桂小五郎との出会い8

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(どうもこういう男は苦手だ)



と思ったのは口から出る言葉の一つ一つが人の意表をつくのだが、


そのくせ、どの言葉も詭弁のようにみえて浮華では決してない。


人をわなにかける言葉でないのである。


自分の腹の中でちゃんとぬくもりの出来た言葉だからで、

その言葉一つ一つが確信の入った重みがある。


黙って聞いているとその言葉の群れが小五郎の耳からこころよいすわりで

一つ一つ座ってゆくのである。

(これはとほうもない大人物かもしれない)

と小五郎も思った。


同じ言葉でも他の者の口からでれば


胡乱臭げにも聞こえる。


ところがこの男の口から出ると、

言葉の一つ一つがまるで毛皮のつややかな小動物でも

一匹、一匹と飛び出してくるような不思議な魅力がある。


そのくせ雄弁ではない。

身体全体がしゃべっているような訥弁で、そのうえ、ひどい土佐訛りなのである。

(こういうのを人物というのかもしれない。

同じ内容の言葉をしゃべってもその人物の口から出るとまるで魅力が違ってしまう事がある。

人物であるかないかは、そういうことが尺度なのだ)





引用著書
「竜馬がゆく」
司馬遼太郎



 
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