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2006年02月28日

「宇宙消失」グレッグ・イーガン / 宇宙から星々を消したのは誰だ?

テーマ:SF小説・スペースオペラ


シュレーディンガーの猫 という仮説理論をご存知だろうか。
あるいは不確定性原理 は?

いずれも量子力学 では基礎の範疇であり、乱暴に説明すると、観察者の存在が実験対象に干渉し、実験の結果そのものを左右してしまうという定理である。

不確定性原理は、つまるところ現在の技術では人間がミクロの世界を正確には計測しえないという科学の一限界を示す事実にすぎず、われわれの日常レベルには特に問題を生み出さないが、「シュレーディンガーの猫」のほうはそれと違って、人間を取り巻く全環境にパラドックスを生み出すという、非常におもしろい考え方だ。

リンク先(うまく表示されないときは直接ウィキペディア へ)を読んでもらえればわかるように、この実験において、箱の中の猫は生きている状態と死んでいる状態が二重にかさなった存在となる。

それを二者択一的に決定する力を持っているのが観察者たる人間で、箱を開けた人間に観察された時点ではじめて、猫はどちらかの状態に固着される。これを収縮と言い、いちど収縮された現象は不可逆的にその状態を継続する。そして選ばれなかったほうの現象は単に過去の可能性として、永遠に顕現することなく、あたかも無かったこととなる。

ちなみに、発現したほうの可能性と発現しなかったほうの可能性がそれぞれふたつに分岐して、片や猫が生きている世界、片や猫が死んでいる世界という平行宇宙が無数に生起するという考え方が、多元世界論である。この場合、収縮はおこっていない。


ここまではなんとなくわかってもらえただろうか。
アインシュタイン以来の物理法則はいったん忘れてもらわねばならないのだが、量子力学の考え方ではこの二重状態が物質の基本的な姿であり、つまり人間にとって、万物の存在形態は人律的なものとなる


少し話を変える。

哲学者デカルトは「われ思う、ゆえにわれあり」の命題で、少なくとも自分の自我だけは確実に存在することを証明したが、これによると、そう思った本人以外が自分同様に確実な存在であることは証明されない。

家族や友人、その他もろもろは、ただひとつ存在が確実な「われ」の想像の産物にすぎず、どころか「われ」の肉体や知覚ですら、「われ」の生み出したイメージでしかないのかもしれない。

こうなったとき、「われ」は抜きがたい疑問にさらされる。

「われ」以外は「われ」のこだまや影にすぎないのだろうか?

「われ」以外の存在とは、「われ」があってはじめて姿形を得たものというとにはならないか?




上に挙げたふたつの考え方に通底するのは、あくまで「私」を中心とした世界観である。「私」があらゆる物事の有り様を決定する唯一の要因であり、この立場は絶対的に変わらない。

しかし、である。

「私」すら誰かの自我のこだまや影であるとのだとしたら。

または量子力学的に、誰かの観察によって収縮された存在形態をとっているのだとしたら。




本書「宇宙消失」は、「私」や宇宙(!)が収縮の対象となる世界を描いた、傑作ハードSFだ。

どうやってもネタバレになってしまうので、内容についてこれ以上は詳しく説明できないのだが、量子力学のエッセンスである「シュレーディンガーの猫」の話さえ知っていれば、それほど難しくない小説だと思う。

物語の舞台は2067年、新香港。

33年前に突如として出現した「バブル」が太陽系全域を包み込み、外界から隔絶された地球は星空を失っていた。

バブル病やバブル教が席巻した混乱の時代も一段落し、人々は脳にインストールした「モッド」と呼ばれる各種ソフトウェアを使って平穏な暮らしを送っている。

自律神経系を操作し、内分泌や睡眠をコントロールする「ボス」や、余計な感情を抑制して人を強化状態にする「P3」、脳の一部を汎用コンピューターとして結線する「フォン・ノイマン」などがその一例で、本書の主人公ニック・スタヴリアノスも「モッド」を駆使して仕事を遂行する探偵である。

ある朝、情報の漏洩を防ぐため睡眠中の脳に直接通信を伝達する「夜間交換機」を起動させたニックは、失踪した知能障害の女性ローラを捜索する依頼が舞い込んできているのを知る。

脱出不可能の隔離病棟から姿を消したローラの足取りを追って新香港に降り立ったニックは、そこで謎の組織と接触することになるのだが、それはあの宇宙消失の秘密につながる、驚くべき人生の第2幕のスタートを告げる鐘の音でもあった――――。


グレッグ イーガン, Greg Egan, 山岸 真
宇宙消失

オススメ度★★★★★

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コメント

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10 ■goldiusさん

全然オッケーですよ。
むしろ多角的な意見は大歓迎です!

9 ■否定的TBは

駄目でしたっけ?

8 ■yokさん

そうらしいですね。
短篇は特別な才能が問われますから、そちら方面の評価も高いイーガンは、やはり並の作家ではないようです。

7 ■takeyanさん

「祈りの海」も評価高いですもんね。
この世には読まなきゃいけない本があふれすぎていて、まいってしまいます。

6 ■whitecatさん

お、「順列都市」早く読みたいですねー。
SFはまだまだ読み始めたばかりなので、オススメがあれば教えてくださいね!

5 ■すっかり忘れていました

実はあまり好きじゃない作品です。
こういう、頭を使う作品が苦手なのはやはり・・・・。
「祈りの海」が一番好きです。

4 ■ご訪問ありがとうございました

遅くなりましたが、パソコンが直ったので、やっとネットが見れるようになりました。
こちらではSF本もたくさん扱っているようでうれしいです(^_^)
私はまだ『宇宙消失』読んでませんが、いま『順列都市』を読んでいるところです~。

3 ■短編集

とは、「祈りの海」ですかね?
私も割とスキです。
っていうかこの人の話は短編が一番輝いているような?
T.B.ありがとうございました。

2 ■おもしろかったー

自分に少しでもSFの下地があってよかったですよ~。
シュレーディンガーの猫をまったく知らなければ、やっぱり読みにくいでしょうしね。
次は「順列都市」かな?

1 ■ひゃっほぅ

ついにイーガンですね。この本読んで以来、いやなこと(赤信号につかまるなど)があると拡散したくなります。
イーガンの短編集もイーですよ。みんなイーんです。

あと忠誠モッドを都合よく解釈しなおす主人公たちには参りました。

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