Thu, January 18, 2007

トーマの心臓

テーマ:書評・マンガ評

thoma

ぼくは、ほぼ半年の間ずっと考え続けていた
ぼくの生と死と、それから一人の友人について

ぼくは成熟しただけの子供だ、ということは充分判っているし
だから この少年の時としての愛が
性も無く正体も解らない何か透明なものへ向かって
投げ出されるのだということも知っている

これは単純な賭けなぞじゃない
それから ぼくが彼を愛したことが問題なのじゃない
彼がぼくを愛さなければならないのだ
どうしても

今 彼は死んでいるも同然だ
そして彼を生かすために
ぼくはぼくの体が打ち崩れるのなんか 何とも思わない

人は二度死ぬという
まず自己の死
そしてのち、友人に忘れ去られることの死

それなら永遠に
ぼくには二度目の死はないのだ
(彼は死んでもぼくを忘れまい)
そうして
ぼくはずっと生きている
彼の目の上に

(萩尾望都:トーマの心臓)


舞台はドイツ。全寮制のギムナジウム(高等中学校)シュロッターベッツ学院。
13歳の金髪の美少年トーマ・ヴェルナーの死という
衝撃的なシーンからこの物語は始まる。
月曜、ユーリ宛にトーマからの「遺書」が届く。
ユーリを慕っていたトーマの死と過去の事件を忘れようと
苦悩しつつ平静を装う日々を送るユーリの前に
トーマにそっくりなエーリクが転校してくる。

現在のオランダ。外は曇天。
こんな典型的な北ヨーロッパの冬の日々には
70年代の黄金期少女漫画がよく似合う。

現在も輝きを失わない少女漫画の不朽の名作の数々は
70年代に主に「24年組」と呼ばれる作家たちによって続々と生み出された。
萩尾望都、竹宮恵子、山岸涼子、大島弓子、木原敏江、池田理代子などなど。
これらきらびやかな作品の数々のほとんどが、欧米が舞台となっている。
当時の少女漫画の中のヨーロッパは、ヨーロッパ以上にヨーロッパで
ヨーロッパの地名や名前を取りながら、既に別空間を織り成している。
この時代は現在も多くの人が「少女漫画の黄金期」と絶賛する。
はっきりいうが、最近の漫画はどれもグラフィック的には向上している。
しかしやはりこの黄金期漫画の数々にはかなわないものがある。
黄金期漫画の名シーンは一生心に焼き付いて離れない。

このトーマの心臓の舞台となるシュローターベッツも
ドイツの全寮制男子校という形を取った、天使たちのすむ天上の世界であり
永遠の異空間である。

主な人物は、エーリクとユーリ。
トーマの心臓では、萩尾の初期作品「11月のギムナジウム」の
登場人物たちの名前がそのまま使われてるが、
キャラクターの性格や役割がもっと奥深く描かれている。
マザコンだが天真爛漫でストレートなエーリク。
品行方正で常に自分を抑えて生きている優等生のユーリ。
そして、大人ぶっているが自分の想いにも本当は気がついてほしいタイプのオスカー。

「癒しと許し」「現実を直視し悲劇を乗り越えた上での許容」
そして「自己の回復と自己の真実の発見。」
このテーマは現在でこそよく聞かれるようになったが、
萩尾先生は70年代にとっくのとうにこのテーマを「トーマの心臓」の中に取り入れていた。
このテーマは後の萩尾作品「残酷な神が支配する」でジェルミという
やはり美少年キャラを通じ、ますます具体的に描かれるようになる。

ユーリは幼い頃からの自分に注がれた偏見に耐え、サイフリートの事件を封印し、
自分を抑えて勉学に励み成功する道を存続しようとしていた。
反面それは生ける屍のような日々でもあった。
しかし最後には神学校への転校という道をとり、神との対話を選んだ。
それはトーマが自ら命を投げ出すことにより(ユーリに翼を与えることにより)
ユーリの中で生き続けるトーマとの対話を選ぶことになる。
オスカーのいうとおり、トーマはユーリをつかまえたのだった。

少年たちは自然な気持ちで少年に「愛している」という。
ホモだ、ゲイだというカテゴリーではない。
ただ純粋に好きなものを好き、といっている。精神愛なのである。

少年という形をしていても、そこに性別はない。
むしろ少年という形が性別を超えたものを表現しやすい。
男性のように粗野でなく、女性のように生々しくも無い。
純粋なる愛、神への愛などの精神愛がよく似合う。
まさに天使たちである。

私たちもいつしかこの世界に引き込まれ、
異空間に投げ出される読後感が心を覆う。
トーマの心臓、この一冊に永遠が閉じ込められている。

つかの間の少年の時。
一瞬の輝きだからこそ永遠に人々の心に残るものなのだろう。

ちなみに冒頭の私の我流イラストだが、年下のはずのトーマがユーリより老けてることに
今気がついたが、そんなこたあどうでもいい。
とにかく知ってる人は知ってますが、不朽の名作です。



萩尾 望都
トーマの心臓

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コメント

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1 ■はじめまして♪

アメーバ図書館からお邪魔しました。
トーマの心臓、中学生の頃に読みました。
当時、何度繰り返し読んでも理解できない部分がありましたが、今日、それがわかったような気がしました。
ユーリスモールバイハン。。。。ん十年たった今でも忘れられない名前です。
何度も引越しをしましたが、今でも書棚の片隅に大切に持っています。
もう一度読んでみたくなりました。
ありがとうございました。

2 ■cozysheep さん

訪問ありがとうございます。
トーマの心臓、私も子供の頃は何が何だかわかりませんでした。少女コミックに連載されてたのですが、大人にならないと解らない内容ですよね。
ただ大きなインパクトはあるのは確かですよね。

こちらこそ嬉しいコメントありがとうございました。

3 ■懐かしい!

こんにちは!
「トーマの心臓」は知っていても読んだ事はありませんでした。萩尾望都って、そのころはちょっと敷居が高かったのかもしれないです。
山岸涼子や大島弓子にはまっていました。池田理代子は流行りすぎて皆読んでましたけど。。

この頃読んだ漫画はわたしにとっても特別でした。少女漫画の黄金期。なるほど、と思いました!

これを機に、萩尾望都の漫画をよんでみたくなりました♪

4 ■トーマの心臓

ミッフィーさん、ご訪問ありがとうございました。
今はイギリスで「ポーの一族」の世界ですけど、
「トーマの心臓」は私の一生涯のバイブルです。
ユーザIDを決める時も「ユリスモール」にしようかと思っていたくらい・・・スペルが曖昧で諦めましたが。
最近の萩尾望都作品はちょっと苦手ですが(「残酷な神が支配する」とか、救いがない・・・よく描き上げたなと思います)、またミッフィーさんのサイトに遊びに来ますね!

5 ■コメントありがとうございます

melodywingさん
私も同じく、昔は萩尾望都は敷居が高かったんですよ。20過ぎてから読み始めたんですが、もう文学ですね。今から読むと逆に感動がひとしおかもしれませんね。大島弓子と池田理代子のベルばらはオランダにも持参しました^^!どの漫画家さんも素晴らしいですよね。

6 ■コメントありがとうございます。

>(ひ) さん
コメント&訪問ありがとうございます。
ブログのタイトルが何となく気になっていたのですが、やはりポーだったとは!すばらしいです。
本当、トーマはバイブルですよね。
ユリスモースがID!。これはかなり濃いですね。
70年代にロマンを築いた少女漫画家たちの大部分が、後にレディコミへと移行していったのに対し、望都さんはマイペースに自分の世界を描きあげてる。これもすごいですよね。
私もまた「ミッドランドの丘」へ伺いますね

7 ■はじめまして

懐かしいです~。
私は激しく、オスカーに傾倒していました~。
訪問者は、電車の中で読んで、不覚にも泣きました

8 ■サバヤッコさん

はじめまして。もしやブログペットから起こしですか?私、昨日始めたばかりなんですよ。よろしくお願いします。

オスカー、私も好きです。背伸びしてるところが可愛い!
やっぱこの時代の少女漫画は違いますよね。
あのきらびやかな時代がどうして過ぎてしまったのか、ちょっと不思議に思う今日この頃なんです。

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