桂小五郎との出会い4

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「言えんなぁ」

竜馬はわざと相手を誘うように

ゆっくりと編みがさのひもを解き始めた。

誘いに乗って斬りかかってくれば、ぬきうちで斬り捨てるつもりだった。

「もう一度問う。今度答えねば、不審のものとして始末する。貴名、貴藩の名を伺いたい」


「言えんなぁ」

この瞬間桂の編み笠が地上に落ちた。


それよりも早く桂の剣が木漏れ日の中できらめき、竜馬の頭上に殺到していた。

抜く間もない。

竜馬は全身まりのようになって、一間、二間、三間と飛びさがった。

桂は竜馬にぬく余裕を与えず、

一颯、二颯と刀を浴びせてゆく

おどろくべき身軽さである。


桂がうちおろした何太刀目かの切れ先が竜馬の編みがさのふちを一色ばかり切り裂いたとき、

(いかん)

竜馬は防ぎを諦めた。


諦めると不意に体が宙に浮いたように軽くなった。
身を沈め、居合に構え、進んで相手の白羽の下に入った。

しかも竜馬は地面に目を落としたまま相手を見ようともしない。

次の瞬間相手の影が動いた。


と同時に竜馬の剛刀が風を切ってはねあげたとき異様な手ごたえを感じた。

桂の刀がつばもとから折れて天を飛んでいる。




引用著書
「竜馬がゆく」
司馬遼太郎


 
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