「ただし、この裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予し、その刑の猶予の期間中、被告人を保護観察に付する。」
あ、執行猶予だ・・・・・・。
少し物を考えることができた。
保護観察か・・・・・・。
昨日の夜弁護士が来た。
「まず主文の言い渡し。懲役何年何ヶ月とか、そういうやつ」
「で、そのあとに『ただし・・・』って付いたら、執行猶予になる」
だから、私は動転(ほぼ卒倒)したのだ。
弁護士は、「ただし」の前に、未決算入が読み上げられるということを、私に説明しなかったのである。
裁判官の読み上げは、判決理由へと続いている。
「・・・・・・であったことは言うまでもない。それにもかかわらず、本件各犯行に及んだ被告人の犯行動機に酌量の余地はまったくない。」
「・・・・・・またその犯行動機は、インターネットに関する自己の知識を悪用し、巧妙かつ執拗に犯行を繰り返したもので、非常に悪質である。」
「・・・・・・以上によれば、本件各犯行の犯情は非常に悪く、被告人の刑事責任を軽くみることはできない」
(中略)
「しかしながら、他方、被告人が犯罪事実を素直に認め、反省の情を示し、今後、二度と犯罪を犯さないことはもとより、被害者に対する損害賠償や慰藉に努める旨の約束もしていること、被告人が既に4か月以上身柄拘束されていること、前科がないこと、被告人の身を案じる高齢の母親がいることなど、被告人のために酌量すべき事情もある。」
「そこで、これらの事情を総合考慮して、被告人を主文の刑に処し、今回に限り、刑の執行を猶予することとしたが、本件各犯行の内容や被告人の一連の行状、被告人にみるべき監督者がいないことなどを考慮すると、今後、社会内で被告人の更正を図るためには、専門家の指導・監督を受けさせるのが相当なので、執行猶予の期間中、被告人を保護観察に付することとした。」
裁判官から何か生活上の注意があったが、よく覚えていない。
よく聞こうとしているのだが、頭が白くなって集中できない。
とにもかくにも、終わったのだ……………。
執行猶予がついたことで、検察官は不服そうに、しかめ面でふんぞり返っている。
保護観察がついたことで、弁護人は無念そうに、頭を抱えている。
とんだ茶番だ。
(明日へ続く)
10時、留置場から出され、荷物を持たされた上で、裁判所に護送。
返された荷物は、自分で持てという。
荷物を手錠の腕に持つ。白いゴミ袋に入れられたノートパソコンが重い。
警察署の裏庭から、個別護送用のワゴン車に乗せられる。
中年と若手の2人の警察官は、普段はパトカーに乗っているそうだが、当番ではないとき、このように裁判所への護送係も務める。いわゆる人手不足だ。
裁判所の裏口から入ると、すぐ脇に拘置所の刑務官が待機する一角がある。
冷めた視線と大きな態度で周囲を威圧する彼らの脇を抜け、進んでゆく。
すると1階の外国人用待合部屋で、中国人の○ちゃんが手錠のままマンガを読んでいた(外国人は扱いが違うようだ)。
向こうが先に気づき、両手錠の腕を上げ挨拶してきたので、私は驚き、少し戻っておー! と両手錠を上げ応じると、護送警察官にそんなのいいから! と腰縄を引かれた。
2階、刑事法廷裏の廊下の長いすに、警察官に両側を挟まれて座る。
目の前を、○ちゃんが拘置所の刑務官に引かれて、法廷に入っていった。
なんという偶然だろう。彼と私の判決は、前後だったのだ。
5分後、ガチガチに顔をこわばらせた○ちゃんが、私の前を通り過ぎるとき「どうだった?」と聞くと、顔を引きつらせたまま一瞬考え、「しっこうゆうよ」と答えた。
瞬間、おいしゃべるな! と刑務官が彼の手錠を引き、彼は引っ立てられていった。
次が私の番だった。
法廷に腰縄手錠のまま入ると、思った以上に傍聴人の数が多い。
中には、被害者の姿もあった。
「判決を言い渡すから、被告人はその台の前に立つように」。
私の手錠が外されると裁判長が言い、私は証言台の前に立った。
手錠を外した警察官2人は、そのまま私のうしろの長いすに座る。
傍聴席から突き刺さる視線が痛い。母親の姿もある。
「判決。主文、被告人を懲役1年6月に処する。未決勾留日数中70日をその刑に算入する」。
生まれて初めて、歯ぐきまで血が引くのがわかった。
顔はきっと、真っ青に青ざめていたことだろう。
目の前が、暗くなった。
(明日につづく)
今日1日、こんなことを繰り返せば、シャバに出られる。
心の中で「釈放祝い」とつぶやきながら、3時のおやつを食べた。
まだ長引く人がいるから、おおっぴらにニコニコするわけにはいかない。
兄に少し嫌味な手紙を書いた。
看守には、「どうせ同じことなんだから明日出せば?」と言われた。
検閲後の翌日投函なので、どうせ一緒というわけだが、留置場から出すことに意味があるのだ。
今日の担当看守の巡査部長が、16時過ぎに私の荷物整理だと告げに来た。
例のトロい人だ。
荷物整理とは、逮捕時の領置物品を本人立会いのもとで数や金額を合わせ、返還手続きすることだ。
荷物整理は釈放のための、ひとつのメルクマールになる。
再犯で、執行猶予がつかないことが分かっている刑務所行きの人間は、判決後また留置場に逆戻りなので、荷物整理はしない。
移送の日の朝にでもやればいいことだからだ。
しかし判決内容が裁判官から警察に事前に知らされるわけもなく、本当のところは、まだわからない。
仮に実刑判決だったとしても、本人以外には「残念だったね」の一言で済むことだ。
あと2日、こんなことを繰り返せば、シャバに出られる。
よく分からない人は、修○館高校 ⇒ ○大経済学部 ⇒ 大手広告代理店 の超エリートだった。
児童福祉法違反、要するに、17歳の高校生とやったのだ。
18歳未満の少年は児童福祉法に定める「児童」とされ、その中の「児童に淫行をさせたもの」という規定に触れたのだ。
だから援助交際は、この規定と都道府県の条例で裁かれる。
この人の場合、なぜバレたかというと、補導した女子高生から事情を聞くうちに男の名前がズルズル出てきて、その中の1人がその人だったのだ。
右耳は相変わらず・・・。
あと7日、こんなことを繰り返せば、シャバに出られる。
8室のオッサンは、酒気帯びで人をはね、足を骨折させたと言っていた。
奥さんが怒ってるとか。
朝方、21歳のわいせつ図画販売目的所持が、荷物を持って出て行った。
執行猶予見込みだ。
俗に「カバン屋」と呼ばれる裏ビデオ・裏DVD卸売り屋から600円程度で仕入れ、12,000~13,000円程度で販売していたのだ。2ヶ月営業したところで手入れがあり、捕まった。
3千数百枚在庫があったが、警察も検分(中を見るわけだ)しなければならないから、起訴ぶんは600枚だった。
家賃や什器などで100万ほどサラ金から借り、無駄遣いもして売り上げはほとんど手元に残っていないそうで、前科がついただけの骨折り損のくたびれ儲けだ。
だいたい、そういう店は裏社会の人間が経営しているもので、相応のコネクションがあるから、摘発されず営業しているのだ。
私のような素人でも想像がつきそうなものだが・・・。
彼は2ヶ月あまり勾留され、起訴後坊主頭にしたが、見るも無残にまだら模様にハゲている。
勾留のストレスで、円形脱毛したのだった。