桂小五郎との出会い9

テーマ:
「坂本さんと申されましたな」

小五郎は竜馬の顔を見つめた。


もともと思慮深い男なのである。


むしろ思慮深過ぎて暗さがあるほどの男だが、

このときだけはひどく明るい表情になった。



「長州陣地のこと、教えて差し上げます」


「昼になりましたな」


また竜馬は変なことをいう。



「腹が減った。あれなる農家でめしを炊かせましょう。はなしは、それからがいい」



その百姓家には気のよさそうな初老の1人が留守していたが


桂小五郎と坂本竜馬のためにこころよく昼飯の支度を引き受けてくれた。


「そのかわり、お武家さまたち、おかずはつけものだよ」

「結構だ」


と竜馬は言ったが桂は黙っている。

「桂さん、ここのカカ殿、つけものじゃというちょるよ。どうじゃ」

ととりなし顔で言うと

「わしはかまわぬ、しかし」

どうもこの長州者は長州者らしく思慮深い男なのである。


「先ほどから考えているのだが、どうもあんたとわしは、たがいに藩こそ違え、

このさき、関わりを結んでいきたいような気がする。

あんたはどう思う」


「ちゃちゃちゃ」

「えっ」

と小五郎が驚くと竜馬は大まじめな顔で、


「なに大したことはない。土佐のびっくり言葉です。

いまわしはおなじことを考えていましたので少々驚いた。


なるほど外夷がくるような時代になると、長州も土州もない。


今にそういう時代が来る。きっと天下に風雲がまきおこるだろう。

その時頼むべきは良き友だけだ。

男子、よき友は拝跪してでももとめねばならない」




引用著書
「竜馬がゆく」
司馬遼太郎



 
AD