ロンドンで働く弁護士のブログ

2012年7月から2013年9月までLSEのLLMに留学。
2014年11月から2015年7月までロンドンの法律事務所に出向。
イギリス生活や職場での様子などを徒然なるままに。


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あっという間に年の瀬が近づいており、年に1回真面目な記事を更新するこの季節がやってきました。

 

2020年の東京オリンピックに向け、マスコミもこのところ「インバウンド需要」などという表現を使って海外からの観光客をターゲットにするビジネスを取り上げることが多くなってきました。実際に、国内のホテル業界は引き続き活況であり、混雑する時期に泊まろうとするとア●ホテルでさえも1泊数万円したりします。

外国人観光客をターゲットにした民泊というサービスが注目を集めたり、中国人観光客に特化しすぎた銀座のデパートがかえって閑散としてしまったことが話題になったり、様々な影響が出ているのはご承知のとおりです。

 

このようなインバウンド需要というのは、日本の法律事務所にはウェルカムな現象です。

例えば、海外の投資家が日本の不動産にいっぱい投資をしてくれれば、私たちは日本法のリーガルカウンセルとして彼らに法的サービスを提供することができるわけです。

 

改めての確認になりますが、いわゆる国際的な取引(クロスボーダー取引)において、日本の弁護士が最も活躍できるのはインバウンド案件なのです。これは外資系の弁護士であっても、国内大手の弁護士であっても変わりません。

 

理由は非常にシンプルで、私たちは日本法の弁護士であり、日本の法律についてのサービスを提供するのが本分だからです。

反対に、日本の投資家が海外に進出するアウトバウンド案件の場合には、適用される法律の多くは進出先の国の法律になります。しかしながら、(肩書の上ではNYの資格を持っていたとしても)日本の弁護士は現地の法律についてのリーガルサービスを提供できませんので、アウトバウンド案件では日本法の知識を活かす場面は限られてきます。

 

なお、インバウンド案件のリーガルカウンセルとして、弊事務所のようなグローバルファームが選ばれるか、四大法律事務所を始めとした国内の大手法律事務所が選ばれるかは投資家の意向次第になりますが、今回の記事ではこの点には踏み込まないことにします。

 

だって、クロスボーダー案件においてはグローバルファームの方が良いのは自明ですからねっ!

 

はい、余計な波風を立たせないように気を付けながら本日の本題に入りましょう。

皆様もあちこちで耳にしたことがあるかと思いますが、ここ5年ほどで国内の大手法律事務所が海外に支店を設けるケースが増えてきました。

 

日本の法律事務所による海外オフィス設置の狙いは、日系クライアントの海外進出(すなわちアウトバウンド案件)を助けることにあると推測されます。すなわち、普段から国内の案件で信頼関係を築いてきたクライアントが主に東南アジア諸国に進出する際に、現地のオフィスにいる日本人弁護士にコンタクトを取ってもらうことで国を跨いで円滑なサービスを提供しようという狙いではないかと思います。

 

ここで、ふと気づくはずです。

あれ?国際的な取引で日本の弁護士が活きるのはインバウンド案件の方ではなかったのかと。

 

もちろん、海外に進出している法律事務所もそんなことは百も承知のはず。それでも日本国内の需要だけではいずれリーガルマーケットも縮小していき、生き残りが難しくなるのではないか、という悲観的な見通しを打破すべく、敢えて海外オフィスでのアウトバウンド案件獲得という新たな挑戦をしているのではないかと推測しています。

 

 

そこで、今回のテーマは、①日本の資格を持った弁護士でありながら、アウトバウンド案件でどう活躍するのだろうか、②活躍できるとしてそれは法律事務所のビジネスにインパクトを与えるほどの規模になり得るか、という点を検討してみたいと思います。

 

アウトバウンド案件において、日本の弁護士に期待される役割としては大きく3つ考えられます。

 

1.現地の法律事務所とのパイプ役

2.各種契約書の翻訳

3.現地の法律事務所と協働してのドキュメンテーション・交渉

 

それぞれの役割をもう少し詳しく見ていきましょう。

 

1.現地の法律事務所とのパイプ役

 

昨今のグローバル化の流れの中では、国際的な経験が豊富な人材が多くない企業であっても海外との取引は避けては通れません。そのような場合、一部の担当者は英語が堪能であってもそれ以外の人(往々にして役職が上の人)はほとんど英語を理解できないということも多々あります。

そこで、現地の法律事務所から適切なアドバイスをもらったとしても英語で正確に理解することが難しいこともあるでしょうし、英語が堪能であっても現地の複雑な法規制の整理が難しいこともあるでしょう。その際に、日本の弁護士が間に入り、現地の法律事務所のアドバイスを法的な視点から分析し、咀嚼した上で、日本語でクライアントに説明することができれば、日系クライアントも安心して取引を進めることができるはずです。

 

2.各種契約書の翻訳

 

より実務的な作業としては、役員決裁のために契約書の和訳を求められることもあります。案件次第では外部の翻訳業者に任せることもありますが、正確を期すのであれば弁護士による翻訳レビューを経た方が確実でしょう。案件の規模にもよりますが、主要契約をすべて翻訳しようとした場合には相応のコスト(法律事務所からすれば売上)がかかります。

 

3.ドキュメンテーション・交渉

 

さらに踏み込んで案件に入る場合、ドキュメンテーションや相手方との交渉までも日本の弁護士が進めていき、現地法に特有の部分のみを現地の弁護士に確認してもらうということもあり得ます。これができることによって、日本のクライアントとしては日本語で修正箇所を議論・指示すれば、それがそのまま契約書に反映されることになり、非常に簡便にドキュメンを進めることができるはずです。

 

このように見てくると、アウトバウンド案件でも日本法の弁護士の活躍の場は相当程度ありそうです。

実際に、私がロンドンオフィスに出向していたときには、日系クライアントの英国法人に対してアドバイスをしておりましたが、その際に日本人の担当者に対して、日本語で案件の説明ができるというのはきっと重宝されたのではないかと自負しています。

 

 

では、果たしてこのようなアウトバウンド案件は、日本の弁護士にとってブルーオーシャンの鉱脈になり得るのでしょうか。

 

ここで、忘れてならないのは、上記の1や2の役割はクライアントが国際取引に不慣れであることを前提にしているということです。担当者が直接現地の法律事務所とコミュニケーションを取れ、英文でのレポートを読み解くことができればそもそも日本の弁護士によるサービスの必要性は大きく減少します。

現に、例えば商社が海外で大型取引をする際に日本の法律事務所を間に噛ませるようなことはほとんどありません。

 

また、上記3の役割についても、現地の法律事務所や英語がネイティブの弁護士に依頼した方がサービスの質が高いのではないかとの疑問もあり得ます。

 

これに対しては、日本の弁護士であっても国際取引の経験が豊富であれば、(各国に固有の論点を除き)十分に対応可能であるとの反論が考えられますし(実際に私もドキュメンにメインで参加していましたし、国内大手の国際案件担当者も同様だと思います。)、多少クオリティーを落としても現地の法律事務所を飛ばすことでコストを削減できるメリットの方が大きいと判断するクライアントもいるはずです。

 

そう考えると、今後アウトバウンド案件が事務所の有力な収益源になるか否かは、

 

①これまで国内での取引を中心に行っていた日系企業が積極的に海外へ進出すること

②かといって、現地の法律事務所を直接使いこなすほどには国際化しきれないこと

③現地の法律事務所を含む他の事務所との価格競争に負けないこと

 

などの条件を満たすことが必要になるのではないかと思われ、決して楽な道のりではないでしょう。現時点では、国内大手の海外支店はいずれも小規模なようなので、今後どれだけ拡大していくのか興味深く注視していきたいと思います。

 

 

ざっくりと結論をまとめれば、アウトバウンド案件の需要はあるけども、国内大手法律事務所の業績を飛躍的に向上させるかというと、そこまでのインパクトはまだない、ということになるでしょうか。

 

ですが、今回アウトバウンド案件をテーマに取り上げようと思ったのは、何を隠そう私自身が今後アウトバウンド案件に力を注いでいきたいと考え始めているからなのです。

 

そこで、もう一歩話を膨らませて、国内法律事務所とグローバルファームのアウトバウンド案件の位置づけの違いにも触れみたいと思います。

 

 

まず、上記のようなアウトバウンド案件の基本的整理は、外資系事務所で働く日本人弁護士にとっても概ね共通します。

私自身、ワークロードの大半は外国投資家・外資系金融機関によるインバウンド案件が占めており、これが業務の中心であることは変わりません。

 

また、外資系の弁護士がアウトバウンド案件に関与する場合に期待される役割も、上記で説明したものと共通し、例えば大手商社が海外で投資をする際に東京オフィスがサービスを提供することは稀です。

 

しかしながら、グローバルファームが国内の法律事務所と異なる点として、(考えてみればごく当たり前のことですが)「現地の法律事務所」というのも自分の事務所なのです。

例えば、ロンドンへのアウトバウンド案件で弊事務所のロンドンオフィスと協働した場合、リーガルフィーの過半はロンドンオフィスで計上されることになるものの、弊事務所の収益であることに変わりはありません。先ほど挙げた商社の例をとっても、東京オフィスの弁護士はほとんど関与していなくとも、ロンドンオフィスにとっては大型案件を依頼される重要なクライアントだったりします。

どこのオフィスの売上であるかというのを気にせず、必要であれば各国の弁護士がOne Firm, One Teamとして協力し合えるというのが、グローバルファームの一番のメリットなのです。

 

したがって、同じアウトバウンド案件と言った場合にも、国内法律事務所の弁護士と、外資系事務所の弁護士とでは、その意味合いが少し異なってきるようにも思います。

 

私の場合は後者に属しているわけですし、せっかくロンドンオフィスに出向してイギリスの実務に直接触れることができたので、できればその経験を活かせるアウトバウンド案件に関与し、(東京オフィスに限らず)弊事務所に貢献していきたいと考えています。

そして、日系企業によるアウトバウンド案件を獲得することができれば、それはグローバルにおける東京オフィスの存在感を示すことにもつながるはずですし、ひいては私自身のキャリアを切り開くことにもつながっていくのではないかと思います。

 

 

なんだか書いているうちに議論が拡散してしまい、最終的には自分の話に引っ張り込んでしまったような気もしないでもないですが、どのような案件に関与するにせよ、戦略的に自分のキャリアを形成していきたいですね。

 

ということで、近いうちにアウトバウンド案件の外部セミナーでも開催しようかと企んでおりますので、詳細が決まりましたらお知らせしたいと思います!(ステルスじゃないマ)

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