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2010年07月18日(日) 00時23分16秒

Die Reise einer Pilgerfahrt ~Ein cooperator~

テーマ:◆銀河英雄伝説(二次小説)



 
部屋の外から、耳を劈くような激しい物音が響いた。


 「・・・おい。何の音だ!?」
 「見てみましょう!」
 
 慌ててドアを開ける。
 外の状況を確認したユリアンとポプランは、いったい何事かと顔を互いに見合わせた。 
 その2人の目に飛び込んで来たのは・・・。
 自分達の積年の敵である、特徴ある黒と銀の軍服の一隊であった・・・。
 
 思わず息を呑む2人であったが、激しい銃声と、それに続く怒号とを耳にして、瞬時に我に返った。
 それは凄まじく、鼓膜が破れそうなぐらいの不快な音を立てた。
 それから、セラミック製のトマホークを手にした、装甲擲弾兵達がなだれ込んで来るのが目に飛び込んで来た。
 間違いない・・・帝国軍だった。


 「なぁ、ユリアン・・・あれは帝国軍だよな?」
 「・・・どうも、そのようですね」


 白兵戦を繰り広げているが、奇妙な事に地球教の信者達は生身にも関わらず、兵士に組み付いている事だった。
 組みついている相手は、装甲服を身にまとった、屈強な装甲擲弾兵達である。
 教徒達は装甲擲弾兵達にまるでボロ雑巾のように殴り倒され、斬殺されている。
 それでも、教徒達は怯む事無く向かっていく・・・とても、生きている人間とは思えないほどの底知れぬ行動だ。


 「・・・何だかおかしくないですか?」
 「こりゃ・・・あれだ。サイオキシン麻薬のせいだな」
 「・・・麻薬で洗脳されているのでしょうか?」
 「いや、違うね。洗脳されている事も、幻覚を見ている事もあいつらには既に分らないさ。もう、人じゃないんだ。ここは、教団幹部の言う事だけを実行する

“廃人”を作る為のありがたい施設だったのさ」
 ポプランは吐き捨てるように言い、ユリアンは黙って頷いた。


 かつては“人”であった教徒達は、仲間が次々に殺されても、怯む事がなかった。
 まるで“機械人形”のように、無表情のままで兵士達に向かって行くのだった。
 それは見るからに不気味な光景だ。
 倒れても倒れても立ち上がる教徒達・・・まるで墓場から蘇ったゾンビであり、屈強でまともな兵士達の神経を次第に萎えさせていった。


 状況は確実に、刻一刻と悪い方へと動き出していた。
 ただでさえ、困難な状況にあったのに、まさか帝国軍が現れるとは・・・想像だにしていなかったので一瞬戸惑う。
 「参ったな・・・」
 法衣のフード外して、ポプランは髪をクシャクシャと掻いた。
 だが、躊躇している暇はまるでなかった・・・。
 ポプランは数瞬の後に、着ていた地球教徒幹部の、濃い灰色の法衣を勢い良く脱ぎ捨てた。
 「おい!お前らも早くこいつを脱ぐんだ!こんな物を着ていて奴等と間違えられて撃たれでもしたら目も当てられん!」
 「あ・・・はい!」
 ユリアンとマシュンゴも急いで、少し前に地球教の幹部を昏倒させた時に奪って着込んでいた法衣を脱ぎ捨てた。

 「行くぞ!」
 ポプランの合図に、3人は通路を走り出していた。


 外には苛烈な撃ち合いを物語るように、今まで無機質だった壁や通路は真っ赤に染め上げられ、まさに血の海と化していた。
 ・・・鉄錆のような鋭い刺激臭が鼻孔を突く。


 「こりゃぁまた・・・」


 直視できないほどの、帝国軍兵士と地球教徒の遺体とが無造作に転がっていた。
 そして、武器も転がっていた。
 「・・・おっと、こいつは。・・・使えるかな?」
 ポプランは、帝国軍兵士の遺体の脇に転がっていた、真っ赤に血塗られていたライフルを手にする。
 ありがたい事に武器はほぼ無傷だった。
 彼は殆ど撃つ事無く事切れたのだと分る・・・。
 何しろ、エネルギーは十分すぎるほど充填されていたから。
 
 「・・・どうですか?」
 「あぁ、ありがたい事に使える。拾っておいた方がいいな。・・・おい、そっちの武器も見てみろ」


 ユリアンもマシュンゴも地球教徒の遺体脇にあった武器を次々に手にする・・・ありがたい事に、こちらも十分に使える物だった。


 「ユリアン。・・・一時的にだが、宗旨替えと行こうぜ!」
 ・・・つまり、この際、民主共和制を棚に上げて、専制君主国家の帝国軍に協力すると言う訳だ。
 「賛成です。この場合は・・・仕方ないですからね」
 ユリアンもポプランの考えには異存はなかった。
 第一、こんな所で死んでしまったら、地球行きを許可してくれたヤン提督に申し訳が立たない。
 生きてここを出なくてはならない。
 その為には、帝国軍に協力してでも・・・生き延びねば!
 ユリアンは気を引き締めて銃を握り締めた。
 マシュンゴも、体躯に合った大型のバズーカを担いで、「人は運命には逆らえませんから」と大きく頷いた。
 それに、自分達とは違う場所にいるはずのボリス・コーネフとオットテールを捜すには、帝国軍の力を借りた方が得策だった。


 「それにしても、ボリスのヤツが用意したものが役立ちそうだな・・・」
 「え?」
 「・・・俺達の偽名さ!」
 ユリアンは無言で頷いた。
 万が一の事を考えて、ボリスは知り合いやら、あちこちに手を廻して、フェザーン人としての、偽名のIDカードや商船への乗船許可証等を用意してくれていた
のだ。   
 使わないにことした事ではないが、確かに、これからはこれが役に立つだろうと、ユリアンもマシュンゴも腹を括ったのだった。




 帝国軍のシュタミット少佐が、地球教徒とは明らかに毛色の違う3人組に気付いたのは、ユリアン達が“帝国軍への協力”を決めてから数分後の事だった。
 「卿等は一体・・・?」
 いきなり、明らかに狂信者どもとは毛色の異なる人間が現れたので、彼は面くらっているようだった。
 「私達はフェザーンの独立商船のクルーです。フェザーンからこの地まで巡礼者を運んで来たのですが、トラブルに巻き込まれてあいつらに閉じ込められていたんです。この事態で何とか抜け出す事には成功したのですが、教団の連中から理不尽な扱いを受けておりましたので、我々も地球教徒には少なからず恨みがありますので。ですから、是非、あなた方に協力させて頂けないかと思いまして・・・。あぁ、お疑いでしたらこれを・・・我々の身を安堵するフェザーンの身分証になります」
 ユリアンはさり気なく身分証を提示するが、シュタミット少佐はそれをちらりと確認しただけで頷いた。
 「それはありがたい申し出だが・・・。しかし、そうは言っても民間人を危険な目に巻き込んだとあっては・・・」
 ユリアンの言葉をすぐに信じて良いものかどうか、シュタミット少佐は戸惑いを見せていた。
 「是非、協力させて下さい。実は我々の船長は他の場所に閉じ込められていまして。ここを発つにしても、まずは船長を救い出さなければなりません。それに、我々は多少なりとも内部の構造を知っておりますから、あなた方のお役に立てるかと思います」
 ユリアンの真剣な眼差しで訴えた。
 その瞳を見ていたシュタミットは、ユリアンの言葉に嘘がない事を感じ取った。
 実際に、ボリス・コーネフは別の場所に監禁されていたのだ。


 「うむ・・・しかし、どうしたものか・・・」
 
 シュタミットには、躊躇するほどの時間が無かった。
 それほど、地球教徒の抵抗の行動が凄まじく、兵士達に被害が出ていたからだ。
 大体、地球に到着したばかりの自分達はここに不慣れだが、彼等は多少なりとも内部を知っている・・・。
 この申し出は渡りに船だったのだ。


 「そうか。そういう事であれば協力してもらおう。おい、カウヘル中尉!急いで、リンザー中佐の所に彼等を案内するんだ!」


 シュタミットの言葉にカウヘル中尉は頷いた。
 「・・・どうぞ!中佐がいらっしゃるのはこちらです!」
 こうして3人は、地球教討伐降下隊の指揮を執っているコンラート・リンザー中佐の下<もと>へと連れて行かれた。


 カウヘル中尉から事情を聞かされたリンザーは何度も頷いていた。
 「ところで、卿等は狂信者どもに捕らわれていたという事だが、どうしてそんな事態になったのだ?」
 これは、当然聞かれるだろうと思っていた。
 ユリアンは溜め息混じりに、「・・・お恥ずかしい話ですが、我々がここまで運んで来た巡礼者との間に起きた金銭トラブルが原因だったんです」と答えた。
 フェザーンの商人は物資の輸送に留まらず、金さえ払えば“人”をも運ぶと聞いた事があったのを思い出してリンザーは首肯した。


 「ふむ・・・なるほどそういう事だったのか。そいつは災難だったな。・・・それではすぐに本隊と連絡を取ろう」


 リンザー中佐は急いでワーレンに報告して了解を取った。
 そして、3人の申し出は受け入れられ、正式に帝国軍に協力する事になった。
 「彼等の重要な施設は、一般信者の宿舎とは異なる奥の院にあるようです。こちらからそこに行けます」
 ユリアンが指を差すとリンザーは頷き、兵士達一隊とユリアンは奥の院へ向かう事になった。
 ユリアン達はこの数日の間、この場所で過ごして色々と調べていたので、帝国軍よりは内部事情に精通していたのが幸いしたのだった。


 喧騒の中、何とかボリス・コーネフと再会を果たしたユリアン達は、混乱のさなか、ボリスが見つけ出していた資料室へ忍び込んだ。
 ユリアンは必要な情報をディスクに収めるとそれに3重のプロテクトをかけ、ハード本体のデータは全て抹消した。
 ・・・勿論、これは、帝国軍の手に渡らせない為にだ。
 ただ、全て順調に進んでいるように思えた中で、悲劇が起きた。


 資料室の入り口を見張っていたボリスの信頼する部下の1人であるオットテールが、大挙して押し寄せた地球教の狂信者共に襲われて刺殺されてしまったのだ。
 狂信者どもを撃ち殺して、慌ててオットテールの元へと駆け寄るボリスだったが、オットテールは急所にナイフを一突きされ、ほぼ即死の状態であった。

 「くそ・・・」
 ギリギリと歯軋りをするボリス。
 そしてその直後、4人は不気味な振動音を聞いたのだった。


 「まさかとは思うが・・・。奴等は本部を自爆させる気かもしれん!」


 ポプランが叫ぶと、「・・・ったく、狂信者ってのはこれだから始末に悪い・・・」とボリスは舌打ちをした。
 ボリスはオットテールの目を閉じてやるのが精一杯で、遺体をそのままにして、4人は一斉に走り出した。 
 途中で爆発の為に、天井の硬い岩盤が崩れだした。
 本当に地球教徒達は本部に爆薬を仕掛たのだ。
 嫌な予想が現実になってしまった。


 本部の半分が既に土砂に押し潰されて壊滅状態にあり、リンザー達のいるもう半分も、いつ崩れ落ちるか分らない状況で、一刻の猶予もなかった。


 どんどん崩れる岩盤・・・危うく瓦礫に押し潰されそうになる。
 爆発が起こり、大小様々な瓦礫が飛んで来る中での逃避行であり、ポプランとボリス、ユリアンとマシュンゴの4人は、まさに死と隣り合わせの状況だったの

である。
 4人が何とか帝国軍との合流を果たしたところで、緊急事態を察したワーレンからの撤退命令が下った。 
 命からがら脱出したものの、服はボロボロだし、身体中のあちこちに傷が出来て、良くもまぁ無事だったものだとユリアンは天を仰いだ。
 薄墨色の暗くどんよりした空は、まるで地球そのものだった。


 地上で待機していた『親不孝<アンデューティネス>号』の元へと何とか辿り着いたユリアン達。
 『親不孝<アンデューティネス>号』を岩山の中腹に着けて待機していたマリネスクとウィロックは、オットテールを失ったものの、ボリスやユリアン達が無事だった事にホッと胸を撫で下ろした。
 マリネスクとウィロックが4人の怪我の具合を見たが、取りあえず、打撲痕や軽い裂傷はあるものの、特に命が危険な状態ではなかった。
 それでも、ユリアンをかばったマシュンゴだけは、背中や腕に大きな裂傷をつくっており、幾つもの包帯を巻く羽目にはなったが。


 地球を出立する直前に、これまでの事情を説明する為に、ユリアンとポプランの2人は、ワーレンの旗艦『火竜<サラマンドル>』の会議室に招かれた。 
 オットテールが死亡したので、ボリスを筆頭にマリネスクとウィロックは出港準備にいつも以上に時間を取られ、マシュンゴは怪我の状態があまり良いとは言えなかったから、ボリスは自分の代わりにあえて2人を行かせたのだ。
 それに、帝国軍の将官と接触すれば、何か少しでも有意義な情報なりが得られるかもしれないとの、ボリスなりの配慮でもあった。

 
 ユリアンはこの会見に先立って、リンザー中佐から、ワーレンは地球に着いてすぐに、軍内部に潜んでいた狂信者に暗殺されかかり、一時意識不明の重体に陥っていたと聞かされていた。
 その際に左腕を失くし、今後は義手になるであろう事も知らされたのだった。
 そして、リンザー中佐の腕も、かつての戦役で負傷し、義手である事を知ったのだった。

 ユリアンは、司令官が狂信者によって暗殺されかかったという事実に驚愕し、地球教の底知れぬ不気味さを改めて認識し、手に入れたデータを必ずヤンに届けなくては・・・と強く心に誓った。


 副官のハウフ中尉を伴って会議室にやって来たワーレンは上半身が包帯姿だったが、堂々とした風格を漂わせており、暗殺されかかって一時は意識不明だった

と聞かされていたユリアンは少しホッとしていた。


 「ユリアン・ルフトに、アルフレット・ポプランだったな。・・・こちらから呼び立てしたのに待たせて申し訳ない」


 ワーレンは、2人対してまずは遅れた非礼を詫びた。
 ユリアンとポプランは慌てて立ち上がって敬礼をした。
 生まれて初めて、銀河帝国軍の名だたる将官の旗艦に乗艦しているのだ。
 しかも、相手の階級は上級大将・・・。
 同盟軍にはこの階級は無いが、この階級の上は軍人としての最高位である元帥しかないのだ。
 如何にワーレンが非凡で、皇帝ラインハルトにその才を買われて信任されているか・・・を目の当たりにしてユリアンは、いつになく、緊張と、そして、心地良い興奮を覚えていた。
 上級大将なのだから、尊大に構えていてもおかしくないのに、遅れた事を素直に詫びる・・・これで、この人の為人<ひととなり>が分かるというものだ。


 ユリアンもポプンも、何もかもが珍しくて、つい、キョロキョロと辺りを見てしまったが、これがかえって良かったようだ。
 ワーレンはその様子を目を細めて愉快そうに見ていた。

 「ふむ。その様子では、卿等は・・・戦艦に乗るのは初めてか?」
 「あ・・・はい。初めてです。あまりにも大くて驚いてしまいまして・・・」とユリアンは当たり障り無く答え、ポプランも大きく頷いて見せた。
 ワーレンは「なるほど・・・そうだろうな。この艦は特に大きいのだ」と、にこやかに微笑んだ。
 コーネフが身分証を偽造してくれていたので、ユリアン達は帝国風の偽名であり、身分はボリス・コーネフの部下という事になっている。
 身分を偽らなければならない心苦しさもあるが、直接、帝国軍の将官に相見えるのは、捕虜交換式で当時大将だったジークフリード・キルヒアイス以来で、ユリアンはこの会見の成果を噛み締めていた。


 ワーレンはゆったりと席に着き、2人も椅子を勧めた為、ユリアン達も腰を下ろした。
 ワーレンは顔色が悪い中にも人の良い笑顔を見せ、リンザー中佐から、ワーレンについて色々聞いていたユリアンは、ワーレンの謙虚な為人<ひととなり>にかなりの好感を持った。
 「・・・卿は随分と若いのだな」
 ワーレンは意外そうな顔でユリアンを見て、率直に感じたままを口にした。
 ユリアンは一瞬、戸惑いの表情を見せる。
 「すみません・・・彼はうちの見習いと言うか、商人としての実習をしておりまして・・・」とポプランが横から口を出した。
 「ほう?」
 「・・・はい。いわゆる、船長の知り合いの息子を預かっているという訳でして」
 「なるほど・・・」
 ワーレンは苦笑しながら首肯した。
 ポプランの陽気で気さくな雰囲気は、“独立独歩”の気風のフェザーン商人を演じる上では非常に役に立っていた。
 いい意味で、軍人らしさがないのが好都合だったのだ。


 彼等の協力なくしては、今回の任務遂行はこれほど短期間では終らなかったかもしれない・・・と、ワーレンは目の前の2人のフェザーン人に好感を覚えていた。


 「リンザー中佐によれば、地球教の本拠を攻略するのに、すくなからず協力してくれたそうだな」
 「はい、理不尽にも地球教徒にとらわれておりましたので、半ば自分達の意趣がえし、喜んで協力させていただきました」 
 ユリアンの顔にはうっすらとだが、傷が残っていた。
 勿論、ポプランの額や頬にもいくつもの傷がある。
 天井の落石の際に、何とか防いではいたが、それでも多少は石が当たったからだ。
 それは、ワーレンの目には痛々しく見え、彼は、この勇気あるフェザーン商人達に敬意を表した方が良いと考え始めていた。


 「何か礼をもって功に酬いたいが、望みはないか」
 「私ども一同が、つつがなくフェザーンに戻れますなら、この上、何の望みもございません」
 ユリアンのフェザーン商人らしからぬ、あまりの欲の無さにワーレンは驚いたようだった。
 「もし商売の上で損害をこうむったなら、補償してやってもよい。遠慮せず申し出ることだ」
 ワーレンは、ユリアンの緊張を解きほぐそうと、柔らかい表情を見せた。
 一瞬、考え込むユリアンだったが、その際、ポプランが横からユリアンを突っついて何か耳打ちをした。
 それで、ユリアンは大きく頷いた。
 ポプランは「フェザーン商人に欲がないと絶対に怪しまれるぞ」と忠告していたのだが、声が小さかったのでワーレンには聞こえなかった。
 そんなやり取りを見ていたワーレンは、ポプランの事をユリアンの教育担当者だと思ったようだった。
 「損害額は・・・計算してみませんと、しかとは分りません。後日、船長から改めて提出させていただきたいと思いますが」
 これを聞いたワーレンは顎に手を当てた。
 「・・・さもあろうな。だが、我々はまもなくこの地を発って、帝都に戻らなければならんが・・・」
 そこでユリアンは思い切って、「それでしたら、私どももオーディンまで同行する事をお許し願えませんでしょうか?私はあいにくとまだ帝都を見た事があり

ませんので、この際、帝都見物が出来れば・・・と思います。幸い、帰りは急ぎの荷物もございませんし」と、図々しくお願いしてみた。
 勿論、断られるのを承知の上でだ。
 ワーレンは大きく破顔した。
 「そんな事ならたやすい事だ。早速、部下に手配をさせよう」
 ユリアンの申し出を、ワーレンは快く受けてくれたのだった。
 「ありがとうございます」と礼を言いながら、ユリアンは心の中で口笛を吹き、喝采していた。
 ワーレンはユリアンを、1人立ちして間もないフェザーン商人の息子に違いないと思っていた。
 そして、彼が謝礼に、“帝都見物”を所望した事で、自分の考えが合っていたと納得したのである。
 短い会見の間に、ユリアンはワーレンの信頼を得たのだが、ワーレンもまた、ユリアンの不思議な魅力に惹き付けられていたのだ。


 「いやぁ・・・それにしても、お前さんも思い切った事を言ったな」
 さすがのポプランも、ユリアンがオーディン行きを決意するとは思っていなかったようだった。
 「異なる価値観に触れてみる事も大切だって、前にヤン提督がおっしゃっていたんです。だから、実際、帝都には行ってみたかったんです。それに帝国軍と一緒なら怪しまれずに入国出来るでしょうし」
 「そりゃそうだ」
 ポプランは愉快そうだった。
 そして、「それと・・・帝都ならきっと若くて見目麗しい帝国美人もいるだろうしな」と付け加えて、ユリアンを苦笑させた。


 こうして、「親不孝<アンデューティネス>号」は出立時、ワーレン艦隊の最後尾にささやかな雄姿を見せたのだった。



 オーディンに到着したその日の内に、フェザーン商船の『親不孝<アンデューティネス>号』のクルー全員が憲兵隊の事情聴取を受けた。
 フェザーン商船であるのと、地球教との絡みの件ではあったが、これはあくまで形式上の事だった。
 それは、ユリアン達が帝国軍の協力者である事、またワーレンの客人として遇されていたからだったが、ボリスだけは別の件で翌日に再出頭を命ぜらた。


 「おい、おい・・・。まだ何か聞かれるのか?」
 顔を顰<しか>めるボリス。
 「・・・俺達の身分がばれたって事はないだろうな?」
 ポプランに言われてボリスは顔色を変えた。
 「まさか!書類の不備は無いはずだ。それに提出した損害額だっていたって妥当だと思うんだがな」
 「まぁ・・・行くしかないだろう。・・・お前さんが船長なんだし」
 「・・・ったく。面倒くさい!」
 ボリスは、文句を言いながらも憲兵隊本部まで出かけて行った。


 呼び出されたのは提出した損害額に関する事だった。
 この件を担当しているのはアーフベルデ准将だ。
 提出された損害額自体に怪しいところは全く無かったが、「他に補償する物が無いかの確認だけだ。もしもあれば今のうちに言う事だ」との事で、ボリスは書

類にはあえて書かなかった事を言ってみる事にしたのだった。
 そう・・・信頼するクルーの1人が地球教徒に殺され、今は地球の冷たい地盤の下に埋もれた事を告げたのだった。
 「遺体をフェザーンに連れ帰る事も出来ず、キチンと埋葬する暇もなく・・・。私どもとしては、それだけが心残りです。もし、損害額に上乗せが出来るのだとし

たら、遺族の為にもその補償をお願いしたいと思いますが。それ以外は、先に提出させて頂いた金額だけで構いません」
 「ふむ。・・・地球で死亡したのは、ナポレオン・アントワーヌ・ド・オットテールだったな?」
 「はい。気風が良く、実に腕の立つ部下でした。私としましては、彼を亡くした痛手は大きいです」
 「遺族はフェザーンか?」
 「はい。フェザーン市内に、2年前に結婚した妻と、生まれたばかりの息子が1人おります」
 それを聞いたアーフベルデは部下に何か耳打ちをして、ボリスに「暫く待たれよ」と告げて席を立った。
 アーフベルデは1時間後に戻って来た。
 「関係部署に確認を取ったが、今回の卿等の協力は無視出来ぬほどの功績があると認められる。そこで帝国軍の軍規に則り、オットテール氏には少尉待遇の殉

職見舞金が支給される事になった。出立前に支払うゆえ、後日、こちらに再度の出頭をお願いしたい。なお、支払日等は追って連絡する」
 これを聞いて、ボリスはホッとしながら深々と頭を下げた。
 「帝国軍のご配慮に感謝致します。オットテールの遺族に成り代わりまして御礼申し上げます」


 ボリスはホテルに帰る間、「暫く間はオーディンに留まる必要が出て来たな・・・」と呟いた。
 ホテルに戻ると、ユリアン達は出かけているとマリネスクに告げられた。
 「そうか・・・ウィロックは?」
 「彼は買い物ですよ。洋服を買うとか言っていましたけど」
 「そうか。ヤツはあれでファッションには煩いからな。オーディンで何か掘り出し物でも見つけるつもりなんだろう」
 「・・・その割には似合ってませんけどねぇ」
 マリネスクはそう口にして含み笑いを漏らし、ボリスは「・・・おい、それをヤツに言うなよな。・・・へそを曲げられて宙航士を辞められたら困るからな」と苦笑を浮かべた。


 表向きは帝都見物を目的としているので、ユリアン達3人は、1日の大半を観光に当てていた。
 今日は、新皇帝ラインハルトの指示で博物館への改装が進められ、一般にも開放されつつある、旧ゴールデンバウム王朝の王宮だった『新無憂宮<ノイエサンスーシー>』に行ったらしい。
 「『新無憂宮<ノイエサンスーシー>』ね・・・。まぁ、見ないよりは見た方が良いんだろうが・・・」
 「ところで・・・大丈夫ですかね?」
 「何が?」
 「ポプラン中佐ですよ。何か問題を起こさなきゃいいですが。私はどうもそれが心配でして・・・」
 「ま・・・奴だって馬鹿ではないさ。心配したって始まらん。それよりな、殉職見舞金が出るそうだ」
 「殉職見舞金?」
 目を丸くするマリネスクに、ボリスは、オットテールの遺族へ、帝国軍から特別に支払われる見舞金の事を説明した。
 「少尉待遇だというからな。・・・これで、あいつの家族に多少の申し訳がつくってものさ」
 「・・・帝国では、社会機構が上手く行っているんですね」と、マリネスクは感慨深げに頷いた。
 「・・・あぁ、そうらしいな」とボリスも頷いた。


 数日間は、“調査と記録”と称して、あちこちを見て回っていたユリアン達。
 信じられない事に、帝都には飲料水の自動販売機など、同盟の街には当たり前のように存在する物がない。
 コンビにすらないので、ポプランなどは憤慨していた。
 効率の悪い事に、移動手段として、未だに馬車も存在しており、その光景を目にした時は驚きを禁じ得なかった。
 そして、滞在中には小さな問題が起きていた。
 ポプランは別行動中に公園で妙齢のご婦人と知り合いになって、彼女の家に招待されていた。
 何でも、ここ数日夫は仕事で家を空けているらしい。
 たった1人で過ごす寂しさを感じていた彼女は、言葉巧みに優しく接してくれたポプランについ気を許してしまい、是非お茶でも・・・と誘ったのだ。
 “据え膳食わねば男の恥”とばかりに、ご招待にあずがったポプランだったが、間の悪い事にその日に限って夫が帰宅したのだ。
 彼女の夫は帝国軍の士官だった。
 怒り狂った夫はブラスターを貫き払い、ポプラン目掛けて発砲したので、彼は慌て窓から逃げだしたのだった。
 その後は繁華街をぶらぶらし、疲れて公園のベンチで寝ていたらしい。
 よくまぁ、夜警中の憲兵隊に職務質問されなかったと言うべきか・・・運の強いポプランである。
 ポプランは夜が明けてから、ホテル近くのカフェでサンドイッチを食べ、昼近くになってからホテルへと戻って来たのだった。


 その数時間前・・・朝食時にボリスがいない事を不審に思ったボリス。
 「おい。ポプランはどうしたんだ?」
 そう問われて、ユリアンは肩を竦めて「それが・・・」と口を濁した。
 「おい、あれから帰って来なかったのか?・・・本当に呆れた奴だ」
 ボリスは顔を顰<しか>めた。
 昼近くになって、ポプランが戻って来た事を知ったボリス。
 自分の部屋にポプランを呼んだが、彼のささやかな武勇伝(?)の顛末を聞いて、更に呆れ果てた。
 「・・・ったく・・・。問題を起こしてくれるなよ・・・。ただでさえ、危ない橋を渡っているんだから」
 「分りました・・・」
 その神妙そうな声音から、さすがのポプランも多少の反省をしているらしかった。
 ユリアンとマシュンゴもボリスの部屋でポプランの話を聞いていた。
 3人で自分達の部屋へと戻る途中でポプランは、「・・・ったく、コーネフって名前の奴は何であんなに口煩いんだ?」とブツブツ呟いた。
 「・・・ポプラン中佐・・・」
 ユリアンは苦笑し、マシュンゴは「人は運命には逆らえませんから」と穏やかに言い、ユリアンは小さな溜め息をついて肩を竦めた。


 そして、大きな問題も・・・。
 このオーディン滞在の間に、宿泊していたホテル内で盗難騒ぎがあった。
 事態を複雑にさせたのは、地球教の情報を収めた光ディスクが盗難品に含まれている事で、5人は捜索の為に、これで3日はこのホテルに足止めを食らっていた。
 ディスク自体は厳重なパスワードが3つもかけられているので、早々に中身が露見する恐れは心配ないとしても、ヤン提督への手土産であるし、見つけ出さない事には話にならなかった。
 だが、3日目にボリスが見つけ出したのだった。
 これは、ボリスの手柄であるが、商業国家であるフェザーンには、非合法の盗品売買を目的とする闇の組織が存在しており、その組織はこの銀河帝国の帝都に

も網を張り巡らしている。
 その組織と何とか接触するのに成功して、そこを仲介させてボリスはディスクを取り戻したのだった。
 「さすがは元弁務官事務所の書記官だな」
 ポプランがからかい半分に言うと、途端にボリスは顔を顰<しか>めた。
 「いやな事を思い出させないでくれ」
 ボリスはそう良いながらも、「・・・見つかって良かったよ」と、ユリアンにディスクを手渡したのだった。

 

 その翌日の早朝、憲兵隊本部からの出頭命令が出た。
 ユリアンを同行させて過日のオットテールの殉職見舞金を受け取ったボリスは、その足で、船長として、ワーレンに出航前の挨拶をしに行く事にした。
 突然の訪問にも関わらず、忙しい時間を割いてワーレンは会ってくれた。
 ボリスは、翌日の午後に出航を決めていたのだ。


 「そうか、もう発つのか。それはそうと、帝都見物は出来たのかな?」
 「はい、『新無憂宮<ノイエサンスーシー>』の内部見学も出来ましたし、貴重な体験をさせて頂きました」
 ユリアンがそう答えると、ワーレンは頷いた。
 「この度は色々とお世話になり、感謝の申し上げようもありません」
 ボリスが頭を下げると、ワーレンは軽く手を振った。
 「いや、卿等の功績に酬いたまでの話だ。これからフェザーンに戻るにあたって、航路上で何か問題はないか?私に出来る事なら協力しよう」
 ワーレンからこの言葉を聞いた瞬間、ボリスは顔にこそ出さなかったが、しめた!と思った。
 「それでしたら、一つお願いがございます」
 「何だ?」
 「我々は商人ですから商売上、これからも、フェザーン回廊を航海する事になるでしょう。ですから、今後の我々の航行に関して、安堵を、出来れば文書でお願い出来ればありがたいのですが」
 「なるほど・・・分った。それならば早速文書化しよう。・・・それから、卿等に忠告するが、もう2度と地球教には関わらぬ事だ」
 「それはもう!今回の事態で骨身にしみました。もう、彼等とは関わりあいたくありません、絶対に!」
 ワーレンはボリスの言葉に頷き、航路の安全を約束する書状を特別に出してくれたのだった。 


 宇宙港に向かう道すがら、ボリスは「やったね、こいつは朱印状さ」と、書類を胸に押し抱いた。
 ユリアンが「朱印状?」と尋ねると、「商売上のお墨付きの事だ。これで少しは気が楽になる。使わないにこした事はないがな」と笑った。
 「でも・・・ワーレン提督は本当にいい人ですね」
 「まぁな。ワーレン提督が話の分る人で良かったよ。これがレンネンカンプのような奴だったら最悪だろうしな」
 「そんな・・・レンネンカンプ提督に悪いですよ」
 苦笑をしながらも、ユリアンはワーレンの度量の大きさに感服しており、帝国軍の人材の豊富さを痛感したのだった。


 ワーレンの好意を受け、無事にオーディンを発ったユリアン達は、当初はフェザーンを経由してハイネセンに向かうつもりであった。
 だが、航行の途上で、ヤンがハイネセンから脱出した事、それを受けて皇帝ラインハルトが再宣戦した事を知り、ハイネセンを目指す事をやめた。
 「・・・どうするんだ。尋ねながらの航行なんて出来ないぞ」
 ボリスが言うのは尤もだったが、ユリアンは、ヤンが目指すのはエル・ファシルに違いないと予想していた。
 それを告げるとボリスは不敵な笑みを浮かべた。
 「・・・エル・ファシルか。・・・こうなったら何処へだって行くさ。危険はもとより承知の上だからな」 
 帝都で、帝国軍の恩恵で補給出来た燃料はフェザーン迄の分しかなかったので、一旦、『親不幸<アンデューティネス>号』はフェザーンに戻った。


 オットテールの遺族に見舞金やその他の支払いを済ませ、カモフラージュの為に大型のコンテナに缶詰やら高級酒やら、日持ちしそうな食料品を大量に積み込んで、フェザーンを出航した。
 表向きの航行の目的は「食料品の輸送」である。
 こうして、エル・ファシルを目指す中でダース単位の様々な困難に遭遇したが、中でも、一番肝が冷えたのは、ハイネセン方面へ進軍中の『黒色槍騎兵<シュワルツ・ランツェンレイター>艦隊』の前衛部隊の偵察艇に発見されかかった時だった。



 「そこの民間船、停戦せよ」
 「うわ・・・おいでなすった!」


 ボリスは口笛を吹いた・・・だが、焦った様子はまるでない。
 「船長、不謹慎ですよ」
 マリネスクが呟いたが、ボリスは「おい、艦はあれ一隻か?」と叫ぶ。
 ベテラン宙航士のウィロックは真剣な眼差しでコンソールを叩く。
 「・・・あぁ、一隻だけだな。他の艦影は無い。・・・こいつは助かったかもしれないぜ」
 彼は笑みを浮かべ、ボリスは大きく頷いた。


 「マリネスク・・・通信回線を開け」
 マリネスクは頷いて、偵察艇との間に回線を開いた。


 「こちらはフェザーン独立商船『親不幸<アンデューティネス>号です。積荷は食料品です。私どもの身元はフェザーンに問い合わせをなさって下さい」


 画面に映らない角度から、マリネスクにボリスが例の書状を見せる。
 マリネスクは僅かに頷いた。
 「・・・それから、我々の身元確認を行うならば、是非、オーディンにいらっしゃるワーレン提督にもご照会下さい。提督なら、我々が怪しい者ではないとすぐに

証明して下さるはずですから」
 偵察艇の艦長は、マリネスクがアウグスト・ザムエル・ワーレン上級大将の名を出した事で、戸惑いを隠せなかった。


 「どういう事でしょうか、艦長?」
 オペレーターに尋ねられて、艦長のローデッツ中佐は憮然とした。
 「怪しい船だが、上級大将閣下の名前を出されては無碍にも出来まい。・・・至急、本国に問い合わせろ!」
 数分後、親不孝<アンデューティネス>号に、偵察艇から通信がもたらされた。

 

 「艦長のローデッツ中佐である。本職の一存では即答出来ぬ。船の機関を停止させ、その場で待機せよ」


 これを聞いたボリスは、「・・・だってさ」とウィロックに機関停止を命じた。
 「分った・・・停止と」
 「大丈夫なんですか?」
 不安そうなマリネスクにボリスは「・・・多分な」とだけ言って、シートに腰かけて、ユリアンが差し出したコーヒーを啜った。
 
 10分後・・・。
 フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト上級大将率いる、『黒色槍騎兵<シュワルツランツェンレイター>艦隊』の旗艦、『王虎<ケ-ヒニスティーゲル>』に偵察艇からの定時連絡が入った。
 だが、その内容に、副参謀長のオイゲン少将は怪訝そうな顔をした。
 ビッテンフェルトはその時間は昼食中だったが、オイゲンは取りあえず司令席まで知らせに行った。
 昼食中と言っても・・・。
 ビッテンフェルトは艦橋に仁王立ちで、茹で立てのフランクフルター・ブルストにマスタードをたっぷり乗せて、豪快に手掴みで食べている・・・のだ。
 「・・・ん?なんだ?」
 「閣下。それが、偵察艇の艦長のオーデッツ中佐から、どうも奇妙な報告がございまして・・・」
 「奇妙な報告だと?・・・いいから読んでみろ」
 「はい」
 オイゲンが通信文を読み上げる。
 ビッテンフェルトは「ふん。そんな程度の事か・・・放っておけ」と言ったものの、急に顎に手を当てた。


 「いや、待て・・・。そいつらが帝都に照会してみろと言うのなら、ここはひとつ照会してみるか。幸い、妨害電波も出ていないからな。おい、帝都への通信を開いて、至急ワーレンを呼び出せ」
 「・・・閣下、宜しいのですか?」
 「今のところ、進軍を一時停止しているから、少しばかり暇だしな。・・・多少の自由は許されるはずだ」
 ビッテンフェルトは笑みを浮かべ、オイゲンは頷いた。


 こうして、ビッテンフェルトと帝都のワーレンとの間に、『超高速通信<FTL>』回線が開かれた。



 「ビッテンフェルトか。・・・いったいどうしたのだ?」
 「いや、なに。少しばかり卿に聞きたい事があってな。卿は『親不孝<アンデューティネス>号』というフェザーン商船を知っているか?」
 ついこの間までオーディンに駐留していた商船である・・・知らぬはずが無い。
 「・・・!おい、彼等がどうかしたのか?」
 驚きの表情を浮かべるワーレン。
 「ほう?その反応だと、そいつらを知っているのだな?」
 「あぁ。彼等はな・・・」
 ワーレンは地球教徒の討伐の際にユリアン達の協力があって、任務が短期間で済んだ事と、その後に彼らの希望でオーディン観光をさせていた事をビッテンフェルトに説明した。
 「・・・筋金入りの商人達だが、気持ちの良い男達だった。彼等の身元については俺が保証する。大方、物資輸送の途中なんだろう」
 「そうか。オーデッツからの報告書では食料品の輸送との事だった。・・・分った。そういう事であれば彼等を解放しよう」


 やがて、ビッテンフェエルトから偵察艇へ「照会完了。問題は無し。彼等を解放し、そのまま偵察任務を遂行せよ」と通信がもたらされた。
 偵察艇は『親不孝<アンデューティネス>号』にそれを告げるとそのまま去り、その場に残された『親不孝<アンデューティネス>号』もホッと一安心し、一

路、エル・ファシルへと船首を向けた。


 「しかし・・・なんだな。いやにあっさりと開放されたな」
 「良かったじゃないですか。どうなるかと冷や汗をかきましたよ。ほら・・・相手が相手ですからね」
 ボリスの言葉にマリネスクが汗を拭く真似をする。
 黒色槍騎兵<シュワルツ・ランツェンレイター>艦隊は猛将揃いの艦隊である。
 彼等の艦隊の通った後には何も残らないとか、「泣く子も黙る」とか、とにかく、猛々しい事で有名な艦隊だったからだ。


 「・・・まあな。だけどな、一昔前だと、公然と賄賂を要求してくる、あくどい軍人なんかがいたんだがな」
 少なくとも、ゴールデンバウム王朝時代の軍人のモラルは最低だった。
 商人として宇宙に出てからと言うもの、ボリスは幾度となくそういう目に遭っていたのだ。
 だから、万が一の為に高級ワインやブランデーの一級品、その他にも帝国軍人達が喜びそうな嗜好品等を賄賂用に積み込んでいたのである。
 「まぁ・・・こいつはヤンへの土産にするけどな」
 ブランデーのボトルを手にして笑うボリス。
 「帝国では改革が進んで、社会機構が上手くいっているのですね。綱紀粛正がきちんなされている証拠でしょうね」
 「ユリアン、こう言っては何だが、旧同盟政府と政治家達の腐敗振りを考えると、帝国との違いは明らかだな。・・・こいつは全く皮肉なものさ」
 ボリスの言葉をユリアンは噛み締め、これから、ヤンのやろうとしている事の困難さを考えると気が重くなるのだった。


 途中で紆余曲折あったものの、何とかエル・ファシルに到着した『親不孝<アンデューティネス>号』の一行。 
 宇宙港でボリスが手間取っている間、先にゲートをくぐったユリアンを見つけたのは、軍民両用の管制システムの再編の為に宇宙港に行っていた、ダスティ・

アッテンボロー中将だった。
 そして、相変わらずご婦人達にマメに声を掛けているポプランに呆れながらも、アッテンボローは、無事に再会出来た事を心から喜んでくれた。
 「それにしても、よくここまでやってきたな。おれたちも二日前に着いたばかりなんだが」
 それを聞いて、エル・ファシル行きを決めた自分の考えが間違っていなかった事にユリアンはホッとした表情を浮かべた。
 「途中いろいろありましたけど、どうにか無事に到着しました。とにかく、みんな無事に再会できてよかったです、ほんとうです」


 やがて、ヤンとフレデリカに再会したユリアン。
 2人の温かさに触れて、やっと自分が“いるべき場所に帰って来た”事をしみじみと実感していた。
 その日の夜は、ユリアンはポプランやボリスを交えて、ヤンに地球での冒険談、オーディン観光の記録を披露した。
 特にポプランの恥ずかしい武勇伝には、アッテンボローが突っ込みを入れ、ポプランは機嫌が悪くなっていたが、皆、楽しそうだった。
 ヤンはユリアンが一回り成長したのを嬉しく思い、皆、それぞれにお互いの再会を喜んだのだった。




 Das Ende


 タイトルはの意味はドイツ語で、「巡礼の旅~協力者~」です。
 タイトルにはかなり迷った挙句、ハイネセン→地球→オーディン→フェザーン→エル・ファシルへ至るユリアン達の旅は、ある意味“巡礼”だな・・・と思って。


 この話はメインはユリアン達なのですが、ワーレン&ビッテンフェルト&コンラート・リンザー中佐が書きたくて書いた感じ。


 実は、100のお題でオーディン滞在の時の話を3本ほど書きましたが、この作品と繋がっています。(これらの作品は、今後UP予定ですので、お楽しみに)
 また憲兵隊のアーフベルデ准将も、100のお題の「コヨーテ」に登場させたオリキャラです。
 彼は、100のお題では中佐ですが、「巡礼~」は数年後の話なので、准将に昇格させちゃった^^
 

 原作とOVAの美味しいとこ取りなんですが、まず、原作を中心に置いているので、OVAはあくまで参考にした程度です。

 原作では、オーディンを出立後にラインハルトの再宣戦を知ると書かれていますので、これを採用しました。


 それと、OVAでは、割とすんなりエル・ファシルへ辿り着けていて、苦労はないような描写なのですが、原作は違います。

 本当に、黒色槍騎兵艦隊の偵察艇に発見されかかる。

 おいしいエピソードをOVAでは削っていた訳で、思い切って発見させました。


 偵察艇に発見されかかるも、思わぬところで、ワーレンに助けられていた・・・という内容にしてあります。

 帝都に照会ならば、ワーレンとビッテンフェルトの会話も違和感がないですし。
 それにしても、OVAは、なんで、このエピソード(ユリアン達が黒色槍騎兵<シュワルツランツェンレイター>艦隊の偵察艇に遭遇されかけた話)を削ったのかな。


 そうそう、原作でもOVAでも、2年後にユリアンとちゃんと顔を合わせたワーレンは驚いていましたっけ・・・そう、再会するまでに実に2年の月日が必要で、だけどユリアンの事をちゃんと覚えていたワーレン。
確か、「卿には見覚えがあるぞ。確か地球で会った」ってワーレンが言って、「地球で会いました」ってユリアンが言って、そういう事だったのか!とワーレンは納得するのです。
 謝るユリアンに対して、ワーレンは謝罪など無用だと、義手になった手を振って、気にするなって・・・感じ。
 まんまと騙されていた訳ですが、それを根に持ってチクチクと嫌味を言う人ではなく、むしろ、上手く騙されていた事を面白がっている風でした・・・ワーレン。
 そして、「お互い、多くの知人を失った」とさえ、ユリアンに言うんです・・・懐の大きい人でなければそういう事を言えません。
 私は義理堅い、そんなワーレンが好きです。


 そうそう・・・ボリスが手にした「朱印状」ですが、これが何かと申しますと・・・。
 辞書によりますと、「朱印を押した書状。特に、戦国時代以後、将軍や武将が所領安堵(あんど)・海外渡航許可などの際に発行した公文書で、花押(かおう)の代わりに朱印を押したもの。御朱印」だそうで。
 お墨付き・・・お墨付き・・・と考えていて、ふと頭に浮かんだのが、「朱印状」でした。
 「朱印船」もありまして、こちらは辞書によると、「近世初期、朱印状を受けて外国との貿易に従事した船。豊臣秀吉の朱印状を携えた南蛮貿易船に始まったが、鎖国により全面的に禁止された。御朱印船。しゅいんぶね」だそうです。



 



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