリになれば幸いです。


テーマ:

君死にたまふことなかれ
自殺願望から目覚めるための二つの知識
「ヘルプ・メッセージをしっかり出せ」
「別の道へ逃げろ」


 あなた自身が死にたいと思うことが、一生に一度くらいあるかもしれない。果たして、その時どう行動すれば、その危機から脱出できるであろうか。
 2017年9月21日厚生労働省の自殺願望に関する成人の意識調査の発表です。20歳以上の成人2019人中「本気で自殺をしたいと考えた」との回答が、476人(23.6%)もいた。
 これは実に、成人の約4人に1人が、本気で自殺を考えたとの結果である。これから分かるように、「希死念慮」は他人ごとではなく、身近な問題であり、自殺予防の知識の普及がとても大切であると痛感した。
 うつ病の生涯有病率が7.5%で、15人に1人ですが、その3倍以上なので、驚くべき多さです。


症例は、19歳、D子、予備校生
主訴:多量内服
病歴:

 実家の八百屋の手伝いの為に、自動車免許が必要となり、X年5月から教習所へ通い始めた。仮免許を取り8月から路上へ初めて出た時に、事故になりそうになり、それから車の運転が怖くなり、自動車練習所へ行けなくなったが、誰にも相談できなかった。
 そのうち、朝起きるのがつらくなり、体がだるく、夜が眠れなくなり、「死んだ方が良い」と考えるようになり、X年9月上旬、祖父の睡眠薬を多量服薬して、もうろうとした状態を家族が見つけ、救急病院へ三日間入院となり、その後当院へ紹介された。
初診時の診察:
私 「どうして、睡眠薬をたくさん飲んだの」
D子「8月から路上に出て、事故になりそうになり、車の運転が怖くなり自動車教習所へ行けなくなったが、誰にも相談できなかった。朝起きるのがつらくなり、食事もとれず、急に涙が出たりしてきた。そのうちに夜が眠れなくなり、9月上旬から、「『自分がいるのが皆に迷惑をかけている。』と思い始
めた。死のうと思い祖父の睡眠薬を飲んだ」
私 「今は助かって良かったと思っている?」
D子「思っています」
私 「じゃあ、もう自殺未遂はしないと約束してくれる」
D子「約束します」
私 「なぜ誰かに相談しなかったの」
D子「もともと人に相談するのが苦手です」
私 「こんな時は『助けすけてー』って、本気でしっかり強くヘルプ・メッセージを出さないといけないよ。自分の力だけでは、自殺願望から脱出できな
い場合もあるからね」
D子「父に軽く話したのですが、『頑張れ』と言われてしまって」

「教習所のお金も父が出しており、やめたたらお金がもったいないし。自分がいるのが迷惑と思い始めた。そして、薬をたくさん飲んだ」
私 「こんな時覚えておいて欲しいのは『別の道に逃げろ』という言葉。必ずしも道は一つだけじゃない。別の道に逃げればいいんだよ」
D子「そんなことは頭に浮かばなかった。『他の人は免許取れるのに、なぜ自分は取れないのかと思って。実家の手伝いも出来ないので、自分なんかいらないんだと思った』」
私 「車の運転だけが実家の手伝いではなく、他の手伝い方もあるんんじゃない」
D子「解りました」

診断:不安障害からのうつ状態・希死念慮
治療方針:

・薬物療法(抗不安薬・睡眠薬・抗うつ剤)
・精神療法(支持的精神療法)

 自殺予防の精神療法をする 時は、「約束」と「時間」というクスリが大切です。
 「必ず回復する」との保証を与えて、自殺はしないと「約束」をしてもらいます。これまで「自殺しない」と約束した人で、自殺した人はいません。逆に
、約束しないor渋る人は、要注意です。
 「時間」というクスリの使い方ですが、自殺願望が無くなるまでは「3~4日に一回は」診察して、「間を開けない」ようにします。
 自殺は3~4日なら待てるのです。しかし、二週間以上は難しいです。

治療経過:
 休養と内服で、1か月間で回復した。
D子「教習所をやめたら、お金が無駄になると思った。このお金が自分のお金ならやめられたと思うが、親が出したお金なので、頑張らねばならないと思った。」
「今はお金より自分の命が大切とわかるが、あの時は解らなかった。」
私 「命よりも大切な学校や仕事などありません。大切な命を守るために知っておいてもらいたことは次の二つです。『ヘルプ・メッセージをしっかり出せ!!(軽くではだめですよ)』『別の道へ逃げろ!!』」

自殺願望の正体
 うつ病・うつ状態になると「悲観的な色メガネ」をかけた状態になり、全てが悪い方向へ行くように見える。
 更に進んで「悲観的な色メガネ」から「絶望の色メガネ」に変わると、自殺願望が出てくる。自殺願望の正体は、「絶望の色メガネ」をかけた病的な意識である。
 無意識が作り出すのが「夢」とすると、自殺願望は、この「病的な意識」が作り出す「悪夢」なのです。
 目が覚めながら悪い夢を見ている状態である。

 それまで司令塔であった「正常な意識」が眠ってしまい、「絶望の色メガネをかけた病的な意識」が、司令塔を占拠し、マイナス思考で「心」を攻撃して、最大の苦痛を与えて、希望を奪ってしまい、「心」に「この苦痛から逃れるためには、自殺しかない」と思い込ませ、自殺への一本道へ突き進めさせようとしているのです。
 「絶望の色メガネをかけた病的な意識」が、大切な命の敵になっているのです。ですから、病的な意識が作り出す考えを信じずに決して一人で抱え込まないことが大切です。
 必ず誰か身近な人や、命の相談窓口に、「助けて!!」との「ヘルプ・メッセージ」を、強く、しっかり出すことが大切です。
 軽くはだめですよ。はっきりと強く「本気で自殺を考えている事」を伝えてください。
 そして、「別の道」に逃げてください。自殺願望からは逃げるが勝ちです。
 道は一つばかりではありません。無限にあります。
 自殺願望の人からは、自殺への一本道しか見えていませんが、本当は、逃げ道はいくらでもあるのです。
 別の道に逃げればよいのです。

 「ヘルプメッセージをしっかり出せ!!」
 「別の道へ逃げろ!!」
 この二つを知っていれば、自殺から逃れる事ができ、病的な司令塔と化した意識が作り出す「悪夢」からのがれる事が出来ます。
 覚めない夢はありません。例え「悪夢」であっても。

 なぜなら、実は、「絶望の色メガネ」は、精神的エネルギーレベルが低下している時だけ、現れているにすぎません。一時的なものです。

 別の道に逃げる事で心が休まり、精神的エネルギーレベルが回復すれば、おのずと苦痛であったマイナス思考からの「心」への攻撃も消え、「絶望の色メガネ」も取れ、また、元の「正常な意識」が司令塔へと戻ってきて、「悪夢」から覚めるのです。

 

イラスト:ウエズタカシ

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気を病まずに「今に集中」して生活すると、生きる事が楽になる

 あなたは「過去の後悔」や「未来への不安」で、心を痛めた事はありませんか。私は数多くあります。私は、自分ではそれを「考えている事」だと勘違いしていました。
 しかし、精神科医として患者さんを診察して、他者の心を客観的に見る機会を得たことで、「考えている事」と「気を病んでいる事」が全く違うという事をハッキリと知りました。後者は単に、堂々巡りの思考をして疲れ果てるだけでした。気付いたおかげで私自身も気を病む事が少なくなり、生きる事がとても楽になりました。あなたにも、そうなっていただきたいとの願いを込めて書きます。
 うつ病の患者さんのほぼ全員が「気を病んで」います。これがうつ病を発症する要因の中で、一番多い事だからです。そこから脱出するための、回復のための大切な「言葉のクスリ」として、初診時の患者さん全員に「気を病む事」と「考える事」の違いを、メモを差し上げて説明しています。
 「気を病む事」でエネルギーレベルが低下して、うつ病の症状が出るため、気を病まないように気をつけて生活してもらう事で、そのエネルギーが漏出しているバケツの底の穴を塞ぐ効果があり(言葉の力第十二話参照)、根本的な治療になり、回復が早くなるからです(もちろんエネルギーを充電してくれる抗うつ薬の内服も大切です)。
 また、患者さんからも、「『考える事』と『気を病む事』の区別が分かるようになってから、生活がやり易くなりました」という言葉を、これまで数多く多くいただきました。

症例は、62歳、C男。
主訴:仕事がおっくうで出来ない
病歴:

 パン屋を30年間経営しているが、支店が経営不振におちいった。その心配から、睡眠障害が二ヶ月間続き、仕事が困難になったために、当院へ受診した。
初診時の症状:

 仕事の心配で夜が3時間しか眠れない
 仕事をする元気がでない
 楽しい気分が全くない、趣味の釣りも行きたくない
 考えが悪い方へ行きやすい
診断:うつ病
治療方針:

 薬物療法(抗うつ剤、睡眠薬)
 精神療法(気を病む事と考える事の違いを理解してもらい、今に集中して生活する訓練をする)

初診時の診察:
C男「支店を出さなければ良かったと後悔しています。本店がつぶれたらという考えに引きずり込まれます。夜が明けるのが怖いです」と話す。
 妻はC男を「神経質な性格」という。「赤字の支店を閉めて、夫が元のように仕事が出来れば、生活は十分やっていける」と妻は話す。

私 「朝から晩まで寝ながらも一日中仕事の心配をした結果、頭の中が電気のつけっぱなしの状態となり、エネルギーを放出しすぎた結果、うつ病の症状が出ています。このエネルギーが漏出しているバケツの底の穴を塞ぎエネルギーの漏出を減らす事と、抗うつ剤の内服でエネルギーを注入する事、この二つで、エネルギーレベルが上昇してきて必ず回復します」と説明した。
  「しかし、いくら薬でエネルギーを注入しても、バケツの底が開いたままではエネルギーを注入しても、なかなかエネルギーレベルは回復しませんので、バケツの底の穴を塞ぐ必要があります」。
  「このバケツの底の穴を塞ぐために、まず、『考える事』と『気を病む事』の違いを理解する必要があります。その違いは『答えがある』か『ない』かです」
  「『考える』とは『答えがある』事です。例えば『学校の試験の問題を解いたり』『晩御飯何を食べようか』などで、これらは答えがあるのであまり疲れません。もちろんやりすぎると疲れますが。』
  「それに対して『気を病む』とは『答えのない』事に捕らわれている状態で、『過去の事をくよくよ後悔したり』『先の取り越し苦労』をすることを言います。これらは『答えがない』ために、ずっと堂々巡りの思考を延々と続け、ついにはエネルギーが尽きて、疲れ果ててしまうのです。」
  「それで、あなたにお願いしたい事は、今自分の頭の中にある事が、『考えている事』なのか『気を病んでいる事のか』どっちなのか区別してえり分ける訓練をしてください。『気を病んでいる』と気づいたらすぐにはねのけましょう。『過去の嫌な事』にもシャッターを降ろして、『未来の取り越し苦労』にもシャッターを降ろしてください。そして、考え事は『五分ルール』です。五分考えたら棚上げしましょう。』

私 「そして、『今に集中』して生活するのです。」
C男「『今に集中する』とは、どういう事ですか。どうすれば出来るのですか」
私 「『今に集中する』とは、例えば、皿洗いをする時は、皿の上に視点を集中して洗う事です。あるいは、ハンマーで釘を壁に打つ時は、指を打たないように集中するでしょう。別の事を考えないようにして、行動に集中する事なのです」。
  「『今に集中する』が、『他の全ての雑念』を跳ね返してくれる『心の中の盾』の役目をしてくれるので、省エネとなり、早く回復しますよ」。
  「『雑念』への執着を断ち切るためには『出来るだけの事をやれば、後は成るようになって良いさ。どうにかなるさ(沖縄の方言で【ナンクルナイサ】と言います)』と考える事で、切り替えが出来、今に集中できるようになります」。

 そして、「気を病む、考える、今に集中する」と書いたメモを差し上げ、「冷蔵庫などの日頃見やすいところに貼ってください。そして、これを見て思い出して、『今に集中』しての生活を心がけるようにしましょう」と話した(読者の方もよろしければ、このメモを自分で書いて、見やすいところに貼って実行してみてください)。

治療経過:
 C男は徐々に回復して、「悲観的な色メガネ」も取れ、仕事も出来るようになった。回復した後、「先生の言う『今に集中』は私にとって、楽に生活していくための『魔法の言葉』ですよ」と話した。この言葉をいただき私もうれしかった。

 「過去」という字は「過ぎ去った」と読みます。そうです。過去はもうありません。過ぎ去ったのです。実は、私たちが過去と思っているのは、単なる記憶の再生でしかありません。「未来」は「未だ来ず」と読みます。そうです。未来はまだ来ていません。私は過去や未来と出会ったことはありません。私たちは生きている間、今としか出会えないのです。人生は、今が連続しているだけなのです。ですから、「今に集中して生きる」ことが大切なのです。
 今に集中しないと、雑念につけいるスキを与えてしまい、侵入されて、雑念・妄想に心を持って行かれてしまいます。これら、雑念・妄想に侵入されないよう「雑念・妄想(マイナス思考・マイナス感情・過度の欲望)の心の扉」をしっかり閉めて、「今に集中して生活する」と生きる事が楽になりますよ!


イラスト:ウエズタカシ

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不安の根源とメカニズムを知る事で不安をコントロールして楽に生きよう!

 

 不安が持続するとうつ病にまで陥ることがある事を皆さんはご存知でしょうか。その不安は心のどこからやってくるのでしょう。それは、心の深いところからやってきます。不安の発生の根源とメカニズムを知る事で、不安をコントロールし、うつ病を予防する事が出来ます。

症例は、中学三年生、B子。
主訴:勉強に集中できない
病歴:X年10月より、朝に腹痛と嘔吐が始まり、朝食が取れなくなりなった。不安で夜も眠れない。勉強に集中出来なくなった。
X年12月当院へ受診した。
初診時の症状:不安で夜眠れない
           朝、腹痛・嘔吐で食事がとれない
           勉強に集中出来ない

B子「高校入試が三か月後にせまり不安である。

   どうしても仲の良い友人が受ける高校と同じ高校に入りたい」。
母親の話では、小学校からこれまで友人が出来ず、中学3年生になって初めて仲の良い友人が出来たとの事。学校の先生は、B子ならこの高校は合格できると思うと話しているとの事。

診断:不安障害

治療方針:薬物療法(抗不安薬、睡眠薬)
        精神療法(不安の三点セットを理解してもらい、不安の

        コントロールを訓練する)

初診時の診察:
私 「あなたには今、『不安』と『症状(眠れない・勉強に集中できない等)』

   の二つしか見えていません。

   しかし、『不安』と『症状』の二点セットだけではなく、

   不安の前にもう一つ不安の根源になっているものがあり、

   本当は三点セットなのですが、それは何だと思いますか。」
B子「・・・」。
私 「それは、『絶対という欲望』です。」
   「『絶対あの高校に入りたい』と強い欲望が出ると、

   『果たしてこの高校に入れるだろうか』との不安が出て、

   『夜が眠れない等』の症状が出るのです。」
   「ですから不安を減少させて、症状を軽減するには、

   不安の元になっている『絶対という欲望』を下げればいいのです。

   そうすれば、不安が小さくなるので、症状も軽減しますよ。」
   「『欲望を下げる』とは、『出来るだけの事をやれば、

   後は成るようになってもよい』と考える事です。」

 その後、B子は眠る前に考え事をしないように、腹式呼吸をしながら1から百まで数を数えることと、欲望を下げる訓練をして、徐々に眠れるようになり、友人と同じ希望の高校に合格した。B子は「『なるようになる』と欲を下げて目の前に集中して、出来る事を一つ一つやっていると、次第に気持ちが落ち着くことが解った」と喜んだ。

 人生にはいろんな不安が出てきます。不安が出たら、その度に、その不安の元になっている欲望を探し出して、その欲望を下げる訓練をしましょう。不安が小さくなり、生きる事が楽になりますよ。

 欲望それ自体は決して悪いものでなく、むしろ大切なもので、生きるために必要なものであります。しかし、「絶対」とまで強くなりすぎると、「不安」が出て、「症状」が出て、自分を苦しめる作用があるので、「絶対メガネ」の度数を弱めて、コントロールする訓練により、穏やかな心でいられます。

 不安が出たら、自分が欲望の扉を開けたのだと気づき、その欲望の扉を閉める。そうすれば、不安はその扉の中に引っ込み、消えます。

 

イラスト:ウエズタカシ

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完璧主義より「60点主義」でエネルギーをコントロールしよう!

「完璧主義」の穴の塞
(ふさ)について話します。
 完璧に何かを成し遂げることは美徳です。それで、エネルギーが尽きなければ何も問題はありません。しかし、私達のエネルギーは有限ですので、持っている以上に使いすぎてしまうと、枯渇した状態まで陥る事があります。そのため、うつ病を発症する事もあります。そうならないように、参考になる症例を挙げて予防について話します。

 症例は、24歳の女性A子、看護師。
 主訴:体調が悪い
 病歴:X年4月より、外科病棟で初めての勤務に就いた。
     仕事は多忙だが、日々充実して楽しく頑張っていた。
     1年目を過ぎた頃から、頭痛・肩こり・胃痛・だるさに悩まされ、
     その後、睡眠が取れない日々が続き、 

     とうとう仕事が出来なくなった。
     X+1年5月、当院へ受診した。問診中、体を前後へ振りつつ、
     「気持ちが落ち着かない。涙が出る。不安になる。疲れている」と

     話す。
 初診時の症状:
     憂うつ感はあまりない
     意欲の低下が著明で、何をするのも億劫
(おっくう)である
     興味が低下して、好きな音楽も楽しめない。

     テレビも見る気がしない。
     気持ちが落ち着かず、ソワソワしている。不安感が強い。

     A子さんは「特にストレスは感じなかった。患者が待っており、

     仕事は行きたい」と話す。
     母親は、「責任感がとても強く、何でも完璧にやらないと気が

     済まない性格」と話す。

 診断:慢性疲労からのうつ病(抑制型)
     「抑制型」は、頑張りすぎてエネルギーが無くなった結果、

     動けなくなった状態のうつ病。山登りに例えると、

     頑張って山の頂上まで歩いて登ったが、エネルギーが尽きて、

     動けず歩けなくなった状態。

 治療経過:頑張りすぎての慢性疲労からのうつ病である事を説明し、

     3ヶ月間の休養と抗うつ剤と睡眠薬の内服で治療し

     徐々に回復した。

 ある程度回復した後での診察。

 私 「なぜ、あんなに頑張り過ぎたの。完璧主義みたいだけど、

    いつ頃からそうなの。」
A子 「思い起こすと、子供のころ、両親共働きで忙しく、

    祖母に育てられた。元教員の祖母から勉強とかいろいろ

    教わったが、祖母がとても心配性で、いつも完璧に準備しないと

    気が済まないところがあり、私もそうするようになったのだと思う。」
 私 「確かに完璧にやる事は、美徳で良い事だと思うけど、

    やらないといけない事が多くなった時が問題だよ。

    全てを完璧にやろうとすると、エネルギーが足りなくなって

    しまうからね。燃え尽きて、倒れる場合があるから、

    完璧主義は気を付けないといけないよ。」
 私 「私の考えだが、自分の総エネルギー量を『10割』とすると、

    仕事には7~8割、人間としての自分に1割、家族に1割

    という風に、エネルギーの予算を組んでやることが大切なんだ。」
 私 「そのためには、自分のエネルギーの7~8割で全ての仕事を

    完璧にするのは無理なので、結局この仕事は何点、

    この仕事は何点と、割り引いてやる必要が出てくる。

    すべて満点取ろうとせずに、合格点が60点なら、

     60点で良いとしたらどうかな。

    40点分のエネルギーがあなたの中に残すことになるので、

    その分体調の不調も減ると思うよ。

    これを60点主義、あるいは合格点主義と私は呼んでいる。」
 私 「『完璧メガネ』の度数を弱めて調整し、『60点メガネ』に

     変えてみたらどうかな。そのほうが、倒れずに済むし、

    今までよりも、いろんな事が出来るようになると思うよ。」
A子 「60点取るのは、百点取るよりも難しいんですね。」と話した。

 完璧主義の人は「仕事を完璧にしないといけない」との無意識の思い込みを、成長の過程のどこかで学習し(無意識にある偏った考え方・思い込みを「色メガネ」と私は呼んでいます)、そのために頑張り過ぎて、体調を崩したり、うつ病にまでなる事もあるかと思います。
 まずは無意識にある偏った思い込みに気づいて、「完璧にしなくてはならない」との色メガネを外しましょう。
 
 そして、「気づき」と「管理する」を訓練しましょう。

 「気づき」とは自分の心と体の症状に気が付くという事です。エネルギーレベルが低下しますと、体と心から「メッセージ」があります。体の症状としては「全身倦怠感(だるさ)」「体のあっちこっちの痛み(頭痛・肩こり・胃痛・腹痛など)」、心の症状としては「憂うつ」「億劫(やろうと思っても元気が出ない)」「睡眠障害」などです。
 これらの症状がでたら「エネルギーの残量が減ってきているのだ」と気が付くという事。そして、仕事のペースを「頑張るモード」から、「ゆったりモード」にギアチェンジしたり、休養を取るなどして、エネルギーレベルをアップするように「管理」する事が大切です。
 仕事だけを見るのではなく、自分の心と体の調子の、両方を見て管理して、エネルギーの収支のバランスを取るようにしましょう。

 特に4月5月は、環境の変化に対応するために、頑張る事を余儀なくされやすいので、自分のエネルギーのキャパシティーを超えないように、守備範囲に気を付けたいものです。

イラスト:ウエズタカシ

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ピンポイントにバケツの底の穴を塞いで、エネルギーレベルを上げよう

 

 これから後の話は、うつ病の治療の実際について説明したいと思います。
 うつ病はエネルギーレベルの低下によって起こっていますので、その低下したエネルギーレベルを上げてやればよいのです。そのための治療の手段は、主に二つあります。
 その一つは薬物療法です。エネルギーを注入する役目をします。
 もう一つは、精神療法で、「言葉の力」でバケツの底に空いた穴を塞ぎ、エネルギーの漏出をくい止めるのです。
 うつ病の根本的な原因は、図1の「バケツの底に空いた穴」です。この穴から、図のように、どんどんエネルギーが漏出して、バケツの中のエネルギーが減っていくのです。
 

 

図1


バケツの穴が開いたままでは、いくら薬でエネルギーを注入してもいつまでも水(エネルギー)は溜まりません。バケツの底の穴を塞ぎ、エネルギーを注入する事で、エネルギーは溜まっていき、回復へと向かいます。
 ですから、私の主な仕事は、薬を選ぶことももちろんですが、一番の仕事は、この開いたバケツの穴を塞ぐ事だと思っています。
 一番多いうつ病に見られる穴は次の三つです。
 ① 完璧主義
 ② 不安
 ③ 気を病む
更に
 ④ 他者への怒り
 ⑤ 自分への怒り
 ⑥ 人目を気にする
 ⑦ 人の和が大切
 ⑧ 喪失感
 ⑨ 悲哀感
 ⑩ 嫉妬
などの穴があります。一人でこれらいくつもの穴が開いていることも多いです。
 次回よりこれら十個の穴の塞ぎ方について、症例を挙げて説明したいと思います。

イラスト:ウエズタカシ

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「精神的エネルギー保存療法とは・・・」その2 充電系
~精神的エネルギーの充電系の三つの柱~

 

 第十話で、エネルギーを放電する十項目を棒グラフで示し、その揺れる動きを見て私はオーディオのグラフィックイコライザーを見ているようだと話し、その棒グラフの揺れを減少させれば、エネルギーの充電が出来ると説明した。
 これら十項目のすべてに共通して充電の効果があるのが以下の三つである。

 

 三つの訓練の共通点は、絶えず「行動に意識を集中させる」事です。それにより、ストレスを生み出している思考と感情の悪い連携プレー(気を病む、不安・怒りの感情)を断ち切り、ストレスを跳ね返す「盾」の役割となるという仕組みです。そうすると思考と感情の悪い連携プレーが止み、ホットになった脳がクールダウンされて、放電が治まり、自然にエネルギーが充電されます。

 

充電系

①「腹式呼吸」による睡眠と休息
 睡眠は脳の疲れを取るためにある。睡眠がうまく取れないと脳の疲れが溜まって行きます。うつ病の前駆症状も一番多いのは睡眠不足です。二週間以上睡眠が取れないと、脳の疲れが溜まり、うつ状態・うつ病を発症する事も多くあります。脳の疲れを取り、充電するには睡眠を普通だと平均6時間(人により4~5時間でもOK)くらいは取った方が良いと思います。もちろんそれより多少長くてもかまいません。
 うつ病の患者さんが受診した際にはまず十分睡眠が取れるように工夫します。睡眠薬はもちろん大切ですが、やはり「腹式呼吸」が入眠障害や中途覚醒には必要です。
 睡眠障害のある患者さんには、以下のように寝ながら腹式呼吸を実行するよう指導しています。
 鼻から息を吸って、鼻から息を出します。息を吸いながらお腹を膨らまし、息を吐きながらお腹を凹まします。時間の目安は、「吸うのが2秒、吐くのが4秒です」と指導しますが、実は吸う息よりも、吐く息を長くすれば良いだけです。時間は適当でかまいません。
 そして息を鼻から吐く時に、吐く息に意識を集中しながら、心の中で数を数えます。「いーち(1)」と。それからまた次に吐く時に「にー(2)」と数え、それを百まで繰り返します(私の場合、休憩する時、それを十回くらい繰り返す事もあります)。息を吸うのは自然に行われますので、意識する必要はありません。

 

 何をしているのかというと、息を吐くという「行動」に意識が集中しているのです。「行動」に集中する事で、思考と感情の連係プレーが止まり、脳の電源がオフになるのです。私は腹式呼吸する前に「仕事(思考)の電源オフ。心配(感情)の電源オフ。怒り(感情)の電源オフ」と一回言って腹式呼吸に入ります。そうすると、まるで、電気のついている脳の各部屋の電気を、自分で消して回っているようです。頭の中の電気がすっかり消え、放電がなくなる事で、自然に充電されます。このように、上手に脳を休ませる事で、目覚めた後や休憩の後はスッキリとしており、集中力・直観力も高まっています(息に集中する意識の分だけのエネルギーは使っていますが、それはほんの少しです)。
 腹式呼吸をして鼻から出ていく息に意識を集中する事を繰り返していると、呼吸だけしか感じられず、理性だけの存在ではない自分に気づきます。心と体が一つになった状態「身心一如」を実感する事が出来ます。心と体が調和して呼吸で一つになります。心と体の調和についても考えてみようではありませんか!
 脳が体を支配していると思い込みがちですが、それだけではありません。体も脳を支配しています。体に強い痛みがあれば眠れないのですから。体と脳は同じく人の臓器であり機能が違うだけなのです。
 「マイナス思考・感情」にこだわらずに、呼吸に集中する大切さに気付き、睡眠・休憩に取り入れてください。エネルギーが充電されます。

 

 また、少し手が開いた時・休憩の時も、腹式呼吸をして、呼吸に意識を戻しましょう。こまめに充電です。

 

②今に集中する。
 私がうつ病の患者さんに話す一番大切なクスリがあります。
 それは、「気を病まずに、今に集中して生活してください」というクスリです。
 まず、今自分の頭の中にある事が、考えている事(学校の試験問題を解いたり、晩御飯何食べようかと「答えがある」事)なのか、気を病んでいる事(「過去の後悔」や「先の取り越し苦労」をして「答えのない」事に捕われている状態)なのか、自分の頭の中にあるのが、このどちらなのか見極めて区別する訓練をしてもらいます。そして、気を病んでいたらすぐに跳ね除ける事。考え事は五分ルール。五分程度考えたら切り替えて棚上げします。そして「今に集中して生活」する訓練を勧めています。
 人は何もせずに座っていると、かなり多くの時間を、「過去の後悔」や「未来の取り越し苦労」に費やしています。これにより莫大なエネルギーを無駄に消耗していてもったいないですし、「気を病む」には答えがないので、堂々巡りばかりで何も解決しません。出口のない迷路で右往左往しているのと同じで、骨折り損のくたびれ儲けで、後は倒れるだけです。
 さらに、気を病むことで、心は絶えずマイナス思考・感情からの攻撃を受けて「苦痛」を感じています。そのマイナス思考・感情からの攻撃を跳ね返し、「苦痛」から心を守る「盾」となってくれるのが、目の前の行動に集中する「今に集中」なのです。今に集中する事で、心の苦痛・動揺が大波からさざ波となり、エネルギーが充電されます。
 「今に集中する事」が心を守る「盾」として働くクスリである事を、痛みを取るクスリに例えて説明しますと、体から脳に来る痛み信号で苦しんでいる人に、痛み信号が脳に入る前にブロックするクスリを投与して、脳に侵入させずに跳ね返す「盾」として働き、苦痛や睡眠障害を起こさせないのと同じです。

 

 「『今に集中する』は私を回復させてくれた『魔法の言葉』ですよ」と回復したうつ病の患者さんから時々言われます。

 

 「どのようにしたら今に集中出来るのですか」と聞く患者さんもいます。私は「壁にハンマーで釘を打ちつける時、指を打たないように、釘の頭にハンマーを打ちつける『行動』に意識を集中する事と同じです」と答えます。そして「食器を洗う時は、洗う行動に集中して、雑念に捕われないよう全ての生活で行動に集中する練習をしてください」と話します。
 腹式呼吸と同じく日常生活でも行動への集中が充電にとても重要です。

 

③散歩と軽い運動
 私は、軽い運動が出来る状態にまで回復した患者さんには、散歩を勧めます。無理ない程度で、20~30分で、週三~四回を勧めます。利点がたくさんあります。
 ひとつの利点は復職に向けて体力をつける事と、太陽の光で体内時計をセッティングして睡眠リズムが整い、また程良い運動の疲れで睡眠の質が良くなる事です。
 二つ目の利点は太陽光を浴びる事で、脳が活性化され太陽から元気がもらえると私は思っています。日照の少ない北極のイヌイトの人達にはうつ病が多いそうです。沖縄の女性は明るい人が多いと良く聞きます。日照が少ない冬にうつになる冬季うつ病もあり、日照と気分も関係しています。少し太陽の光を浴びる事は良い事です。
 三つ目の利点が一番大切です。散歩をして、周囲の景色に心を奪われる事・景色に意識を向ける事が、すなわち、今に集中なのです。散歩という「行動」と景色に集中する事で、過去の後悔、とり越し苦労がその時間だけでも置き去りにされ忘れ去られます。「我」も忘れて、景色と一体になりましょう。
 当院を通院して、少し回復して外出出来るようになった患者さんには散歩に行くようアドバイスします。私のこれまでの臨床経験では、散歩を続けるうつ病の方はほとんどの人が、回復しています。「散歩に行く前は確かにおっくうだが、帰宅すると気分は変わり、さわやかになっている」と言う患者さんがほとんどです。

 腹式呼吸・今に集中・散歩のこれら三つでグラフィックイコライザーの棒グラフの揺れを減少させ、心のエネルギーの充電をしてください。きっと生き易くなり、うつ病を予防・改善出来ます。すぐには出来なくとも(数年かかって出来る人もいますので)、あきらめずに、根気強く努力なされるようお願いします。

 

④お楽しみカード
 最後にもう一つだけ付録ですが、「お楽しみカード」を一つでなくいくつか作り、楽しんで充電してください。
 運動系だと、散歩・体操・ストレッチ・ヨガ・太極拳・フラダンス・ダンス・ボーリング等があります。
 文化系だと、受身だとテレビ・ラジオ・CD(音楽鑑賞)・ネット・アロマ、能動的だと読書・手芸(編み物、折り紙、パッチワーク)・楽器の演奏(オカリナ、大正琴、ギター、)・絵画・書道・ジグソウパズルなどです。
 大切な事は一つの事ばかりでなく、いくつか組み合わせることです。自分の好きな趣味をいくつか組み合わせて短時間やると「命のクスリ」になり、気分が改善し、エネルギーが充電されやすいと思います。試してみてください。

 

イラスト:ウエズタカシ

 

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「精神的エネルギー保存療法とは・・・」 その1

 

 第八話で精神的エネルギーが減少し過ぎると、うつ病を発症する事を、エネルギーのダムの水に例えて説明した。そして、うつ病からの回復にはそのエネルギーレベルを上げて元に戻せばよいと説明した。

 

 そのダムのエネルギーレベルを絶えず高いレベルに保ち、うつ病発症レベルまで減少しないよう工夫する事を、私は「精神的エネルギー保存療法」と呼んでおり、次の二つの、「放電系」と「充電系」に分けて考えている。

 

1. 放電を抑制しエネルギーレベルの低下を防ぐ方法。ダムの底の開いた穴を塞ぎ、そこからのエネルギーの放出を止める事。これをやらないと穴の開いたバケツに水を注ぐのと同じで、いくらエネルギーを注入しても、水位は上昇しない。
2.充電し入ってくるエネルギー量を増やす。エネルギーのダムの水位が上昇する。

 

 これらはうつ病発症の予防になり、治療にもなると私は考えている。
 今回は、1.の放電系について話す。(2.の充電系は次回の第十一話で)

 

 私がうつ病の患者さんを多く診察しているうちにまず初めに気づいたのは、多くの患者さんが、ご本人は「考えている」と思っている事が、客観的に見ると実は「気を病んでいる」と言う事実だった。「気を病んでいる」ために堂々巡りの思考をして、エネルギーを大量に放出しうつ病を発症しているのだった。それで、エネルギーの放出を抑える事が出来るよう「今に集中」して生活する訓練を繰り返し指導して、「消エネ」で生活出来るようになり、多くの患者さんが回復していったのである。


 さらに臨床を続けていると、気づいたのは「気を病む事」だけでなく、「不安」「人目を気にする」「完璧主義」「人との和が一番」「他者への怒り」「自分への怒り」「嫉妬」「悲哀感」「喪失感」等も、これらは「気を病む事」と同じくらい心の振動(揺れ)が大きく、大量のエネルギーを放電し、うつ病を発症する事が見えてきた。

 

 これらの十項目に気づいた時、まるでオーディオのグラフィックイコライザー(音量で上下に揺れ動く何本かの棒グラフ)を見ているようであった。


 これら十項目全てが、大なり小なり、全ての人々の心の中にあるため、これら一つ一つの心の振動により失われるエネルギーの消耗の総和が問題なのだと気づいた。そうであれば、逆に、一人一人の患者さんにおいて、これら十項目の心の振動を減らすことで、全体としてのエネルギーの消耗の総和を減らす事が出来れば、うつ病の予防・改善する事が出来ると思うようになった。その工夫の実践を、私は「精神的エネルギー保存療法」と呼んでいるのである。

 

 まず、あなた自身の精神的エネルギーの総消費量を知るために、次の図1.を例にして、図2.をプリントアウトして、書きこんでみてください(全く無い~最も強いの五段階評価です)。その総合点があなたの精神的エネルギーの総消費量です。これら十項目のそれぞれを、少しずつ減らしていく工夫をする事で、あなたの中に残るエネルギー量が増えるために、元気で生活がし易くなると思います。

 

 

 


 放電を抑えるための、これら十の項目への対応の仕方については、第十二話以降に、一項目づつ症例を挙げて説明する。次回は2.の充電系(エネルギーを増やす)についてです。

 

イラスト:ウエズタカシ
 

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夫婦の会話を二倍にする魔法

 

 突然、紫色の山高帽とマントを着た少年は現れて言った。「おじさん心のお医者さんなんだって」
 「そ、そうだけど」しどろもどろに答えた。
 「相談したい事があって来たんだ。実はうちの父さんと母さんの仲が最近うまくいかなくて。僕も気を使って笑わせたりしているんだけど効果なくて。何か仲を良くするいい方法を知らない?」
 「どうして仲が悪くなったの?」
 「母さんが魔女の会長に選挙に出て、当選してしまって」

 「へえ、君は魔女の子供なんだ」

 「それから、母さんが忙しくなって余裕がなくピリピリして、父さんに少し上から目線で話すものだから、父さんもイライラして。夫婦の会話があまりなくなり、二人共ピリピリしているんだ。こんな時どうしたらいいのか。魔法でも解決出来なくて相談に来たんだ」
 「難しい問題だね。夫婦の問題は双方の性格・考え方と夫婦の歴史が伴うので、簡単に解決とはいかない事が多いんだ。でも、この問題は、最近の事だから、早く手を打つといいと思うよ」
 「どうしたらいい?」
 「そうだね。一つのいい方法は、ペットを飼うことかな」
 「ペットを飼う?」
 「そうだよ。ペットを飼うと、夫婦の会話が自然と二倍になるんだ」
 「会話が二倍に?うちの父さんペット嫌いだけど」
 「大丈夫さ。ペットって飼えば必ず好きになるものさ」
 「へー面白そうだね。僕も前から飼いたいペットがあったから、父さんに頼んでみるよ」
 「ところで、君の名前はなんて言うの」
 「僕は、チャズチャズって言うんだ」
 「じゃあ、チャズチャズ君頑張って」
  少年は消えた。

 

 「おじさん元気」突然少年は現れた。
 「暑くてね。バテそうだよ。ところでどうだった」。
 「うん、少し上手くいったよ。ペットを飼ってからというもの、父さんと母さんがペットの話題が増えて、ピリピリ感が減って、ペットのしぐさを見て笑いが出てきたよ」
 「それは良かったね。上手く行くといいね。ところで、何のペットを飼ったの」
 「うん、今日連れて来たんだ。見て」
 「ティラノザウルス!!速く連れて帰ってくれ」
 「こんなに可愛いのに、変なおじさん。じゃあね!ありがとう!」

 

イラスト:ウエズタカシ

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人生の悩みとの上手な付き合い方
悩みの棚上げ棚卸しをして、前向きに生きる。

 

 人生には悩みというものはつきものである。
私も多く悩みを抱えている。しかし、この悩みというものは、何なのだろう。
悩みとどう向き合えば良いのか。どう付き合えば良いのだろうか。教えてくれる人は誰もいない。

 

 30数年間、心療内科医として、悩みを抱える患者さんと向き合ってきた。
いろんな悩みと出会った。
ある女性の患者さん「夫が浮気相手との悩みを私にどうしたらよいかと聞くんですよ」。開いた口がふさがらなかった。
不安障害の患者さん「悩みのないのが悩み」。沈黙するしかなかった。

 

 多くの患者さんの悩みは次の四つに分けられる。
仕事・人間関係・経済問題・健康問題である。
悩むとは、自分の大切な事に対し問題が発生し、その事を解決しようとして考えをめぐらす事である。

 

 悩むという事は、問題認識が出来、ストーリーを構築でき、このままいくとどうなるであろうかと、推測する能力があるからなのである。

無関心・認識する能力がなければ悩みは生まれない。認識し関心を持ち執着するゆえに悩むのである。
それからすると、一生懸命生きている「光」がゆえに、生まれてくる「影」であり、それゆえ人は悩むのではないだろうか。

 

 人生の悩みとどう向き合えば良いであろう。
それは、悩みをどうとらえるかによる。

 

 悩みを「運が悪かった」「不幸」と捉える事も出来る。それはそれで悪くは無い。
愚痴を言う事も、大切である。しかし、それだけでは、後ろにしか向かえないと思う。
「あの時あの道を選んでいたら良かった」「ああすればよかった」。「たら」「れば」では、前には向かえないと思う。

 

 悩みを人生から自分に与えられた「課題」・「試練」と捉えてみてはどうだろうか。それだけでも前向きになれると思う。
そうすれば、それらの悩みに「立ち向かっていこう」「生き抜こう」と闘いの「のろし」を揚げる事が出来る。
これまでの私の臨床経験でも、初めは落ち込んでいても、後々は悩みと立ち向かっていく患者さんと多く出会った。

 


 さて、本日の一番の課題「悩みとどう付き合うか」である。
人生の悩みを否認せず、しっかり向き合う事は大切な事である。
しかし、その付き合い方を間違えると、うつ病を発症する事もあるため、付き合い方を知る事は、大切な事である。

 

 悩みとの付き合い方の良くない例として、ロダンの考える人を挙げたい(ロダンの彫刻は大変素晴らしい彫刻である)。
24時間頬杖をつきっぱなしであるところがいけない。
朝から晩まで寝ながらも、一つの事を考えっぱなしだと、エネルギーを消耗してしまい、それが何日も続くとうつ病を発症してしまいかねない。
一日中悩み続けるという事は、うつ病へのたどり道なのであるから。

 

 私からの提案であるが、悩む事の「オン」と「オフ」が大切なのである。

 

 悩む時は「オン」と言って頬杖をつき、しっかり悩みと向き合い考える。
そして、5分たったら「オフ」と言って頬杖つくのをやめよう。
数学の問題でも5分間考えて解けない問題は、一時間考えても解けない事も多いのであるから。

 

 つまり、5分間考えたら、悩みへの執着を離れ、棚上げして、目の前の今に集中する事である。
そして、また、翌日に、棚から降ろして5分間だけ考えよう。
エネルギーのロスが少ないので、うつ病を予防する事になると思う。

 

 この悩みの棚上げ棚卸の訓練が大切で、出来るようになるのに時間はかかるが、切り替えの訓練を続ける事で出来るようになる。
そのための方法としては、「なるようになる」と言い聞かせて執着を断ち、手足を動かして目の前に集中しよう。

 

 江戸時代の禅僧の良寛さんの言葉で「災難に逢う時節には災難に逢うがよく候。死ぬる時節には死ぬがよく候。これはこれ災難をのがるる妙法にて候」という言葉があります。
私の解釈ですが、悩みはある程度考えたら、あるがままに受け止めて、執着を断ち、切り替える事が大切であると説いたのではないでしょうか。
もしかしたら、何か出来事があった時の、本当の災難は出来事そのものよりも、その災難が生み出す心の苦しみ(二次災害と私は呼んでいます)なのかもしれない(災難の出来事により違いますが)。
良寛さんは、「あるがまま受け止めて切り替える事」で、災難から生じる心の苦しみからの、逃れ方を説いたのかもしれない。
周囲の環境はなかなか変える頃は出来ない。変える事の出来るのは自分の心の受け止め方である。
そして、その災難の状況をしっかり受け止めて、その中で自分の出来る最大限の事を探して生きる事を説いたのだと思う。

 

 また、場合にもよるが、時間というクスリがある事もお忘れなく。

 

イラスト:ウエズタカシ

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エネルギーのダムの管理をしっかりして、うつ病を予防しよう

 

私がうつ病の患者さんへの、症状発生のメカニズムと治療について説明する際の例え話が二つある。

 

例えの一つは、車のヘッドライトをつけっぱなしにして置いていたらどうなるかという例え。
バッテリーが上がってしまい、故障ではないがエンジンがかからず、クーラーも使えなくなると説明する。

 

もう一つの例えは、これが最も重要な例えであるが、まず、エネルギーのダムというのがある事を想像してもらう。
このダムにエネルギーがいっぱいであれば、皆、元気である。

 

ところが、朝から晩まで寝ながらも一日中心配をしたり、馬車馬のように働き過ぎて、エネルギーを使い過ぎたために、ダムの水位がどんどん下った結果、ダムの底のゴツゴツした「岩」が見えてくる。
この「岩」が、うつ病の症状である(憂うつ、おっくうで元気が出ない、興味・関心の低下・集中力がない、等)。
 
だから、うつ病の症状を消すためには、出ていくエネルギーの量を減らし(考え過ぎる事をやめて切り替える)、入ってくるエネルギーの量を増やす(休養・内服・気分転換・散歩等)事が大切である。
こうすれば、自然にエネルギーのダムの水位が上がってきて、うつ病の症状である「岩」は、再びダムの水の底へと沈み、症状は消えるのである。
これがうつ病の治し方であると患者さんに説明をする。

 

ここまでは前置きで、これからが、今回のうつ病の予防の本論である。
このように、エネルギーレベルの低下がうつ病を発症させるという事が理解出来れば、うつ病の予防は可能となる。

エネルギーレベルの低下の症状(心と体からのメッセージ)に「気づいて」、これ以上エネルギーのダムの水位が下がり過ぎないように、ダムの水位をしっかり「管理」出来ればよいのであるから。

 

エネルギーのダムの水位の管理の方法の例を示す。
これは、私自身が28年前、開院してしばらくして、うつ状態になった時に、必死でどうにか体調を立て直そうとして、苦し紛れに以下のように、自分の体調を毎日ノートに簡単に記録して、コントロールしようとしていた。
そして、立て直すのに、半年ほどかかったと思う。

当時は、始めは私自身、自分がどうなっているか全く解らない状態であった。
体調の記録により、「これは心と体からの自分へのメッセージである」と気づき、自分の状態を把握する事が出来た事で、徐々に体調をコントロール出来るようになっていった。
 
その体調の記録の仕方を説明する。

 

まず、自分の調子を1から10までの十段階に分けて評価する。
1が最悪で元気がない状態。5がまあまあ普通。10はとても調子が良いである(10点満点)。

 

この自己評価を毎日ノートにつけて、4以下にならないように気を付ける事。
出来るだけ、5、6以上に保つように生活を心がけるのである。
そのためには、きついと感じた時は無理して何でも完璧にする事をあきらめることにした。
仕事の考え事も仕事を離れたら、考えるのを減らすようにした。
効果はすぐには顕れなかったが、このような工夫を続けているうちに、波がありながらも、半年一年もすると、徐々に安定してコントロールする事が出来、調子も良くなってきた。
疲れて調子の悪い人は、ぜひ、試してみてください。

 

これだけでも良いのですが、さらに、自分の「ストレスのバロメーターである体の症状」を略記号で、そばに併記すると、さらに自分の状態が解り易くなり、症状を軽減させ易いと思います。

体の症状は「痛み」と「だるさ」だけでも良いです。
頭痛は「ズ」と書き、肩こりは「カ」、腰の痛みは「コ」、だるさは「ダ」と、自分のストレスの体の症状の頭文字をカタカナで併記してみてください。

 


これらの記録をつける事で、一カ月単位でも、自分の調子を客観的に振り返って見る事が出来るので、「気づき」につながり、気がつけば改善するよう工夫が出来るため、エネルギーのロスが減り、「エネルギーのダムの水位の管理が出来る」ので、うつ病の予防が出来ます。

 

イラスト:ウエズタカシ

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