朝飯を食い終わってすぐ、看守が「今日検事調べだから運動して」と呼びに来た。
ひげそりをして、腰縄付きの手錠を掛けられる。
手錠の中心は輪になっていて、一列に並んだ前の人からその輪にロープを通していき、ロープの両端は護送警官の腰につながれる。
そしてバスまで移動するのだが、まるでその様子は、たちの悪い電車ゴッコだ。
区検に着き、例の鉄格子の小部屋(同行室という)に押し込められる。
7人・3人・3人という房があり、今日私は3人のほうで、同じ警察署の人と一緒だった。
38歳自営業者の彼は、公務執行妨害での逮捕だ。
飲酒運転中に取り締まりに遭い、その調書を破いたのだという。
「『名前は?』っつーからさ、『なんでだよ、さっき答えただろ』っつったらそのオマワリ、名前の欄に『なんで』って書きやがってさ、『馬鹿野郎、作り直せ』って取り上げて破いたら、逮捕されたんだよ」と言っていた。
11:00~12:20 調べ。13:10~15:30 調べ。
正直な話検事調書は、「一体今まで人の話を何聞いてたんだ」と思わざるを得ないぐらい、ひどいシロモノだった。事実関係の誤りはもとより、検事にインターネットに関する知識がほとんどなく、記載もメチャクチャだ。
念仏のような読み聞かせのあと、事実及び警察調書と大きく異なる2点だけ、訂正してもらった。
検事調書は裁判での証拠となることぐらい、私も分かっている。しかしこの検察事務官上がりの副検事は、逆らうと途端に機嫌が悪くなるのだ。だから、思ったことが言えない。
任意性もへったくれもない。世の中は思った以上に、不条理に満ちているのだ。
同行室に戻ると、自営業のかわりに中国人が入っていた。
日本語が下手でよくわからなかったのだが、偽造パスポートのあっせんで捕まったらしい。
34歳で、日本では日給13,000円の解体屋の仕事をしていたらしいが、パチスロにはまり、給料は全部使ってしまったのだという。
中国には妻と13歳、4歳の子供がいるらしいが、仕送りもしていなかったらしい。
その中国人のところに看守が来て、「じゃあ起訴されましたのでね、これ起訴状です。で、10日間の勾留延長がつきましたから」と書類を見せたのだが、日本語が不自由なため、「あと10日いるだけでいいのだ」と勘違いしたらしく、ぬか喜びしていたのだが、その後通訳から説明を聞いて、ひどく落ち込んでいた。
4時、5時と時間が過ぎていく。
午後5時半になりました、という市内アナウンスを聞いて、私は全てが終わったことを知った。
今日は、起訴も不起訴も何もなかった。全ては、勾留満期の明日に持ち越しだ。
留置場に戻ったのは、6時半を過ぎていた。
それから飯を食って、風呂だった。
すでに入浴は済んでいるということもあって、検察庁に行っていた3人は1人ずつ、ゆっくり入らせてくれた。
私は1人なのをいいことに、浴槽の中で爪で垢をこすったり、胸毛を抜いたり、小便をしたりした。
場内で1,2のモラリストを自認する私もこうなのだから、きっと他の連中もやっているだろう。
9時消灯。
ふてくされて、寝た。
【過去の過ちを振り返って】
自営業は留置場にいたので、この月末、資金繰りが回らなくなった恐れがあるそうだ。
家族もいて、本当に追い込まれているようだった。
件(くだん)の寡黙な男は、例えばふとん部屋や、運動の時間にほかの2人が先に行ったときといった、私と2人きりになったときだけ、何を気に入ったのか、私だけに話しかけてくる。
「イビキは、気にしなくていいからね・・・・・・。人それぞれだから・・・・・・」
「(同室のヤクザを)スミ入ってたって、テキヤと変わらないよ・・・・・・」
「どこだろうが、己を貫き通す・・・・・・」
刈り込まれた短髪に広い肩幅、ドスの効いた声と深い眉間の皺・・・。
36.7才といったところか。もしかしたら、40にいっているかもしれない。
両手のひらだけが日に焼けていないのは、おそらく土木作業の軍手のせいだ。
そして例のトラベルセットと石けん箱、着古して汚れた服は、漂泊の象徴だ。
日雇いの逃亡生活を送っていたのだろうか。
昨日は午後早くに調べに出され、消灯近くまで、帰ってこなかった。
晩飯の時間は2時間もずらされ、空腹もこたえたはずだし、こういう荒っぽい取調べは異例だ。
たぶん、完全黙秘したのだろう。
この留置場には、○○新聞の朝刊が入ってくる。全員で回し読みをする。
記事が黒く塗りつぶされている場合がある。
そういう場合は、本人がこの留置場にいるか、共犯が捕まったかの、どちらかだ。
新聞を読んで昼飯。昼寝。3時のおやつ。昼寝。晩飯。
明日、私は釈放されるのだろうか。
だとしたら、何時になるのだろうか。
社労士試験申込締切りに、間に合うだろうか。
今まで何度も繰り返してきた問いが、頭から離れない。
よい結果を期待する気持ちと、期待したくない気持ちが、大きく揺れ動いている。
手のひらと足の裏、脇の下にジットリと汗をかき、心臓がドキドキして、喉が渇く。
よい結果を期待したくないのは、裏切られるのが、怖いからだ。
まったく寝付けず、空が明るくなってきたころ少しウトウトして、31日の起床の時間を迎えた。
【余白メモ】
特定商取引法違反が起訴された。
【過去の過ちを振り返って】
デパートの警備員を殴ったヤクザが入ってきている。
同房者を整理すると、保険金詐欺・ヤクザ・謎の男・私の4人。
今日は、言わずと知れた××(受験予備校)の日だ。
今は何時なんだろう? 14時ぐらいにはなっているのかもしれない(場内に時計はない。知りたいときは、看守に聞く)。
前2週はつらかったが、もう平気だ。
昨日は明け方まで眠れなかった。不安でではなく、期待で、である。
それというのもみんながここ数日、妙なことを言うからだ。
担当刑事 「君は今まで真面目にやってたからもうすぐ出られると思うけど」
刑事から伝え聞いた検事の弁 「まあ本人も反省してるからねぇ」
留置管理課長 「あなたのような罪の人は、早く出られる可能性が高い」
留置管理係長 「薬なくなる前にもらってきてやるからな。まあ、あまり長くなってもあれだけどな」
これらの言葉の意味する言葉は、一体何だ?
反面、また、担当刑事の言葉である。
「今日で調べは終了。今後は追送致という手続きを取る。まあそれも合わせて審理していくと思うんだけど」
「それは裁判で言って」
これらの相反する言葉を考え合わせた場合、私は全く、訳が分からなくなってくるのである。
「もうすぐ」「早く」とは、いつを指しているのだろう。
勾留満期の6月1日なのか、起訴後結審したときなのか。
1日で結審し、執行猶予がつくという前提ならば、起訴後約2ヶ月で釈放であるが、実際のところ他房には、再逮捕を繰り返され、かつ追起訴が続き捜査が終わらず、何ヶ月も閉じ込められている人もいるわけで、それに比べれば2ヶ月だって長いとは言えず、十分「もうすぐ」の範囲内なのである。
刑事が、「次の検事調べは31日の月曜」だと言っていた。
勾留満期は6月1日だが、どうせならこの日に決定してくれと思う。
不起訴・起訴猶予・罰金なら、釈放だ。
そして実際、釈放になる場合には、満期を待たないことも多いのである。
私が今年の社会保険労務士試験を受けられるかどうかは、この日に決定すると言っていい。
昼飯の前に、短い調べがあった。
昨日で終わったはずなのに何だろう・・・と、かなり緊張しながら行くと、調書の訂正という簡単なものだった。
コンビニで買ったカフェラテを飲ませてくれ、「絶対人に言うなよ」と、プリンを食わせてくれた。
基本的に飲み物はお茶という建前だが、実際には多くの刑事がポケットマネーでジュースを振舞う。
それだけでも厚遇なのに、食い物とは何事かというわけだ。
あとは、雑談。
この長身痩躯の刑事は背が186センチもあること、33歳であること、妻あり子なしであることなどを知った。
こづかいはどれぐらいですかと聞いたら、「5万くらいかな。足りなくなったらちょうだいって言ってもらうんだよ」と言っていた。
「セイハンだけはするなよ」と言われた。「セイハン?」と聞き返すと、「性犯罪。性犯はなげーぞ」と釘を刺された。
私は、そんなふうに見えるのだろうか(ガサのときエロDVDとかたくさん見つかっただろうし、PCにもHDにもエロ写真すごいからなぁ)。
意識がどうしても、週明けに行く。胸がドキドキする。
朝の運動後すぐに、調べがあった。
犯行時着用していた服についての調書を1本と、内心面を問答形式で記したものの調書を1本で、これで本件についての調べは終了となり、月曜の検事調べで起訴などの処分が決定する。
余罪は「追送致」という手続きに依るそうだ。
なげやりな意味ではなく、「どうにでもなれ」という気がする。それはよく言えば「どのような結果であろうが甘受する」ということだ。
警察に捕らわれた者は、文字通り「まな板の鯉」だ。
その生死を含めた全ての処遇や処分は、司直の手に委ねられる。
そして、今まで当たり前のように享受してきた、種々の「自由」を基本とした基本的人権の多くは、厳しく制限される。
この「不安定さ」と「不自由さ」に辟易せず、懲りずに繰り返す奴は馬鹿だ。
その昔太宰治は「縄目の恥辱」と書いたが、その意味も含めて、少なくとも私にはもうこりごりだ。
もう私はこの鉄格子と金網の内側に入ることは二度とないだろうし、そうあることを強く望む。
昨晩遅くに入ってきた男は寡黙に過ぎ、一言もしゃべらない。
しかし枕の位置を皆と逆にしたり、洗髪禁止なのに洗面台(小学校の手洗い場みたいだ)で洗髪したりするところをみると、監獄慣れしているのだろうか。
歯ブラシ歯磨きのトラベルセットと、石けん箱などを所持していたあたりは、長い漂泊を感じさせるに十分だ。足も垢じみていて、臭い。
朝の運動のとき、留置管理課長がこっそりと耳打ちしてくれた。
「しゃくに障ることを言うと、キレるタイプのようらしい。うっかり喧嘩になったりすると出るのが遅くなるから、くれぐれも気をつけなさい」。
警察庁ホームページより
(留置室前の洗面台。基本的に洗髪禁止。
左は看守台。通常は一段高くなっている。)
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即時、削除措置を講じさせていただきます。
【過去の過ちを振り返って】
両端の房は、看守台からは死角になるため、房内の様子が見えない。
よって両端の房には、知能犯や痴漢、窃盗、オーバーステイ、ホームレスといった比較的おとなしい人間が収容される。
逆に看守台から常時監視できる中央の房には、暴行や傷害、ヤクザや右翼といった、粗暴犯的な人間が収容される(実際ケンカ騒ぎを起こすのは常に中央の房だった)。
私がいたところの正面側に窓はなく、背中側通路にあるにはあったが、目隠しがされているので、外の風景は場内からは一切見えない。
警察署を外から見て、一部だけ窓が全面ふさがれている箇所があったとしたら、そこが留置場だ。
昨夜のインド人は、一夜で別房に移った。
別房の特定商取引法違反は、今日は検事調べのようだ。
私と同じ日に逮捕されたというのに、向こうは連日の朝から晩までの苛烈な取調べで、やつれていた。
私はといえば相変わらずあったりなかったりで、あっても短い。
刑事が、「今日は1時間勝負」などといって、1時間程度で終わってしまう。
本当に退屈な日常、調べがあったほうが、時間が経つのが早いのだが・・・。
保険金詐欺が手紙をしたためている。金の無心だ。
兄弟に金を差し入れてくれと頼んでいたようだが無視され、今は知人に当たっている。
書き出しはどうするのだろうか。 というのも、私も○○先生に連絡することを考えているからだ。
といっても、金の無心ではない。答練の問題を送ってもらえないだろうかという話だ。
私は初犯だし、6月1日に起訴になっても、執行猶予がつくかもしれない。
そうなれば、ギリギリ試験には間に合うかもしれない。
全ては「かもしれない」だが、やはり一応の準備はしておきたいのだ。
兄は受験申し込みを、してくれない「かもしれない」が。
書き出しはどうしよう。
やはり、「前略 突然ですが、私は今留置場におります」と書くしかないだろうか。
【余白メモ】
人間は、時として、充たされるか充たされぬか、わからない欲望の為に、一生を捧げてしまう。
その愚を哂(わら)う者は、畢竟(ひっきょう)、人生に対する路傍の人に過ぎない。
By 芥川龍之介 「芋粥」
【過去の過ちを振り返って】
昨日兄が持ってきた手紙は、非常に私を苛立たせるものだった。
来てくれたのは次兄だったが、長兄の手紙に激怒したのだった。
激怒といってもたかが知れている。自由を奪われているのだから、カッカカッカ来るだけだ。
ひどく説教臭いその手紙に、私は、「自分に酔ってるんじゃねえのか?」という返事を書き、それは今日まで禍根を残すこととなる。
他人である上司の手紙に涙し、肉親である兄の手紙には憤る。
家族関係とは、かくも難しいものであるか。
肉親に対しては、依存心と反発心、遠慮と無遠慮、愛着と憎悪といった相反する気持ちがないまぜになり、自分でもどういう決着をつけたいのかが、分からない。
【長兄からの手紙】
探したのだが見つからない。破り捨てたのかもしれない。
【特定商取引法違反】
私と同日に逮捕された彼の罪名は、「特定商取引法違反+詐欺」である。
埼玉で先日あった、認知症の姉妹にリフォーム業者が押し寄せて云々という、あんな感じである。
DIYで数千円で買える、床下を支える工具? を言葉巧みに取り付け、数百万を請求したそうだ。
どういう仕組みになっているのかはわからないが、やはりその家にも次から次へと業者が押し寄せたらしい。
彼は下っ端で、社長は逃げたという。
朝から晩まで連日、厳しく追及されているが、彼は単なる下っ端だったから、肝心なことは何も知らされていなかっただろう。
昨晩、オーバーステイ3年のインド人が同じ房に入ってきた。
担当さんの話では、「英語・日本語少々」とのことだったが、どちらも「ほとんどダメ」という状態に近い。
「なぜ自分だけふとんにシーツがないのだろう」、「なぜ自分には歯磨きがないのだろう」など、不安は尽きないと思うが、まあ仕方がない。言葉が通じないということは、教えてあげられないのだから。
何とか聞き出したところによると、ジャム州とカシミール州の州境近くの出身で、1978年より軍人だったそうだ。日本では「ヒロシ」という通名を持っていたが、どうみてもヒロシという顔ではない。濃い。
タイヤは何層からか成っているそうで、古タイヤに別の古タイヤからはがした層を貼り付けるとリサイクルができ、それをアジアに輸出するという。
そのタイヤを作る工場で不法就労していたのだ。
そして夜遅く、Tシャツ4枚と手紙2通、切手4枚を持って、兄が来た(面会時間はとっくに終わっていて、荷物だけ預けていった)。
もう遅いので、手紙は明日読ませてくれるという。
【過去の過ちを振り返って】
当初の48時間以内に送検され、10日間の勾留が付くと、ふとんシーツと枕カバーがもらえる。
警察もシーツ交換が面倒だからだろう(ちなみにその後は1か月に1度交換)。
今日は不法滞在中国人の裁判の日だ。そしてその後、入管に向かう。
なぜもう分かるのかというと、拘置所や入管、あるいは釈放(パイ)の人には、朝方やその前の晩に、「荷物まとめといて」「ふとんのシーツはがしといて」などの、指示があるからだ。
不法滞在には、「面倒見のよい人はトクをする」ということと、「人との出会いを大切にする」ということを教えてもらった。約10年、人との出会いを粗末にしてきた俺は大馬鹿者だ。
イケメンの看守が、不法滞在に「中国では、子供はどこから生まれるのって聞かれたら、なんて答えるの?」と聞いていた。彼女とその話で盛り上がるのだろうか。
「木のまたから生まれるとか、橋の下で拾うとか、鳥が運んでくるとかいう。おまんこから生まれるとは、はっきり言わない」とのことだった。
15時過ぎ、健康診断があった。2週間に1度あるという。
聴音、脈拍のみの簡単なものだったが、私は懸案だったジルテックの処方を申し出た。
ジルテックはないとのことだったので、他の抗ヒスタミン薬を探してくれるということになった。
あと、どうにも痰のからむ感じが取れず、ムコダインもくださいと言っておいた。
保険金詐欺は目薬の処方を申し出たが、駄目だったようだ。
文庫本を2冊重ね、自分のTシャツでくるんで枕にして昼寝したら、寝違えた。
【余白メモ】
芥川の短編 「アグニの娘」 を読んだが、途中ページがなくなっていた。
「破壊をやめ建設を案ずることは、真の建設ではないと察する」
月曜日になった。だからといって基本的には何も変わらない「食っては寝る」の繰り返しなのだが、平日は検察庁行きなどがあるので、雰囲気が慌しく、この方が「時間が過ぎている」という実感がある。
今日はひげそり・つめきり・耳かきの日でもある。が、正直ウイルス感染が怖い。
不法滞在中国人はHBV(B型肝炎)キャリア(保菌者)だし、空手チョップはHCV(C型肝炎)キャリアだと言っていた(刺青、タトゥーは針から感染する)。
唯一の自衛手段は、「傷をつけないこと」に尽きるだろう。ウイルスは、傷口から多く感染するからだ。
つめは、深爪して血を出さないように。親指にはあかぎれを作らないように。ひげそりで傷をつけないように。など、数え上げればきりがない。
また、ほんのわずかの日照ではあるが、日光にも当たるようにしている。日光がないと、体内時計が狂うし、ビタミンDが合成されない。
房内では、水も自由に飲めない。担当さんに言って、共用のコップに水を汲んできてもらう。
だが、なるべく汲む前にコップをよくゆすいでくれる担当さんにお願いするようにしている。
30人超の被留置者に対して、共用のコップは3つしかないからだ。
午後、会社の○○さんから手紙をもらった。
会社には、というか、○○さんには本当に申し訳ないことをした、と思う。
○○さんは50代半ばだが子供がおらず、私のことを息子のようにかわいがってくれていた。今回も忙しい中、これだけの筆を執ってくれた。迷惑の掛け通しだ。
「あちらを立てればこちらが立たず」という。社会はどこかでつながっている。
一方で利己心を満足させながら、会社でもうまくやる、「あちらを立ててこちらも立てる」などというわけには、いかなかった。
封筒には、自宅の住所が書かれている。
達筆の直筆の、見慣れた筆跡を眺めていると、自分の情けなさに、涙が滲んだ。
【余白メモ】
兄に手紙〔出〕 ○○さんに手紙〔出〕 発信 1日2通まで
※ 留置場は、仕事をしなくても3食食べられて、雨風もしのげる。
なんか矛盾してるなぁ。
【 ○○さんからの手紙 】
前略
先日、××警察署の○○様から御連絡を頂いた時は、本当に驚きました。「頭をハンマーで殴られた」様な気持ちでいっぱいでした。
私は○○君には、「大きな期待」「信頼」をしていたので、本当に残念で仕方ありません。
今はお客様に対しても、社内でも誰にも何の相談も出来ないでいる私の心中を察して頂けると思います。
(中略)
今回の件でよく反省をし、償いをして、今度は○○君の「素晴らしい才能」を「世の為人の為」に役立てて欲しいと思います。
晴れて連絡が出来る様に成りましたら、私宛に必ず御一報下さい。待っております。
捜査に協力をし、一日でも早く社会復帰が出来る様、心より待ち望んでおります。
健康にはくれぐれも気を付けて、元気を出して頑張って下さい。
平成十六年五月二十日
○ ○ ○ ○
昨日は、夕食前後に調べがあり、後のほうは調書作成だった。
2度目の検事調べのとき、留置管理課長にいただいたアドバイスが、本当に役に立っている。
「いちばん大事なのは、とにかく自分の納得のいく書類を作ってもらうこと」
「気に入らない部分は、1箇所でも、一言一句でも、納得いくまで直してもらう」
「あなたの立場をよくできるのも、悪くできるのも、あなたしかいない」
上記のことを念頭に置いて、私は供述に臨んでいるのだが、担当の○○刑事も、それを許してくれる人だった。
上質紙に供述調書として印刷する前に、一度下書きとしてプリントアウトしたものに、私にボールペンで訂正を入れさせてくれるのである。
昨晩もそんな調子で、「させてやろうと → させられるべきだと」、「加わった → 変わった」など、何箇所も訂正させてもらった。
○○さんは、「形」と「原理原則」にこだわる刑事だ。
「被疑者の目の前で割り印を押す、ということを、最近はやらない刑事も多い。でも俺は、それはよくないことだと思っている」と言って、私の目の前で、調書の各ページに割り印するのだ。
刑事といい担当さん(看守をこう呼ぶ)といい、いい人に恵まれたと思う。
これも日ごろの行いが、よかったからだろう。
日月火と調べはない。○○刑事が、出張に出ているのである。
水曜からガンガン調書をまく、と言っていた。となると勾留満期は6月1日だから、26日からの1週間で、3~4本の調書をまくことになる。
それともなければ、月火に検事調べが入りそうだ。
昼飯後からおやつまでの時間を、寝て過ごした。夜眠れなくなるリスクもあるが、寝ていると時間が過ぎるのが、早い。
【余白メモ】
「言いようのない疲労と倦怠」 「不可解な、下等な、退屈な人生」 By 芥川龍之介 「蜜柑」
【過去の過ちを振り返って】
留置場では、1日2冊まで本・雑誌が読める。
差し入れか購入、備え付けもあるにはあるがボロボロに変色した古本だ。
上記芥川は備え付け。