ルンペン放浪記

労働者のありったけ


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でっかいところはいずこも同じだ。いっていることは立派でも、やっていることはおれたちみたいなしものしものほうとは関係ない。「ここは、ちゃんとした組織労働者の来るところよ。ホームレスさん。なにか、御用?炊き出しなら、よそをあたって」と軽くあしらわれて、気まずい思いをするだけだ。
どこかに、ちっこいやつはないもんか?
しものしものしもの、そのまたしものほうというのは?
物色していると、二、三十人からせいぜい百人規模のとびっきりちっこいやつがあった。
やつらの吹聴している話では、今や、日の出の勢いらしい。
それでも、福岡では、練り歩くコースが当局のめがねにかなわなかったと、日の出の勢いの五十人が五十人、みんな一網打尽を喰らって、公園に閉じこめられたらしい。
ワーキングプアといっても、たとえ“プレカリアート”と持ちあげられても、要するに、ねんねと落ちこぼれとプチ・ホームレスの……つまりは、電車賃にも事欠くおれたちとどっちこっちない、その日暮らしのぴーぴーだ。
因縁をつけられたら、手もなくいちころだ。


心配しいしい行ってみると、エアロビクス教室みたいな会場(大久保地域センター4Fの多目的ホール)はすでにはち切れんばかりだ。
来るわ来るわ。
受付は、締め切り間際の馬券売り場みたいに押すな押すなの大盛況だ。どうにもならなくなって常連さんを追い出し、ぽっと出ばかりを押し込んでもやっぱり入りきれない。
「すいません。あと五センチ前に詰めてください」と何度やっても、入りきれないやつらがあふれかえって、わいわいがやがや芋の子を洗うようだ。


芋の子


これだけのやつらを一網打尽にするには、イラク派遣を中止して、こっちにまわさなきゃならんほどだ。
それにしても、巷に喧伝されていることは、ほんとうか?
寝る時間もないほどこき使われて、追いつめられてばたばた自殺し、雨後の竹の子みたいに訴訟が群がり起こっているというのに、みんな、お金ざくざくの坊ちゃん、お嬢さんと見まがうばかり――やがてはじまる一網打尽などどこ吹く風、恋でもしているみたいに至極ご満悦面だ。
愛子様みたいなおかっぱも、雨宮処凛スタイルも、腰のあたりにカボチャをかき集めてすらりとした脚を張りだしたお姫様も、トマトもりんごも、なすびもキュウリも、ずんぐりむっくりも、ちびも、セーラー服も、三十路のねーちゃんまで、利口そうなのから、はすっぱはもちろん、ゆるそうなのから、おっぱいちらちらにいたるまで、今を盛りのねーちゃんたちにまじって、にーちゃんたちも、カミナリ頭からスキンヘッド、テロリストからゲバラ鬚、目から鼻に抜ける秀才タイプ、ホストクラブのナンバーワン、ここ掘れわんわんもベートーベンも、つまり、ありとあらゆるいいかっこしいがわんさかひしめき、ねーちゃんたちの気を引こうと跳んだり、はねたり、おらんだり、百花繚乱とはまさにこのことだ。

うっとり見とれていると、「面白いバンダナしていますね。ちょっと、よろしいですか」と重そうな機材を抱えて、ひときわ知的な別嬪さんがにじり寄ってきた。
出っ張るところが出っ張り、引っ込むところが引っ込み、着飾り方もぴっちり貼りつき、そのうえ、キュートな微笑をたたえ、まさに、ふるいつきたくなるようなねーちゃんだ。
人違いではないか?
「おれは爺いだぜ」
さっそく教えてやると、「お年寄りの方がいらっしゃるなんてめずらしいの!是非とも、ご感想を聞かせてください」
まさかと思うが、下にも置かないもてなしぶりだ。
百花繚乱を拝ませて貰っただけでも儲けもんだというのに、声をかけていただけるなんて!
そのうえ、すし詰めを喰らってむんむんしているにーちゃん、ねーちゃんたちの羨望と好奇心の入り交じる視線をちくちく浴びながら、“感想”をぶちあげることが出来るなんて、願ったりかなったりとはこのことだ。
世の爺さん婆さんを代表して、勢い込んでまくし立てた。
「ワーキングプアはすげえな。ぎんぎらぎんに輝いていて、ほんと目がまわるぜ」
手放しの賞賛にねーちゃんは、目をまん丸くさせた。
NHKでも共同通信でもなさそうだ。
「あんたはどこのやつか?」
ついでに聞いてみた。
「あら、ごめんなさい。あたし、洞爺湖サミットをやっつけるメンバーよ。広報をやっているの」
サミットと聞いて、たまげた。
ワーキングプアと、どうつながるのか?
なかなかぴんと来なかったが、湖畔にそびえ立つ高級ホテルの映像を観るたびに、あんなものに使う金があれば、鼻くそほどでもこっちにまわせ、と思っていたので、これ幸いと諸手を挙げた。
「おれも、あれにゃ反対だぜ」
すかさずいってのけたというのに、彼女はそんなの当たり前よ、といわんばかりに、眉ひとつ動かさず、こう、いった。
「世界中から反対に来る人たちと、七月にテント村やる予定よ。キャンプインやって抗議するの。その節は、ぜひいらっしてね。お願いよ!」
テントとなりゃ、もちろん、そいつはおれたちのおはこだ。切符代なんてないから自転車にテントと寝袋をくくりつけてえっちらおっちら漕いで漕いで、漕ぎまくり、ボートかっぱらって津軽海峡を渡り、こりゃ、どうしたって洞爺湖までたどりつかなきゃならんぞ。そうすりゃ、今度は湖畔の木陰で、ふたたび、別嬪さんを拝めるぞ!おまけに、世界じゅうのにーちゃんねーちゃんたちを見物しながら、避暑としゃれ込めるなんて。そのうえ、帰りにゃ北海道のホームレスといっぱいやれるぜ。
別嬪さんに声をかけて貰ったばっかりに、まさしく一石三丁だ。


それにしても、どうなっているのか?
いろんなやつが、次々とおっ立って、ここを先途と色めき立ち、息つく暇もありゃしない。
公園に閉じこめられた福岡のユニオン、京都から来たやつ、どこにでもいそうなのが、我先へとマイクを奪い取り、持ち時間なんて何のその、ガソリンスタンドも、合同清酒も、札幌のユニオンも、大阪も、名古屋も、絵に描いたようなくそまじめから、羽目外し、でんぐりかえり、向こう見ずから、大風呂敷、誇大妄想、かつて脚光を浴びたらしい時代錯誤の残骸にいたるまで、味噌も糞も一緒くたになって、灼熱している。
すごいの何のって!
ぼくは、感嘆これ久しゅうするのだった。
何からなにまで開けっぴろげだ。
開放感がほとばしり、踊りだしたくなるようなリズム感にうきうきする。
そこには、どんな目にあっても、おれたちゃ凹まないという暗黙の了解がきらめいてやがる。
「正しいのはおれたちだ」「おめえらの社会がまちがっている」という確信の、鉄板みたいなすがすがしさが横溢してやがる。
そんなにーちゃん、ねーちゃんたちが往来に飛びだしてみろ!
街じゅうに熱病がひろがって、地球がひっくり返るぜ。


待ち遠しいたらありゃしない!
小便をして外に出ると、ビルとビルの裂け目に、にーちゃん、ねーちゃんがあふれ、それぞれ、プラカードや旗や、わけのわからない骸骨の人形を高々とささげ持ち、ラッパ吹きからドラム、たすきがけ、おいらんスタイルのゲイのおばんにいたるまで、携帯をぱちぱちやったり、デジカメで記念撮影したり、これからはじまる流血の惨事などどこ吹く風、四十メーターほどの路地裏は、地球はじまって以来、見たことも聞いたこともないめちゃ面白いメーデーをやりたがっているやつらのうずうずした熱気で、はち切れんばかりだ。

一網打尽のほうは、どうか?
いるわいるわ。
年端もいかないにーちゃんねーちゃんたちが、よっぽど、こわいにちがいない。
カブトムシみたいな機動隊をじゃらじゃら押し立て、制服に、公安に、非番のおまわりまでかき集めて、やつらは、ネズミ一匹逃がさない布陣だ。
五百円払って、受付で貰ったぴらぴらの小冊子には「警視庁が総出で立ちはだかっても、おれたちゃ、おれたちの好きなど真ん中もど真ん中、いちばんの目抜きでメーデーやるぜ」と書かれていた。
『それは許さん!数々の弾圧の歴史に輝く警視庁の沽券にかけても絶対変更させる。あんたらあ、あぶれ者は、痴漢がいるようなさびしい道を目立たんように、こそこそ歩け。泣く子も黙る警視庁の許可したところを歩け。さもないと、一網打尽を喰らわして、泣きっ面に蜂だぞ』と来ても、「ぶっ飛ばしてやるぜ!」と書かれていた。

いよいよだ!
6:10pm、にーちゃんねーちゃんたちは、すっかり隊列を整え、みんな、一歩踏みだした。
さあ、行け!
血が沸きたち、そんなことは滅多にないことだが頭の芯がかーんと冴えわたった。
おっ、前へ進んだぞ。
あれ、やっぱりか。
とまっちまったぞ。
最前列がみょうなので、飛んで行ってみると、大久保通りのまんなかで、にーちゃんたちが機動隊にとっつかまって、大暴れしているのが見えた。
鈴なりになった買い物客や、店員たちの無数の目玉が、びっくり仰天していた。
遠くに先頭集団の切れっ端が進んでいる。



分断


百戦錬磨の切れっ端を進ませておいて、その他大勢の海千山千を、路地裏に閉じこめようという寸法だ。
栄光に輝く警視庁の考えるこたあ、いつも、姑息できたない。
それにひきかえ、にーちゃんねーちゃんと来たら、どうだ!
にーちゃんもねーちゃんも、にわかにコマネズミみたいにはしこくなった。機転がひらめき、叫び声や動きの微妙な気配から電光石火の早業で、絶体絶命の今、それぞれが果たすべきもっとも適切な役目を直感し、すかさず行動に打って出た。
無名の英雄がいたるところから躍りでた。
泳がされた切れっ端は、何が起こったかを直感して、立ち止まり、じりじり後じさりしはじめた。
切れっ端と警官が入り乱れ、あたりは市街戦さながらに沸きたった。
抗議をぶち込むやつ。狂犬みたいに吠えるやつ。噛みつくやつ。旗を振るやつ。携帯を耳に走りまわるやつ。すかさず軽トラックに飛び乗るやつ。どつくやつ。躍りこむやつ。煽るやつ。伝令を買って出るやつ。揺さぶるやつ。
誰が誰やらわからなくとも、そのとき、にーちゃんねーちゃんたちの心はひとつになったのだ。
おれたちのメーデーがポシャれば、この世はポシャるぜ!!


軽トラに飛びこんだ無名のにーちゃんは、歴史はじまって以来の勇猛果敢ぶりを発揮した。
警官などものともせず急発進、急後退をくり返して、ぎくしゃく揺すぶりをかけ、見事に十センチ前進した。
警察の群れが大挙して通せんぼした。
「どけ、どきやがれ!」
前後左右から、通せんぼには金切り声がぶち込まれる。
「行け行け!」
軽トラのにーちゃんは、金切り声の声援に激励されて、まなじりを決した。腕っ節の強そうなにーちゃんが荷台にとりついて、押しまくりを買って出た。
軽トラのにーちゃんは、空エンジンを吹かして、ぐいと三センチ進んだ。
警察だって、おっかなびっくりだ。
やっぱり、いかれたにーちゃんに敷き殺されたくはない。
さらに、エンジンを空ぶかしして、にーちゃんは勇躍一センチ進んだ。
「行け行け!」
後ろに続く隊列は、声を限りにおらんでいる。
「行け、行け、ゴオ!」
そのとき奇跡が起こった。
ひるんだ警官の間隙をついて、軽トラは、一挙に突進した。後ろからイナゴのごときにーちゃん、ねーちゃんがばたばた飛び出し、大通りにあふれ返った。
もはや、警告をがなり立てるハンドマイクのだみ声も、警棒も、黒光りするカブトムシの群れも、手も足も出ない。
警視庁の姑息な一網打尽は、にーちゃんねーちゃんたちの一糸乱れぬ結束によって見事に食い破られたのだ。

人だかりに人だかりが重なって、浮かれたやつらはガードレールを飛び越え、メーデーの群れにまぎれ込み、いっしょになって練り歩く。大久保を出たとき五百五十人だったデモ隊は、新大久保駅を、ガードを、歓楽街のど真ん中を、さみだれ解散の新宿駅東口広場、アルタ前に向かっているうちに、みるみるふくれあがった。
にーちゃんねーちゃんたちと来たら、やることをやるだけあって、いうこともふるっている。


♪働らかねーぞ♪


朝から晩まで、だまし討ちにだまし討ちを喰らって、カスカスまで絞りあげられて、いただけるのは子どもの駄賃ほどだ。
おれたちゃ、ホームレスと同じさ。
棍棒でドヤされても、金輪際働らかねーぞ!

♪いうこと聞くよなやつら(おれら)じゃねえぞ!♪


あれもやれ、これもやれ、もっとがんばれ。効率よく、身を粉にして、ついでに頭も空っぽにして、しゃかりきになって働け。
「過労死しろ」だと?
いやなら、「過労自殺もあるぜ」だと?
誰がいうこと聞くか!


♪おまえがお茶くめ!♪


御手洗の野郎、てめえがプリンタインクにフタをしてみろ!
奥田の野郎、一度でいいから、おまえが殺人ラインでふらついてみろ!
麻生の野郎、おまえが生コン打て!
まちがうな!
くたばるのは、おまえらだ!


「時給をあげろ!」
「金持ち、いらん!」
「地主も、いらん!」
「顎で使うな!」
「夜勤をなくせ!」
「パワハラ、やめろ!」
「仕事をさぼれ!」
「路上、開放!」
「戦争、反対!」


眺めるおびただしい目玉は目を見張り、聞いたおびただしい数の鼓膜は耳を疑った。
そこには、未だかつて聞いたことはないが、誰もがはらわたのなかで千度もつぶやいたことのある“ほんとうのこと”があふれかえっていた。


路上


プラカードをおっ立て、踊り狂い、ステップを踏み踏み、楽器をがならせ、ひらひらとこれ見よがしにコスチュームをひけらかし、楽しそうに、屈託なく、天真爛漫に、練り歩きながら、にーちゃんねーちゃんたちは、新聞もテレビもけっして口にしない“ほんとうのこと”を、大声で叫んでいるのだ。
“ほんとうのこと”は、人の心を揺さぶり、うっとりさせる。
晴れ晴れとした気持ちにさせる。
機動隊のにーちゃんだって、知らず知らずのうちにうきうきして来るというのに、沿道に群がる無数の野次馬たちが、どうして巻き込まれずにいられよう!


予定より、10分遅れではじまった『自由と生存のメーデー』は、二時間後の8:20pm、歓楽を求めて集まってきたアルタ前の群衆に飲み込まれ、想像を絶する無名の大群衆は誰彼見境なく、“ほんとうのこと”の跳梁跋扈を予感し、長いこと渦巻きながら、路上にあふれ出た“ほんとうのこと”の確かさに、拍手喝采して欣喜雀躍しつづけた。

                       
     ◎それは、08’5・3(憲法記念日)のことである。◎


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