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twicine脚本「スキャンダル!」

 スキャンダル! (第1稿) 脚本 佃 尚能

<登場人物>

鷲沢義明(監督)  65    ・・・寡黙で厳格な映画監督

百瀬絵里(主演女優)24    ・・・遅咲きのデビューまもなくして 鷲沢によって主役に抜擢。まだ垢抜けない新人女優

木村芳枝(マネージャー/事務所社長) 43
 ・・・芸能プロ社長。大手から独立し、
小さいながらも個人事務所を立ち
上げた敏腕マネージャー

村澤花奈(司会者) 31
記者C=梶本勝  46     ・・・有名芸能レポーター。スキャンダル
あるところに彼の姿あり
記者A(男)
記者B(女)

カップル男
カップル女
中年男
おばちゃん
太った禿オヤジ
主婦A
主婦B
若者A
若者B
記者たち
観客たち


○1  廊 下

       木村のハイヒールが足早なリズムを刻む
       その後ろを、足取り重くついてくる百瀬の足
       我関せず、ゆったりな鷲沢の足

木 村 「いい、もし記者から変な質問されても絶対に答えちゃダメ。
アンタは、いつも通りニコニコ笑って首かしげてればいいの」
百 瀬 「・・・ハイ」
木 村 「司会の村澤には、映画以外の質問は受け付けないように言って
あるから。よほどしつこく食い下がってくる奴がいたら、その場
で舞台挨拶は中止、囲まれる前に引き上げるからね」
百 瀬 「・・・・・・」

       俯く百瀬にキャプションが出る

     [百瀬絵里 職業 女優
芸歴 1年
好きな食べ物 スイートポテト
現在映画監督と不倫中]

木 村 「監督もいいですね。これは、あなたの映画のためでもあるんです
からね」
鷲 沢 「・・・・・・(うるさい女だ)」

     ヒゲをいじってる鷲沢にキャプションが出る

     [鷲沢義明 職業 映画監督
        芸歴 40年
        好きな食べ物 エイヒレの一夜干し
        現在新人女優と不倫中]

○ 2 舞 台 袖      

木 村 「じゃあ、行くわよ」

       そっと、劇場内を覗く百瀬
       すると・・・

○ 3 劇 場 内 (百瀬のイメージ)

       光る報道陣のフラッシュ
       カタカタとリズムを刻む記者のノートパソコン
       歌い踊っている観客たち

[M1] 『スキャンダルがやってくる』

観 客  スキャンダル、スキャンダル
          I Want スキャンダル
          全てを話せ年の差の恋
     記 者  聞き出してやる泥沼の恋
     観 客  俺たちも
     記 者  お茶の間も
     全 員  待ってるぞ、スキャンダーール♪

○ 4 舞 台 袖

百 瀬 「いゃっ!」
木 村 「絵里・・・」

       顔を伏せる百瀬の肩を優しく抱く木村

  [M2] 『さあ行きなさい』

     木 村  大丈夫、恐れることはないわ
          私の可愛い子猫ちゃん
          どんなことが待ち受けてても
          私が守ってみせる
          さあ行きなさい、光の中へ
          うつむいた顔を上げて
          私の、大切な、大切な・・・♪
          (小声で)商売道具

       微かな笑顔を取り戻す百瀬

○ 5 劇 場 内 (時間経過)

       百瀬の挨拶が終わり、拍手に包まれている(かに見える)

       客席では居眠りしているおじさん
       その横でカップルがスイートポテトを食べている

カップル男「(モグモグ)意外と美味いねこれ」
カップル女「主演のモモセ(?)から皆さまへのプレゼントだって。
      2010年のミス・スイートポテト(?)らしいよ」
カップル男「ふーん・・・(どうでもいい)」

司 会 「ありがとうございました。本日は、報道関係の皆様もたくさん
お越し頂いております。ここからは記者の皆さんからの質疑
応答に移りたいと思います」

  一斉にザッと動きを止め、舞台を注視する観客
  舞台袖で固唾を飲む木村
  ハイ、と上がる記者の手

記者A 「百瀬さんは、今回映画デビューにして初主演ということでしたが
     演技の上でご苦労された点はどんなところでしたか?」
百 瀬 「そうですねー、やっぱり・・・・・・」

[M3] 『落胆』

       一斉にハァーっとため息をつく観客たち
       隣とヒソヒソ喋りだす
              
観 客  聞いてない、知りたくない、求めてない
     そんな話
     つまんない、面白んない、しょうもない
     苦労話
中年男   (RAP)新人女優になんか興味ない
    映画の話なんてどうだっていい
おばちゃん スイートポテトになんか騙されない
    知りたいのはただ不実の愛♪
    
       指を鳴らしながら、記者に詰め寄っていく観客たち

観 客  暴け、晒せ、性生活
   切り込め引き出せ、愛の証
   スキャンダル、スキャンダル
I Want スキャンダル
スキャンダル、スキャンダル、
I Want スキャンダール♪

記者B 「(客たちを制止して)待って、これはまだ序の口よ!」

       記者B、舞台上に向き直り

記者B 「鷲沢監督と百瀬さんは、今回二人三脚で映画作りに取り組まれた
そうですが、やはり個別にマンツーマンでの演技指導なんかもあっ
たのでしょうか」
百 瀬 「そうですね、私は演技経験が全然なかったので、監督にはたくさん
個人レッスンをして頂きました」

  グイっと身を乗り出す観客たち
  記者たち
  身構える舞台袖の木村

記者B 「その個人レッスンは、例えばどんなところで?」

    観 客  いいぞ、いいぞ、その息だ
         切り込め、引き出せ、動かぬ証拠♪

百 瀬 「・・・・・・昼の休憩時間とか、帰りのロケバスの中でとか」

       たまらず太った禿オヤジが歌い上げる

    オヤジ  夜のホテルだろぉおぉぉ~~~♪

記者B 「個人的に2人っきりで会われることとかは?」
百 瀬 「それは・・・・・・ありません」
記者B 「(ダメか)・・・・・・ありがとうございました」

       記者Bに詰め寄る観客たち

    観 客  生ぬるい、生ぬるい
         生ぬるいっ!♪

記者C(声)「そろそろ私の出番かな」

一斉に見る観客たち
椅子に深々と座り、スポーツ紙に目を落としている男がいる
バサッと新聞を閉じ、顔を上げた男にキャプションがかかる

     [梶本勝 職業 芸能リポーター
          この道25年
          趣味 プリクラ集め]

[M4] 『梶本』

       どよめく観客

   観 客  梶本だ、やってくれるぜこの男
        熱愛、破局、結婚、離婚
        ヤツは何でもお見通し
        不倫、浮気に、同棲、別居
        ヤツにかかっちゃイチコロさ
        スキャンダル、スキャンダル
        Mrスキャンダル
        期待してるぜ
        Mrスキャンダール!♪

梶 本 「いやー、今回の百瀬絵里さんの演技は実に素晴らしい。叶わぬ恋に
身を焦がす女性を、その若さで見事に演じきるとは大女優誕生の
予感がいたしますなぁ」
百 瀬 「・・・・・・(不安)」
木 村 「・・・・・・(動じちゃダメよ)」
梶 本 「しかし、経験のないことは演じられないとは良く言ったもので、百
瀬さんの身を挺した、体当たり、そう文字通り監督との『体当たり』
の役作りには不詳梶本、感服いたしました」
司 会 「あのー、それでご質問は?」
梶 本 「そうでした。でー、役作りの方はまだ続けられるのですかな?
どうですか、監督」
鷲 沢 「・・・おっしゃってる意味が分かりませんなぁ」
梶 本 「百瀬さんはいかがですか?やはり、監督との関係は、この世界で
這い上がるためのただの踏み台だったのでしょうか」
百 瀬 「それは・・・・・・」
木 村 「!(まずい)」
司 会 「梶本さん、映画に関係のないご質問はご遠慮頂いておりますが」
梶 本 「どうしてでしょう?私は役作りについてお伺いしてるんですよ?
ねぇ、百瀬さん?」
百 瀬 「・・・・・・監督とは、これからも(いい関係を・・・)」

       そこに、木村が飛び込んでくる

木 村 「中止!会見は中止します。さ、行きましょう」

       どよめく客席、記者たち
       木村に腕を掴まれ連れ去られていく百瀬

梶 本 「それが答えなんですね、百瀬さん!」
百 瀬 「(ふいに立ち止まり)待って!」

       木村、梶本

百 瀬 「私の口から、ちゃんとお答えします」
木 村 「・・・何言ってるの・・・?」

       ステージ中央、百瀬にスポットライトが当たる

[M5] 『あなたがいてくれて』

     百 瀬  幼い頃夢に見てた 
大きなスクリーンで輝く姿を
優しい父が亡くなる時
すがる私に言った
「映画館で、お前に
 会える日を待ってる」と

あなたが2人の
夢を叶えてくれた
厳しい眼差しで
私に光くれた
 
     鷲 沢  君に出会って
          世界が変わった
          僕が探し続けた
          たった1人の
          女(ひと)だった

     2 人  あなたと(君と)出会い
          映画が生まれて
          導かれるように
          愛も、生まれた

     百 瀬  許されぬ     鷲 沢  許されない
          思いだとしても       愛だとしても
          私を            僕らを
 
     2 人  誰も、切り離せはしない

     百 瀬  ずっと、いつまでも・・・

     2 人  あなたと(君と)共に

見つめあう百瀬と鷲沢
喝采に包まれる劇場
       涙を拭う梶本、観客たち
       
       バスンとスポットライトが消える
       それはもとの劇場

百 瀬 「(独り言)・・・なんてこと、言えないよ」

       固唾を飲んで成り行きを見守る記者、観客

百 瀬 「私は・・・、私は監督を尊敬しています。名も知れない私を拾って
     女優として育ててくれたことに、大変感謝しています。でも・・・」

       背中の後ろで指をクロスする百瀬

鷲 沢 「・・・・・・」
百 瀬 「(震える声で)でも、私と監督の関係は、それ以上でもそれ以下でも
ありません。(思わず込み上げてくるものを抑えて)本日は、たくさ
んのご来場、本当にありがとうございました!」

       と頭を下げると、舞台袖へと駆け出していく
       ざわめく客席

記者A 「あーあ、逃げられちゃった。獲りそこねたねぇ梶本さん」
梶 本 「・・・・・・あいつ、なかなか大物になるかもしれんなぁ」
記者A 「?」

○ 6 ロ ビ ー

       出てくる観客たち

主婦A 「面白ろかったわねぇ、映画」
主婦B 「はぁ?、アンタ舞台挨拶終わったらすぐイビキかいて寝てた
じゃない」
主婦A 「そんなことないわよ。あーあ、私も純愛とかしてみたいわぁー」
若者A 「・・・なんかさぁ、ちょっと良くないモモエリ?」
若者B 「あー、なんかいいよな」

○ 7 廊 下

       歩いている鷲沢、百瀬、木村

木 村 「あー、心臓に悪い。アンタが思い余って全部ぶちまけちゃうんじゃ
ないかと、ヒヤヒヤしたわ」
百 瀬 「(立ち止まり)・・・監督、あんなこと言っちゃってごめんなさい・・・」
鷲 沢 「・・・・・・」
百 瀬 「(うつむく)」
鷲 沢 「(背中で)・・・・・・お前はまだまだ、演技の勉強が足りないな」

       歩き出す鷲沢
       ちょっと嬉しくなり後を追う百瀬

木 村 「・・・・・・(やれやれ)」

       歩いていく3人の影が遠ざかっていく