ルンペン放浪記

労働者のありったけ


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どこのデモに行っても、つまみ出されはしないけれど、おれたちみたいな、その日暮らしの、手ぶら乞食野郎など、ちり取りですくう値打ちもないゴミ、どうでもいいひやかしとして、迷惑がられていることくらい、ににんがしと同じくらいわかっていた。


それでも、あまりな仕打ちにむかむかしだすと、敷居際でけつまずきそうになりながらも、ありあわせの集会にこっそりもぐりこんで、どんちゃんやるよりうさの晴らしようがないわけだ。


今回のそいつらだけは、いつもと違って、おまわりに道をたずねる必要すらなかった。

あれだな。

はるかな遠くからでも、やつらの熱のかたまりが、わんわん、唸りをあげているのが聞こえた。


それも、敷居際どころか。
ピーンポーンを押すどころか。
まだ門をくぐらない先から、前からも、後ろからも、ななめからからも、ビラのシャワーをごっそり浴び、まるで、チアガールが足をはね上げて、「どうぞ」と拝ましてくれるみたいな、歓迎ぶりだ。


ビラに目を通すまでもなく、そいつらこそ、まさに図星だ。


おれたち、しものしものほうとどっちこっちないやつら……つまり、破滅寸前の苦悩を知り尽くしたやつらがひしめきあって、石炭みたいに燃えあがってやがる。

山田書院も、家賃供託も、君が代首切りも、でっちあげ終身刑も、濡れ衣も、登記屋のねーちゃんも、保釈金四百万も、ユウメイトも、不当逮捕も、法大も、パトリオットミサイルも、辺野古のにーちゃんも、三里塚のおっさんも、動労の百戦錬磨も……、どいつもこいつも、おれたち以上にひどい目にあい、おれたち以上にむかっ腹を立て、おれたち以上に訴えたいことで、グリーンピースみたいにぱんぱんに張りつめ、まさしく、パチンと弾けんばかりだ。


もちろん、壇上で叫ぶ選りすぐりのいっていることは、よく、のみこめなかった。
それでも、やっていることは、声の響きで、すとんと、胃袋におさまった。
とりわけ、でっかい鼻、分厚い唇、中上健次の面つきそっくりのねーちゃんの訴える、抑揚のないハングル語の、流ちょうな響きは、切ないけれど野太く、ずーっと胸を揺さぶられつづけた。



中上健次そっくりのねーちゃん
     (訴える、ハングルのねーちゃん)



ねーちゃんたちは、七人ほどで、逃げまわる会社にスッポンみたいに食らいついていたらしい。――四十メートルというから、十五階建てのビルの高さの送電塔によじ登り、氷点下にぶるぶる震えながら、断食して“抗議”し、鉄塔の土台のあたりで、やつらの助っ人が、座り込んで“野宿籠城”したのだという。――その、地べたに食らいつくようなやり方は、まるっきり、おれたちの野宿野郎と同じじゃないか!


やつらのはらわたを支えるのは、たぶん、おれたちの知っているあれだ。
あの、何ともいえない至福感だ。


おれたちも、せっぱ詰まってげんこつを振りあげるたびに、恋いこがれていたねーちゃんといっしょに夕焼け空を眺めるみたいに、互いにうなずきあい、信頼に頬をこわばらせ、もじもじしながら、針が落ちても飛びあがるほど感じやすくなり、昨日までと同じ苦役をくり返していても、ふしぎなことに天にも昇る心地になったもんだ。


それまで憎んでいたやつを好きになり、いがみあっていたやつとも仲良くなり、テコでも動かない分からず屋でも、ふぐりをぱっと握って、ばしっとハイタッチで分かりあい、……厳しいけど和気藹々、ほんとうは地獄でもまるで花園かと見まがうばかり、こぼれ落ちてくるよろこびをヘルメットの顎紐を縛りなおして、目を細め、いままでとちがう、それぞれのすばらしさに胸が熱くなったもんだ。

昨日までの上下は、組合旗をおっ立てたときから、見えない糸で結ばれたかけがえのない前後左右になったもんだ。
惨めったらしいぼろっかすは、奇跡が起こって、貴重な、ひとりひとりになったもんだ。


こればっかしは、経験したやつでないと、わからない。


ねだり屋の大御所から閉め出されたこまいやつらには、おのずと、狼みたいな血が渦巻いていて、「麻生出て来い!」「お前がお茶くめ!」の、にーちゃん、ねーちゃんたちの、傲慢にも、鋼鉄みたいなチンチンドンドンと同じく、命がかかっているだけ、万力で締めあげられているだけ、踏みつけられても踏みつけられてもまいったといわないだけ、それだけ、ますます、血を沸きたたせる。
つまりは、どこにでもいる、しあわせの、空っぽの、提灯持ちの、付和雷同の、上意下達の、ぶらさがりの、右顧左眄の、年金欲しさなんかが、ここでは、敷居際でけつまづいて、こそこそ、逃げちまうのだ。


初参加の飛び入りの耳には、やつらがこういっているように聞こえた。


いったい、おめえら、何がこわいのか?
逮捕、虐殺が、そんなにこわいのか?
不当解雇が何だ!
定年退職がどうした!
再雇用拒否が何だ!
年金が無い?!それがどうした!


みんなで“団結”して、ぶちかましゃいいのさ!

一発で、理不尽な仕打ちは、根こそぎ、でんぐりかえるぜ!

“団結”こそが、おれたちの、ただひとつの武器さ!


若いのも、三十路も、老いぼれも、みんな、「おれはおれだ」というしるしを、ひたいやせなか、プラカードや横断幕、ちんちんやおっぱいに張りだし、5700人の、それぞれが、正真正銘の、まったきひとりとして、さつどものいる銀座の大通りをのしのし、歩いていく……。

ものすごい数のおまわりが、二時間の間、ちびりそうになって、びくつくのも当然だ。



さつどものいる大通り
       (さつどものいる大通り)



どうやら、『全国労働者総決起集会』(08'11,2)といういかめしい、そのデモは、あってはならない、おどろおどろしいデモ、表沙汰にしちゃいかん、ばばちいデモとして、メデアはもちろん、「しんぶん赤旗」からも、毛嫌いされて、人目にふれないところへ瓶詰めされちまった模様だ。



それなら、おれたちと変わらない。
おれたちも、らい病みたいにゆえもなく毛嫌いされ、ギーと音のする鉄扉の向こうに閉じこめられる宿命だ。








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