ほんの小さなきっかけからは始まってしまった連続近未来小説「おずん」ですが、
事態は思わぬ方向へ向かい始めました。
突然のデイゴの逮捕に動揺するおずん・・・。
なにやらキナ臭い挙動のブーコ。
一時も見逃せないサスペンスゾーンに突入か?
さて、今回はそんなこのドラマにお寄せ頂いた、読者からのご意見、ご感想を
紹介いたします。
「警察に連れて行かれたデイゴはんは一体どうなってしまうの?
僕はブーコが裏で何か企んでいると思います。やっつけてやりたいです。」
横浜市 タカダカズヤ10歳(小学5年)
「おずんのけな気な性格に癒されております。遠い昔の私の子供時代を思い出します。」
新潟市 戸方都香子 47歳(主婦)
「滝井刑事って、モデルは池乃めだか師匠ですか?そっくりですよね。」
大阪市 匿名希望さん
あらあら、みなさんもうこの「おずん」にすっかり引き込まれてしまったようですね!
これからも皆さんのおたよりをお待ちしておりますので、下の宛先までどしどしお寄せ下さいね。
〇〇市××区△△町5-29-3
(株)うみねこ出版
採用された方には、番組特性のカッコイイオリジナルグッズを漏れなく差し上げます。
それでは次回の「おずん」をお楽しみに~!
「ふぅ・・、やっと帰らはったわ。」
ブーコは不機嫌そうな顔でそう言った。
そして、つい今し方までの泣きそうな顔とは180度打って変わった仏頂面でおずんを見ると、
「おずん、早よ塩・・、塩撒き!」
と言い付けるのだった。
いつもなら素直にそうしたはずのおずんだったが、さすがにこの時ばかりは違っていた。
デイゴの事が心配な余りに、ブーコの言い付けなど二の次と言った勢いで、
「ねえさん!、デイゴはんが詐欺ってホンマですの?」
と、強い口調で問い質す。
「そうやおずん、前々から少しおかしいなとは思てたんや。お父ちゃんが死にはってから、
店の事全部番頭はんに任してた、わても悪いんやけどな・・・。」
そう言ってブーコは帳場の机の脇の一角にあるドリンクディスペンサーの
スイッチボックスに手を掛けると、赤、白、茶、黒、黄、青、のボタンの中から
茶色のボタンをポチリと押した。
茶色はコーヒーのボタン・・・。
ちなみに白はミネラルウォーター、黒はコーラ、黄色はオレンジジュース、青は氷、
そして赤はキャンセルボタンである。
おずんは如何にも、もどかしいと言った様子で、
「ねえさん!お茶なんか飲んでる時ちゃいますやろ、もう・・・!」
と、荒々しく帳場へ駆け寄り、机の赤いキャンセルボタンを押すと、
バタバタと勝手の奥の方に出て行ってしまった。
挿絵 ©エグチブーコ
つづく
「詳しいお話はそちらのブーコさんからお聞きになってください。まぁ、簡単に申しますと、
無い品物を売って代金を貰ったというような・・・、言い難いですが要は詐欺罪という事です。」
おずんは信じられないといった顔で、
「まさか!」
「そんな馬鹿な事・・・。デイゴはんが詐欺やなんて!それ間違いやないんですか?」
おずんの訴えに滝井は頭を小さく横に振ると、
「残念ですが、それが間違いであると言う証拠はまだ見つかっていません。
ただ、捜査はまだ続きますので、今後どうなるのかは今のところはまだ・・・・。」
と、まるで用意されたような言葉を連ねただけのそっけない言葉を返した。
滝井は、今にも泣きそうな顔のおずんに背中を向けると、
「では、今日はこれくらいで勘弁しといたる・・・。」
と、どこかで聞いたようなボケを咬ましたのであるが、
それが大昔の大阪芸人の持ちネタである事など、
その場の誰も知る由が無かった。
精一杯のボケを透かされた滝井は、シマッタ・・と言う動揺を顔に浮かべながら、
「あ、あぁ、ご不明な点がありましたら何時でも私宛に連絡を下さい。」
と急に真面目さを取り繕うと、玄関の框(かまち)に腰を下ろし、
綺麗に脱ぎ揃えてあった白黒コンビの革のウェスタンブーツを履き始めた。
滝井はブーツを履き終わるとそのつま先に付いていた小さな汚れを、
寄れたコートの袖で大事そうにキュキュッと拭うと、
彼の身長からして遥かに届かない摩古屋の暖簾に腕押しする格好で店を出て行ったのだった。
まるでオンボロの中古車にピッカピカのレーシングホイールを履いたような姿に、
「なんやこの男、キッショイわぁ・・・」
と、おずんは心の中で呟いていた。
挿絵 ©エグチブーコ
つづく
「デイゴはんが・・デイゴはんが警察に・・・」
何故、どうして?
おずんは一生懸命駆けながら想った。
昨夜の、あの優しく庇ってくれたデイゴの事がグルグルと脳裏を駆け巡る。
僅か一町ほどの距離がもどかしく、殊更に長く感じられてしまう。
「あぁ、デイゴはん・・・、きっと何かの間違いや・・・」
そんな疑心を払い除けながら、摩古屋への道を急ぐ。
程無くして店の前に着いたおずんは、一寸玄関の前で立ち止まり、
その可憐な唇をキリリと結んで気をを引き締めると、店の正面から中へ入って行った。
まだ開店前の店内は照明が点いていたのだが、外の明るい日差しに慣れ切った
おずんの目にはたいそう暗く、店の中の様子が浮かび上がるまで少しの時間を要した。
「あぁ、おずん!!」
おずんの姿を見止めるや、ブーコが帳場から大きな声を上げる。
昨夜のあの意地の悪い皮肉屋のブーコとは打って変わって、
情けなく不安だらけの、縋(すが)る様な顔でおずんに駆け寄った。
「お、おずん、おずんよう!デイゴはんが警察に・・・」
ブーコはそこまで言うと後はもう声にならない・・・、おずんの割烹着の裾を掴んだまま
膝間付くように崩れ落ちてしまった。
「ねえさん、デイゴはんが何を・・?どないしはったん?」
その時、番台の後ろの方から、見た事のない男がフラリと現れた。
ヨレヨレに擦れ切ったねずみ色のスプリングコートを羽織り、
その前をだらしなく開けた背の低い男だった。
極太の黄色いネクタイが異質な雰囲気を放っている。
狭い額と切れ長の目、そして分厚い下唇が印象的であった。
「うわぁ・・・!」
おずんは部外者が居る事など知る由も無かったので、思わず声を上げてしまった。
「あんた・・・あいえ、お宅様は・・・あのどちら様で・・・?」
ドキドキとした胸の鼓動を抑えつつ、ブーコの両手を優しく摩りながら男に問うた。
男はそれにしても小さかった。
彼のネクタイをほどいて真っ直ぐに伸ばした長さと、ほぼ変わらない身長であろう・・・。
声も特徴的で、まるで今世紀初頭に日本を牛耳っていた「鷹の爪団」のNo.2!
あの「吉田」のアヒルの様な声にソックリであった。
「あ、驚かしちゃいました?ごめんなさいね~・・・。私、5番街区警察の滝井と言いま~す。」
男はその場を支配していた陰湿で重たい空気を押し退けるような、
妙に早口で陽気な言い回しで挨拶をした。(まさに吉田・・・)
そして更に、
「あのう・・・、皆私の事をタッキーと呼んでますので、宜しければそう呼んで頂いて構いませんが・・・。」
などと続けた。
おずんはその拍子抜けするような刑事の言葉を聞いても何も心に響かなかった。
それどころか、殊更に不信感を募らせてしまったようだ。
「あぁ、吉田、いや刑事はん・・・。」
「あの、うちの番頭はんが何ぞ悪い事を・・・?」
おずんは恐る恐る、震えるような小さな声で聞いた。
滝井は相変わらずのアヒル声で、
「あいえ、まだそうと決まった訳じゃ・・、ただ、これからの調べ次第ではお店にとって余り良い事に
ならないかも知れません。」
タッキー、いや滝井はそう言いながら、内ポケットから名刺を出すと
不振な目を向けるおずんに手渡した。
挿絵 ©エグチブーコ
つづく
何故、どうして?
おずんは一生懸命駆けながら想った。
昨夜の、あの優しく庇ってくれたデイゴの事がグルグルと脳裏を駆け巡る。
僅か一町ほどの距離がもどかしく、殊更に長く感じられてしまう。
「あぁ、デイゴはん・・・、きっと何かの間違いや・・・」
そんな疑心を払い除けながら、摩古屋への道を急ぐ。
程無くして店の前に着いたおずんは、一寸玄関の前で立ち止まり、
その可憐な唇をキリリと結んで気をを引き締めると、店の正面から中へ入って行った。
まだ開店前の店内は照明が点いていたのだが、外の明るい日差しに慣れ切った
おずんの目にはたいそう暗く、店の中の様子が浮かび上がるまで少しの時間を要した。
「あぁ、おずん!!」
おずんの姿を見止めるや、ブーコが帳場から大きな声を上げる。
昨夜のあの意地の悪い皮肉屋のブーコとは打って変わって、
情けなく不安だらけの、縋(すが)る様な顔でおずんに駆け寄った。
「お、おずん、おずんよう!デイゴはんが警察に・・・」
ブーコはそこまで言うと後はもう声にならない・・・、おずんの割烹着の裾を掴んだまま
膝間付くように崩れ落ちてしまった。
「ねえさん、デイゴはんが何を・・?どないしはったん?」
その時、番台の後ろの方から、見た事のない男がフラリと現れた。
ヨレヨレに擦れ切ったねずみ色のスプリングコートを羽織り、
その前をだらしなく開けた背の低い男だった。
極太の黄色いネクタイが異質な雰囲気を放っている。
狭い額と切れ長の目、そして分厚い下唇が印象的であった。
「うわぁ・・・!」
おずんは部外者が居る事など知る由も無かったので、思わず声を上げてしまった。
「あんた・・・あいえ、お宅様は・・・あのどちら様で・・・?」
ドキドキとした胸の鼓動を抑えつつ、ブーコの両手を優しく摩りながら男に問うた。
男はそれにしても小さかった。
彼のネクタイをほどいて真っ直ぐに伸ばした長さと、ほぼ変わらない身長であろう・・・。
声も特徴的で、まるで今世紀初頭に日本を牛耳っていた「鷹の爪団」のNo.2!
あの「吉田」のアヒルの様な声にソックリであった。
「あ、驚かしちゃいました?ごめんなさいね~・・・。私、5番街区警察の滝井と言いま~す。」
男はその場を支配していた陰湿で重たい空気を押し退けるような、
妙に早口で陽気な言い回しで挨拶をした。(まさに吉田・・・)
そして更に、
「あのう・・・、皆私の事をタッキーと呼んでますので、宜しければそう呼んで頂いて構いませんが・・・。」
などと続けた。
おずんはその拍子抜けするような刑事の言葉を聞いても何も心に響かなかった。
それどころか、殊更に不信感を募らせてしまったようだ。
「あぁ、吉田、いや刑事はん・・・。」
「あの、うちの番頭はんが何ぞ悪い事を・・・?」
おずんは恐る恐る、震えるような小さな声で聞いた。
滝井は相変わらずのアヒル声で、
「あいえ、まだそうと決まった訳じゃ・・、ただ、これからの調べ次第ではお店にとって余り良い事に
ならないかも知れません。」
タッキー、いや滝井はそう言いながら、内ポケットから名刺を出すと
不振な目を向けるおずんに手渡した。
挿絵 ©エグチブーコ
つづく