桂小五郎との出会い5

テーマ:
桂はすぐに飛びのいて、脇差をぬいたが、

竜馬は

「待った」と手をあげた。

刀を切られた桂よりも竜馬の方があわてている。

刀身をすかしてみた。

なるほど、剛力で桂の刀を叩ききってしまっただけあって、

竜馬の刀もつばもとから3寸ばかりの箇所で歯がざくりと欠け落ちていた。

「欠けちょる」

大声を上げた。

兄の権平が苦情を言う顔が目に見えるようであった。

この刀は大小とも権平が竜馬の門出を祝うためにわざわざ土佐で作らせたものである。

それがこれ以上の大傷がついた以上、もはや都議も及ばない。

活かすには刷り上げて脇差にでも直すしか手がないのである。


「えらいことをした」

「どうしたのか」

桂の方が内心驚いてしまった。

当然な事で、この男はその気なら自分をやすやすと両断できる状態にありながら


斬ろうともせず、自分の刀の損傷に慌ててるのだ。



(馬鹿か)



いずれにせよ、こんな奇妙な男が諜者であるとはかんがえられないから、


「どうやら拙者の眼の誤りだったらしい。失礼しました。そこなる岩に腰を休められてはいかがです」

「ありがとう」

竜馬は刀を収めた。桂も脇差を収め、

「拙者は長州藩桂小五郎と申すものです」

「ああ」

竜馬は岩に腰を下ろしながら笑い出した。


引用著書
「竜馬がゆく」
司馬遼太郎

 
AD