トーマの心臓
テーマ:書評・マンガ評
ぼくは、ほぼ半年の間ずっと考え続けていた
ぼくの生と死と、それから一人の友人について
ぼくは成熟しただけの子供だ、ということは充分判っているし
だから この少年の時としての愛が
性も無く正体も解らない何か透明なものへ向かって
投げ出されるのだということも知っている
これは単純な賭けなぞじゃない
それから ぼくが彼を愛したことが問題なのじゃない
彼がぼくを愛さなければならないのだ
どうしても
今 彼は死んでいるも同然だ
そして彼を生かすために
ぼくはぼくの体が打ち崩れるのなんか 何とも思わない
人は二度死ぬという
まず自己の死
そしてのち、友人に忘れ去られることの死
それなら永遠に
ぼくには二度目の死はないのだ
(彼は死んでもぼくを忘れまい)
そうして
ぼくはずっと生きている
彼の目の上に
(萩尾望都:トーマの心臓)
舞台はドイツ。全寮制のギムナジウム(高等中学校)シュロッターベッツ学院。
13歳の金髪の美少年トーマ・ヴェルナーの死という
衝撃的なシーンからこの物語は始まる。
月曜、ユーリ宛にトーマからの「遺書」が届く。
ユーリを慕っていたトーマの死と過去の事件を忘れようと
苦悩しつつ平静を装う日々を送るユーリの前に
トーマにそっくりなエーリクが転校してくる。
現在のオランダ。外は曇天。
こんな典型的な北ヨーロッパの冬の日々には
70年代の黄金期少女漫画がよく似合う。
現在も輝きを失わない少女漫画の不朽の名作の数々は
70年代に主に「24年組」と呼ばれる作家たちによって続々と生み出された。
萩尾望都、竹宮恵子、山岸涼子、大島弓子、木原敏江、池田理代子などなど。
これらきらびやかな作品の数々のほとんどが、欧米が舞台となっている。
当時の少女漫画の中のヨーロッパは、ヨーロッパ以上にヨーロッパで
ヨーロッパの地名や名前を取りながら、既に別空間を織り成している。
この時代は現在も多くの人が「少女漫画の黄金期」と絶賛する。
はっきりいうが、最近の漫画はどれもグラフィック的には向上している。
しかしやはりこの黄金期漫画の数々にはかなわないものがある。
黄金期漫画の名シーンは一生心に焼き付いて離れない。
このトーマの心臓の舞台となるシュローターベッツも
ドイツの全寮制男子校という形を取った、天使たちのすむ天上の世界であり
永遠の異空間である。
主な人物は、エーリクとユーリ。
トーマの心臓では、萩尾の初期作品「11月のギムナジウム」の
登場人物たちの名前がそのまま使われてるが、
キャラクターの性格や役割がもっと奥深く描かれている。
マザコンだが天真爛漫でストレートなエーリク。
品行方正で常に自分を抑えて生きている優等生のユーリ。
そして、大人ぶっているが自分の想いにも本当は気がついてほしいタイプのオスカー。
「癒しと許し」「現実を直視し悲劇を乗り越えた上での許容」
そして「自己の回復と自己の真実の発見。」
このテーマは現在でこそよく聞かれるようになったが、
萩尾先生は70年代にとっくのとうにこのテーマを「トーマの心臓」の中に取り入れていた。
このテーマは後の萩尾作品「残酷な神が支配する」でジェルミという
やはり美少年キャラを通じ、ますます具体的に描かれるようになる。
ユーリは幼い頃からの自分に注がれた偏見に耐え、サイフリートの事件を封印し、
自分を抑えて勉学に励み成功する道を存続しようとしていた。
反面それは生ける屍のような日々でもあった。
しかし最後には神学校への転校という道をとり、神との対話を選んだ。
それはトーマが自ら命を投げ出すことにより(ユーリに翼を与えることにより)
ユーリの中で生き続けるトーマとの対話を選ぶことになる。
オスカーのいうとおり、トーマはユーリをつかまえたのだった。
少年たちは自然な気持ちで少年に「愛している」という。
ホモだ、ゲイだというカテゴリーではない。
ただ純粋に好きなものを好き、といっている。精神愛なのである。
少年という形をしていても、そこに性別はない。
むしろ少年という形が性別を超えたものを表現しやすい。
男性のように粗野でなく、女性のように生々しくも無い。
純粋なる愛、神への愛などの精神愛がよく似合う。
まさに天使たちである。
私たちもいつしかこの世界に引き込まれ、
異空間に投げ出される読後感が心を覆う。
トーマの心臓、この一冊に永遠が閉じ込められている。
つかの間の少年の時。
一瞬の輝きだからこそ永遠に人々の心に残るものなのだろう。
ちなみに冒頭の私の我流イラストだが、年下のはずのトーマがユーリより老けてることに
今気がついたが、そんなこたあどうでもいい。
とにかく知ってる人は知ってますが、不朽の名作です。

萩尾 望都
トーマの心臓























1 ■はじめまして♪
アメーバ図書館からお邪魔しました。
トーマの心臓、中学生の頃に読みました。
当時、何度繰り返し読んでも理解できない部分がありましたが、今日、それがわかったような気がしました。
ユーリスモールバイハン。。。。ん十年たった今でも忘れられない名前です。
何度も引越しをしましたが、今でも書棚の片隅に大切に持っています。
もう一度読んでみたくなりました。
ありがとうございました。