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2009年11月23日

●見聞録231(1) なぜユニクロのヒートテックは大ヒットしたか 

テーマ:社会全般:歴史・文化
●世界三大広告賞を総なめしたユニクロ配信ブログパーツ「ユニクロック」採用!

●2009年11月23日(月)


ユニクロ、夜明けの行列 創業60周年

写真:ユニクロ銀座店、創業60周年セールに夜明けの行列

■見聞録231 ユニクロ栄えて国滅ぶ・・それはないでしょう!

●今日の視点

店の前に並んだ人々に、朝食としてアンパンと牛乳を配ったというユニクロの60周年記念セール。 銀座店2000人以上、大阪梅田店で650人と報じる記事は、不景気な昨今、ひとり勝ちの様な感じがするこのユニクロだけは鼻息が荒い。

日経21日の記事によれば、通常は1500円で売られている「ヒートテック」を600円にするなど大幅値引き販売をしている、という。 折しも新政権は11月の月例経済報告で「日本経済は緩やかなデフレ状況にある」と宣言した。 今更言う迄もないがデフレとは、物価が継続的に下落基調になる事である。 デフレ感という処では、既に昨年のイオンやコンビニの業績悪化が伝えられたあたりからだろうか。

9月の新聞広告に、文藝春秋10月号「ユニクロ栄えて国滅ぶ」と過激なタイトルの記事に、ユニクロが伸びれば日本の経済に悪影響?と一瞬、驚いたものだった。 よく読めば、物価の下落によって企業の収益が悪化し、賃金や雇用に不安が生じ、そのために需要が伸び悩む。そしてさらなる物価の下落と景気の減退を招くというデフレスパイラルへの警告する記事である。 著者である浜矩子氏が、その代表となる固有名詞として挙げられたのが「ユニクロ」という訳である。

本格的にユニクロに注目したのは、実のところかなり遅くて多摩ニュータウンにユニクロが出店して派手なオープンセールを始めた時期、記憶では1990年代の中頃だった様に思う。 「ユニクロ」のウエアがあふれ、町を歩けば同じフアッションに出会い、ロープライスなだけに気恥ずかしい事になれば、この商法は長く持たないのではないか、という思いだったが、その様な勘ぐりは見事に外れた。

バブルがはじけた以降1990年代から低金利政策から抜け出せず、一時の金融緩和が有ったにしても長いレンジ出見れば、結局デフレ基調は今日まで続いていると見てよい。 それでも現在の様なロープライスをこぞって競う様な事態には陥ってはいなかった。 しかしながら、今年に入って各流通のライバル店の下値を潜るような異常な価格競争は、どう見ても尋常ではない。

この連休の21日、孫と一緒に昭和記念公園にでかける際の弁当を、と吉祥寺の伊勢丹に立ち寄ると500円弁当があふれていたのには驚いた。 ビジネス街に、どこで造られたか不確かなままに、ワゴンで売られている弁当ならならいざ知らず、あの伊勢丹が、中身は1000円と言っても良い様な弁当を500円では、一体どれだけの利益があるのだろうか。 まさか、伊勢丹が弁当で客寄せと、いうのもそぐはない。 

今や多くの企業が「盲目的なロープライス設定症」にはまり込んでいるのでは無いか、いう危惧を覚えるのである。 このロープライス競争は、デフレスパイラルという悪しき循環へなだれ込む。 このような現況の元、高収益のもと一人勝ち街道を突っ走る現在のユニクロの好調の理由は、何なのか。 

デフレの流れに便乗した安値戦略のユニクロ、と一言では言い表せられない。 そこには正にユニークな企業努力があるのではないか、という視点で今回は創業者で今も陣頭指揮を執る柳井正氏の直近の著書 『成功は一日で捨て去れ』から、題して「ユニクロ栄えて国滅ぶ・・それはないでしょう」を、取り上げたい。 まずは「なぜユニクロのヒートテックは大ヒットしたか」から入りたい。

●今日の引用資料


柳井 正:著『成功は一日で捨て去れ』

●見聞録231(1)なぜユニクロのヒートテックは大ヒットしたか 

◇ユニクロ再強化・再成長のための3つのエンジン◇

ユニクロ事業の構造改革、つまりユニクロ事業の再強化、再成長に当たって、3つの成長エンジンが必要であると考えた。 組織開発、立地・業態開発、商品開発の3つである。 店舗のグローバル展開を徐々に始めてわかったことは、我々の強みが何で、弱みが何かということ。 また、世界で1位になるためには、日本で断トツの1位にならなければいけないということ。 そして、世界で評価されることを日本でももっと評価してもらわなければならないということである。

日本で断トツの1位になるということが、仮に世界で評価されるための通過点だとすると、世界に評価される商品をもっと磨かないといけない。 ユニクロを強化するということは、ユニクロ自体が既存のお客様以上に新規のお客様に評価されるということを意味する。

例えば、今までユニクロで買ったことのない顧客層、あるいは買ったことはあるが、1点だけしか買ったことのない人たちに2点とか3点買っていただく。 そのために250坪の標準店を500坪以上の大型店につくり替えていく。(中略)

東京の都心部へ大型店を出店する。 また、全国各地の郊外のショッピングセンターにも大型店を出す。 それにより客層の広がりを求めていく。 老いも若きも、男性も女性も、家族迪れもカップルも、もちろん一人でも、あらゆる客層の方々に人店してもらいたい。

別の側面から、客層の広がりを求めるということを考えると、商品力の強化、とくにウィメンズ商品の強化が重要になる。 我々はもともとメンズショップ出身なので、ウィメンズ商品が弱い。 他のカジュアルウェア小売業は圧倒的にウィメンズの売上高構成比率がメンズより高いのに、我が社は逆の構造となっている。 改革する余地は大いにあると考えている。

◇なぜヒートテックは大ヒットしたか◇

2007、2008年秋冬に大ヒットしたヒートテックも面白い素材だ。 それまでもヒートテックに似た素材は、冬のスポーツ用肌着として、主にスポーツ用品店などで販売されていた。 肌着1着が3~4000円する割には、ゴアゴアしていて着心地が悪く、どうにもファッション性がない。 熟年男性が冬にゴルフをする際に、防寒対策として身に着けるもの。そんなイメージだった。

このあまり注目されていなかった素材を、もっと薄くするなどして着心地を改善し、発色性をよくしてファッショナブルにする。 保湿性を高めるだけではなく、そこに保瀧機能を加えて肌が乾燥しないようにしたらどうだろう。しかも、それでいてあらゆるお客様が買える価格にする。 そんな開発過程を経て、現在のヒートテックが完成した。

簡単に説明したが、開発には実は相当な年数がかかっている。 1999年くらいから「あったか下着を作ろう。どうせやるなら、今までにない下着を作ろう!」ということで取り組み始め、少しずつ少しずつ完成度が上がっていったのだ。 その結果、4年間で6450万枚の大ヒット商品となった。

常識的な人であれば、既存のこの商品はスポーツ関連用品だと考えて、たとえば全国で5万点とか10万点は売れるだろうと考える。 でもそんな常識にはとらわれない。 この商品の用途そのものを変え、いろんな付加価値をつけたら、ひょっとしたら500万点とか1000万点売れるのではないかと考えるのだ。

ちょっとした考え方の違いが、商品の可能性を大きく広げる。 この商品は大化けする可能性があるのではないかと、初めから熱意を持って取りかからないといけない。 毎日毎日、商品の売れ方を見ていって、そう思える商品に出会ったら、大量に作る体制と広告宣伝をどう重点的にやっていくかを考えて実行するのだ。

ヒートテックは、スポーツ用途の肌着をファッションウェアに変えたものだ。女性のお客様にとっては、かつてのパパシャツの改良品だと考えて頂ければいい。従来のように下着として着ても結構だし、保湿性が高いので、その上にセーターや上着を1枚羽織るだけでもいい。 2枚を重ねて着る方法だってある。 きれいな色、きれいなシルエットで、非常におしゃれな服になった。 実は、これを最初に評価してくれたのは、各ファッション雑誌の編集長さんたちである。 自分で、買って着てみて、「これはすばらしい製品ですね」と仰って頂いた。 この評価は何よりうれしかった。

◇先入観が自らの壁を作る◇

もともと繊維業界は非常に保守的で、業界の常識にとらわれて産業構造そのものを変革しようとせず、どの会社も年功序列で、まったく実力主義とは程遠い。 そのなかで急成長してきた我が社は、完全実力主義で、欧米企業のように感じて中途入社してきてくれた人は多い。 繊維業界でなくてもそういう古さを残した産業は数知れない。

業界全体に古さが色濃く残っているのは、日本だけに限らない。 まずは国内で衣料品業界全体を見回すと、あなたの業界は実用衣料ですね、とか、ファッション業界、スポーツウェア業界などと、しきりに色をつけたがる。同じ衣料品に遠いないのに、である。これはアメリカでもヨーロッパでも同じことが言える。

我々がヒートテックを欧米で売ろうとすると、あんなスポーツ店で売られているようなファッション性のないものを、なぜ売ろうとするのかと現地の人に言われる。 商品の本質、機能性を重視した高い商品価値を理解していない。 イメージだけで判断しがちなのだ。 フリースを売り出した時も同じような反応だった。 「あなたたちは登山とかアウトドアのメーカーーなのですか」と言われた記億がある。

そのような感覚は、業界内の最先端を行っているような人でもありがちだ。 合繊は良くなくて、天然素材が良い、などという思い込みが強くて、フリースを見ずに「そんな商品は売れない」「欲しくない」と拒否する。日本の工業製品の技術力の高さは世界一である。 繊維技術もそうであるにもかかわらず、自分たちで壁を作り、先入観を持ったままなのだ。だから、なかなか活発な商品化が進まず、商品化されても少量生産なのでコストが高いままだったりする。 こうした壁を取り払えば、どんなにか世界が広がるのにと残念に思う。

●内容情報(「BOOK」データベースより)
ユニクロは、いかに「最大の危機」に対峙し、世界一を目指す組織を作り上げていったのか?その「安定志向」が会社を滅ぼす─現状を否定し、社内改革への挑戦を続けるユニクロ。経営トップが明かす悪戦苦闘の記録。

●目次(「BOOK」データベースより)
第1章 安定志向という病(玉塚新体制へ託した成長/3年ぶりの社長復帰 ほか)/第2章 「第二創業」の悪戦苦闘(なぜ再度、社長をやろうと思ったか/経営者を育てるのは難しい ほか)/第3章 「成功」は捨て去れ(再強化・再成長のための3つのエンジン/素材を生かした商品開発 ほか)/第4章 世界を相手に戦うために(ロッテと組んだ韓国への出店/成長が見込めるアジア市場 ほか)/第5章 次世代の経営者へ(H&M襲来は大歓迎/子会社3社統合は再生の第一歩 ほか)

●柳井正(ヤナイタダシ)
1949(昭和24)年2月、山口県宇部市生まれ。 早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。 ジャスコを経て1972年、父親の経営する小郡商事に入社。 1984年、カジュアルウェアの小売店「ユニクロ」の第1号店を広島市に出店し、同年社長に就任する。 1991年に社名をファーストリテイリングに変更。 1994年広島証券取引所に上場し1997年東証第2部に上場。 1999年2月には東証第1部に上場を果たした。 2002年11月に一旦は代表取締役会長となるも、2005年9月、再び社長に復帰する。

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2009年11月10日

●見聞録230(2-完) 歴史や文化に関するものから新渡戸稲造まで日本にひかれたエジソン

テーマ:社会全般:歴史・文化
●2009年11月10日(火)


燃料電池自動車 トヨタ・FCHV


写真:燃料電池自動車 トヨタ・FCHVエジソン( http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%87%83%E6%96%99%E9%9B%BB%E6%B1%A0から)


■見聞録230 エジソン発想法:非常識なアイデアが 大成功を生む

●今日の視点

「参戦を続けるか否か社内でかなり議論した。 コスト削減などあらゆる手を尽くして頑張ってきたし、ファンからも唯一の日本の自動車メーカーチームとして応援をいただいた。 しかし、今の経済状況を考えると撤退という苦渋の決断をせざるをえなかった」(11月5日 産経新聞)

これは、「エンジン含むF1からの完全撤退」を表明したトヨタの豊田社長のコメントである。 あのトヨタが、なかでもF1の推進役を務めた豊田社長の苦渋の決断である。 この真意はどこにあるのだろうか。 コスト削減という短絡的な見方ではないだろう。 

恐縮ながら前編の繰り返しになるが、鳩山首相が掲げる「日本は温室効果ガスを、2020年までに90年比25%減」という宣言は、太陽光発電や風力などの自然エネルギー産業を活気づく。 陰に隠れていた原発産業、CO2に無縁の原子力発電が、放射能の及ぼす危険を是非を問う事なく半ば公然と認知されだした。 

そして自動車業界も俄に慌ただしい。 最大手のトヨタは、プラグインハイブリッドプリウス を年末に投入するとしているし、日産もゴーン氏自ら宣伝役となって陣頭指揮をとる電気自動車「リーフ」の発売と、自動車産業の対応も素早い。

ここにきて、リチウムイオン電池が脚光を浴びてきたが、自動車業界は電池をエネルギー源とする「電気自動車」にシフトするこの流れが実に悩ましいに違いない。 一つは、複雑な燃料エンジンが不要となれば、極論すれば、町工場でも作れる時代になるという事になる。 その局面が現実化すれば、大国中国が自動車産業を席巻する事は必定である。

当面は他社からリチウムイオン電池を求めるにしても、あのトヨタが主力の技術を、他の産業に依存する「ビジネスモデル」など有る筈がない。 トヨタの経営資源の矛先は「燃料電池の開発と実用化」に有るのではないか、というのが本稿の見立てである。

( 参考サイト )

ここで浮上するのが、電力インフラ問題である。 トヨタや日産の様に多くの自動車が夜間に充電する時代は、自動車が夜間電力の有効活用の一つとして各家庭の蓄電装置の役割をも担う事になるのである。

電力の供給先である川下では、太陽光発電や風力発電を促進する施策が実行されると売電比率が供給電力の10%を超える事態を迎えるのはそう遠くでは無い。 買い取り政策次第では、日常的に電力が川下から川上へ逆流する時代を現存の配電システムではもたなくなる。 又、余剰電力を蓄電するシステムも必要となる。 

一方ゾーンで考えれば、1日24時間、落差の激しい電力需要を、最適に制御する機能、更に狭いエリアから広域エリアまでそれぞれに電力を制御・管理する機能を備えた全く新たな配電システム「スマートグリッド時代」を迎えるのである。 

正に上から目線の自民政権から、国民目線の民主政権が標榜する「新しい政治システム」に変貌した様に、電気の流れも一方向から双方向、且つ最適の電力供給を可能ならしめる「新たな配電システム」時代を迎える事になる。  低炭素社会は、産業構造も生活基盤をもチェンジしなければならない。

さて、時の流れを逆流すれば、電球を発明し、送電から発電まで電気の事業化に道を切り開いたのは、言う迄もなくエジソン。 エジソンと言えば、どうしても触れなければならないのは、「天才とは、1%のひらめきと~」という名言の事。

「自然界のメッセージを受け取る受信機」と例えるほどひらめきを重視していたのが、エジソン自身である。 又、「エジソンほど無駄な努力を嫌がった人はいない」と、浜田和幸氏も記述している。 とすれば「99%の努力が重要である」という「努力」に力点を置く解釈では、エジソンの真意に、沿っていない事になる。

実際は『1%のひらめきがなければ、99%の努力は無駄である」というエジソンの発言だった。 言い換えれば『1%のひらめきさえあれば、99%の努力も苦にはならない』という事である。 

1879年、電球の発明をしているが、竹のフィラメンで成功したという逸話がある。 20人の科学者を世界各地に派遣し6000種以上の植物繊維を取り寄せ試みてもうまくゆかなかった。 ところが手元にあった日本の扇子が目にとまり、0.3ミリの竹ひご状にして炭化させて実験して見事に成功。 「フィラメントには竹が一番」とわかったエジソンは、助手のモーアを日本に派遣し、「やわたの竹」にたどりついた。

その後タングステンのフィラメントが出回るまでの約12年間、八幡や嵯峨野を中心にした真竹が大量にアメリカに輸出され、年間2~3千万個の電球が、世界の家庭で夢の光として輝いたという。

( 参考サイト )

1万回失敗しても挫折せずに努力し続けえられたのは、このヒラメキこそがエジソンを支えたものであったと思われている。 つまりエジソンには、ひらめきによる成功への確信があったのであろう。

今風に言えば、段階的にアイデアを絞り込み続ける論理思考(So what? Why so?)と、ひらめきは、相互に補完しあう関係という「ビジネス論理思考」につながるのである。

というところで、後編となるの回は浜田和幸:著 『怪人エジソン』から「歴史や文化に関するものから新渡戸稲造まで日本にひかれたエジソン」を、取り上げて締めとしたい。

●今日の引用資料

浜田和幸:著 「快人エジソン」

●見聞録230(2-完) 歴史や文化に関するものから新渡戸稲造の『武士道』まで日本にひかれたエジソン

エジソンのもとには、渋沢栄一はじめ、かなりの日本人が訪れている。 彼らとの出会いが積み重なり、エジソンの日本への関心はより深まった事が想像される。 マイナ夫人も夫の日本好みを知るにつけ、徐々に日本贔屓になっていった様である。 

特に、渋沢栄一から奈良時代の灯ろうを模した電気スタンドや、金子子爵から平安神宮の石灯ろうのレプリカを贈られてからは、日本の花瓶や真珠を熱心に集めるようになった。 敷地内には日本の竹や楓を植え、そのそばで日本製の竹の日傘をさして夫とくつろぐのが晩年の習慣となっていた。

エジソン夫妻の日本へ寄せる熱い思いが伝わってくる。 エジソンが日本の和紙を使って、おしゃべり人形の改良に取り組むようになると、マイナ夫人はエジソンの事を「仕事熱心な日本の手品師」とまで呼ぶようになった。

又、夫妻の元を訪れた日本人はみな大歓迎を受け感動し、新しい科学文明の最先端に触れて大いに発奮したのである。 振り返ってみると、エジソンの発明によってアメリカや世界の今世紀の産業基盤はできたといっても過言ではない。 そして現在、われわれはその恩恵なくしては一刻たりとも生活できない時代を暮らしている。

エジソンの残した膨大な蔵書、なかでも彼が晩年、ベッドの脇に置いていた愛読書の中には、日本に関するものがたくさんあった。 日本の歴史や文化に関するものから新渡戸稲造の『武士道』まで、何冊かが常に枕元にあった。 英文の『武士道』では禅や陽明学に触れながら、日本人の精神的拠り所としての「義」や「勇」についての解説が丁寧になされている。 その上、『旧約聖書』や当時欧米で広く読まれていたシェークスピアやマルクスの著作などとの対比を通じて、日本の心を伝えようとの工夫が凝らされている。 この書を通じてエジソンも日本に関する好奇心を大いにかきたてられたに違いない。

エジソンが晩年、追い求めた精神世界とのコミュニケーションには、実は『武士道』の様な日本的価値観の道しるべが必要だったのである。 人類の未来を常に見通す努力をしていたエジソンに、影響を与えていた東洋的思想をわれわれはもう一度見つめ直す必要があろう。便利さや快適さと交換に置き去りにしてしまった、「正義」や「勇気」、「誠」や「礼」、「名誉」や「忠義」といった品性を取り戻すべきではなかろうか。

エジソンが機械文明の発達の先にイメージしていた「あちらの美しい国」とは、新渡戸稲造や渋沢栄一が描いた精神性の高い世界のことでなかったかと思われる。

そこでエジソンの最後のメッセージに、いまいちど静かに耳を傾けてほしい。

「我々はこの世に存在するものの真のパワーを全くといっていいほど理解していない。 我々が知っているつもりのことでも、本当は1%の1000万分の1もわかっていないのである。 これからの機械文明を生きるには、心を進化させる事が必要である。 人間はあらゆる存在からパワーを感じる事ができる様にならねばならない。 そうすれば、宇宙のエネルギーは不変であり、人間の魂はもちろん、全ての存在は結びついている事がわかるようになるだろう。

例えば、わたしの発明はすべて宇宙という「マスター・マインド」からのメッセージを受け止め、練り上げただけなのだ」

金子子爵も渋沢子爵も、「真珠王」御木本も、野口英世も星一も、岡部芳郎も、エジソンのいう「努力と思考」を成功へのキーワードとしていた様である。 更に言えば、日本人としての品性を大切にしつつ、エジソンと心を共鳴させながら、世界を相手に挑戦的な人生の足跡を残したといえる。

●内容情報】(「BOOK」データベースより)
ベンチャー起業家の草分けにして、「大」のつく親日家…。 これまでほとんど語られなかった天才発明家の実像を、精力的な調査で描き出したユニークな人物伝。 「天才とは、1%のひらめきと99%の努力のたまもの」の真意とは? 単行本に大幅加筆。

●目次(「BOOK」データベースより)
第1章 男の友情とユーモア/第2章 マーケティングの天才/第3章 霊という名の電子集団/第4章 軍官僚と対決した愛国者/第5章 創造的教育の原点は記憶力/第6章 時を超えて生きる未来学者/第7章 二人の妻と六人の子供たち/第8章 武士道に魅せられた親日家

●浜田和幸(はまだ・かずゆき)
1953年鳥取県生まれ。 東京外国語大学中国科卒業後、米ジョージ・ワシントン大学大学院にて政治学博士号を修得。 戦略国際問題研究所主任研究員等を経て帰国。 現在、国際未来科学研究所代表。 日本バイオベンチャー推進協会理事、国連大学ミレニアム・プロジェクト委員、特許庁工業所有権副読本選定普及委員などを歴任 著書に『エジソン発想法』『ヘッジフアンド』『「国力」会議』『ウオーターマネー「水資源大国」日本の逆襲』『石油の支配者』『大恐慌』ほか多数。

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2009年10月26日

●見聞録230(1) エジソン発想法──筋肉は使うほど発達する様に脳も鍛えればどんどん強くなる

テーマ:社会全般:歴史・文化
●2009年10月26日(月)


スマートグリッド構想図(2).

写真:太陽光パネルや風車発電機でスマートグリッドシステム( http://blog.goo.ne.jp/2005tora/e/2914ab876075c562ed16e376f319843e から)

■見聞録230 エジソン発想法:非常識なアイデアが 大成功を生む

●今日の視点

「スマートグリッド」という言葉を耳にする機会がめっきり多くなった。 環境問題を考える時、一番に出てくるキーワードである。 オバマ米大統領が発表したグリーン・ニューディール政策の柱の一つである「新エネルギーシステム」として注目され、関連産業への企業参入が相次いでいる。 『 ネット百科事典 kotobank 』 には次の様にある。

「情報通信技術を活用し、電力を効率良く、安定供給できるよう設計した送電網。 気象によって出力が変わる太陽光発電や風力発電で生まれた電力を安全に発電網に流せるようにしたり、家庭の電気機器の設定を電力の供給量に合わせて調整したりすることが期待されている」

広大な地域を持つアメリカは、効率の良い日本に比べて、停電トラブルが一桁上とも言われる様な不安定というの配電事情もある。 原発も含めて安定的な電力インフラを強化しなければならない事情を、「スマートグリッド」を中心とする新規公共事業に期待を込めているのがグリーン・ニューディール政策と言われる所以である。

さて、鳩山首相が掲げる「日本は温室効果ガスを、2020年までに90年比25%減」という宣言は、太陽光パネルや風力などの自然エネルギー産業にとっては、強力な追い風となる。 期待した通りその気になって施策が実行されるとすると、売電比率が供給電力の10%を超え、現在の配電システムでは経常的に川下(家庭)から電気が、逆流する事になり、現在の配電システムでは対応ができなくなる、という事態となる。 

そこで求められるのが、「スマートグリッド」という新しいインフラが必要となる。 太陽光発電の普及に加え、夜間電力の利用を前提にコンセントを備えたトヨタの「プラグインプリウス」、更に日産が意欲的に取り組む「電気自動車」の普及も考えれると、「スマートグリッド」は新しい社会基盤として必要不可欠なインフラとなる。

「スマートグリッド」について掘り下げるのは別の機会に譲るとして、今回本稿が取り上げたいのは、現在の文明社会の基となった電力システムの端緒を築いた「天才は1%のひらめきと99%の努力」という言葉で有名な「発明王エジソン」である。

電機メーカー「ゼネラル・エレクトリック(現在のGE)」の創業者であるこのエジソンが「京都の八幡竹を、炭化フィラメントの材料に使って白熱電灯の実験に成功」している事でも分かる通り、日本とも関わり深い。 実は、八幡竹を使った電球の一つが、飯田橋駅の近くにある「理科大学近代科学資料館」で、常時、目にする事ができる。 余談だがここは明治39年に建築の木造2階建校舎を復元されたもので、科学の発達について丁寧な説明も受けられるのでお勧めのスポットでもある。

さてエジソンは、電灯を開発するやニューョーク市当局から請け負って電力供給会社を設立、そしてニューヨークの5番街にオフィスを構え、電気、電力を売りまくるビジネスマンとして活躍した時期があった。 冒頭の「スマートグリッド」を考える時、川下から川上に至る電気を供給する電力ビジネスまで、手を広げたエジソンに思いが及んだという次第である。 グリーン・ニューディール政策が打ち出されたこの時代に、エジソンならどう考えるのだろうか。

1847年に生まれ84歳でこの世を去る迄の間に、個人としては最高の1093の特許を獲得しているエジソン。  電灯や蓄音機の発明はもちろん、電報、電話、タイプライター、マイクロホン、映画撮影用カメラとフィルム、蓄電池、電気鉄道、ゴム、採掘機械、セメント、X線機械、謄写版、送電システム (ソケット、スイッチ、ヒューズ、メーター等)など彼の頭脳から生まれた発明品の数々は、我々の文明生活の基礎を作ったといっても過言ではない。

経営者としての才覚やベンチャー起業家としての発想法も、実に学ぶところが多い。 そこで今回は、浜田和幸氏の近著:『未来を創るエジソン発想法』から、「エジソン発想法:非常識なアイデアが 大成功を生む」を取り上げたい。  まずは「エジソン発想法 筋肉は、使うほど発達するように、脳も、滴切に鍛えれば、どんどん強くなる」から入りたい。

●引用資料

浜田和幸:著 『未来を創るエジソン発想法』

●見聞録230(1) エジソン発想法──筋肉は使うほど発達するように、脳も滴切に鍛えればどんどん強くなる「

100年前の時点で、エジソンのように「思考力」の大切さについて言及し、「脳を使え」「脳を鍛えろ」などと言った人は、かなり珍しかったであろう。 それほど、エジソンは特異な存在だった。 「考えない」ことによる弊害をどのように打破すればよいのか。エジソンは、脳も鍛えれば鍛えるだけ強くなると主張している。

──私には、考える訓練によっていかに多くのことが達成されるかが分かっている人が、1000人中1人もいないように見える。結局それは、幼い頃から自分で考えるという訓練を受けていないからだ。 誰もが、自分で考える力を天から与えられているのに、それを使っていない。 本当に信頼できる「ものの考え方」というものを、育んでいないのだ。

自分で考えることを習慣づけていない脳は、すぐに錆びつく。 普段から頭を働かせていないと、反応が遅くなる。 目の前にものすごいアイデアやチャンスがあるのに、目は開いているが見えず、耳はあるが聞けていない。 脳に刺激が行かないからだ。 脳は、体の他の部分とまったく同じだ。 筋肉は、使うほど発達するように、脳も、適切に銀えれば、どんどん強くなる。

腕を三角巾で固定し、同じ恰好で曲げたままにしておくと、三角巾を取ったあとでもしびれが残り、感覚が麻犀しているため、腕が動かなくなってしまう。 脳も同じだ。使わずにいると萎縮してしまい、何も生み出せなくなってしまう。(エジソン 1926年に記す)──

日本でも今、「脳の鍛え方」や「地頭力」などをテーマにしたビジネス書が人気となっている。 理由の一つは、著者の発想法や思考法を追体験することで、自分の脳に刺激を与えてもらおうとするからであろう。 しかし、実はここにも、エジソンの指摘と同じ問題が隠れている。

ビジネス書の著者と読み手は、置かれている環境も能力も違う。 著者にとって効果がある方法でも、読み手に効果があるとは限らない。 同じことができると思うところに、自分なりの思考がストップしている危険性がありはしないだろうか。 私たちは、エジソンが述べているように、自分の問題は自分で考えるべく、自分か本来持っている能力や潜在的な力に気づくべきではないだろうか。

もちろん、個人に限らず日本の国家においても自信を取り戻すことが必要である。 不況とか経済危機などと言われるが、日本には優れた技術や文化など目に見えない経験知が蓄積されている。 現代の日本人は、それらを土台に新しいものを創り出すことに対して、臆病になっている。自ら動かず、ビジネス書を読んだだけで、発想力が身につき、仕事ができるようになったと錯覚しているのではないか。

これでは、実際は先に進めない。 必要なのは、自分なりの思考力や、想像力を鍛えることである。 それができれば、新しいものを生み出す突破力や飛躍力も身につく。

●内容情報】(「BOOK」データベースより)
あらゆる進歩・成功は、自分の頭で考えることから湧き出てくる。 不況・逆境の乗り越え方、起業の着眼点、企画・アイデアのコツ、時代を読む方法。

●目次(「BOOK」データベースより)
1混迷の時代をどう乗り越えるか(正体を見抜けば、不況は克服できる/天才ベンチャーだから分かる「ビジネスの黄金鉄則」/逆境をチャンスに変える、発想の力/価値ある情報の見抜き方)/ 2 人生を果敢に切り拓くコツ(「考える力」で付加価値を生む/もっと幸福になる生き方/クリエイティブなOFF時間が、仕事力を倍増させる/人生の節目で、ますます熱くなれ)/ 3 先見力で、未来を創り出せ(創造的人材を生む教育/若者の使命/機械文明の本当の恩恵とは/チャレンジし続け、超科学に踏み出せ)

●浜田和幸(ハマダカズユキ)
1953年鳥取県生まれ。 東京外国語大学中国科卒業後、米ジョージ・ワシントン大学大学院にて政治学博士号を修得。 戦略国際問題研究所主任研究員等を経て帰国。 現在、国際未来科学研究所代表。日本バイオベンチャー推進協会理事、国連大学ミレニアム・プロジェクト委員、特許庁工業所有権副読本選定普及委員などを歴任 著書に『快人エジソン』『ヘッジフアンド』『「国力」会議』『ウオーターマネー「水資源大国」日本の逆襲』『石油の支配者』『大恐慌』ほか多数。

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2009年10月12日

●見聞録229(4) 歪んだ道路公団民営化を正せ

テーマ:社会全般:歴史・文化
●2009年10月12日(月)


高速道路無料化の図(週間朝日10月2日号137P).

写真:高速道路無料化の図(週間朝日10月2日号137P)

●見聞録229 高速道路議論に潜むカラクリ

●今日の視点

小泉元首相が進めた郵政民営化とは一体何だったのか、政権が代わっても、元の国営または公社に戻す議論はない様なので、それなりに郵政民営化の弊害は無いという事なのだろうか。  

180兆円という膨大な郵貯に目をつけたアメリカの意向を、代表する竹中平蔵氏による郵政民営化という怪情報も取り沙汰されているが、その実がわからないままに郵政民営化について国民の多くが賛成した同じ政権時に、道路公団も民営化されているのである。 

郵政民営化の目くらましに比べれば、同じ民営化でも「道路公団の民営化」のカラクリは、非常に分かり易い。 以下、山崎養世氏の著書「道路問題を解く」の引用をベースに触れてみたい。

道路公団民営化が必要とされた理由には、「借金の金利さえ払えない経営収支を改善することや、高速道路の関連事業を独占するファミリー企業が増殖して甘い汁を吸うことを防ぐ事」にあった。 ところが、民営化後に発足した6社の高速道路株式会社のすべてが、黒字会社となったのである。

そのカラクリは、道路公団が民営化された高速道路株式会社6社の30兆円もの借金、を全て「高速道路機構(独立行政法人 日本高速道路保有・債務返済機構)」に背負わせたのである。 本四公団の3兆円の借金もすべて背負わせたのである。 すなわち高速道路株式会社6社は、借金を免除してもらったのである。 一方「高速道路機構」は、政府保証借などで資金を集めて借金を肩代わりし、損失が出れば国民の負担になるだけである。 

次のカラクリは、高速道路株式会社6社が「高速道路機構」に払う高速道路の貸付料は、実際に入ってきた通行料収入そのものより少し低い額が、貸付料としてあとで決まるのである。 どんなに通行料が落ち込んでも、高速道路株式会社6社の収益は保障されるのである。 その分、「高速道路機構」の収入が低くなって借金を返せなくなれば、新たな借金を政府保証で行い、損が膨らむほど借金が膨らむ、を繰り返す事になるのである。

高速道路株式会社6社は、堂々と連結子会社を増やし、連結子会社や関連会社は合計100社に達している。 40兆円もあった旧道路公団の借金を、高速道路株式会社6社はまったく背負わず、すべて高速道路機構に肩代わりさせたのである。

そして、高速道路株式会社6社の株式は、すべて国が保有しており民営化といいながら、その実態は国土交通省の支配下の特殊法人にすぎないのである。 それにもかかわらず、名目は株式会社であるために、国会の調査も及ばない。

本稿が考えるに、新政権の「段階的に進める高速道路の無料化」という真の狙いは、どこに有るのか。 なぜ声高に無料化を標榜するのか。 無料化による物流コストの逓減による経済効果も、議論の分かれる処であり、渋滞を引き起こす推測も含めて壮大な国民を巻き込む社会実験と言って良い。 その結果、首都高速・阪神高速は現状どおりだろうし、その効果測定次第でに地域・路線によっては必ず無料とはならないだろう。

新政権の真の狙いは、国交省役人の天下り受け入れ先となっている民間会社を装った「高速道路株式会社6社」と独法「高速道路機構」の早期廃止ではないだろうか。 「高速道路株式会社6社」が独占している全国のサービスエリア・パーキングエリア等、1兆4000円を超える資産の有効活用で新たな資金も生まれるという。

又、旧政権が高速道路を将来に亘り造り続けられる事をも意図した独法「高速道路機構」を、返済を終えた時点で廃止する事で、コンクリートから人へという新政権によるポリシーシフトに叶うし、将来に亘り政財官の癒着の温床となる資金の蛇口を閉める事になる。

さて、見聞録229便 後半は高速道路議論に潜むカラクリ高速道路問題の議論のウラに潜む「負の遺産」が有るのではないか? という視点で取り上げているが、最終の今回は、宮川公男氏の「国民にツケを回すニセ民営化を見直せ(WEDGE 10月号)」を引用して締めとしたい。

宮川公男氏の寄稿タイトルは「高速無料化は愚作」と、新政権の「高速無料化」を真っ向から否定されているが、その主張の矛先は「まともな民営化とは言えない」と「道路公団民営化」について糾弾されている事である。 本稿が重ねて指摘したいのは、無料か有料かの議論ではなく、民営化を隠れ蓑に道路を食い物にしている政財官の癒着構造と天下りの元を断ち切る、新政権のポリシーシフトに期待したい、という事である。

●引用資料

月刊誌「WADGE 10月号 宮川公男氏の──高速無料化は愚作 国民にツケを回すニセ民営化を見直せ──から

●見聞録229(4) 歪んだ道路公団民営化を正せ 

◇歪んだ民営化を正せ◇

そもそも今回高速料金が選挙戦の一つの焦点になったのは、小泉改革の一つの目玉だった道路公団民営化の歪みに由来する。 4年前に生まれた道路会社は、まだ全株式が政府所有とはいえ、「民間のノウハウ発揮により、多様で弾力的な料金設定」を行う事を一つの目的とし、経営判断の自主性を尊重されるべき民営会社である。

その会社が提供する主力サービスである高速道路の料金設定を、どうして政府が景気対策や地方活性化策として勝手に行えるのか。 また、なぜ政治家がその料金値下げを選挙公約に掲げる事ができ且つそれが実現してしまうのか。 しかも、効果の十分な検証もない政治家の思いつき的な料金設定による会社の減収を国民の税金で補う。

これでは到底、まともな民営化とは言えない。 「歪んだ民営化」、「偽りの民営化」ではないか。 道路公団民営化には様々な歪み、虚偽、虚構があり、それが政治による介入を許している。 

例えば、「採算性を無視した野放図な建設」、「必要性の乏しい道路建設」(民営化推進委『意見書』)は回避されるであろうという期待の下で行われた民営化なのに、「新会社の採算を超える部分」の建設スキームとして、「国と地方が税金等で建設費を負担し、自ら建設を行う」という「新直轄方式」が、これまでの有料道路方式と別建てで導入された結果、無料の高速道路が出現する事となり、高速道路は全部料金収入で建設するというわが国の有料道路制度の約50年ぶりの大転換が、十分な議論なしに行われてしまった。

これにより強力な道路族の抵抗が消え、民営化が実現したのである。 簡潔にいえば、「採算に合わず必要性の乏しい道路は民営会社はつくらない。 その代わりに国がつくる」という事である。 何の為の民営化だったのかと問いたい。 又、債務返済を最優先する方針から、いわゆる上下分離方式で、道路資産も債務も道路会社ではなく、高速道路保有・債務返済機構という独立行政法人「高速道路機構」に保有させた。 「高速道路機構」は高速道路を、高速道路株式会社6社に貸付け、その貸付料で債務を返済する仕組みとした。

それにより高速道路株式会社6社は、道路資産に対する固定資産税を免れると共に、料金収入からの利潤が生まれないように「高速道路機構」が貸付料を設定する事で、法人税をも免れる事になった。 これらは通常の民営会社であれば社会的義務として当然負担すべきものだ。 

更に、この仕組みは、高速道路株式会社6社の経営努力によって料金収入が上がっても、会社には利益が残らないように「高速道路機構」が、道路貸付料を上げる事で吸い上げてしまう。 高速道路株式会社6社が減収になっても赤字にならないように貸付料を下げてくれるのである。 これでは当然経営向上のためのインセンティブが働かない。

福田・麻生内閣が実施してきた料金値下げ政策は、民営会社を国営会社のように扱っている。 値下げによる道路会社の減収は、高速道路保有・債務返済機構というかくれ蓑を使って、国民に分かりにくいかたちで、税金で穴埋めされている。 この様に税金で支援を受けた高速料金値下げで不公平な競争を強いられているという鉄道会社やフェリー会社などの怒りは当然である。

又、国民負担を最小に留めるという道路公団民営化の約束を踏みにじられる国民も今や憤りの声を上げるべきである。 この様な歪んだ民営化を原点に戻って再検討し、料金制度の見直しとともに、上下分離方式を廃してまともな民営会社に立ち直らせるべきである。 これは、小泉民営化についての根本的な再評価・再検討が必要であることを意味しているのに、今回政権の座につく民主党も全くそれを宣言していない。

●宮川公男(ミヤガワタダオ)

1931年生まれ。 一橋大学教授・麗澤大学教授を経て本年より現職。 著書に『基本統計学』(有斐閣)、『政策科学の基礎』(東洋経済新報社)など多数。  

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2009年10月04日

●見聞録229(3) 道路に異常なお金を使うニッポン

テーマ:社会全般:歴史・文化
●2009年10月4日(日)


週刊朝日2009年10月2日号
写真:週刊朝日2009年10月2日号 表紙

●見聞録229 高速道路議論に潜むカラクリ


●今日の視点

308議席という圧倒的な国民の支持を得ての民主党政権。 新政権スタート時からTV・紙面を賑わした「八ッ場ダム工事中止」のニュースは、現地の拒絶反応ぶりを見ると、思わず「ここだけは、ダム工事やむなし」と感じた人も多いのではないだろうか。

しかし「日刊ゲンダイ」の記事によると、ケーブルテレビ J:COMの「インタラクTV投票」の結果(投票数1047)では、八ッ場ダム工事中止 賛成=62% 反対38%という意外な数字、又、八ッ場ダム工事関連企業に、国交省職員176人(2006年時点)が天下っているという。 

累計の天下り数は、1000人を超えている事も充分に推測されるだろう。 あの現地反応だけを見聞して「今更ダム工事中止は、現地住民の意向無視」というのは、情に偏るという事になる。 ことほど左様に、マスコミの過剰な報道による情緒的な判断では、真実が見えなくなると言う事になる。

さて「見聞録229便」は、「高速道路無料化」問題を取り上げている。 世論は、半数以上が「高速道路無料化」に反対と言われているこの問題も、旧政権の誘導によるという疑いも強い。

既に2回に亘って、高速道路は「本来無料」「本来有料」という両論を取り上げた。 どちらもそれなりに納得できる「そもそも論」である。 高速道路料金は高速移動の効用を得る人の自由意思による受益者負担とする宮川公男氏の「本来有料」論の金額程度は、新幹線の「こだま」「ひかり」「のぞみ」の特急料金の違い程度を、当たり前の事としてに受け入れている事からも、本稿では特に拘ってはいない。

新政権の主張する物流コストを引き下げる経済効果等々に対し、先日のJRグループによる脅しとも言える「高速道路無料化」撤回の申し入れに代表される様な交通機関の反対声明等々は、業績に影響を受ける立場として理解はできる。 が不思議なのは、当たり前の事として何の疑問も無しに払ってきた高速料金が「無料」になるのに、世論の70%が「高速道路無料化」に反対をしている事でる。

高度成長に向けて突き進んだ人々は、慣れ親しんだシステムに疑念を感じる事なくひたすら、国政のなすままに「刷り込み」されたという負の生き方も引きずっているのではないだろうか。。 

そこで後半の2回は、高速道路問題の議論のウラに潜む「負の遺産」が有るのではないか? という視点で考えてみたい。 まずは、初回取り上げた山崎養世氏による「週間朝日 10月2日号──「高速道路無料化が日本を変える」から、「道路に異常なお金を使うニッポン」をとりあげたい。  長きに亘る旧政権の公共工事による資金稼ぎ、政財官の癒着構造に鉄槌を下した国民も又、新政権の「コンクリートから人へ」というポリシーがどこまで浸透するかが、タメされているのである。 

●引用資料

「週間朝日 10月2日号

●見聞録229(3) 道路に異常なお金を使うニッポン

◇高速道路の利用者は 高速料金と税金の二重取りされている◇

これまで自民党の道路族や国土交通省に都合のいい情報ばかり流されてきたために、国民にごくごく基本的な事実が伝わっていない。 また明らかな誤解、というより「ウソ」がまかり通ってきた。 それが無料化にこれほど反対が多い理由だろう。 批判の最たるものは、高速道路を使わない一般国民の税金で無料にするのは受益者負担の原則に反する、というものである。 

しかし、この主張はまったくおかしい。 なぜなら、高速道路のユーザーは年間2兆3千億円もの高い通行料金を払わされたうえに、ガソリン税などで年間2兆円(暫定税率を引き下げたとしても1兆4千億円程度)の税金を二重取りされているのである。

しかもその税金は、高速道路には使われず、ほとんど一般道路の建設に流用されている。 受益者負担を言うのなら、すでにこのこと自体が原則に反している。 ガソリン税など2兆円分を高速道路無料化の財源(民主党案では年間1兆3千億円)に使うことにすれば、本来の受益者負担にもなり通行料を二重に取る必要はなくなる。

日本で最初の高速道路である名神、東名の建設が始まった1950年代後半は、道路財源が今の400分の1しかなかったため、世界銀行を通じてアメリカから借金をし、その返済のために通行料金を取った。 借金を返したら無料になるはずだったが、1972年の田中角栄内閣時代に名神、東名などの料金をほかの路線の建設費用に充てる「料金プール制」がつくられ、それが今も続いているのである。

◇未だに日本では高速道路の無料化が実現しないのか◇

なぜ、未だに日本では高速道路の無料化が実現しないのか。 それは、道路公団が民営化されたあとも30兆円を超す借金が残っているからである。 国鉄民営化時はJRが11兆円もの借金を引き受け、また不動産を売却し、ちゃんと借金を処理した。 ところが民営化後に発足した6社の高速道路会社は1円も借金を引き受けず、高速道路機構という90人そこそこの職員しかいない独立行政法人を新たにつくり、そこに借金を付け替えた。 それでいて、膨大な不動産をもらったのである。 しかも政府の計画では、今後さらに20兆円近い借金をして、地方の過疎地域を中心に高速道路をつくることになっている。 全ての返済が終わるのは205O年の予定である。

借金を重ねて赤字道路をつくる。 さらにその間、金利が跳ね上がり、巨額の借金が返せなくなれば、国民の負担になるのである。 こうした実態も国民には知らされていない。 そもそも、民営化といいながら高速道路会社は国と地方自治体が株式の100%を持つ特殊法人であり、役員の半数以上は天下りである。

それでなくても日本の道路に対する投資額は、他の先進国に比べて突出している。 一般、高速道路をあわせ、日本が道路につぎ込む額は年間8兆円近くにのぼる。 これは仏、独、伊、英4カ国の道路支出額の合計に匹敵する。 教育予算はOECD加盟国で最低クラスなのと比べると、いかに日本が異常なほど道路にお金をかけているかがわかる。

更に問題なのは、そうして巨額をつぎ込んだ高速道路の多くが有効に使われていない事である。  なぜか。 世界各国と比べて断トツに料金が高いからである。 現在、乗用車の通行料は平均でI台あたり25円。 100キロで2500円である。 1時間で100キロ走るとすると1時間で2500円かかる高速道路を普通の人が気軽に使えるだろうか?

●山崎養世(ヤマザキヤスヨ)

1958年生まれ。 福岡市出身。 東京大学経済学部卒業。 カリフォルニア大学ロサンゼルス校経営修士号(MBA)取得。 大和証券勤務を経て、米ゴールドマン・サックス本社パートナー、ゴールドマン・サックス投信社長などを歴任。 2002年にゴールドマン・サックス社を退社し「高速道路無料化」の提言を開始する。 同年、シンクタンク山崎養世事務所を設立して、金融、財政、国際経済問題等の調査・研究活動を行う。 「証券化による郵政資金の中小企業等への活用」「田園からの産業革命」なども提言している。

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