aventure

テーマ:
ジンジンと痛む指の先を摩りながら
しみったれた天井を見つめて上の空

つい昨日の、誰彼のことを
思い出しています

どうしてそんなことになったのか
これからどうしてどうなるのか
どうしたいのか、自分の脳で考える力もないくらい
それくらいの衝動で、感覚で、記憶で
ときめきだって淋しさだって、それらはいつもあたしをダメにするのだから

ダメになったあたしの頭の中は
ピンク色の嵐が吹いていて
触れていないと今にも倒れそうな
ときめきなのか淋しさなのか

ねぇ、心臓の音が膨らむの、聞こえる?
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996

テーマ:
「無理するなよ」「不安定になりそうだったらいつでも電話しておいで」

そんなこと、
言ってくれるずっと前から不安定だったから
何度その言葉をなぞっても涙が出てくるのは
君のせい、だったんだ



季節が過ぎて
気を抜けばもう一巡くらいまわっていそうな
今、自分がどこに立っているのかわからなくなりそうな
そんな錯覚に襲われそうになる、瞬間や
もう一度、からっぽになったプレゼントの箱を開けて、振り返ろうとするとき

本当の恋が
怖くなる
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どうしようもないくらいの。

テーマ:
愛された記憶が
あたしをまた弱くするのか
夜の闇に溶ける波のように
黒い光になって飲み込もうとする

シャンプー変えたの、わかるかな
大きな優しいてのひらは
あたしの頭のてっぺんから耳まですっぽり覆ってしまって
髪の一本一本の質感を確かめるように
丁寧に、丁寧に撫でていく

あたしはそのうち、あなたの話す言葉もわからなくなって
ただ頬を寄せることしかできなくなるでしょう

そうして愛された記憶が、全てが
あたしをだめにしていく
嫌われることが怖くて、泣くこともしなくなる
本当は、本当は心全て使って抱きしめてほしい
甘さに溶けたら最後、二度と切り離されることのないように
愛されたまま、忘れさせて、忘れさせて、眠ったまま、忘れさせて
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ハッピーエンド

テーマ:
冷蔵庫があって、眠る寝床があって
それだけでなんとなく成立しているかのような生活
やけに広く感じてしまう部屋で
一人出来ることはと言えばギターを弾いて歌うことだけ
そうやって夜が明けるのを待っているだけ
けれど着実に訪れる朝に何を期待するべきなのか
考えていたら、いつの間にか眠っていた

今日も時間に追われ
棒っきれみたいになるまで働く

一体いつまでこの生活は続くのか
その終わりに先はあるのか
幸せと呼ばれる終局に夢見る
だだっ広いハッピーエンドの真ん中に立ちすくんでいた

優しくできない

テーマ:
あなたもわたしも、きっと
優しくできないから
触れられない距離のまま、離せない距離のまま
言葉を見つけられなくて、立ちすくんだまま

優しくできないのなら
恋なんかやめておいた方がいいのかな
わたしは優しくできないから
優しくできないから

淋しい一人帰り道
頭の真ん中にぼぉっと立つくぐもり、あなたの声
そっと触れてみたら、優しくできたのかな
淋しくならずに済んだのかな

幸せになりたいから
愛する人の幸せを願う
そして心の底に沈んだまどろみのような
悲しい声は、優しくできなくて

さつきの街

テーマ:
伸ばしかけた手を引っ込めた。
数日前を思い出して、内心どきっとした。

鍵を開けて、ただいまと呟く。
真っ暗な部屋の中、冷蔵庫の唸る音だけが聞こえる。
一人住まいを決めたこのアパートメントは、五月の山の麓にある、田舎でも都会でもない住宅地で、夜は些か静か過ぎる。
踏み入れたフローリングの冷たさにさえ、少し驚いてしまうのだった。

明かりが灯る。冷蔵庫の扉を開けても、そこにあるのはチョコレートのお菓子だけだった。
ああ、数日前にもこのお菓子を買ったな。買って、冷蔵庫に入れたまま忘れて、もう一度同じものを買ってきてしまったんだ。
ごめんね。なんとなく一人で呟いて、お腹は空いていないけど箱を開ける。
口の中をいっぱいに満たす甘い味は、忘れかけていた幸福の味に似ていて、今は余計に淋しくさせるだけだった。

なんで、一人なんだろうね。
三人兄弟の末っ子に生まれ、甘やかされて育った飛び切りの甘えたがりの淋しがり。
自分から望んで、あの家を出た。
もうこれ以上、口もきかなくなったお父さんとお母さんを見ていられなかった。
シャワーを浴びて、髪を乾かす。静けさに耐え切れないので、音楽をかける。

大人になっても甘えたがりの淋しがり、そんな自分がいつしか嫌いになっていた。
男をうんざりさせてしまうだけのような気がしてしまって、でも未だに心のどこかで甘えてみれば構ってくれる、なんて期待してしまう。
だから、本当は一人でいるのが苦手なくせに、一人でいる自分に得意気になってしまう。
一人でも大丈夫って、せめて思いたいのかも知れない。

ここは、少し似ている。家族で住んでいた頃の街に。
あの家のすぐ近くにも山があって、五月の名があって、行き交う人にはみんな家族がいるようだった。
少し古ぼけた住宅街や錆びれた商店街、暗い夜道に灯るコンビニの灯り。
夏になれば、山から風が吹いてくる。蝉の鳴き声が降り注ぐ。

いつかは自分も家族を持つのかな。
そしたら、淋しいなんて思わなくなるのかな。それって、幸せなのかな。
想像もつかない未来にある気がする。
ここは呆れるくらいの日常の匂いで満たされている。

かけていた音楽の、最後の曲が終わって、部屋は静かになって、また冷蔵庫の唸る音が大きく響いた。
チョコレートも、早く食べ切ってしまわねば。

ラヴソングメイカー

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吐息の聞こえる距離まで
抱き上げてという表情で見つめて
あなたは細い眼鏡の奥から
理性をもう一度引き出そうとする

不出来なタイミングでいつも
恋はいつもいつも
かき乱す心の面倒な呟き
今だけはこっそり打ち明けるけど

あなたと出かけるなら
黒いワンボックスで海に行きたい
わたしはあなたの事情を聞かないし
わたしも出来るだけ話さないようにするから
そうしたら、少しはうんざりさせずに済むかな
気難しいラヴソングをうたう横顔から
もう一度あなたの知らない過去をつくってプレゼントにする

触れそうになる寸前で
真面目に冗談いうから
かわいた思い持ってして
笑い飛ばしてね、ね

テーマ:
ちょっと泣いちゃっただけで
だめなんだね、あたし

あー、不安が
液化して凝固して昇華して
変化自在にかたちを変える
まるで生き物のような塊が
この身体を駆け巡る

頭が痛い
ぼぉっとする

あともう少しだと
言い聞かせる

縫い合わせた傷

テーマ:



ひとつしかない身体が傷ついていく
潰えては芽生える花のように
太陽が昇り、一日が終わる頃に
気泡のような涙を浮かべて

あともう少しだけ頑張って欲しい
純粋で、実に自分勝手な願いだ
アンチロマンチシストは
毎夜新しい夢を描く

例えば強くなった自分
一人でも生きていける心と身体を手に入れた気分
大好きな人を壊さないように
傍にいるたったひとつの方法はきっとそう

ひとつしかない心が傷ついていく
泣こうが喚こうがこれで充分なんだ
君が泣けば僕も泣くし、君が笑うから僕も笑える
たったそれだけのことなんだ、だから