2008年08月14日(木)

希望のタネ。

テーマ:日々思うこと

 最近、宮部みゆきの「火車」を読んだ。

 その中に、最近立て続けに起こった「通り魔殺人」の本質を見抜いているような文章があって、非常に驚いた。

 本間という休職中の刑事が、飼い犬を同級生に殺された小学生の息子に、心中で語りかけている場面である。

 

 「自分の身に降りかかったことを、そういう形でしか“清算”できない人間というのはいるんだよ」

 「これから先、お前たちが背負って生きぬいていく社会には、“本来あるべき自分になれない”“本来持つべきものが持てない”という忿懣(ふんまん)を、爆発的に、凶暴な力でもって清算する――という形で犯罪をおかす人間が、あまた満ちあふれることになるだろう」


 本間のその言葉の後を、息子が引き継ぐ。

 

 「でね、そういう人は、自分の気に入らないことを見つけると、まずそれをぶっこわしておいてから、ぶっこわした理由をでっち上げるんだってさ」

 「えっとね、大切なのは、どんなことを考えたかってことじゃなくて、どういうことをしたかってことなんだって」

 「ひどいことをする人は、自分がどうしてそういうことをするのか、ちゃんと考えたことがないんだって。だからひどいことができるんだって」

 

 「火車」の初版は1990年だから、なんと今より18年も前に、宮部みゆきは一連の「個人的テロ」を「予言」していたことになる。

 文中の少年は当時10歳だから、「お前たちが背負って生き抜いていく社会」である現在は、28歳になっていて、この部分でも加藤らの「大義なきテロリスト」たちの年齢と、シンクロしている。

 だから以上の一連の文章は、現在起こっている問題の解釈に応用できると考えて、差し支えないだろう。

 

 そこで大事になるのが、次の一文だ。

 

 「(犬を殺した)あいつが自分のしたことをよおく考えて、それからあやまりにきたなら、カンベンしてあげなさいって」

 「そうだね。父さんもそう思うよ」

 

 重要なのは「カンベンしてあげる」ということではない。

 「自分のしたことをよおく考えて、それからあやまりにきたなら」という部分だ。

 これは、宮部の言うところの「忿懣を、爆発的に、凶暴な力でもって清算」しようとしている人間であっても、その人間が事を起こす前に、「自分がやろうとしていることをよく考え、反省し、自己矯正できる可能性」を、示しているものと受け取れる。

 すなわち加藤のような人間は、決して先天的な異常者でもなんでもなく、「考え方さえ正しくできれば(自己矯正)」、事件など起こさずにいられただろうというものだ。

 

 ならば、その「自己矯正」のきっかけとなるものはなんだろうか。

 私はかつて、そのきっかけは「希望」だと書いた が、それでは漠然としすぎているし、宮部もそこまでは書いていない。

 

 この作品はクレジットやサラ金などのローン問題がモチーフになっていて、作中で宇都宮健児氏がモデルと思われる弁護士が、「クレサラ問題が深刻化するのは、昭和50年代のサラ金地獄から」と書いている。

 宮部の指摘は当を得ているから、作中の記述や分析は、ここでも現在起こっている問題の解釈に応用できると考えてよい。

 もしそうだとすればその時点から現在まで約30年、宮部の指摘からも18年が経過しているわけで、今の事態は「長い時間をかけて、徐々に社会がおかしくなってきた結果」と言える。

 (しかし30年もの間、政治はいったい何をやっていたのだろうか?)


 「クレジット・サラ金問題」と、「忿懣の、爆発的かつ凶暴な力での清算」との間に、どのような因果関係があるのかはわからないが、私が言うところの「希望」のタネは、あんがいこんなところにありそうな気がする。

 

 その考察は、またあらためて。

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コメント

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2 ■火車は

相当読みごたえありますから、読み返すのも大変ですね。
でも作中の法律知識などには現在でも十分通じるものがあり、読み返す価値があると思います。
面白い小説でした。
コメントありがとうございました。

1 ■火車

私も読みました。何度か。一年に一度読み返す本です。ドラマもやったらしいんですが、なんとなく記憶があるのは小説とシンクロしているせいかもしれません。今起こっていることなどに確かにシンクロしているように感じます。

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