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2007年01月06日

「密偵ファルコ 白銀の誓い」リンゼイ・デイヴィス / 古代ローマの私立探偵

テーマ:ミステリ一般

ああ、古代ローマ!

およそ1000年の長きにわたって存続し、西洋の母胎と言っても過言ではない、この一大文明への尽きせぬ興味よ!



……と一発ぶちあげたところで、そこは生臭好きな僕のこと(笑)、古代ローマの実に絢爛たる文化よりも、専ら広大なる版図がどのように統治されていったかに魅了されているのだが、これに関して格好のテキストとなっているのは、先月めでたく完結と相成った塩野七生畢生のシリーズ「ローマ人の物語」である。

1冊3000円程度のハードカバー全15巻を揃えるのはさすがにコトなので、もっぱら文庫化されたものを順次読み継いでいるのだが、各時代区分への理解を増すのに最適なのが、その時代を舞台とした別の作品を読むことだ。

たとえば共和制末期なら、カエサルやポンペイウスの台頭を横目に、しがない下級役人がひょんなことからローマをゆるがす陰謀に行き着いてしまう「古代都市ローマの殺人」「青年貴族デキウスの捜査」がおもしろいし、帝国として初めて公式に迫害したことからキリスト教世界では一段と評価の低いネロ帝を描いた安彦良和「我が名はネロ」(この人の歴史漫画は―「虹色のトロツキー」「ナムジ」「神武」「蚤の王」「王道の狗」「ジャンヌ」「イエス」など―事前に予備知識を仕込んでから読むと相当おもしろい。もちろん、後からでもいいんだけど。)が、帝政初期では出色の出来。

そうそう、佐藤賢一の「カエサルを撃て」 もあったな。


庶民生活や文学作品にも目を配っているとはいえ、おもに政治向きの記述を旨とする「塩野ローマ」ではどうしても捉えきれない諸相を理解するに当たっては、これほど楽しい策はない。

また塩野七生自ら何度も作中で書いているように、学者ではなく作家としてローマ史を俯瞰しているため、どうしても介在してしまう彼女の主観や史観を適度に中和する効果も得られるのである。



で、今回の密偵ファルコシリーズなのだが、カエサルからアウグストゥスを経てティベリウス、カリグラ、クラウディウス、ネロまでとなるユリウス・クラウディウス朝が途絶し、新皇帝をめぐるしばしの内紛のあとに興ったフラヴィウス朝の始祖ウェスパシアヌス帝の御世の話となる。西暦で言うと紀元70年代だ。

シリーズが進むにつれ、いずれ2代目ティトゥス帝や3代目ドミティアヌス帝の時代に入っていくのかもしれないが、それはまた先の話だろう。


タイトルにもあるように、ファルコは密偵である。わかりやすくすれば私立探偵みたいなもの。

当時のローマ社会にこんな職業があったのかはわからないけれど、このファルコ、一応はごくごく一般の民間人だ。

それがひょんなことから元老院に籍を置く貴族と関わり合いを持つことになり、それがもとで帝国の屋形骨に飛び蹴りを食らわすかのような大事件に首を突っ込むハメになってしまう。

減らず口だけは一級品だが所詮は三流の密偵に過ぎないこのファルコ、方々で小突き回され痛めつけられながら、ハードボイルド探偵よろしく這いずり回る。

その足跡は大都ローマを離れ、辺境も辺境のブリタニア(今のイギリス)にまで及ぶのである!

このあたりが他の少なからぬローマ物とは一線を画すポイントなのだろうが、本シリーズは単に首都ローマにとどまらず、ローマ世界のあちこちで展開する。

次巻はかの有名な死の町ポンペイ付近の南伊が主な舞台だし、1冊飛ばして第4巻ではこれまた辺境のゲルマニア(現在のドイツ)くんだりまで出張っていく。

当然ながら作者のリンゼイ・デイヴィスには該博なる知識が要求されるわけで、ゆえにシリーズのもうひとつの注目点は広辺なローマ社会の情景がこと細かに描き出されている点となる。

僕などは、これがためにシリーズを追っていると言ってもおかしくないくらいだ。

もちろんミステリ自体も悪くないのだが、事件が起こるたびになぜか聞き分けのいい目撃者や証言者が出てくるため、謎解きの妙といった要素はさほど強くない。

正直、筆者のやり方に慣れるまでは眉が何度か吊り上ることも確かだ。そのうち気にならなくなればしめたもの。


とりあえずは、古代ローマを舞台とした恋あり笑いありの時代小説だと思っていただきたい。加えて半ばコメディタッチなところが、シリーズの人気獲得に一役買っているのだろう。

古代ローマに興味のある方はもちろんのこと、読みでのあるドタバタハードボイルドが読みたいという方にもオススメのシリーズである。


オススメ度★★★



リンゼイ デイヴィス, Lindsey Davis, 伊藤 和子
密偵ファルコ 白銀の誓い

塩野 七生
ローマ人の物語 (1) ― ローマは一日にして成らず(上) 新潮文庫
ジョン・マドックス ロバーツ, John Maddox Roberts, 加地 美知子
古代都市ローマの殺人
ジョン・マドックス ロバーツ, John Maddox Roberts, 加地 美知子
青年貴族デキウスの捜査

安彦 良和

我が名はネロ (1)


安彦 良和

我が名はネロ 2 (2)


コメント

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1 ■こんばんは

密偵ファルコ、面白いですよね。どっちかというと、トホホ系な感じ。というか、女性にあんなに扱われていいんでしょうかね、ファルコは(笑)。
マゾなんでしょうか(爆)。
ファルコの書評は必死こいて探さないと無くて苦労しました。他にも色々浮気してますし、最近は
違うネタとかもブログに書いてます。
というか、線路のやつは明らかに自爆ギャグですが。

2 ■ボナベンチャーさん

コメントありがとうございます。
そうそう、密偵ファルコはあまり書評がないようですね。
シリーズが続いているってことは、それだけ読者がいるはずなのに。

ファルコのイジラレ体質は、完全に環境のせいでしょう(笑)。
あれほど女に囲まれて育ったら、当然の帰着としてああなるんじゃないかな?
と、思うんですが、どうでしょう。

3 ■いわゆる大家族ゆえに

大賑わいというか、日本の大家族でも何だか似たような感じみたいですね。
そうそう、日本といえば、このシリーズ読んでると
まるで違う世界なのに、江戸時代の印象も持った
んですよ。どこかで誰かが解説で書いてたように。まぁ、水道(江戸時代にもあったらしいですし)、和製公衆浴場ー。よく考えてみると、幕末の
日本て、インフラ面ではかなり進んでたということ
ですね。それ考えると、古代ローマって本当に
すごいと思います。

4 ■江戸時代は

最近見直されているらしいですね。
階級闘争史観もさることながら、やはり時代の評価はかなり長いスパンでしかとらえられない
ということなんでしょうか?
その意味で、評価の定まっている古代ローマの存在はありがたいですね。

それにしても、現代のイタリア人たちがローマの末裔だとは未だに信じられない……(笑)。

5 ■2ちゃんで投票

作家のナンバーワンを決めるやつで投票してきてしまいました。まぁ、海外ミステリ、というか、密偵ファルコの宣伝のためとあれば、何でもというわけで。2ちゃんでもおそらく、あまり読者はいないでしょうし。というか、他に読者がいたら驚くかも。
いや、それじゃいけないんだろうけど、実際、それが現実な気がして。後でちゃんと自分のブログでも宣伝しなくてはなりませんね。

6 ■ボナベンチャーさん

遅くなりました(汗)。

そんな投票があるんですね。
ま、おっしゃるとおり「ファルコ」はマイナーな部類でしょうね。
検索してもヒットするのはネット書店ばかりだし。
シリーズが訳出されているからには、それなりに数は売れているはずなんですけどねえ。

7 ■あともうちょいで「亡者ー」読了

ご無沙汰してました。あと少しでファルコ12巻読了です。長ー。「オリーブの真実」よりは短いはずなんですが。わかった!ファルコには珍しく、ガチの謎解きなんですね。長らく、あまり頭を使わなくてすむタイプのミステリ読んでたので、錆びついてました。もしかすると、近作の中で一番面白かったりして。ミステリベストの締め切りのために
ちょっと飛ばした巻も(爆)あるんで後で比較しますが。

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